がまかつフライフックストーリー
VOL.02 リテイナー前夜、B11-B
FlyFisher編集部=写真と文がまかつフックデザイナー松井伯吉さんとテスター陣が語る本シリーズ。
第2回はリテイナーベンドが生まれる前、スタンダードという位置付けだった『B11-B』について語っていただいた。
●協力:がまかつ
《Profile》
松井伯吉(まつい・おさきち) 1949年生まれ。愛知県豊橋市在住。フライショップF.A.I.S店主。がまかつフックのデザインを30年ほど手がけている。このほか、ロッドデザインとビルディング、ランディングネット製作など多くを手がける「タックルデザイナー」。
岡本哲也(おかもと・てつや) 1958年生まれ。東京都中野区在住。がまかつフィールドテスター。2006年から同社のフック開発をサポートしている。東京在住にも関わらず、シーズン中はほとんど東北で釣りまくっている。フライ歴40年以上。
松井伯吉(まつい・おさきち) 1949年生まれ。愛知県豊橋市在住。フライショップF.A.I.S店主。がまかつフックのデザインを30年ほど手がけている。このほか、ロッドデザインとビルディング、ランディングネット製作など多くを手がける「タックルデザイナー」。
岡本哲也(おかもと・てつや) 1958年生まれ。東京都中野区在住。がまかつフィールドテスター。2006年から同社のフック開発をサポートしている。東京在住にも関わらず、シーズン中はほとんど東北で釣りまくっている。フライ歴40年以上。
松井伯吉さん。フックデザイナーだけでなく、ロッド、ランディングネットやルースニング用のマーカー、ライン、リールまでさまざまなモノをデザインしてきた。様式にとらわれず、実践に即したものづくりを続けている
『B11-B』。リテイナーベンド以前、スタンダードとして位置付けていた。20年以上前のデザインだが、急角度でポイントが上を向くという、現在の「松井フック」に通じる構造がみられる。『B11-BT』というナノスムースコート・バージョンもある。※サイズ表記は実際の大きさと異なります
—— 『B11-B』はどういうコンセプトがあり、どういうきっかけで誕生したのでしょうか?
松井 僕は縦アイっていうものにすごく興味を持っていたんです。イブニングでカディスをフラッタリングさせているときに、普通のダウンアイだとダートが激しくて、魚は出るんだけど食い損なっちゃう。魚が食う瞬間にフライが少し横に移動しちゃうのをなんとか解消したいなと思っていました。それが縦アイだとほとんど起きないんですよ。
で、次に今度は、逆にドラッグかけるにはどうすればいいんだろうと思った。それには、ダウンアイじゃなくて、直角アイなんじゃないかと考えたんです。そのために試作をしてもらったのですが、そうするとアイが真下に向いているので、普通のフックだとゲイプの幅が狭くなっちゃう。だから一回グッと広げたんです。
それをテストしたら極端な差が出て、それはそれですごく面白かったですよ。あまり上手じゃなくて、メンディングとかできないような人でも、ドライフライが水面を滑らずに、止まったようにゆっくり流れるんです。ハリが引っかかるってよくいいますが、ドラッグヘッジにはゲイプだけでなくアイの抵抗も、ものすごく大きく影響していることがわかりました。
ただ、上手な人にはそれほど意味がなくて、しかもカッコ悪いから(笑)、結局発売しなかったんです。
でも、そのベンドカーブのデザインがもともとあって、なんとかならないかなとは思っていたんです。あるとき、ふとこれを普通のアイの角度に戻したら、バランスもよくてカッコイイじゃん! となったのが『B11-B』です。
—— これはリテイナーではありませんが、バーブレスというのが特徴ですか?
松井 そうですね。ベンドカーブを下げるというか、頂点を下に持ってきたことで、そのぶんフトコロが深く、幅が広くなりました。それを普通のアイに戻してみたらいけるかもしれないってなって……。なんで最初から思いつかなかったんだろうと思いましたけど(笑)。
『B11-B』を使った岡本さんの作例
岡本 『B11-B』はすごくいいですよね。普通で(笑)。
松井 そうですね。「いい普通」っていうのは継続して使ってもらえるということに繋がっていると思います。だってこのフックを発売したのは23、24年前ですよ。元々のコンセプトとは違いましたけどね(笑)。
岡本哲也さん。フックだけでなく、ラインも#1と、道具立てすべてが軽い。岡本哲也さんの動画「もっと軽く!#1という選択」はこちら
岡本 直角のダウンアイのために作った、ベンドカーブを下げるという考えは後々ずっと生きますよね。
松井 このゲイプの形を上下をひっくり返したやつがリテイナーですよね。
岡本さんによる『B11-B』の作例その2。
こちらがリテイナーベンドの新製品『R19-1FT』を使った作例。『B11-B』と比べると、ベンドカーブの頂点がシャンク側に位置しているのがわかる
—— ナノスムースコートをかけていないバージョンもありますね。
松井 やっぱりナノスムースはクセがあるので、それを考慮してデザインしたものでないと、すぐに抜けてバレる方向にいっちゃうような形のフックもあります。
いろんなものにナノスムースをかけてみたのですが、『B11-B』は問題なかったので、商品化しました。
—— 『B11-B』には岡本さんは何か関わっていたのですか?
岡本 いえ、僕が入った時にはもう発売されていました。実際、発売されてすぐに使ってみたらすごくよかったんです。掛かりもいいですしね。だからあの時点では『B11-B』がベストだと思っていました。
谷々和彦さんによるパターン。エボレスヤーンを使用したシケーダ。『B11-B』はバルキーなフライにも向く
岡本さんのカディスパターン
—— この時点ではRシリーズは生まれていないのですね。
岡本 そうです。でも、さっき言ったようにベンド形状のデザインは後々ずっと生かされている。僕は本当に最高のバーブレスのひとつだと思っているんです。「リテイナーはちょっと……」という人にもスタンダードでオススメという感じですね。ただ今、僕の中でのスタンダードは『R19-1FT』ですが。
松井 スタンダードとは何ぞやっていう話も始めると、終わらないですよ、これは(笑)。
2020/4/5