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海人スタイル奄美

第4回 産卵場造成、作業許可と道具

九頭竜川河川環境改善の取り組み

安田龍司=文

サクラマスを河川環境の指標として、九頭竜川の環境改善を目指す取り組みを行なう「サクラマスレストレーション」。2017年にはその活動が、水環境の保全や水文化へ貢献を行なう団体が選考対象となる「日本水大賞」の『環境大臣賞』を受賞した。本流フライフィッシングの名手でもあり、同団体の代表も務める安田龍司さんが、これまで、そして現在の活動に込める思いをレポート。

《Profile》
安田 龍司(やすだ・りゅうじ)
1963年生まれ。愛知県名古屋市在住。九頭竜川水系において、サクラマスを河川環境の指標として川を守る活動を行なう「サクラマスレストレーション」代表。ストリーマーやウエットフライの釣りを得意としており、各地の本流釣行の経験も豊富。正確な釣りのテクニックに裏打ちされたタイイング技術にも定評がある。
●サクラマスレストレーション http://sakuramasu-r.org/

作業許可を申請する

人工産卵場の造成を始めて2年で4ヵ所の作業を行なった。決して多いわけではないが、今回はここまでの経験で得られた許可申請、作業に必要な道具類について触れてみたい。

人工産卵場造成を行なう場合、「重機等の機械類を使用しない」、「礫などを外部から持ち込まない、持ち出さない」などの条件を厳守すれば、「川遊び」の範疇と判断される場合もある。

しかし作業中は濁水の流出も想定され、さらに作業内容を理解されず密漁行為(?)と誤解されたりする可能性もある。そのため最初に管轄する漁業協同組合に人工産卵場造成の目的と期待される効果、作業内容、使用する道具類、造成場所、造成中の濁水などの影響、参加者人数、使用駐車場などを簡単な書類にまとめ、必ず許可を求めたい。

その際、1度で許可を得ようとせず、あくまでも謙虚な姿勢で何度も足を運び、信頼関係、友好関係を築く必要がある。
この太い流れをサクラマスが遡上する

最近は人工産卵場造成の有効性もある程度浸透しているものの、「興味はあるが造成ノウハウがない」、「作業人員が確保できない」などの理由で行なっていない漁協もあるので、そのような時は「一緒にやりませんか?」と声を掛けてみてはいかがだろうか。

作業予定日や造成場所は漁協との調整を必要する場合もあるので、できるだけ漁協の都合に合わせるようにしたい。漁協の許可が得られたら、河川を管轄する土木事務河川課でも同様の許可を求める。その際、漁協から許可を得ていること、作業時の安全対策なども説明できるようにしておこう。
5月末の九頭竜川。ねらっているのは対岸沿いにある流心周辺

人工産卵場造成に必要な道具たち

スコップ
河川での作業で、掘り起こすのは粒径の小さい順に、シルト、泥、砂、小礫~大礫、そして時には50cmを超えるような岩石など。作業時には流水抵抗も加わり、また河床が硬化している場合も多いため、スコップの先端が尖っているタイプのほうが断然作業しやすい。流速の速い場所での作業には小型タイプがあると便利。

ジョレン
河床硬化している場所で活躍するのがジョレン。スコップでは掘りにくい硬い河床をこの道具でほぐしてから掘る。礫が多く、土砂が比較的少ない河床では、ジョレンで河床をほぐして流水を利用して土砂を流すだけでも、産卵場としてある程度効果が期待できる。
河床を掘る道具たち。(左から)軍手、バール、ジョレン、スコップ

バール
産卵場造成の作業中、時おり大きな岩が現われて作業を阻まれる。幸い私たちの仲間には“ターミネーター”や“人間ブルドーザー”がいて、彼らの活躍で乗り切れることが多いが、それでも対応できない時はバールの出番となる。

バールにはさまざまな長さと太さがあるが、最低でも1.5mほどの長さで丈夫な物がほしい。そして1本ではなく、2本準備しておくことをおすすめする。大きな石をバール1本で動かすと方向が定まらないため、効率が悪い。2本あれば個人の負担も減り安全性も増す。

またバールを必要とする作業では、岩やバールで手や足を挟むなど負傷の危険を伴うので、使用時にはお互いに声を掛けあって充分注意する必要がある。

軍手
作業中は安全のため常に軍手、または作業用グローブを着用する必要がある。その際、あまり安い軍手等は指先にすぐ穴が開いてしまうので、滑り止めの付いた丈夫な物を用意しよう。

バスケットA
主に金網(後述)の下に落下した礫や土砂を洗う時に使用する。洗う時は半量程度の礫を入れ、ある程度流速のある場所で両端を2人で持ち、リズムよくジャブジャブと洗う。流速の遅い場所で行なうと、時間がかかるばかりか、河床に土砂が堆積してしまう。作業後の河川環境にも充分配慮したい。最後に礫を運ぶ時にも使用するので3~5個あると便利。
振り分けた礫や土砂を洗う時に使用。2人で持って作業する

金網
強度があればどんなタイプでもよいが、バスケットの上にこの金網を置き、スコップで掘った河床材料を最初に載せる。
バスケットAの上には、金網を置いて、礫や土砂を振り分ける

バスケットB
バスケットAを使用して洗った礫をこのバスケットに入れて再度揺すり、目的のサイズの礫を集める。効率アップのために、底の網目の一部をニッパーなどで切断して網目サイズを目的の礫サイズに調整しておくと効率よく礫を選別できる。
バスケットBは、バスケットAで洗った礫を、さらに振り分けるためのもの

目的の礫を集めるために、底部の網目は大きさを調整

この他、万が一の負傷に備え、応急セットも用意しておく。また記録を残し、その後モニタリングと合わせ、データ化するため、カメラやメモの用意もするとよい。また作業者個人としては、脱水症状にならないように飲料水、帽子は必ず準備し、タオルや着替えもあるとよい。

次回
【隔週連載】
サクラマスレストレーションの軌跡
第5回は2017年5月9日(水)公開予定です。

2018/4/25

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