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Bibury Court

スカジットタクティクス入門│第6回

スカジットタクティクスを全10回でお伝えしていく

文・写真=仲野靖

ひとくちに「魚を釣る」といっても、フライフィッシングの場合、その中に実はいろいろな条件が入り混じる場合が多い。この釣りの直接の解説とは少し離れるが、たとえばドライフライを例にとってみた場合、19世紀の英国で急速に台頭したいわゆる「純然たるドライフライ・フィッシング」を信奉する人たちの間で、ドライフライはあくまで水面上を自然に流して魚に食いつかせるべきものであり、また、そこでねらうべき対象魚も、ブラインドでねらう見えない魚ではなく、実際にライズをしている、見えている魚に絞るべきであるというひとつの考えが生まれた時代がある。それはある意味で哲学であり、そこに「ドラッグを掛けて誘いを掛けるようなねらい方でも、ドライフライにマスは食いつく」といった議論を持ち込むことはあまり意味がない。

このたとえは必ずしも適切ではないかもしれない。ただ、スカジットタクティクスという釣りの本質を理解する際には、やはり「スカジットが求める本来の釣り」というものを最初に頭に入れるとよい。ひとことでいうと、それは「ワイルドで健全な遡上魚の、クリアテイクをねらうための釣りである」というものになる。また仲野さんの言葉を借りれば、「エサ釣りがエサの持つ形や匂いで釣ると仮定すれば、スカジットにおけるその対比語はフライの形と動きとなる」という要素もある。

 

 

「送り込む」とは考えない

スカジットの釣りでは、実際には居着きのトラウトをねらうこともできるし、いつでも完全なクリアテイクだけをねらってそれ以外のことはしないというわけではない。しかし、そうした現場の状況(それは川の状況であったり対象魚の性質であったりする)に合わせて変える部分は別として、前提にはまず以下のような考え方がある。

 

◎魚からの明確な(可能であれば大きな)テイクを味わう釣りである。

◎健全な魚が本来備えている攻撃的かつ動的要素をねらう。そのために時期、場所、魚を選んで釣りをする。

◎それらのための原則として、一度魚の視野に入ったフライは失速させないという動的要素を維持する。

 

日本の本流釣りシーンでは、しばしば「スイング」と「ナチュラルドリフト(送り込み)」という二つの流し方(あるいは概念)が、ウェットフライの釣りを解説する際によく用いられる。あるいは、その中間をとった「スライド」といった表現もときに登場する。しかし、ねらう魚に関して、ある意味で先に挙げたようなポリシーがあるこの釣りでは、誤解を恐れずにいえば、フライの流し方、その方法論については「スイング」以外のものは初めから考慮していない。換言すれば、川での釣りにおいてこれに類するタックルを使った釣りにおいては「スイング」という現象しか起こっていないと考えるからである。

当然、「スイング」の種類やメカニズムについては説明が必要である。これを基礎としてより正確かつ効果的にフライをコントロールすることが求められ、そのうえで魚はねらえるというスタンスになる。そこには視界の中で動き続けるフライに対して、積極的に捕食行動(もしくは何らかの反応)に出てくるようなやる気のある魚をねらうのであれば、そのほうがむしろ理にかなっており、そもそもが、そういう魚をねらってこそ、手にドスンとくるようなクリアテイクを得る楽しみも味わえるという考え、さらには魚本来の動きに対するリスペクトもその中に含まれるという美学がある。

では必要かつ効果的なスイングをするためには何をするべきか。それが仲野さんのいうところの、「キャスト後はすみやかに水中にループを作り、常にそれを意識しながら釣ること」となる。

 

flyfisher photo

対岸にキャストしたラインは、浮かぼうとするフローティングボディ一部分と沈もうとする水中のシンクティップが引っ張り合う。そのバランスを適度に保つ(一定のテンションを維持する)ことができると、シンクティップの先端に近い部分はある程度狙った層までしっかり到達したうえで、その先のフライが水流に乗って自然に泳ぐ状態を得るための「起点」のように機能させることができる。この「起点」をイメージしながら釣ることを意識すると、今自分がどうフライを流しているのかを考えやすくなる。

 

flyfisher photo

キャスト後のスカジットのラインシステムをイメージする時、横から見てフローティングラインの先のシンクティップが垂直に垂れ下がっている形をイメージする人が少なからずいるが、実際の釣りにおいてこのような状態を作る(あるいはそうなる)ことはまずない。しっかりターンオーバーさせて沈水させたラインは、レベルラインであるシンクティップ部分が均一に沈もうとしつつ、手前のフローティングボディの浮力が影響して、全体として(◯)のような形になろうとする。また、スイングの釣りをするうえでは、その形を意識的に作ることが必要になる。

 

 

起点の意識とスカジット的スイング考

仲野さんの表現する「起点」とは、具体的な場所としては、「一定の層まで沈んでいく過程のシンクティップの先端側に近い部分」だ。より正確には、水中でその先にあるフライが水流のままに泳ぐ(水中を漂う)状態を維持できる「とっかかり部分」ということになる。スカジットにおけるスイングの釣りとはすなわち、この起点をなるべく早く作り、それをなるべく長い間維持して、その間にフライを水中でなるべく長く自然に泳がせることによって、そのフライに反応してくる魚を釣る、というプロセスになる。

「ですから、やるべきことそのものはとてもシンプルなんです。極端な話、フライがしっかり泳ぎさえすれば、魚はこちらが思っている以上にちゃんと食ってきます。健康体な魚であれば本来とても率直な生き物のはずです」

「ただし、実際にはこの起点を作るため、そして起点を作ったうえでフライを一定時間以上流すために、いろいろな調整を考える必要が出てきます」

起点を作ることで初めてフライを失速させずに流すことができる。逆に起点がない、形だけのスイングは、実際はフライが流せていない、フライを流したことにならないという現象が起き、これだといつまで流してもフライに魚を反応させられない。その時は魚の視界の中で、たとえばフライがストンと沈んでしまうような動きがどこかで起きている。

「スカジットのスイングでは、『ボトムにコツコツとフライが触れるように流さなければいけない』とか、『定位している魚に対してまっすぐフライが送りこまれるように流さないと釣れない』という考え方は一切しません。そもそもフライをそのように操ることは不可能であると考えています。大切なのはあくまで失速させずにフライを泳がせきることです。ここをしっかり理解できると、この釣りでなぜこのような動きが求められるのか、なぜこのようなフライを使うのかがきちんと理解できるようになります。裏を返せば、そこを理解せずにフライパターンやラインシステムだけを取り入れても、魚はなかなか釣れないでしょう」

 

 

起点を感じるための2つのイメージ

この釣りではスカジットボディーにシンクティップという組み合わせのラインシステムを使用し、それをクロスにキャストして、先端のフライをスイングさせていくという釣り方を行なう。本連載では次回以降、その際に必要になる起点の作り方を実際にお伝えしていきたいが、ここではまずそれらの前に、そもそもスカジットのラインシステムが水中においてどのような形になっているのかと、それを俯瞰してみた場合にはどのような軌道を描いているのかをあらかじめイメージとして掴んでおきたい。

まず、仲野さんが意外に誤解している人が多いと指摘するのは、キャスト後のラインの形だ。フローティングラインの先にシンクティップが垂れて下がっているような形をイメージする人が少なからずいるが、これは正しい形ではない。

そしてもうひとつ、クロスにキャストしたラインを下流にスイングさせていく際のラインの形についても、常に全体が弓なりになっているようなイメージは実際のものとずれており、タックルバランスがしっかりと取れていれば、対岸にまっすぐキャストしたラインは早い段階でたわみがとれ、後半は全体に直線的になったものをスイングさせていくような状態になる。こうした点について間違った理解が先立ってしまっていると、結果としてフライを動かし続けるという、この釣りの中核部分を理解できないことが多くなってしまうのではないかと仲野さんは言う。

 

flyfisher photo ※ロッドティップの位蘊は基本的に上流側に保つ(2の力が相対的に大きくなるスイングの後半にラインのテンションを弱める操作をするとフライが失速する)

 

1 :上流から下流への川の流れのカ

2 :フライとシンクティップの自重

3 :ライン等が対岸から自分のいる側の岸に寄せられるカ

 

タックルパランスが合っている前提のラインをクロス(90度方向)にキャストしてスイングをスタート。すると直後からラインには大きく3つの力が作用する。前半の30度(60度方向)くらいの位置までは、ラインが受ける流れの強さと、流れとラインの角度によって生まれるラインが手前に引き寄せられる力の影響が大きい状態。その後は、この2つの力が弱まり、相対的にラインやフライ自体の重さの影響が大きくなってくる。スイングとはこれらの力のバランスを考えたうえで、藩水から流し終わりまで、フライが常に失速せずに(多くの場合は一定の速度で)泳ぎ切るようにする操作。その際のライン形状の変化全体は図のようなイメージになる。

 

これらを踏まえたうえで、実際に川に立ったあとは、キャスト直後からスイングの終わりまで、フライまでを含むライン全体には常にバランスの変化する3つの力が作用することを理解し(上流から下流への川の流れ、フライとシンクティップの自重、ライン等が対岸から自分のいる側の岸に寄せられる力の3つ)、その3つをうまくコントロールすることによって、「なるべく長い時間、水中で起点を作る」ようにする。それによって、この釣りが目指すところのスイングの釣りが可能になる。次回以降はこの3つの力のコントロールと具体的な起点の作り方について、より詳しく解説していく予定だ。


※この記事はFlyFisher2013年10月号を再編集したものです




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