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第5回 産卵場造成、場所選定と実作業

九頭竜川河川環境改善の取り組み

安田龍司=文

サクラマスを河川環境の指標として、九頭竜川の環境改善を目指す取り組みを行なう「サクラマスレストレーション」。2017年にはその活動が、水環境の保全や水文化へ貢献を行なう団体が選考対象となる「日本水大賞」の『環境大臣賞』を受賞した。本流フライフィッシングの名手でもあり、同団体の代表も務める安田龍司さんが、これまで、そして現在の活動に込める思いをレポート。

《Profile》
安田 龍司(やすだ・りゅうじ)
1963年生まれ。愛知県名古屋市在住。九頭竜川水系において、サクラマスを河川環境の指標として川を守る活動を行なう「サクラマスレストレーション」代表。ストリーマーやウエットフライの釣りを得意としており、各地の本流釣行の経験も豊富。正確な釣りのテクニックに裏打ちされたタイイング技術にも定評がある。
●サクラマスレストレーション http://sakuramasu-r.org/

まずはサクラマスの産卵環境を観察する

前回は、人工産卵場造成に必要な道具類と作業ノウハウについて紹介したが、今回はまずは場所選定について説明してみたいと思う。

これらの要素はサクラマスだけではなく、イワナやヤマメ、アマゴなどの魚類にも応用できるので、産卵場造成に興味のある方はぜひ参考にしていただきたい。

人工産卵場を造成する場所を決める前に、まずはサクラマスがどこで産卵しているかを知っておくことが大切。産卵期に産卵行動をそっと観察してもよいし、産卵期が終了した頃に産卵床の場所と数を記録するのもよい。
河床を掘り続けるサクラマスのメス

その際、産卵場所周辺の物理環境を注意深く観察することも忘れずに。たとえば、周辺に植物や岩などのサクラマスが身を隠すことができる場所の有無、河畔林などで日陰になる時間帯の有無、河床材料(礫)の粒径と河床硬化の有無など。

さらに河床が徐々に深くなる場所なのか浅くなる場所なのかについても記録し、およその水深も把握しておく。産卵が終了し、付近にサクラマスの姿がなければ、慎重に産卵床に近づき、実際に水深を計ってもよい。

このほか、流速を正確に把握するには流速計があると便利だが、なければ産卵床の横にメジャーを伸ばして、草や木の葉を流して時間を測り、およその流速(秒速何センチ)を知っておくだけでも有効だ。

ただし、水面の流速よりも河床付近の流速のほうが遅いことが一般的なので、その点も考慮しておく。特に河床材料の粒径が大きい場合は流速差が大きくなる傾向にある。
産卵が終わり植生の陰に定位するサクラマスのメス

人工産卵場の造成場所選定基準

ここまでで紹介したような、サクラマスの産卵行動、または産卵床から得たデータをもとに、人工産卵場造成場所の選定基準を決める。

この基準は大別して2つあり、1つは産卵が確認された実際の場所の環境を改善すること。これは主に河床硬化が原因となり、産卵が困難になっている場所に向く。このような場所の造成では、そのまま現地の礫を利用できることが多い。
正確なデータが得られれば、このようなピンポイントの造成でも産卵が期待できる

2つ目は産卵行動、もしくは産卵床が確認された場所とよく似た環境はあるが、産卵していない場所の環境を改善すること。

この場合は産卵が行なわれない原因を調べる必要がある。たとえば物理環境として付近に植物や岩などがない、河床材料の粒系が大きすぎる、河床硬化が進みサクラマスの尾ビレで掘るこができない……などの要因が考えられる。

またサクラマスの産卵が確認された場所より、数キロ以上下流の場合は産卵適地でない可能性もある。逆に産卵が確認された場所よりもさらに上流で全く産卵が確認できない場合は、どこかに遡上障害となる落差工(砂防堤や取水堤など)がある可能性も考えられる。
この写真の範囲内に6ヶ所の産卵床と2尾のサクラマスがいる

産卵行動の多くは、左右どちらかの岸寄りで行なわれるが、その際、危険を察知した時に隠れることのできる場所を好む傾向があるので、これらがない所では産卵する確立は低い。

河床材料の粒径が大きすぎる場所は流速が速すぎ、小径の礫などは流失してしまいがち。または上流にダムや砂防堤があり、礫の供給が断たれていることもある。流速が原因でなければ、周辺で(同河川内で)礫を調達して産卵場を造成することも可能だ。

いずれにしてもデータがない初めての河川では1年目は観察とデータ収集、そして造成場所の選定を行ない、2年目に造成作業に移ると効率がよい。また、造成場所を決める際は道具類の搬入を考慮し、安全に進入できる条件も合わせて場所を選ぶ必要がある。
このような河床と流速ではサクラマスの産卵は難しく、造成を行なう価値は低い

実作業のノウハウ

前回は作業で使う道具を紹介したが、ここでは実作業のノウハウについても触れてみたい。

作業日は産卵が始まる5日から10日前に設定するとよいが、予測が難しい時はもう少し早くしてもよい。ただし作業当日の水量が多い時は、少し減水してから作業を行なったほうが安全だ。

また作業後数日以内に大きな出水をともなう降雨が予想される時も、作業日を変更したほうが懸命。サクラマスの産卵期に作業日が重ならないように、予備日を用意しておくとよい。

道具類を河川に搬入したら、安全対策と作業工程を参加者全員で確認し、造成範囲の四隅に大きめの石などで印をして、作業を開始する。

最初に河床を掘るわけだが、硬化が進行しているとスコップでは効率が悪いので、ジョレンでほぐしてからスコップで掘るとよい。参加人数にもよるが、スコップ隊とジョレン隊、礫洗隊と分けて、各自が少しずつ休憩時間を持てるように作業をすると楽しく進められる。
作業中は分担し休憩しながら進める

河床は30~40cm以上掘ると効果的で、スコップで掘った礫はバスケットに入れる。作業中にスコップでは歯が立たない岩が現われることがあり、こんな時はバールの出番となるが、大きな岩ほどバールを2本同時に使って転がすとよい。

河床を掘る作業と並行して、礫を洗って、サイズ選別する作業も行なう。バスケットには1/3程度の礫を入れ、2人でバスケットを持って流れの中でジャブジャブと揺すって洗う。

その後、バスケットの上に乗せた金網に出し、最初に粒径8~15cm位の礫を取り出し、次に金網の上に残った5~7cmの礫を取り出す。金網を通過した礫は、バスケットを揺すって2cm以下の粒径の礫を取り除き、残った2~4cmの礫を取り出す。

もちろん、これらの作業で流出する土砂が造成地に流入しないように注意。目的の深さまで掘ったら粒径の大きな礫から順に埋め戻し、もし足りないようなら、周囲から必要なぶんだけ調達して補う。
選別した礫を河床に戻す

最後に造成地の最下流に15~25cmの石を2~3列程並べて、礫の流失を防ぐが、あまり高く積み上げると流速が遅くなって、サクラマスが産卵しない可能性があるので、河床からの高さは10cm前後に留めるとよい。また、作業中は周囲の植生などをできるだけ傷めないように注意する。

2018/5/15

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