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アカサカ釣具

#3「モンカゲロウが来る前に」

主役の陰に隠れていたのは……

遠藤岳雄、喜久川英仁=文・写真

思いつきで始めた「大もの縛り」の釣行プラン第3弾。モンカゲロウのハッチとライズに出会ってウハウハなのは最初だけ。デカいヤツにはことごとく無視され、万策尽きて意気消沈。しかし翌日、エンちゃんに起死回生の初シャクガミが出た!
この記事は2013年8月号に掲載されたものを再編集しています。

《Profile》
遠藤 岳雄(えんどう・たかお)
1969年生まれ。静岡県裾野市在住。狩野川や富士川の釣りに詳しく、本流域のライズをねらった釣りを得意としている。ドライフライに限らず、ニンフやウエットフライを使った釣りでも数々の大ものを手にしている。
喜久川 英仁(きくかわ・ひでひと)
1969年生まれ。神奈川県海老名市在住。狩野川や桂川をホームグラウンドに、シーズン中は尺ヤマメ、尺アマゴにねらいを絞った釣りに通う。グラスロッドを使った釣りも好き。

惨敗……

前日、僕らは滔々と流れる広大なプールの一角で、いまだかつてないほどのエキサイティングな光景に遭遇していた。目の前を帆を立てながら悠々と流れてくる無数のモンカゲロウたち。

パタパタと飛翔していくものもいれば、ニンフの殻を破ってポッと出てくるもの、一方で上手く脱皮できずにバタバタもがきながら流されて来るものもいる。

そしてそれらの虫がなんの前触れもなくモクッと凹んだ水面から姿を消す。そんなシーンを目の当たりにした僕らはビビリ、感動し、興奮し、魂を込めて巻いてきたエクステンドボディーのモンカゲパターンを投げまくった。

「くっそー出ないなぁーエンちゃん!」と相棒。フライは何度も確実にライズのあったレーンをトレースしているにもかかわらず、水面が凹みフライが消えることはない。試しにスペントパターンやフローティングニンフに替えてみるが、結果は同じ。
件のプールでは、とうとう釣れなかったモンカゲフライ。しかし、流れのある瀬では……

「それじゃ出ないよ……ムリムリ!!」
「なんで?」
「だって、よく見ると動いてるやつしか食われてないじゃん」
「……」
「本物だって動かないでナチュラルドリフトしているのが食われてないんだから、あんたのフライがどんなにナチュラルに流れてもムリだって」
「じゃ、ど~するのよ?」
「動かしてみれば?」
「こんな感じか?」
シ~ン。

キクちゃんはカーブを掛け、リーチを掛け、ティップを揺すり、思いつく限りの方法でフライを動かしていた。しかし、そうしたフライの動きは傍から見ていても、まったくなっていない。
俺が釣ってやる! と意気込んだ初日のモンカゲロウへのライズ。この場所では翌日も結構ハッチがあったのだが、これがなかなかどうして……

緩い流れ、サイドポジション、イトの付いたフライ……これらが致命的となり、どんなに上手くフライを動かそうとしても、本物のように翅でピョンピョン、体でブルブルの動きを演出することは到底できない。

フライをフワッと真上から落とし、その着水時にできる波紋が本物に見せる、あるいはリアクションバイトを誘う唯一無二の方法ではないのか? とトライしてみるも、結果は同じであった。僕らにはフライも含めて、動くダンのライズを釣るスキルが足りなかった。

こんなことをかれこれ2時間近く繰り返している僕らも僕らだが、これだけバシャバシャ騒ぎ立ててもライズを繰り返すヤマメもヤマメである。
ヘラブナのような体形のヤマメ。水生毘虫が豊富な川は見事な体躯の魚を育むようだ

半ば呆れ、相手が悪すぎたと思った矢先、ふとあらぬことを思いついてしまった。
「キクちゃん、本物つけてみれば?」
「……」
「いっぱい流れてるし」
真剣に僕を見つめるキクちゃん。
「……」
「やっぱり帰ろう」
僕らは寸でのことでフライフィッシャーの貞操を守りつつ、こうべを垂れながら川をあとにした。
自宅から往復600㎞。価値ある砲弾型の美形を求め……

秘策は怪我の功名にあり

明けて翌日、僕らは再び前日のポイントを目指した。
「エンちゃん! 今日こそは絶対釣ってやるぜ!」と妙にハイテンションで足早に歩く相棒。
(ムリムリ)
「あんた、今日もあいつをねらうの?」
「あったり前じゃん! モンカゲだよ、モ・ン・カ・ゲ!!」

とにかく僕らは前日のリベンジに燃えていた。プールに着くとすでにいくつかのライズが始まっていた。その中のひとつ、目の前の波ひとつないフラットな水面で、音もなくモコッと凹み、泡を残しては消えていくライズが……。
僕たちを翻弄したモンカゲロウ。ステージ、ハッチの時間、量など、色々な要素で簡単になったり、迷宮に迷い込んだり。しかし、こいつの食われる瞬間はいつ見ても興奮させられる

「またあいつだ」
ライズフォームだけを切り取れば、昨日とまったく同じ光景に映るが、今日はちょっと違う。時間帯が昨日よりも早いのだ。そのせいか、モンカゲロウも出るには出ているが、昨日に比べるとまだまだ少ない。にもかかわらず目の前でライズを繰り返すヤマメ……そうなのだ、今捕食されているのはモンカゲロウではないのだ。
今季初の尺ヤマメ。メタリックの弾丸ファイターが広大なプールを縦横無尽に駆け巡り、つりに私エンドウも昇天!

実は昨日の時点で、このことには気が付いていた。昨夜、温泉に浸かり、普段はあまり飲まないアルコールで酔っ払いながら僕らはこんな会話をしていた。

「あいつ、完全に動いているモンカゲしか食わないよな」
「でもさ、最初の頃はモンカゲじゃないもの食べてなかった?」
「あ~やっぱり!? 俺も見た! シマトビケラでしょ?」
「そ~なんだよ。モンカゲに気を取られてたけど、実際にはシマトビも食われてた!」

「なんかこう、最初はシマトビが出てさ、それも食ってるんだけど、そのうちモンカゲがジャンジャン出て来てからは、もうそれしか食べなくなった……みたいな感じじゃなかった?」
「そのとおり。しかもモンカゲも動いているやつだけね」
「ああなるともう釣れる気がしないからさ、モンカゲの前のシマトビだったらどう?」
「イケるっしょ! フフフ……」
「ヒッヒッヒ。でもエンちゃん、俺はモンカゲで釣ってやる! ゼッテ~!」
モンカゲの流下が始まる前、シマトビのライズであっさり釣った友人のおーちゃん。この段階では何も知らない僕ら、このあと相棒のキクちゃんが同じポイントで迷宮に迷い込んだ……

目の前の水面を確認すると、今はシマトビがモンカゲに対して8:2くらいの割合で流下している。モンカゲも食われているが、シマトビのほうが圧倒的に食われている。
”初”とやたらに初めてを連発する相棒にカチンときながらも……やっばり嬉しい今シーズン初の尺ヤマメ

もう少し時間が経てば、やがてモンカゲの流下量がシマトビを上回り、昨日のような状況になるに違いない。そうなる前が、僕らには千載一遇のチャンスなのだ。

僕は迷わずシマトビのパターンを結び、いまだ未練タラタラにモンカゲを投げまくっている学習能力のない相棒を横目に、上流のライズをねらった。

ライズを確認し、タイミングを見計らい、素早くキャストしたフライを見つめる視線の先で(ウソ!?)と思うくらいあっさりとフライが消えた。
カディスってそんなに美味しいの? 一度ヤマメに聞いてみたい

慎重にやりとりをした後、ネットに収まったのは嬉しい今季初の尺ヤマメだ。喜ぶ僕のもとへ祝福にやってきたキクちゃんは、握手を交わした後、チラッと口に刺さったフライに目をやり、またもとの場所へと戻って行った。

その後、釣ったヤマメを撮影していると、下流からキクちゃんの雄叫びが聞こえてきた。振り返るとロッドは曲がり、水面ではヤマメが暴れている(ついにモンカゲで釣ったんだ!)そう思うと僕も嬉しくなり、駆け寄った。

ネットの中のヤマメを覗き込み、すぐにフライを確認した。
「……」
口もとにはシマトビパターンが刺さっていた。 不本意な結果とは裏腹に、満面の笑顔でポーズを決めるキクちゃん。尺ヤマメは釣り人を幸せにする!?

Road to SHAKU
「エンちゃんは朝がパンで、昼がオニギリだった。シャクガミは朝がシマトビで、昼はモンカゲだった」
水生昆虫の多い河川では、数種類が同じ時期にハッチすることは決して珍しくない。この時も実際にはシマトビやモンカゲ以外にも、数種類のマダラカゲロウやコカゲロウ類、それにストーンフライも捕食されていた。そんな状況下でライズに遭遇した場合、大切なことは何をさておき、捕食対象を観察することである。今回の経験を踏まえ、モンカゲの釣りで気付いたことを以下に列挙してみたので、参考になればと思う。
●フラットなプールなどで動くものにしか反応を示さないライズの場合、カディスのパターンであればチャンスはある。(フラッタリングやダイビングさせることが、フライでも可能)
●緩い流れや浅い流れでは見切られるモンカゲロウのパターンでも、流速のある流れやガンガンの瀬では好反応を示す。
●同じモンカゲロウでも、夕刻近くに現れるスピナーの時は大チャンス。(サイズさえ合わせれば結構イージーに釣れることも……これホント!)
●水生昆虫の多い河川では、あらゆる場面を想定し、とにかくフライの弾数を多く持っていくことが大切。(これ超重要)

2018/4/5

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色がわかるのか、釣られた記憶はいつ頃忘れるのか、など私たちのターゲットについての習性考察していただきました。

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