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フライフィッシングショップ ビギナーズ・マム

第3回 2年目の産卵場造成作業

九頭竜川河川環境改善の取り組み

安田龍司=文

サクラマスを河川環境の指標として、九頭竜川の環境改善を目指す取り組みを行なう「サクラマスレストレーション」。2017年にはその活動が、水環境の保全や水文化へ貢献を行なう団体が選考対象となる「日本水大賞」の『環境大臣賞』を受賞した。本流フライフィッシングの名手でもあり、同団体の代表も務める安田龍司さんが、これまで、そして現在の活動に込める思いをレポート。

《Profile》
安田 龍司(やすだ・りゅうじ)
1963年生まれ。愛知県名古屋市在住。九頭竜川水系において、サクラマスを河川環境の指標として川を守る活動を行なう「サクラマスレストレーション」代表。ストリーマーやウエットフライの釣りを得意としており、各地の本流釣行の経験も豊富。正確な釣りのテクニックに裏打ちされたタイイング技術にも定評がある。
●サクラマスレストレーション http://sakuramasu-r.org/

サクラマスの産卵に必要な環境を見直す

初めての人工産卵場造成を終え、サクラマスの産卵シーズンを迎えた。その効果を期待して観察を繰り返したが、結局浅く、流速がやや遅い場所では、サクラマスは産卵してくれなかった。

一方少し深く流速の速い場所では、やはりサクラマスが河床を掘る行動が見られ、感動的であった。しかし産卵の瞬間を見ることはできず、流れの透明度が回復してから確認してみると、産卵はしたものの、その位置が微妙にずれている印象だった。

人工産卵場を造成する3年程前からサクラマスの産卵を各支川で観察してはいたが、やはりぴったりの場所を特定するのは容易ではない。

そこで2008年から本格的に始めたサクラマス産卵調査では、産卵床数だけではなく、産卵床周辺の物理環境をできるだけ記録し、次回以降の人工産卵場造成に活かすことにした。

この後、サクラマスレストレーションの活動は少しずつ幅を広げていくことになるが、時系列で話を進めていくと整理が難しいので、このままもう少し人工産卵場の話を続けていきたい。
河床を掘り終えた状態

大きな礫から順に埋め戻して終了

産卵場造成の条件

2009年の人工産卵場造成の際には、前年の経験と反省を活かして、まず道具の改良を試みた。最大の改良は礫を洗う時とサイズ選別の時に農業用バスケットと金網を使うことにしたこと。そして、バスケットの底の網目は部分的にニッパで切り取り、網目の大きさを、礫の目的サイズに合わせて加工したことだ。さらにバールと不足分のジョレンとスコップも追加した。

次に造成場所の選定だが、前年の産卵調査のデータを活かして、サクラマスが産卵場所として好みそうな環境、かつ作業可能な場所を選ぶことにした。しかし結局、前年とほぼ同じ場所が妥当ではないかということになり、微調整に留めることとした。
豊富な水量をたたえて流れる4月の九頭竜川(2012年)。この流れをサクラマスが遡上する

作業を行なうには、作業者のアプローチが容易で、安全でなくてはいけない。そして道具類の搬入も必要なので、これらの条件を満たす場所となると、どうしても限られてしまう。さらに造成後の観察も、河川内に進入せずにできる場所が望ましい。

またサクラマスの好む産卵場の条件の一つに、事前の予想よりも流速の速い場所があるということが分かった。同じ流速でもどちらかというと、減速する場所より加速する淵尻のような場所。そして近くに魚体を隠せるアシや大岩などがあること……。これも前年の産卵調査の結果から推察された。

その結果現在では、流速と水深、造成形状とその面積など、かなり具体的に把握できるようになっている。

改善点を修正した2回目の造成。結果は……?

さて2回目の人工産卵場造成の日となった2009年10月18日。この日は前回よりも大勢の仲間が集まり、地元の方々の協力も得られるようになった。さらに、この川で以前サクラマスの産卵シーンを撮影したNHKのカメラマンも取材に来てくれた。

最初に造成する浅い場所は、前年の反省から、もう少し深く流速のある場所を想定していた。川のようすが若干変化していることから慎重に位置を決め、流速調整について、また新たに用意した道具類についての説明を済ませて、作業を開始した。
作業を分担して、いくらか手際よく進められるようになった造成作業

前年の経験者が多いことに加え、参加者が増えたことで個人の負担が減り、河床を掘る作業は順調に進んでいく。礫を洗うバスケットは2人で両端を持って、流れの中でジャブジャブと揺する。

息の合うペアで行なうとリズムよく洗え、選別作業が追いつかないほどになるが、逆に息が合わないと遅いばかりか、作業者に水飛沫がかかって、皆の笑いを誘ったりもした。

礫の選別作業では幸い、金網と網目を調整したバスケットが機能しているようで、礫の山がどんどん高くなっていく。しかし、さらに改良できそうでもあった。ただ、バールについては少し短かったようで、結局思うような活躍はしてくれなかった。

最後に流速調整用の石を並べる際、流速が速くなるように、入念に行なった。
2009年の産卵場造成では、NHKの撮影も行なわれた

最初の場所が終わると、次はもう少し深くて流速の速い場所での造成作業が待っている。道具類が充実しているせいか、前年のような冷ややかな眼はなく(気づかなかっただけかもしれないが…)、こちらも位置の微調整をしてから作業に取り掛かる。

2008年よりも2回目となる翌年のほうが作業を丁寧に行なったことに加え、内容自体もかなり増えたが、仲間も増えたことと道具類の改良で、作業時間は少し短縮することができた。

造成作業が終わると後はサクラマスの産卵シーズンを待つばかりである。結果を先に言ってしまうと、2009年の人工産卵場造成は大勢の仲間の協力のおかげで、いずれの産卵場でもサクラマスの産卵を確認することができたのだった。

次回
【隔週連載】
サクラマスレストレーションの軌跡
第4回は2017年4月25日(水)公開予定です。

2018/4/11

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