第1回 ”対象魚”から生物としての興味へ
九頭竜川河川環境改善の取り組み
安田龍司=文サクラマスを河川環境の指標として、九頭竜川の環境改善を目指す取り組みを行なう「サクラマスレストレーション」。2017年にはその活動が、水環境の保全や水文化へ貢献を行なう団体が選考対象となる「日本水大賞」の『環境大臣賞』を受賞した。本流フライフィッシングの名手でもあり、同団体の代表も務める安田龍司さんが、これまで、そして現在の活動に込める思いをレポート。
《Profile》
安田 龍司(やすだ・りゅうじ)
1963年生まれ。愛知県名古屋市在住。九頭竜川水系において、サクラマスを河川環境の指標として川を守る活動を行なう「サクラマスレストレーション」代表。ストリーマーやウエットフライの釣りを得意としており、各地の本流釣行の経験も豊富。正確な釣りのテクニックに裏打ちされたタイイング技術にも定評がある。
●サクラマスレストレーション http://sakuramasu-r.org/
安田 龍司(やすだ・りゅうじ)
1963年生まれ。愛知県名古屋市在住。九頭竜川水系において、サクラマスを河川環境の指標として川を守る活動を行なう「サクラマスレストレーション」代表。ストリーマーやウエットフライの釣りを得意としており、各地の本流釣行の経験も豊富。正確な釣りのテクニックに裏打ちされたタイイング技術にも定評がある。
●サクラマスレストレーション http://sakuramasu-r.org/
ウグイがサクラマスの卵に群がる映像を見て……
2018年、福井県九頭竜川のサクラマス解禁は一面銀世界となり、堤防内の道も走行不可、駐車スペースもなく、ポイントまではラッセルを強いられた。7年ぶりに釣り人には歓迎されない解禁となったが、さらにその数日後には「五六豪雪」以来の豪雪となり、市民生活がマヒする事態となった。一方で水源となる山々には充分な積雪をもたらし、春から梅雨前までの渇水が軽減される恩恵もある。
初めて九頭竜川でロッドを振って以来30年近くになるが、当初はこんなに長く九頭竜川に通うことになるとは思いもしなかった。まして九頭竜川の環境や生態系、サクラマスに関わるさまざまな取り組みに携わることになるとは……。
九頭竜川に通う以前は岐阜県の長良川でサツキマス釣りを楽しんでいた。当時は長良川河口堰が完成する前で、小さな朱点が美しいサツキマスが釣れた記憶がある。しかし少しでも大型の遡上魚を釣ってみたいと九頭竜川に通うようになった。もっとも3年目に一度挫折しかけたが。
試行錯誤の末サクラマスが釣れるようになってしばらくすると、それまではあくまで釣りの対象として見ていたサクラマスを生物として興味を持って見るようになり、産卵を観察したり、稚魚捜しを始めたりした。そもそもこれが間違い?の始まりだったのかもしれない。
シーズン中はもちろん川でラインを伸ばすが、活動が本格化してからは、サオを持たずに立つこともかなり多くなった
そして決定的な出来事が2007年秋に起きる。それはNHK福井放送局のカメラマンが偶然サクラマスの産卵シーンを撮影したことから始まった。そこにはサクラマスが産卵した次の瞬間、多数のウグイが群がり、サクラマスの卵を食べつくすという衝撃的シーンがあった。
サクラマスはまさに、なすすべなしといったようすだった。これを見た現在サクラマスレストレーション事務局の天谷菜海と友人の中村圭一そして私は、もしかしたら河床に問題があるのではないかと考え、サクラマスの産卵が撮影された九頭竜川の支川を2008年9月に調査することにし、NHKのカメラマンにも同行していただいた。
本流フライフィッシングの憧れの対象魚ともいえるサクラマス。いつの間にか、”ターゲット”ではなく、生きものとして興味を持つように……
数人で始めた人工産卵場作り
4人でスコップを片手に支川に立ち込み、サクラマスが産卵しそうな場所を掘ってみるつもりだった。しかし簡単には掘れない! とにかく河床が硬くスコップが全く刺さらないのだ。仕方なく河床表面を薄く剥ぎ取るようにすると、拳大の石と一緒にモクモクと土煙が舞い上がった。スコップが刺さらなかった原因は石の隙間に砂や土が詰まり硬くなって(河床硬化)いたことだった。
「金属のスコップで掘れない河床をサクラマスが掘れるわけがない!!」
サクラマスの卵をウグイが食べつくしてしまった原因は分かったが、同時にショックでもあった。もちろんウグイが悪いわけではない。彼らも生きていくために食べているだけで、サクラマスが産卵を無事終えることができない環境を作り出した人間にこそ責任がある。
九頭竜川には全国から釣り人が集まる。サクラマスだけではなく、アユの名川としても知られる
「このままではサクラマスが可哀想、なんとかしなくては」ということで、何ができるかを話し合った結果、試しに人工産卵場を造成してみようということになった。
しかし当時サクラマスのための人工産卵場造成の情報はなく、ヤマメやアマゴ、イワナなどの事例を参考に手探りで進めるしかなかった。サクラマスが産卵しそうな場所を捜して、そこで造成作業ができるかを検討し、作業可能と判断してから親しい仲間に声を掛けた。
作業はサクラマスの産卵シーズンの少し前に完了しなくてはいけないので、さっそく九頭竜川中部漁業協同組合に人工産卵場造成の趣旨を説明して許可をいただいた。
産卵のために細流に入ってきたサクラマスのペア
河川管理のほうは機械を使わないこと、礫や砂などの河床材料を他所から持ち込まない、持ち出さないという条件であれば問題ないことになった。この時、人工産卵場造成の趣旨を理解していただき、快く許可をしてくださった皆さんには今でも深く感謝している。
次に作業に使う道具類の調達だが、経験のないことなので色々予測して、河床を掘るためにスコップの大小、ジョレン、軍手などを購入。
そして作業当日の2008年10月12日、福井に集まった仲間と支流に向かう。これがサクラマスレストレーションの活動の始まりだった。
次回
【隔週連載】
サクラマスレストレーションの軌跡
第2回「人工産卵場、造成開始。」は
2017年3月28日(水)公開予定です。
【隔週連載】
サクラマスレストレーションの軌跡
第2回「人工産卵場、造成開始。」は
2017年3月28日(水)公開予定です。
2018/3/14