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海人スタイル奄美

第2回 人工産卵場、造成開始。

九頭竜川河川環境改善の取り組み

安田龍司=文

サクラマスを河川環境の指標として、九頭竜川の環境改善を目指す取り組みを行なう「サクラマスレストレーション」。2017年にはその活動が、水環境の保全や水文化へ貢献を行なう団体が選考対象となる「日本水大賞」の『環境大臣賞』を受賞した。本流フライフィッシングの名手でもあり、同団体の代表も務める安田龍司さんが、これまで、そして現在の活動に込める思いをレポート。

《Profile》
安田 龍司(やすだ・りゅうじ)
1963年生まれ。愛知県名古屋市在住。九頭竜川水系において、サクラマスを河川環境の指標として川を守る活動を行なう「サクラマスレストレーション」代表。ストリーマーやウエットフライの釣りを得意としており、各地の本流釣行の経験も豊富。正確な釣りのテクニックに裏打ちされたタイイング技術にも定評がある。
●サクラマスレストレーション http://sakuramasu-r.org/

硬い河床をひたすら掘る

慌ただしく準備を進め、サクラマスの人工産卵場造成を行なう2008年10月12日を迎えた。朝、支川の河原に降り立った仲間にも私にも作業にどのくらいの時間が必要かは分からないまま、無謀にも2箇所の造成を行なうことに決める。

練習も兼ねて少し流れの緩い浅い場所から造成を始めることにした。最初に河床に目印となる大きめの石を4角に置き、その中をスコップとジョレンで掘る。

掘るといっても砂や土の影響で硬化しているので容易ではない。特に硬いところは最初にジョレンで少しほぐしてからスコップで掘ると効率がよい。時には大きな岩が出てきて作業を阻むこともあって、「誰がこんなところを掘ると言ったんだ~!」とか「明日は筋肉痛で仕事にならないぞ~!」などと言いながらも作業は進んでいった。
スコップで河床を掘る。これがなかなかなの重労働

礫を掘り出した時、同時にある程度土砂が流れてくれるので、スコップに残った礫を浅瀬に積み上げておく。礫の山が少しずつ高くなっていくころ「これだけ掘ればいいんじゃない?」、「いやもう少し掘ろう!」といったやりとりを繰り返し、およそ30cmから40cmほど掘り下げると、ようやく礫の埋め戻し作業となる。

最初に8~15cm程の礫を並べ、その上に5~7cm程の礫を敷き詰める。さらに2~4cm程の礫をかぶせ、最後に造成地周辺に流速を調整するための岩を並べて作業終了。しかしまだもう1ヵ所の作業が待っている。
作業終えて川面を眺める面々。この日は地元のテレビカメラも同行した

手応えがあった透明度

次の場所は流れが速く、少し深い。水深は40~50cmくらいだったと思う。

最初の場所から数メートル離れたその場所を見た仲間の眼は、私に向かって無言で「まさかここでやるの~!」と訴えているように見えたが、そこは笑ってごまかして作業を進めた。

ここでも同じように作業するつもりだったが、予想以上に流れの影響を受け、掘り起こした礫はスコップから流されてしまうことが多く、結局この場所では河床を掘って砂や土を流す程度の作業にとどめることにした。

作業中はどこか水遊び感覚で楽しく時間が過ぎていったことと、皆の頑張りで3時間程と意外に早く作業は終わった。堤防に上がって造成した場所を見下ろすと、驚いたことにそこだけ透明度が高くなっているのが見えた。

礫と礫の隙間を水が流れるようになったため浄化作用が高くなったのではないかと思うが、あまりの変わりように仲間達も感激しているようすだった。
礫を敷き詰めて作った造成地。礫による流れの浄化作用が高まったようだ

課題と結果

初めての人工産卵場造成を終えて、使用する道具類に改善が必要であることが分かってきた。大きな岩が出てきた時にそれを掘り起こす道具としてバールを追加すること。作業人数に対してスコップなど道具が足りなかったこと。

土砂を洗い流す際に農業用バスケットを使用すると効率的で、礫を洗った後のサイズ選別にも効果があるのではないか。さらにバスケットを加工して網目を調整し、金網と併用して礫サイズを分けてみよう……などが次回の課題となった。

そう、次回つまり翌年も人工産卵場造成を行なうことが反省会のなかで、決して強引な誘導?ではなく、なんとなく?決まってしまった。

人工産卵場造成が終わってからは、天候が気になって頻繁に天気予報と雨量、水位をチェックした。また可能な限り水温も記録した。雨の予報があると、まるで解禁直前の釣り人のように落ち着かない。

人工産卵場は出水の影響で流速が速くなった時用の浅い場所と、減水した時用の深い場所に造成してあるが、果たしてそこで産卵してくれるかは分からない。
4月の九頭竜川。大きな瀬と深みが連続する

産卵場をそっと覗くと……

造成後、最初の出水ではサクラマスの産卵は始まらなかった。まだ水温が高すぎるようだった。しかしその後は周辺の山々の紅葉が進み、水温も順調に低下していった。

2度目の出水の後、午前中にまだ濁っているのは承知のうえでようすを見に行く。近年と異なりまだサクラマスの個体数も少なく、当然産卵も少なかったので川の中を覗き込みながら慎重に造成場所のある上流を目指す。途中、所々で薄いニゴリのある流れの中でサクラマスのメスが河床を掘っている姿が見え、オスも寄り添っていた。
サクラマスの生態には、まだまだ不思議なところが多い

期待と不安が交錯するまま、いよいよ人工産卵場を少し離れたところから観察する。しかし浅く少し流速の遅い場所に造成した産卵場にはサクラマスの気配も産卵した形跡もない。

深く流速の速い場所にはメスのサクラマスが1尾定位していた。1時間程観察を続けたが河床を掘るようすは見られなかった。

午後、再度人工産卵場を観察に行くと、深く流速の速い場所でサクラマスが魚体を横にして河床を掘る瞬間が見えた。

次回
【隔週連載】
サクラマスレストレーションの軌跡
第3回は2017年4月11日(水)公開予定です。

2018/3/28

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