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フライフィッシングショップ ビギナーズ・マム

第6回 サケの卵を救出(その1)

九頭竜川河川環境改善の取り組み

安田龍司=文

サクラマスを河川環境の指標として、九頭竜川の環境改善を目指す取り組みを行なう「サクラマスレストレーション」。2017年にはその活動が、水環境の保全や水文化へ貢献を行なう団体が選考対象となる「日本水大賞」の『環境大臣賞』を受賞した。本流フライフィッシングの名手でもあり、同団体の代表も務める安田龍司さんが、これまで、そして現在の活動に込める思いをレポート。

《Profile》
安田 龍司(やすだ・りゅうじ)
1963年生まれ。愛知県名古屋市在住。九頭竜川水系において、サクラマスを河川環境の指標として川を守る活動を行なう「サクラマスレストレーション」代表。ストリーマーやウエットフライの釣りを得意としており、各地の本流釣行の経験も豊富。正確な釣りのテクニックに裏打ちされたタイイング技術にも定評がある。
●サクラマスレストレーション http://sakuramasu-r.org/

卵救出のための問題と作戦

長くお休みをしてしまって申し訳ありません。連載中に度々間隔が空くことがあると思いますが、これからもお付き合いいただければ幸いです。

さて、前回までサクラマスの人工産卵場造成について話を進めてきたが、今回はサクラマスではなく、「サケの卵を救出」するお話。

初めに何故サケの卵を救出することになったのか、その経緯についてお話しすると、産卵場造成を行なった支川の下流部には冬季積雪時の消雪装置に使用する河川水の取水口があり、冬を前に取水口周辺に堆積した砂櫟を取り除く作業を毎年行なっている。

ところがこの作業の前にサケが産卵するため、作業時に潰れたり、泥を被ったりしてサケの卵が死んでしまうことになる。それを残念に思っている地元の方々の声があることを知り、それならば関係者と話し合いをした方がよいのではと、福井県土木事務、永平寺町建設課、九頭竜川中部漁協に集まっていただき会議を行なった。

その際、サクラマスとサケの生態についての資料も用意。その結果、浚渫工事は降雪の前に完了しなければならないことが分かり、仔魚の浮上は待てないため、サケ卵を救出することを提案した。そして会議では、浚渫工事を少し待っていただけることが決まり、「サケの卵を救出」する方法を取ることになった。

しかし、サケ卵の救出作業をするにはいくつか問題がある。第1に浚渫工事まで後わずか1日しかない。

第2に急な作業に仲間が集まってくれるか。

第3に福井県では内水面のサケは全面禁漁なので、救出とはいえ特別採捕許可が必要になるということ。

第4に救出した後の卵をどうするか。

そして最後に最も重要な第5の問題点はサケ卵の積算温度。産卵後の卵は一定期間を経過する以前に振動などのショックを与えたり、紫外線を当てると非常に高い確率で死んでしまう。人工採卵であれば積算温度を管理することできるが、自然産卵では産卵日も積算温度も分からない。

唯一の方法は発眼しているか否かを確認することだが、これも産卵床から掘り出す必要があり、その時発眼していなければやはり残念な結果となる。だが救出しなければどちらにしても全滅状態になる。

これらの問題はあるものの、とにかく時間がないので出来ることから進めることにして、サクラマスレストレーシ事務局には福井県水産課に特別採捕の許可申請を、私は救出作業に協力してくれる仲間を集めると同時に、作業方法と道具類を検討した。

さらに救出後のサケ卵を育ててもらえるように、福井県内水面総合センターにお願いをするなど、出来る限りの準備を進めた。

河床を30cm掘り進めても……

慌ただしい許可申請と準備も何とか間に合い、11月末の寒いなかでも、救出作業の実施日を迎えると各地から仲間たちが集まった。さらに九頭竜川中部漁業協同組合の組合長さん、福井県内水面総合センター職員の方も駆けつけてくださり、地元ケーブルテレビのカメラマンも取材に来てくれた。

私も初めての経験なので、最初に入念な打ち合わせをし、さらにサケ卵に対する注意事項も伝え、作業を開始する。
作業前のミーティングで作業内容を確認

産卵床の場所に見当を付けながら作業を開始

といっても最初は産卵床の特定をしなければならないが、これは日頃の観察である程度見当がつく。産卵床を見つけると最初に産卵床の下流側にネットを設置して掘り始める。

しかし、どこに卵があるか分からないので、卵を傷付けないために、スコップなどの道具類は使えず、全て手作業で行なう。初めは慎重に掘り始めたが、なかなか卵が見つからないので、さらに深く掘り進める。
産卵床を見つけるとネットの位置と掘り始める位置を決める

産卵床の下流にネットを置き、掘り始める

流速が速い場所は水しぶきで寒さがさらに増す

この時大活躍したのが、岐阜県から応援に来てくれた”人間ブルドーザーMさん”。手をサケの尾ビレのように使い、礫を水と一緒にどんどん舞い上げる。結局卵が見つかるまで30cm以上掘ることになったが、深くなると用意したゴム手袋の長さでは足りず、容赦なく冷たい水が進入してくる。
産卵床が深い時は最初から濡れる覚悟で始めなければならない

卵が見つかると歓声があがるが、発眼しているかが問題

懸命に産卵床を掘るサケの命を無駄にしたくない

しかし、硬くてこれ以上掘れない深さまで掘っても少量の卵しか見つからない。個体差もあるが、1尾のサケが4000粒前後の卵を産むはずだが、1箇所の産卵床から多くても200粒前後、なかには全く見つからない産卵床もあった。やはりサクラマスと同じで河床硬化による悪影響が原因のようだ。

2018/10/4

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