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海人スタイル奄美

#4「上がダメなら沈めりゃいいじゃん」

ライズがなければ瀬に注目?

遠藤岳雄、喜久川英仁=文・写真

シャクガミねらいの釣行プラン第4弾。ライズシーズン終了間際の本流プールで、待てど暮らせどライズナシ。あきらめて帰る人が多いなか、フライをニンフに替え、ポイントをプールから瀬に切り替えてみると……。
この記事は2013年9月号に掲載されたものを再編集しています。

《Profile》
遠藤 岳雄(えんどう・たかお)
1969年生まれ。静岡県裾野市在住。狩野川や富士川の釣りに詳しく、本流域のライズをねらった釣りを得意としている。ドライフライに限らず、ニンフやウエットフライを使った釣りでも数々の大ものを手にしている。
喜久川 英仁(きくかわ・ひでひと)
1969年生まれ。神奈川県海老名市在住。狩野川や桂川をホームグラウンドに、シーズン中は尺ヤマメ、尺アマゴにねらいを絞った釣りに通う。グラスロッドを使った釣りも好き。

エンちゃんはあとから釣り上がれば?

「ちょっと? ちょっと! あんたなにやってんのよ!」
相棒のキクちゃんに向かって大声で叫んだ。目の前には巨大なプールとプールを結ぶ、長さ50mほどの比較的浅い瀬が続いている。

朝のプライムタイムにプールでのライズを期待したが不発に終わり、河原でふて寝中のキクちゃんを置いて、瀬の中をこっそりニンフで釣り上がる算段だった。

暦も6月を迎える頃になると、プールでの釣りはいよいよ朝と夕に移行し、よほど天気の崩れた日でなければ日中のライズの釣りは難しくなる。そんな時はニンフで瀬を釣り上がるようにしている。
朝のライズがなく不貞腐れて寝てしまった相棒。この写真を撮った直後、ムクッと起きだしニンフをセットし始めた

実はライズで有名な河川ほどニンフを使う人が少ない。大多数の人と同様、僕らもご多分に漏れずライズねらいで訪れている訳だが、ライズがないからといって1投もしないで帰るなんてもったいない。

ライズがある時は「こんなにいるの?」と驚くほど魚の多いエリアなら余計だ。上下のプールに魚がストックされているということは、その中間の瀬にももちろんいるはず……もしかしたら穴場かも!? そう思い、ニンフを試したのが数年前。その時は読みがバッチリ当たり、非常によい思いをしたのだ。

だからこの日も当然水中を探るつもりで、瀬の終わりに陣取ってニンフ用のシステムを結んでいたところだった。
沈める際は根掛かりしてロストすることも多いので、簡単に巻ける、シンプルなバターンを使う

ところが、寝ていたはずのキクちゃんがいきなりムクッと起き上がり、リールからラインをジージー引き出しながら僕の上流へ図々しく立ち込んで言い放ったのだ。

「エンちゃん、俺ここ釣り上がるわ!」
「はあ?俺がこれからニンフで釣り上がるんだけど!?」
(っていうか、あんた今まで寝てたんじゃ……)
「俺もニンフだけど軽めのシステムだから、あとからエンちゃんが釣り上がればちょうどいいじゃん!」
「え? そういう問題!?」
そう言うや否やキクちゃんは、ダブルニンフシステムをおもむろに流れに投じた。

(何考えてんだあいつ!)
たしかにキクちゃんの言う「軽めのシステム」は僕のそれとはちょっとだけ違う。お互いにマーカーは粘土状のものを2つ付けていて、その下に大きめのニンフフライを結び、さらにフックゲイブから15~30cmほどティペットを継ぎ足したところに、小さめのフライをトレーラーとして結んでいる。そこまでは同じだが、最初に結ぶフライの「重さ」が違うのだ。この差によって、フライを流す水深が違ってくる。
この日僕たちが使ったダブルニンフのシステム。上に結ぶ大きめのニンフは#10(左)、トレーラーには#16(右)を使用した。奥は2つ取り付ける粘土タイプのマーカー。2つ取り付けることによって、ラインの向きとフライの流れている位置を把握しやすくなる

たとえ同じシステムであっても、リードフライの「重さ」を変えることで、ねらう層を変えられるのだ。キクちゃんのシステムは表層~中層を探るのが得意であり、比較的緩い流れでも探りやすいが、落ち込みや白泡の中、水深のある深瀬やガンガンの流れには向かない。

一方、僕のシステムはその逆で、速い流れには適しているが、浅い瀬や緩い流れには向かず、システム自体もヘビーなため、キャスティングレンジもおのずと限られてくる。
護岸際も有望なポイント。護岸側がエグレていたら、渓魚たちにとっては格好の隠れ家

たしかに、目の前の瀬にはさまざまな流れやスポットが存在し、キクちゃんの言うとおり違うシステムで釣り上がれば、2人でそれなりに釣り分けることも可能ではある。だが、ニンフの後にニンフで釣り上がるなんて、後攻側はどうみても分が悪い。しかも後から釣り上がればいいなんて……最初に来たのはこっちなのに……。なんかだんだん腹が立ってきたゾ! 

プールとプールの間、やっぱりいた!

ところが間もなく、思わぬ事件が起こった。何やらやかましい叫び声が聞こえたかと思いきや、ロッドを満月にヒン曲げたキクちゃんがもの凄い形相で下ってきたのだ。

「えんちゃ~ん! ☆△□◎~×! ひええ~!」
ドボンドボンとほとんど転びながら、こちらへ向かって突進してくる。
(なにやってんだ、あいつ?)
と次の瞬間、ブンツ……とロッドの弾力が失われ、ラインが虚しく宙を舞った。

「なに今の?」
「いやあーすんごいの……マーカー……ヒュンで3……グイ~ンって、はぁはぁはぁ……」
「なに? なに?」
「と……とにかく切れた」

軽い酸欠状態に陥ったのか、手も口も震えていて、何を言っているのかさっぱり分からない……要約すると、たぶんこうだ。

「瀬の中にできたスポットにニンフを流したところ、いきなりマーカーがヒュンツと消し込まれて凄くでかいヤマメがグリングリンとローリングを始め、グイーンと下流に下られたものだから、必死に耐えていたら切れた」ということらしい。
瀬の中から出てきたヤマメの尖った尾ビレ

(ホントなら俺が掛けていたはずのヤマメじゃないのか!?)
それでも、瀬にヤマメが入っていることが確認できたので、期待を胸に改めて釣りを再開した。キクちゃんが先に表層を流し、僕が白泡の中やガンガンの流れにニンフを流す。

もちろん先行のキクちゃんにしても、後から来る僕のために、できるだけ川に入らないよう遠くからポイントをねらう配慮はしてくれている。
ちょっとした瀬でも、ニンフを流せる筋は案外多い。それだけに魚との出会いに期待も膨らむ。赤丸がニンフを流したポイント

そうしてスポットを2~3ヵ所流した時だった。白泡が消えるあたりで水中のマーカーがツンッと引き込まれ、反射的にロッドを煽ると、ドスンとした重みとともに水中で銀鱗がギラギラと躍動した。

(デカイ! 尺以上はありそう)
「キクちゃん! キタキタ~!」
ヤマメはグルングルンとローリングを繰り返しながら、下流にもの凄いスピードで下りだした。滑る底石を気にしながらもヤマメの動きに合わせ、転がり落ちるように下流へ移動したその時だった。

「エンちゃんちょっと待って! ちょっと耐えて!」
「えっ!? なに? なに? なに?」
「ファイトシーンの写真撮るからさ、ちょっと待って!」

そう言って相棒はベストを脱ぐと、ガサガサとカメラを取り出した。
「マジ? マジかよ!? そんな余裕ないんだけど! 早くしてくれよ!」
「エンちゃんもうちょっと待って、あら? 充電切れか? バッテリーを交換するからもうちょっとね」
「……」

なおもゴンゴンゴンっと首を振り、さらにすさまじい勢いで下流へ下ろうとするヤマメ。
(ヤバい……マジでヤバい……耐えろ、耐えろ、あっー! あああぁ~!)
最後のひとのしでグンツと引き込まれたロッドティップは限界を告げ、フッと軽くなり元に戻った。

「バレた」
「……」
「あんたが待ってろとか言うから……」
「……」
「耐えろ!」って言うから耐えていたらバレた……。それなのにキクちゃんの撮った写真はたったこれだけってどういうこと?

ニンフニンフニンフ!

それから僕らは、ライズのない日中の時間を使い、先程のリベンジとばかりに、よさそうな瀬があればそこを二ンフで釣った。まったく釣れない瀬もあれば、数は釣れるがチビばかりの瀬もあって、それはそれで今後の課題として僕らの経験値のひとつになった。

そんななか、キクちゃんのニンフに出たヤマメは尺に0.3cm足りない30cmジャストであった。何回計っても伸びやしないのに、悔しそうに何度もメジャーを当てている相棒。(バチが当たったな)

それでも日中の瀕で、しかもニンフで釣った事実は、この釣りの楽しさと今後の可能性を僕らに与えてくれた。
尺に0.3mm届かなかったキクちゃんの釣ったヤマメ。う~ん……いいヤマメなんだけどね~! 惜しいね~! プッ

「エンちゃん、そこやってみ! 絶対いるから!」
先行していたキクちゃんが、日の前の流れをロッドで示しながら言った。ガンガンの瀬にできた水深のある小さなスポット。なるほど、水深があるぶん軽いシステムでは厳しそうだが、重いシステムにはうってつけに見えた。

僕はキクちゃんに向かってうなずくと、これまでと同じように白泡にニンフを放り込み、マーカーの行方を目で追った。
いやいや、体高があっていいシャクガミだ! バラしたのはもっとデカかったけど……

マーカーが水中に馴染み、ゆっくり緩流帯へ流されて来たところで、スパッと上流側へ引き戻された。瞬時にアワセをいれた途端、ロッドにたしかな重みが伝わってきた。

「これデカイんじゃない!」
瀬で掛けるヤマメの引きは強い。またもや流れとともにもの凄いスピードで下る動きに合わせ、今回は僕も必死に川を下りヤマメの動きに付いていく。スリリングなファイトの末、相当下流に下らされたところで、ついにヤマメも観念したらしく浮いてきた。

バサッと一発でネットに入れたヤマメは31.5cm、シャクガミだ!
「やったぜキクちゃん!今回は写真ばっちり?」
「いや、撮ってない」
「はあ? これだけいいファイトしてたのに撮ってないの!?」
「だって、撮らせろって注文してまたバレたらゼッタイ文旬言うだろ」
「……」
「朝みたいにバレたらさぁ、また怒るに決まってるし……」
「バレたバレたって何度も言うなよ! アンタもバラしただろ!」
「そっちこそなんなんだよ! 怒ったり撮れって言ったり!」

こうして僕らは誰もいない河原で大喧嘩をした。足もとでは釣られた尺ヤマメが「どーでもいいけど、早く逃がしてくれんかな……」と僕らを眺めていた。 ニンフで掛けるヤマメのファイトは、ドライで釣るのとはまた一味違う。この体高、そしてこのコンディション、31.5cm、文句ナシ!

Road to SHAKU
「シャクガミは瀬の中にいる!」
特にライズゲームに熱い河川では、日中のライズ収束とともにフライフィッシャーの姿も見なくなる。こと本流域と呼ばれる流れではその傾向が強い。
しかし、日中にライズがないからといって、今までライズを繰り返していたヤマメたちが消えてしまった訳ではない。河川によっては上流へ移動する魚もいるだろうが、今回のように瀬の中へ入っているヤツもいる。つい最近までどのプールでもライズがバンバンあったのに……なんてお嘆きのアナタ、そんな河川では瀬の中のニンフが熱いですぞ!
●ライズが多数見られるプールとプールを繋ぐような瀬は、高確率で魚が入っている。
●ヤマメは増水の度に瀬に入ってくるので、増水後の瀬は結構熱い。(コレホント!)
●渇水気味の瀬でも、白泡の中やエグレのある箇所はニンフで釣れる確率が高い。
●人がいない! 日中に釣れる! 大きいのが出る!(コレもホント!)

2018/4/26

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最新号 2024年3月号 Early Spring

【特集】創刊35周年、春の大感謝号

前号からお伝えしておりますが、今年度、小誌は創刊35周年を迎えております。読者の皆様とスポンサー企業様のおかげでここまで続けることができました。ありがとうございます!

今号では春の大感謝号と題しまして、「読者モニター」企画を実施いたします。協賛メーカー各社のご厚意により、ロッド、リール、ウエーダーなどのすばらしいアイテムが集まりました。皆様のご応募をお待ちしております。
また、海外の情報を中心にお届けしていた東知憲さんが制作するセクション「タイトループ」も復活。今回はフライキャスティングにおけるテンションについて解説しています。
このほか、国内で販売されているフロータントを集めた企画や、徳之島で釣れたボーンフィッシュ、タンザニアのタイガーフィッシュ、前号で大好評をいただいた佐藤成史さんによるヘンリーズフォークの釣行記など、バリエーション豊かにお届けします。


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