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アカサカ釣具

忍野ノート2025

VOL.7 5月6日

佐々木岳大=文と写真

ひと雨ごとに鮮やかさを増す新緑の季節

名前のとおり水辺を好んで自生する水仙があちこちで見られる

《Profile》

佐々木 岳大(ささき・たけひろ) 1974年生まれ。神奈川県南足柄市在住。ホームグラウンドは地元の丹沢など。C&Fデザイン社に勤務。マッチング・ザ・ハッチの釣りのほか、ドライフライ、ニンフを使った小渓流の釣りも得意としている。


GW最終日。朝から大雨の天気予報。地元の小河川は泥濁りで釣りは絶望的な状況だ。少し降りすぎている感は否めないが、それでも…と思える懐の深さが忍野にはある。増水で濁りの入ったいくつもの河川を通りすぎ、GW最終日とは思えないほど車の少ない国道246号線を経て忍野までやってきた。

濁流



[忍野フィッシングマップ:自衛隊橋]臼久保橋から流れを見下ろすと、強い濁りで川底は完全に見えない状況だった。橋の上下を見渡しても釣り人の姿はなく、11時30分頃に入渓し最上流部までようすを見ながら歩いたが、魚影を見つけることはできなかった。途中、[忍野フィッシングマップ:茂平橋]付近を通りかかると、濁りの流入源は支流の新名床川からで、合流点で2色の水が少しずつ混ざり合いながら下流へと流れてゆく。濁りの薄い上流域に期待したが、流下がないのか残念ながらライズはない。時おり、ガガンボが風に流されていくのが目につく程度で、虫っ気も感じられない。

支流:新名庄川の合流点

濁りの流入原が新名庄川であることは明白

スプラッシュライズで捕食されていたもの


通称:自衛隊橋(臼久保橋)から最上流部までを1時間半ほどかけて歩いた。時間をかけて、釣り場の半分ほどを歩いたことになるが、そのあいだほかの釣り人に会うこともなかった。さすがにこの雨では誰も釣らないか…と思うと、せっかく車の近くまで戻ってきたこのタイミングであきらめることが頭に浮かんだ。しかし、自衛隊橋の上から下流を見渡してもほかの釣り人の姿は見当たらない。

状況はともかく、いま釣り場には自分ひとりしかいない。今この状況を楽しめる釣り人が自分だけなのだと気付くと、なんだか楽しい気分で下流域を見に行きたくなってきた。左岸を水産技術センターから鐘ヶ淵堰堤、温泉裏から新聞屋裏と、ところどころ足を止めながらようすをうかがう。上流部同様にチャンスは訪れないが気分はよい。笹の生い茂るトレイルを抜けて、[忍野フィッシングマップ:ポイント写真28]通称:金田一に差し掛かると、遠目でもハッキリとわかる鋭い飛沫が上がった!

対岸に立てられた看板の下、この距離でもわかるハッキリとした飛沫が上がった

看板の真下で1尾、木の根元で1尾がライズしていた

上流部よりもあきらかに濁りは薄いが雨の強さはご覧の通り…

ライズは2ヵ所。対岸に設置されている看板の真下、下流側のライズからねらうことにした。ライズの主はサイズこそ大きくはなそうだが、ピシッ!ピシッ!と小気味よいライズを繰り返している。問題は何を捕食しているか想像がつかないことだ。この季節の荒天という状況を考えればエラブタマダラとアカマダラが疑わしいのだが、ライズフォームはあきらかにそれらへのライズと異なるように思えたからだ。まるで水面付近をブンブンと飛び回る小型のカディスアダルトを捕食しているかのようなライズに見える。

結んだフライはアダムスの18番。フライボックスにはヘンハックルで巻かれたバージョンも入っていたが、強い雨を考慮して水切れのよいコックハックルで巻かれたバージョンを結んだ。ボトムカットしたハックルに粘性の高いフロータントを丁寧に擦りこんで投じたファーストキャストにマスが反応した。フライの流れる水面が大きく歪んだものの、残念ながら水面が弾けることはなかった。その後、及第点と思えるドリフトが数投あったのだが、反応を得られたのは一投目のみ。

フライ交換が頭をよぎるが、その前にフライサイズが大きいように思えた。片側2本ずつテイルとして結んでいたゴールデンフェザントのティペットを指でむしってテイルレスにした。テイルがなくなったことでドラッグヘッジが効くようになり、ドリフトが安定するようになったと思えたのだが反応はない。ようやく訪れたチャンスで、マスを警戒させてしまう危険性を理解しつつ、ライズ地点で小さくフライを震わせた瞬間に水面が弾けた。何度も跳ねるマスをヒヤヒヤしながらネットに収めたときにホッとした理由は、マスを手にすることができたからではなく、捕食物を確認できることに対しての安堵の気持ちだった。

小さなファイター、信じられない高さまで跳んだ!

スプラッシュライズで捕食されていたのは納得の流下物だった

バンク際のスプラッシュライズでマスに捕食されていたのは、マルツツトビケラと思われる小さなケースドカディスだった。子砂利を集めて作られた円錐形に近い形状のケースのなかにラーバが見える。口から出した絹糸を川底の石などに固定して移動するタイミングに当たったということだろう。

水流にもまれコントロール不能となったケースドカディスが水面に浮かび上がったタイミングで捕食されれば、マスは素早い動きで追従するため、当然ながらライズフォームは速く激しくなる。答えがわかってさえしまえば納得の結果だが、そうそう頻繁に流下に当たるわけでもなく判断が難しい。アダムスをテイルレスにしたことで下から見たシルエットがグレーの棒状となり、それが動いたことによって反射的に飛びついてしまったのだろう。

産卵地という推測


想像のつかなかった流下物を捕食していたライズを攻略し、先ほど釣れたマスの3mほど上流でライズする魚を次のターゲットとする。流心でモクンモクンと背中を出してライズするのだが、あきらかに1尾目と違うライズフォームが気になる。とはいえ、先ほど確認したばかりの捕食物が偏食といって差し支えない内容だったため、ほかの流下が起こっていることをイメージしがたかった。

結果を出したアダムスのまま、ようすを見ても良かったのだが、フライボックスを開けると普段はメイフライなどのイマージャーとして水面から吊り下げて使うモールフライが、ケースドカディスのイミテーションとしても効くのではないかと思えて結びかえた。モールフライならば、この季節の流下の大本命エラブタマダラやアカマダラであっても受け入れられる可能性が高い。ライズが流心脇の比較的流しやすい位置だったこともあり、ライズはすぐに攻略できた。

ひと気のない忍野の流れを堪能した

放流魚であっても、ライズしてくれているだけで感謝!

エラブタマダラ、アカマダラにコカゲロウ、これほど流下していたとは…

グレーの棒状のボディーがケースドカディスとしてもメイフライイマージャーとしても効くのではないかと考えた

ライズフォームで感じた違和感は、やはり1尾目とは違う捕食内容からのものだった。エラブタマダラとアカマダラ、ほかにもコカゲロウなど数種のメイフライダンがストマックポンプからシャーレへと吐き出された。3mほど上流か下流かの違いで捕食物が異なっていた理由は何なのだろうか?

近年は砂に埋まってわかりづらいのだが、もともとこのエリアの川底は起伏のあるゴツゴツとした溶岩なのだ。この3mの間には、忍野にはめずらしく、水面の水流にまで変化を及ぼすほどの変化が川底にある。この起伏のある川底はおそらくマルツツトビケラの産卵地となっているのではないかと推測できる。距離こそ3m程ではあるものの、ライズするマスがこの生息地の上流か下流かで、捕食内容が大きく異なるタイミングがあるのではないだろうかというのが私の推測だ。

水生昆虫の羽化とマスのライズ」。
忍野は「これぞフライフィッシング!」といえるような、マッチ・ザ・ハッチの釣りを体験できるフィールドである。
マスを目視し、投じたフライへの反応を見て、フライを口にさせるまでの一喜一憂を楽しんでみてはいかがだろうか?

毛鉤メモ: アダムス(テイルレス)


テイルをトリミングするだけでシルエットがグッと小さくなった

ハックルやテイルをトリミングすることで浮き方やシルエットを変えることのできるアダムスは、何かと役に立つパターンだと思っている。私はコックネックで巻いたものと、ヘンネックで巻いたもの、両方を使い分けている。
テイルは一般的なハックルファイバーではなく、ゴールデンフェザントティペットのファイバーを2〜4本結ぶのが好みだ。ハックルファイバーのしっかりとした存在感は、自分が思っている以上にボリューム過多となり、シルエットが狙っているよりもサイズ感が大きくなっているのではないかと感じることがあるからだ。


2025/7/29

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