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Little Bell

忍野ノート2025

VOL.6 5月3日

佐々木岳大=文と写真

青空と新緑が心地よい

大きな鯉のぼりが泳ぐほどの風、心地良くはあるのだが…

《Profile》

佐々木 岳大(ささき・たけひろ) 1974年生まれ。神奈川県南足柄市在住。ホームグラウンドは地元の丹沢など。C&Fデザイン社に勤務。マッチング・ザ・ハッチの釣りのほか、ドライフライ、ニンフを使った小渓流の釣りも得意としている。
 
湿度が低く、快適極まりない季節がやってきた。GWの混雑を警戒して、忍野への釣行を控えるつもりでいたのだが、あまりにも過ごしやすい気候を見過ごせずに釣行を我慢することができなくなってしまった。飛び石で連休が寸断されたせいか、結果的に大きな渋滞もなかった。釣りのほうはといえば、人間が快適に感じられる晴天の一日は、日中に目立ったハッチのないスローなコンディションとなってしまった…。

1キャスト、1フィッシュ!





午前10時半頃、自衛隊橋から入渓し上流へと向かう。お目当てはS字付近のライズだったのだが、めぼしいポイントには熱心にサオを降る釣り人の姿がある。仕方なくさらに上流へと歩を進めると、朝早くから釣っていたという顔見知りの森田さんが歩いてきた。話を聞けば、S字で朝から続いていたライズが収束してしまったので移動するところだという…。下流へ向かった森田さんとわかれ[忍野フィッシングマップ:茂平橋]まで歩いた。

晴れわたった空に富士、心地よい気候で気分はよいがライズはない

合流する支流・新名庄川に掛かる小さな木造の茂平橋から下流を望めば、きれいな青空に冠雪をいただいた富士。最高に快適で気分はよいのだが、釣りには厳しそうな気がしてきた…。流れを遮るように背を伸ばしている葦の影から水中のようすをうかがえば、1尾だけマスの姿が確認できるのだが、川底付近で気持ちよさそうにユラユラと揺れているだけだ。あまりにも静かな水面を見ていたら、ゆっくりと過ごすのも悪くないように思えてきた。

小さな段差に腰をかけてデイパックをおろす。じっとしていると、たくさんの野鳥の鳴声が聞こえてくる。すぐ背後からも聞こえ、興味本位に振りかえると小さな淡黄のイエローサリーが飛翔する姿が視界に入った。シミズミドリカワゲラのアダルトだろうか?クネクネとよく動くシミズミドリカワゲラのフローティングニンフは、時にマスを水面に浮きっぱなしの状態にする。水生昆虫の姿を見れば、釣りモードになるのは釣り人の性だ。それがシミズミドリカワゲラであれば注意して観察しないわけにはいかない。時おり風に流されるように飛んでくるのは、シミズミドリカワゲラとフックサイズにして16番相当のオナシカワゲラ。黒褐色のストーンフライではあるが、4枚の翅をバタバタと不器用に動かして飛ぶためよく見える。葦の向こうで確認したマスが一度だけライズし、静かな水面に波紋が広がった。

腰をかけたまま30分ほども流れを観察していただろうか。その間、マスは何度か波紋を広げたが、続けざまに2度のライズをしたところで挑戦してみることにした。問題は何を結ぶかだ…。小さなシミズミドリカワゲラのアダルトが誘発したライズ頻度ではないように思える。ライズ地点まで角度のないダウン&アクロスでフライを送り込むことを考えると、16番が使えるオナシカワゲラのほうがドラッグフリーでドリフトさせやすいように思えた。

選んだのは水中に突き刺さるように浮いて、CDCのインジケーター部だけが水面から出るモールフライ。ダビングしたモールファーを掻き出すことで吸水性を高め、任意の姿勢(半沈)で浮かせることができる。CDCダン同様にあまりにもよく釣れるパターンで、面白味に欠けるように思えてすっかり使わなくなっていたのだが、やはりよく釣れてしまうので再び使うようになってしまった。ライズするレーンの奥にフライを投げ込み、上流側への大きなメンディングでフライ先行となるようL字型にラインを整えた。

数度のスタックメンディングで、ライズへ向けて一直線にフライを送り込むと、音もなくフライが吸い込まれた。1キャスト、1フィッシュ!たまにはゆっくりと時合いを待つのも悪くないなどと、先ほどまでのスローな状況を悲観していたことなどすっかり忘れたかのように感じている自分が可笑しい。

ロッドにラインが巻きついてしまっている…魚が大きければ致命的なミスになりかねない

この場所で唯一のライズの主、一投で決まったこともあり嬉しさもひとしお

陸生昆虫やデプテラ類の目立つ黒色主体の捕食物

CDCのウイングに混ぜた数本の化繊の繊維がよい働きをするモールフライ

捕食物を確認すると、ストーンフライはオナシカワゲラがひとつ。アントやデプテラの類が目立つが、小さなスピナーも見過ごせない。曖昧なシルエットのモールフライのサイズが最大公約数的に機能したように思える内容で、捕食されていた中の特定種のイミテーションとして効いたわけではないと想像がつく。

1投目が気持ちよく決まり浮かれてしまったがその後、ポイントを移動するたびに1尾をなんとか釣りあげる辛抱の釣りに終始した。目立った流下がなく、ストマックもシャックや藻など、流下がないことを物語っている内容。イマージャーやニンフなど、水面下を釣ることで何とか釣果を得た。

1サイズの違い


午後5時頃、[忍野フィッシングマップ:ポイント写真32]通称:忍びの里前は多くのフライアングラーで賑わっていた。流速のある流れ込み付近のポイントが人気で、すこし下流のポイントに1ヵ所だけ空きがある。見ていると、時おりピシッ!と水面が弾けているが、ライズ地点が安定しない。このポイントは忍草漁協の管轄よりもさらに下流から、メイフライ各種のスピナーが産卵地として目指してくる。イブニングにはメイフライスピナーの流下が激しいライズを引き起こすこともあり、時間的に少しようすをみながらポイントを温存しておくことにした。

日中に使用したフライボックスを整理して夕暮を待った

陽が傾くにつれ、ライズは少しずつ頻度を高めたが、ライズの起こる地点は相変わらず安定しない。ライズが起こっている以上、釣れる可能性はある。しかし、ライズするレーンが安定しないということは、マスの捕食対象となる流下物の量がまとまらないからにほかならない。イブニングということもあり、できれば忍野らしく流下にフライを合わせたマッチ・ザ・ハッチの釣りでこの日の釣りを締めくくりたいという思いがあった。午後6時をまわる頃、ようやく同じ地点でライズが立て続けに起こった。

パイロットフライとしてCDCをスペント状に広げた20番のオリーブスピナーを選んだのだが、安易に釣れると楽観的に思っていたライズが予想以上に手強かった…。じっくりと水面付近を観察するが流下物は確認できない。捕食対象が大きいとは考えづらく、フライファーストでていねいなドリフトを繰り返す。時おりフライに鼻がつくほど接近してくることがあるのだが、口を開く気配が感じられない。不本意ではあるが、マスがフライに浮いてきたタイミングで一瞬だけフライを止めて誘うと、小さなニジマスが反射的に飛びつくような挙動でフライを咥えてくれた。

暗くなる前になんとか釣れてくれて、ひと安心の1尾

バラバラのシャックなどに混ざっている小さなスピナーに注目

日暮れ前、捕食物を確認できるこの1尾に救われた。ホソバマダラらしき羽化途中の大きな流下物も捕食されているが、極小のスピナーもいくつか確認できる。クシゲマダラだろう。フックサイズにして22番。フックサイズでいえば「1サイズ」の違いなのだが、お寿司でたとえればこの1サイズには「握り」と「いなり」くらいサイズの違いがあると私は考えている。事実、次の1尾は22番のスピナーパターンに結びかえた直後、1投目に反応した。捕食されていたのはアカマダラとクシゲマダラのスピナー。この日、最後の最後に忍野らしく、流下に合わせたドライフライでの釣りになったことで満足し納竿とした。

この日、〆の1尾。納得のいく釣れ方に満足した

この日の印象的なストマック3本

水生昆虫の羽化とマスのライズ
忍野は「これぞフライフィッシング!」といえるような、マッチ・ザ・ハッチの釣りを体験できるフィールドである。
マスを目視し、投じたフライへの反応を見て、フライを口にさせるまでの一喜一憂を楽しんでみてはいかがだろうか?

毛鉤メモ:フェザントテール(ドライ)


スピナーの小さなボディー・大きなウイング、本物と偽物

気に入って使用しているスピナーパターン。フェザントテールのボディーに、長いテールと大きなハックルだけのシンプルなフライ。薄くハックリングされたハックルファイバーがナチュラルに動きマスを誘う。フックサイズに対して細く大きなシルエットが効くと感じていて、忍野のような流れならば浮力も充分。透明感のあるハックルを選んで巻くとよいだろう。


2025/6/5

つり人社の刊行物
磯釣りスペシャルMAGAZINE Vol.03
磯釣りスペシャルMAGAZINE Vol.03 1,980円(税込) A4変型判132ページ
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最新号 2025年6月号 Early Summer

【特集】One Fly, One Soul 1本入魂のタイイング

釣れないフライはありません。しかし、より釣れやすい、より釣りやすいものは確実にあります。
「釣れやすい」とは、たとえば魚がエサと認識しやすいシルエットや姿勢をキャストごとにキープできることや、より刺激的な波動を常に発する構造のこと。 「釣りやすい」とは、たとえばキャスト中の空気抵抗が考慮され、スムーズにプレゼンテーションできることや、簡単には壊れない高い耐久性のこと。
そして、フライは最終的に美しいに越したことはありません。
これら無限の要素を取り入れて、自分で創造できるからこそフライタイイングは楽しいものです。
今号では佐々木岳大さんにドライフライの基礎を、嶋崎了さんにCDCの失敗しない扱い方を、中根淳一さんにキールフライのアイデアを、筒井裕作さんにホットグルーの使い方を教えていただきました。

また、中央アフリカ、ガボンでのターポンフィッシングの釣行レポートやポータブル魚道に関するインタビューなどもお届けします。


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