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Bibury Court

#5「マヅメ時こそウエットフライ」

ヒゲナガのハッチ時はチャンス大

遠藤岳雄、喜久川英仁=文・写真

シャクガミねらいの釣行プラン第5弾は、時間帯をマヅメ時に絞ったイブニング&モーニングライズの釣り。大ものねらいなら、ライズ=ドライフライという固定観念は捨てたほうがよい。臨機応変、ヒゲナガの流下にはウエットが効く!
この記事は2013年10月号に掲載されたものを再編集しています。

《Profile》
遠藤 岳雄(えんどう・たかお)
1969年生まれ。静岡県裾野市在住。狩野川や富士川の釣りに詳しく、本流域のライズをねらった釣りを得意としている。ドライフライに限らず、ニンフやウエットフライを使った釣りでも数々の大ものを手にしている。
喜久川 英仁(きくかわ・ひでひと)
1969年生まれ。神奈川県海老名市在住。狩野川や桂川をホームグラウンドに、シーズン中は尺ヤマメ、尺アマゴにねらいを絞った釣りに通う。グラスロッドを使った釣りも好き。

ウエットフライの魅力再び

かつて見た、大ヤマメがウエットフライをくわえた雑誌の記事に憧れ、ウエットフライのタイイングを学び、見様見真似で覚えていったのは十数年前。その時のアプローチは実にシンプルで、使用フライは1本、これを斜め45度にキャストしたら、あとは流れを横切らせるだけ。

釣り人自体が少ない時代ということもあって、シロウトでもそれなりに釣れた。そして何よりもウエットフライで釣っているという達成感に陶酔できた。

その後僕がエンちゃんに出会ったのは、ウエットの熱も落ち着き、マッチング・ザ・ハッチの釣りに熱中していた頃だったが、彼もウエットフライの釣りをすることを知り、一緒に行った川でボックスを見せてもらって驚いた。

整然と並べられたフライは、顔に似合わず繊細かつ華麗、そして何よりもシルエットが超カッコよかった。そして「せっかくだから今日はコレ使おうぜ」と、エンちゃん。
エンちゃんのウエットフライは、顔に似合わず繊細な仕上がりで、人間にも魚にもよくアピールした。手前からダンケルド、グレートセッジ、シルバーセッジ

こんな日中のドピーカンで? とためらう僕を尻目に彼はさっさとシステムを組み始めた。3Xのリーダーの先にフライを結び、フライから70cmほど上に枝スを10㎝ほど結び付け、そこにもフライを結んだ。しかも枝スは0Xだ。

「エンちゃん、なにそれ?」
「えっ。これ? ドロッパーだけど? 知らないの?」
初めて見たシステムだった。僕のウエットフライの辞書にドロッパーはなかったのだ。それを察したエンちゃんは、僕にその効果を説明してくれ、ねらうレーンやフライの流し方まで教えてくれた。

ロッドをわたされ、初めてのシステムに少々戸惑いながらも、久しぶりのウエットフライに気分も高揚し、エンちゃんの指示どおり数投した時だった。グンッと唐突にロッドが抑え込まれ、ラインの先で銀鱗が躍動した。

「まさか?」と思う間もなく、ドピーカンの日中に良型のヤマメが釣れてしまった。その瞬間、僕の中で再び熱いものが蘇ってきた。僕はエンちゃんからいくつかフライをもらい、「またウエットをやってみよう!」と心を躍らせた。

その日以来僕は日中の釣りを終えると、イブニングにウエットフライを結ぶようになった。リードフライにはダンケルド。ドロッパーにはシルバーセッジを結ぶ。どちらも大のお気に入り。もちろん、エンちゃんのボックスからこっそり失敬してきたものだ。
ダンケルド

シルバーセッジ

フローティングラインによるドロッパーシステムの効果的な使い方は、違ったタイプのフライを結ぶことにある。日中ならサイズや色の違ったフライを結ぶのが効果的だし、夕マヅメであればフライ自体の形状の異なるものを結ぶのがよい。

僕の場合、リードフライにはボディーハックルの巻かれていないものを結び、ドロッパーにはシルバーセッジのようにハックリングが施されたフライを使う。

つまりリードフライに沈みやすいフライ、ドロッパーに沈みにくいフライを使うことで、2本のフライで異なる層を流せる。特にヒゲナガのライズの時は、分厚くハックリングを施したフライをドロッパーとして結べば、その効果は絶大である。
イブニングやモーニングの光量の乏しい時間帯では、ウエットフライを使ったドロッパーシステムは手返しよく効率的に流れを探れる

基本は向こうアワセ

バサッという飛沫とともにプールの静寂が破られたら、イブニングライズ開始の合図。できればライズより上流側に立ち、しっかりターンオーバーさせたシステムをライズのあったところにナチュラルに流し込む。その際、フライラインもメンディングなどでしっかりと流れに乗せることで、よりナチュラルに流せる。

そうして同じ流れに送り込まれたフライはライズ地点を通過する。その時、グーッとラインに重みが掛かる、あるいはクンクンッとラインが引っ張られたり、ドスンといきなり衝撃が走ったりするようなら、すでにフッキングしているはず。その場合はゆっくりロッドを立てるだけでよい。

同じようにフライをうまく送り込んでも、なんのコンタクトもない時は、フライがライズ地点を通過したところで、リトリーブを開始し、フライに動きを与えてみる。この時、ラインに掛かるテンションを緩和する意味で、リトリーブしつつロッドを少し立てるようにしている。

リトリーブ中のフッキング率は、ナチュラルに送り込んだ場合に比べて極端に悪くなるが、フライを動かしている以上、仕方のないことだと考えている。

どうしても釣りたい! 一人また川へ

ここ数シーズン足が遠のいていた流れで、ヒゲナガのハッチが始まったという情報が入った。あわよくば超大ものを……なんて期待をしつつ、エンちゃんと出かけた。

久しぶりのイブニングでエンちゃんはデカいニジマスを釣り、翌朝のモーニングできっちりシャクガミを釣ってみせた。が、僕は不発に終わってしまった。
エンちゃんの釣ったシャクガミ。この魚もドロッパーのヒゲナガドライをバッサリとくわえた

同じくエンちゃんが手にした驚愕56cmのニジマス。バッキングをすべて引き出し、なおも暴れ狂うファイトはシャクガミの存在を忘れさせてしまうほど

その後意気消沈で帰宅したのだが、どーにもこーにも釣りの虫が収まらない。帰りの車中ご機嫌だったエンちゃんが「ス~ッと流すとドンッてくるあの感触がいいんだよな~」なんて言うもんだから、ますます収まりがつかなくなっていた。

それで、とうとうエンちゃんに電話した。
「どう思う?」
「病気ですな」
「では、どうすれば?」
「行ってみれば。行って釣る以外の薬はないんじゃない」
「……」
こうして僕はエンちゃんに40cmオーバーを釣ってくる! と電話で告げ、翌日の夕刻には再び河原に立っていた。

(絶対に釣ってやる! ゼッタイ! ゼッタイ!)
そう自分に言い聞かせながら、ドロッパーシステムをセットする。しかし、今回は自分なりにシステムを替えることに決めていた。

というのも、ここ数年エンちゃんがドロッパーにヒゲナガのドライフライをチョイスしていて、それが功を奏するのをまじまじと見ていたからだ。
過去に45cmも釣った実績もあるというヒゲナガのドライフライ。よく浮き、よく見える必殺のパターン

そしてエンちゃんはこうも言っていた。
「ウエットフライに基本はあってもセオリーはないんだ」
その言葉が呼び水となり、今回はドライフライのヒゲナガ・ピューパを巻いてきた。新品の2Xリーダーの先端に大好きなダンケルドを結び、そこから70cmのところに10㎝ほど4号のラインを結束し、ヒゲナガ・ピューパを結んだ。

そしてスマホにイヤホンを差し込み、エンちゃんに電話を掛けながらの釣り。
「釣(チョウ)アップナイター実況生中継~! 実況はわたくしキクカワと、解説はエンドーさんでお届けします」
「え~キクカワさん、ど~ですか?」
「ハイ! こちら現場のキクカワです……あ! アタった……あっ……ダメだった」
「キクカワさんー?」
「……」
「エンドーさん!」
「はい?」
「終了しました……」
「……明日のモーニングがあるさ、俺は付き合えないけど頑張ってね!」
そう言って気の毒そうにエンちゃんは電話を切った。
その晩、僕はコンビニで飲めないアルコールを買い、夜空を見上げながら一気に飲み干した。

モーニングの衝撃

明けて翌日、僕は昨日とは違うポイントに立っていた。ここは過去にエンちゃんと何度も釣った場所だ。魚はスレてもいるが、勝手知ったるポイントでもある。どうせダメなら、釣り慣れた流れで遊ぼうという開き直りもあった。一方で、まだ見ぬ大ものがいるかも……という希望的観測もあった。

どちらにしても今日が最後と心に決め、明るくなり始めた川面を凝視していると、対岸の石の前でモコッと銀色の背中が出た。

(チャンスだ! 釣れるぞ、落ち着け……落ち着け)
少し上流へポジションを取り、フライをライズのあった地点へ送り込んだ。きっちりとターンオーバーしたリーダーの先で、ダンケルドが着水するのを確認しながら、一度メンディングを入れ、そのままラインとともに流れに送り込む。
朝陽が川面に差し込むと同時に、目の前の水面が炸裂し、待ち望んでいた瞬間が訪れた。いざ勝負!

(出ろ!)心で念じ、ひと呼吸入れた瞬間、ドスンッと激しい衝撃がロッドから伝わり、一気に全身に電気が走った。

(きた! デカい!!)
ほとんど暴力的ともいえるローリングにロッドは限界までひん曲がり、それに合わせてこちらも流れを走り下る。なおもヤマメは激しい抵抗を見せるが、2Xは滅多なことで切れることはない。アドバンテージはこちら側にあるはずだ。あまり時間を掛けたくないこともあり、なかば強引にヤマメを引き寄せ、距離を詰めたところでネットイン。

ネットに収まりきらない魚体を手で押さえながら、河原で一人メジャーを当ててみる。
ドクン……ドクン……ドクッドクッドクッ……ドクドクドクドク。なな、なんと! よ、40.5cm!!
「うおおおおおおおおお!」
「あたたたたたたたた! あたー!」
「動き回るヒゲナガを捕食している時は、ドロッパーにドライフライを結べ」というエンちゃんの言葉どおりにしたら……なな、なんとシャクガミどころか、40オーバーが出た!

40ヤマメのヒットフライ。友人の伊東クンのオリジナルパターンを少しアレンジしたもの。引いてよし、沈めてよしのフライだが、今回はナチュラルドリフトに反応した

Road to SHAKU
「ウエット+ドライの組み合わせ」
今回のようなマヅメ時の短時間かつ光量の乏しい状況下において、ウエットフライの使ったドロッパーシステムは手返しよく広範囲を探れるという意味でも、まさにうってつけのタクティクスだ。本流のような広い流れではロッド番手を上げる必要もあるが、普段ドライフライでライズをねらうような場所であれば、ロッドもラインもそのままでよいので、ぜひお試しあれ!
●ヒゲナガに対してのライズの場合、ドロッパーには大きめのヒゲナガ・アダルトを意識した浮力の高いタイプを結ぶと効果的(コレホント!)
●リーダーシステムにはトラブルを避けるべく、太いものを使用する。僕らの標準は1~3Xのリーダーにドロッパーの枝スは0X。(この太さで全然問題ない!)
●マヅメ時の場合、薄暗さに戸惑わないよう、前日や日中にあらかじめポイントを確かめておくと安心(コレ重要!)

2018/5/10

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