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#6「夏のクリームヤマト」

気持ちいい尺、気まずい尺

遠藤岳雄、喜久川英仁=文・写真

シャクガミねらいの釣行プラン第6弾。今回はフィールドを山岳渓流に移し、ヤマトイワナにねらいを絞った。頼れる案内人、イケちゃんも合流して、いざ!
この記事は2013年11月号に掲載されたものを再編集しています。

《Profile》
遠藤 岳雄(えんどう・たかお)
1969年生まれ。静岡県裾野市在住。狩野川や富士川の釣りに詳しく、本流域のライズをねらった釣りを得意としている。ドライフライに限らず、ニンフやウエットフライを使った釣りでも数々の大ものを手にしている。
喜久川 英仁(きくかわ・ひでひと)
1969年生まれ。神奈川県海老名市在住。狩野川や桂川をホームグラウンドに、シーズン中は尺ヤマメ、尺アマゴにねらいを絞った釣りに通う。グラスロッドを使った釣りも好き。

出発だ~!

今年も待ちに待った季節がやって来た。春から使い続けたベストやフライボックスも今日で衣替え。山用のベストにオレンジやピンクのインジケーターを纏ったフライ満載のボックスを仕舞い、各々が好き勝手なウエットウエーディングのスタイルをザックに詰め込み、クーラーボックスとテントをラゲッジルームに押し込む。

夜の高速をひたすら走り、目的のICを通り抜け、目指す渓へと車をすべり込ませる。いつもの橋に車を停め、眼下にエメラルドグリーンの流れを見下ろすと、ヒノキやアカマツといった天然の芳香がツーッと鼻腔から体内に取り込まれ、体中に生命エネルギーが満ちてくる。

(やっぱコレだよ!)
景色は最高! 気分は爽快! あとは魚が釣れれば万々歳!! 願わくばシャクガミを!? そう、今回のシャクトリの舞台は真夏の山なのだ。
♪夏の扉を開けて~ってオヤジ2人は大熱唱

「ちょっと、ちょっとエンちゃん!」
「う~ん? なんだよこんな時間に?」
「悪いけど、あんたテントで寝てくれる?」
「は? 冗談だろ? 今何時だと思ってんのよ?」
「いや、ダメだ……あんたの怪獣みたいなイビキには耐えられない!」

時計に目をやると、夜中の1時半だった。こんな時間に何を言い出すんだと、文句のひとつも言ってやろうと相棒の顔をみると、かなりマジギレ気味だったので、仕方なく従うことにした。

それでもこんな時間に真っ暗闇の中、テントを一人で設営するのも癪なので、せめて手伝えと相棒に告げ、車からいそいそと引っ張り出し、僕らは無言のままテントを設営した。設営が終わると、キクちゃんはさっさと車に戻り、僕はテントに潜り込んだ。

そのうちに雨が降ってきて風も出てきたため気温が下がり、寒さに加えテントに当たる雨音や木の葉の音に怯えながら寝袋にくるまった。

しかし(なんで俺だけテントなんだよ)そう思うとなかなか寝付けない。そこで、ヒツジが1匹、ヒツジが2匹……と数える代わりに、僕は呪詛を唱えることにした。

「岩魚ノ神サマ、岩魚ノ神サマ……ドウカ明日ハ、アイボウニ釣ラセナイデクダサイ……釣ラセナイデクダサイ……釣ラセナイデクダサイ……」

明けて翌朝、消々しい顔でキクちゃんが歯磨きなんぞをしながらテントを覗いた。
「エンちゃん、オハヨ~」(あ~スッキリ寝られた!)
「……」(でぇ~結局ぜんぜん寝られなかった)

前日、僕らは昨シーズンよい思いをした渓を釣った。そこなら高確率でシャクガミのアマゴかイワナが出るだろうとの目論見があったからだ。

しかし、苦労して渡渉しながら入渓した流れは思いのほか水温が低く、それに前日のものと思われる足跡が致命的となり、釣果は散々なものだった。

唯一、キクちゃんがシャクガミのイワナを釣ったが、低水温でエサが少ないのか、顔はワニのように厳つく大ものらしいが、体はメザシのように細く痩せこけていて、釣り人として少々痛い気持ちにさせられる魚だった。

「あぁ! それってイワナの神様だ!」
「……」
「あんた、神様釣っちゃったからきっとバチが当たるよ?」
「……」
こうして僕らの山岳釣行の初日は、不完全燃焼で終わった。
やっちゃった、神様釣っちゃった。案の定、次の日は……

初日の釣りを終え、ふらっと立ち寄った宿場町。昔人に思いを馳せる時、またひとつ釣行に旅の思い出が加わる

イケちゃんのシャクガミガイド

スッキリ寝たらしいキクちゃんとは裏腹に、寝不足気味の目をこすりながらテントから這い出すと、前夜の風雨が嘘のように晴れわたり、セミの合唱とともに真夏の日差しが燦々と降り注いでいた。

今日は待ちに待った“イケドさん”との再会の日だ。イケドさんは、僕らよりちょうどひと回り先輩のベテランフライフィッシャーで、昨年川で偶然知り合った。

地図を頼りに入渓した流れで、後ろから釣り上がってきたのがイケドさんだった。僕らが先行していたとはいえ、イケドさんのホームのはずなのに、イヤな顔ひとつせずに声を掛けてくれ、そのうえ、さらに上流のアマゴのパラダイスまで案内してくれたのだ。

しかも、その日は魚たちの活性が高く、プールというプールには良型のアマゴが浮いていて、驚く僕らをよそに、イケドさんはいっさいサオをださず、そのすべてを僕らに釣らせてくれた。

そんなイケドさんの人間性と懐の深さに感謝し、感動した僕らは、敬意と愛着を込めて、イケちゃんと呼んでいるが、今日はイケちゃんと再会する約束の日だった。
イケちゃんはいつも笑っている。そして僕らをガイドしながらも一番釣っている

約束どおりイケちゃんは林道のかなり奥に車を停めてタープを張って待っていてくれて、僕らが到着すると、一年ぶりの再会にやさしい笑顔でおいしいコーヒーを淹れてくれた。

「今日はここから釣り上がってイワナを釣ろう。もちろん尺まで届けサイズをね!」
そう言って笑うイケちゃんがこの記事を読んでくれていることがうれしく、また、その主旨を知ったうえでガイドしてくれるというのだから、期待が膨らみ、心が躍った。

入渓点は意外なことに車を停めたすぐ脇からだった。乳白色の花崗岩の間を、エメラルドグリーンの清冽な水が流れ、水で洗われた花崗岩が砂礫とともにクリーム色を水底に落としていた。そしてイワナは入渓点から浮いていた。
倒木を渡って……

岩をヘツって……

「ここなら“あのイワナ”が釣れるかもよ? エンちゃん!」
キクちゃんの言う“あのイワナ”とは、僕らがネットで見て一発でハートを射抜かれた、渓の色と同じクリーム色をしたヤマトイワナだ。しかもシャクガミ。(マジで釣れるかも!)
真っ青な青空に清冽な流れ。心も身体も洗濯しに来た夏の山

ガイド役のイケちゃんの足が不意に止まった。そこは対岸から小さな沢が流れ込む、一見見逃してしまいそうな狭いスポット。

「あそこには尺がいるからさ! どっちがやる?」
イケちゃんの言葉に色めき立って顔を見合わせる僕ら。
「あんたやっていいよ!」
前日に神様(シャクガミ)を釣ってしまったキクちゃんからの嬉しいお言葉。
イケちゃん「あそこにはいつも尺がいるんだよ」
エンちゃん「えーなんでそこまで知ってんの? ひょっとしたらオスとかメスとか、スリーサイズも知ってんの?」


「あっ、そう?」
それではと、イケちゃんにもう一度ポイントを確認した後、ピーコックボディーのパラシュートを投じた2投目。うまくスポットに入ったフライが流れ出したその時、フワッとデカい影が浮上し、バッサリとフライをくわえ込んで水中に消えた。

あまりにも想定どおりの出来事と予告どおりのイワナのサイズ。僕は呆気にとられ、キクちゃんの声でウルトラ遅アワセになりながらもロッドを立てると、ゴンゴンゴンと手もとに伝わる重量感ある引きにやっと我に返った。

「おお! デカい!」
上流へ突進するイワナの強い引きをいなし、最後は少し下流へ走られながらもネットに入ったイワナを見て、僕らは驚愕した。

それは体全体がクリーム色で、わずかに黄色に斑点を持ち、尻尾とヒレは全て薄いオレンジ透けていて、縁は濃いオレンジ色をしている。これこそまさしく、僕らが夢見たあのイワナだ。しかもサイズは31cm。
「やった! やった! クリームヤマトだ! ネットで見たのと同じだ! しかもデカい!」
ついに待ち望んだ瞬間が! 子どもの遠足は家に帰るまでが遠足だけど、大人の遠足はネットに入るまででしょ!

「いいなぁ……俺もクリームヤマト釣りて~なぁ!」

イケちゃんとがっちり握手を交わす横で、ネットに横たわるイワナを嬉しそうに見つめながらも、ちょっぴり悔しそうなキクちゃんを見て「俺はもういいから、あんたやりなよ!」と言って、僕はティペットからフライを外し、リールにラインを巻き取った。
やった! 前回は40.5cmのヤマメにオイシイとこを持っていかれたけど、今回の主役は俺だぁ!

相棒の釣りをおとなしく見守れるか……?

それからはイケちゃんにガイドされながら釣り上がる相棒を、僕は余裕シャクシャクで後ろから見守った。

しかし、かれこれ1時間以上も黙って見ていると、だんだん釣りがしたくなってきた。キクちゃんは相変わらず名ガイドのおかげで釣り続けてはいるが、肝心のサイズは“泣き”止まり。
ほら、浮いてるの見える? あれもいいサイズだよ

あれ? そういえばキクちゃんは釣れた?

こればっかりは仕方ないことだが、「俺もエンちゃんが釣った魚みたいなのが釣りて~な~!」と嘆くキクちゃんにシャクガミが出るまで待つしかない。

(きっと呪詛が効いているのだ)なんて思い返していると、僕の心を察したかのようにキクちゃんが叫んだ。「ヒマなんでしょ? やっていいよ!」

「えっ! いいの? じゃあお言葉に甘えて」(よっしゃ~!!)
なんて言ってみても、やはり友情は大切だ。あとイッピキ釣れればいいやという気持ちでフライを結んだ。

2人より少し上流でポイントを捜すと、前方の岩盤際に深みのあるよさげな流れが目に入った。(なんか釣れそうだな~)などと思いながら、目を凝らして流れを見ると、水中に大きな影。振り向くと相棒は対岸の巻きにフライを浮かべ、こちらのようすには気付いていない。

(しめしめ)
もう一度流れに目をやると、やはりユラユラユラ。(デカい! イワ……いや、あれは魚じゃない。魚のように見える石に違いない。石だ、石だ、きっと石なんだ……)

そう自分に言い聞かせてフライを投げてみると、大きな影がモワっと浮上してきて、大きな口でパクッとフライをくわえ、ゆっくり水中へ消えた。

(あっヤバイ……おい馬鹿、そんなに暴れんな、キクちゃんにばれるって……静かにしろっ……見つかったらヤバイって)

そこからはもう無我夢中。気が付くとそいつはネットに横たわっていた。(それにしてもいいイワナだなぁ、すぐに逃がすのはもったいない、記念写真を撮ってからにしよう♪)
これぞ僕らが夢見たクリームヤマト! 決して石ではありません

すると下流の2人が僕の異変に気が付いたようだ。
「エンちゃん、いいの釣れたの?」
2人が近づいて来る。
「え?……釣れたけど……石だよ」
僕は振り返って身体で隠すようにしながら2人に応えた。
「はあ? イシ? 何言ってんだよ? まあまあデカそうだったじゃん!?」
「い、いや、もうリリースしたから」
「……」

気まずい空気が沈黙となって支配する。
「完全に怪しいゾ! ちょっと見せろよ!」
キクちゃんが身体を左右に振って僕の背中越しにそいつを見つけてしまった。ネットから余裕ではみ出たクリーミーなヤツを。

シラーっとした視線で僕を見つめる相棒。その隣でイケちゃんが一瞬だけニヤッとした。背中に流れるイヤーな汗を感じながら僕は、横たわるクリーミーなそいつに小さくささやいた。
「おい、お前……頼むから石になれよ……なっ!」
僕にはそいつが「ウン」って言ったような気がした。

Road to SHAKU
「人と人とのつながりが、釣果とサイズに影響する!?」
今回のシャクトリは、大々的に地元の名手にガイドをしてもらい、尺イワナを釣ることができた。それでは他力本願なのでは? との声も聞こえてきそうだが、それはそれでよいのだと思う。

勝手知ったる渓なら別だが、遠征や限られた日数のなかでよい釣りをしようとするならば、地元の友人に案内してもらったり、ガイドを頼んだりするのは当然のこと。

その土地のローカルな釣り方やフライなどを実際に見て学べることも多く、自分のスキルアップにつながる。今回の釣行で学んだことをいくつか紹介するので、お役に立てればと思う。

●瀬のヒラキや淵尻では、イワナが浮いていることが多いので、不用意に近づくべからず。
●水深のある反転流や泡のあるスポットでは、意外なほど大胆に近づき、しっかりとフライを漂わせるのがマル。
●イワナは釣った場所にリリースすれば、また元の場所に居付く確率が高いので、次回も同じポイントで釣れる確率が上がる。(これホント!)
●地元のエキスパートと知り合いになる。(これ超重要!!)

2018/6/8

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