がまかつフライフックストーリー
VOL.03 細軸、ナノスムース、ニューリテイナー
FlyFisher編集部=写真と文がまかつフックデザイナー松井伯吉さんとテスター陣が語る本シリーズ。
第3回はナノスムースコートが施された初のフライフック『R17-3FT』について語っていただいた。
●協力:がまかつ
《Profile》
松井伯吉(まつい・おさきち) 1949年生まれ。愛知県豊橋市在住。フライショップF.A.I.S店主。がまかつフックのデザインを30年ほど手がけている。このほか、ロッドデザインとビルディング、ランディングネット製作など多くを手がける「タックルデザイナー」。
岡本哲也(おかもと・てつや) 1958年生まれ。東京都中野区在住。がまかつフィールドテスター。2006年から同社のフック開発をサポートしている。東京在住にも関わらず、シーズン中はほとんど東北で釣りまくっている。フライ歴40年以上。
松井伯吉(まつい・おさきち) 1949年生まれ。愛知県豊橋市在住。フライショップF.A.I.S店主。がまかつフックのデザインを30年ほど手がけている。このほか、ロッドデザインとビルディング、ランディングネット製作など多くを手がける「タックルデザイナー」。
岡本哲也(おかもと・てつや) 1958年生まれ。東京都中野区在住。がまかつフィールドテスター。2006年から同社のフック開発をサポートしている。東京在住にも関わらず、シーズン中はほとんど東北で釣りまくっている。フライ歴40年以上。
松井 『R17-3FT』は世界で最初にナノスムースコート(フッ素樹脂コート)を搭載したフックですね。『B11-B』はナノスムースコートバージョンもありますが、これは『R17-3FT』よりもだいぶ後にできたはずです。
まず発端は、ナノスムースコートのハリを作ろうという話でした。ナノスムースは滑りますが、よりバレないためにはやはりリテイナーベンドがよいだろうと。そしてシャンクの終わり部分をさらに広くしてホールディング性能を高めています。これをニューリテイナーと呼びました。
ナノスムースコート前提でデザインされた『R17-3FT』。ベンドカーブの頂点が中間地点よりも上側(シャンク側)に位置し、なおかつポイント先端からベンド最深部までの距離を持たせたニューリテイナーベンドを持つ。2011年発売
さらに極端な細軸にして、より刺さりをよくしたかったんです。ナノスムースコート+細軸。軸を細くすることによって、ハリが軽量化されてフッキングにも好影響がでましたから、これくらい極端にやっといてよかったと思います。
—— ナノスムースコートのハリを作るという課題が先にあって、それに合わせてデザインを進めたわけですね。
松井 そうです。ちょうど次はどんな形出そうかなと思っていたときにナノスムースコートの話がきましたから、タイミングがよかったです。
松井伯吉さん。フックデザイナーだけでなく、ロッド、ランディングネットやルースニング用のマーカー、ライン、リールまでさまざまなモノをデザインしてきた。様式にとらわれず、実践に即したものづくりを続けている
—— シャンクも少しカーブして、虫っぽい印象です。
松井 前にも言いましたが、僕が虫を意識してフックを作ることはないんです。最新の『R19-1FT』はストレートシャンクですけど、『R17-3FT』は、デザイン的にストレートだと落ち着かなかったんです。そこでシャンクを曲げてみたら、こっちのほうがいいなっていうところで、軽いカーブになっているんです。
今となっては、『R19-1FT』 が基本のデザインで、『R17-3FT』 はバリエーションという位置付けになりますね。幹になるストレートシャンクのリテイナーベンドの広いバージョンが『R19-1FT』なんです。
こちらが新製品『R19-1FT』。『R17-3FT』に比べるとベンドヒールがやや下がっている。シャンクもストレートでより「スタンダード」な印象
—— 『R17-3FT』は岡本さんとしてはいかがですか?
岡本 熱くなりますけど(笑)、この時点では、僕が関わってからの集大成だと思っています。デザインもそうですけど、極端な細軸なので、ハリが軽いことでどれだけ魚が食いやすくなるか具現化しましたから。もちろんナノスムースの最初のハリですし。それとニューリテイナー。ポイントを奥まで刺して、なおかつバレない形状ということですよね。
岡本哲也さん。フックだけでなく、ラインも#1と、道具立てすべてが軽い。岡本哲也さんの動画「もっと軽く!#1という選択」はこちら
で、あとはカッコよさだけだったんですよ。カッコいいハリにするには、結局最後はカーブしたほうがいいよねっていうことであの形になりました。松井さんには申し訳ないけど、虫っぽいんです(笑)。
松井 なんでか知らないけど(笑)。
—— 岡本さんがこれまで使っているのはほとんどこのハリですよね?
岡本 そうです。僕の釣りは全部を軽くしたい、というのがあって、ラインも#1ですし、もちろんフックも軽くしたい。そうなると『R17-3FT』がベストな選択肢です。
常に使って、人よりも多く川に立ってると、結局そのよさを知り尽くしちゃうんだと思うんです。フックの重さに対してのマテリアルの分量だとかも染みついちゃってるから、勝手にベストバランスでフライが巻けちゃいます。
松井 勝手にベストバランスって……。だから上手いやつはテスターとしてダメだよね(笑)。技術があれば、考えずにどんな道具でも使いこなしちゃいますから。
『R17-3FT』を使った岡本さんの作例。ドレッシングは非常に薄い
—— たとえば『R17-3FT』と『R19-1FT』だったら『R19-1FT』のほうが太いわけじゃないですか(※「3FT」の3Fはワイヤの太さを表し、3Xファインという意味。ちなみにTはナノスムースコート。「1FT」は1Xファインでナノスムースコートという意味になる)。そうすると同じパターンを巻くにせよ、マテリアルの分量は変わりますか?
岡本 変わります。ハックルの量は『R19-1FT』のほうが1回転増えます。その違いは実際に使ってみればすぐ分かると思いますよ。いつものクセで巻いたフライだと、「あれ? なんか沈むな」となったりしますからね。
こちらは秋田在住のテスター、谷々和彦さんの作例
でもとにかく、僕が松井さんと出会ってから『C14-BV』から始まって、ニューリテイナー、ナノスムース、細軸、っていう僕の中で求めていた3つすべてを形にしてくれたのが『R17-3FT』なんです。
上2本が岡本さん作、下2本が谷々さん作。『R17-3FT』繊細な水生昆虫を意識したパターンにも向く
2020/5/8