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忍野ノート2025

VOL.8 6月15日

佐々木岳大=文と写真

晴天の日ならばビートルの活躍が期待できる季節。この日は年々勢力を増している気がするオルラヤの花にたくさん見られた

停滞している厚い雲の影響で雨は降ったり止んだり…

《Profile》

佐々木 岳大(ささき・たけひろ) 1974年生まれ。神奈川県南足柄市在住。ホームグラウンドは地元の丹沢など。C&Fデザイン社に勤務。マッチング・ザ・ハッチの釣りのほか、ドライフライ、ニンフを使った小渓流の釣りも得意としている。


数日前、沖縄が梅雨明けし本州全域が梅雨入りした。私の住む関東低地では気温が30℃を超えた。到着した午後3時頃の忍野の気温は25℃。数字だけを見れば涼しく感じられてもおかしくはないのだが、強烈な湿気に無風ということもあり、立っているだけでも不快で暑く感じられた日の釣りをレポートしたい。

忍野ならではの群れを釣る戦略



自衛隊橋から上流へ進むとすぐにある護岸。[忍野フィッシングマップ:ポイント写真17]通称:護岸上は右岸側の足もとが大きな反転流になっていて、流心から奥の流れは対岸に沿ってまっすぐ下流に流れる。右岸と左岸の流速差が大きく、ドリフトの難易度が高いポイントだ。両岸から張り出した植物が、デプテラやテレストリアルの流下を誘発するため、水生昆虫の流下が少ないタイミングでもマスがライズしていることが多く、フライフィッシャーに人気のポイントとなっている。
アプローチできる右岸の反転流に魚影はなく、流心の左右、速い流れと遅い流れの境目でライズするマスは一筋縄ではいかないことが多い。対象魚がヤマメであれば、その難易度はさらに高まる。

護岸上を通りかかり、今日はライズが多いように思えて準備をしていると、漁協から監視業務を依頼されている天野さんが私の姿を見つけて缶コーヒーの差し入れを持ってきてくれた。ありがたく頂戴し、立ち話をしていると「昨日ここにヤマメをたくさん放したんだよね」と最新の放流情報をもらった。

護岸上のポイント全景。オーバーハングした樹木の下に流心がある

手出しできない場所では悠々とライズするマスも見受けられる

ライズするレーンは流心脇、速い流れと遅い流れの境目付近。これが難しい!

時間帯によってミッジやデプテラ、小型のカディスなどのスウォーミングが見られる

対象魚はヤマメ。ポイントは護岸上。間違いなく難易度が高いことは容易に想像がつく…。
たとえ放流直後であろうとも、ヨレのあるフラットな流れでライズするヤマメは手強い。まずリーダーのフォーミュラを見直した。リーダーとティペットの間に挟んでいる2ndセクションを通常よりも長めにとって、ターンオーバー性能よりもドリフト性能が高まるように調整した。ティペット部を通常よりも矢引きほど長くとることで、さらにドリフト向きの仕様とする。

フライはモールフライの18番。ここ最近、ドラッグヘッジ効果の高さで使用頻度の高まっているパターンだ。この時、ライズしている魚は5〜6尾ほどだったのだが、このポイントでこのような状況では、ターゲットを絞らないのが私の戦術である。一般的な渓流で複数のライズがあれば、ほかの魚の警戒心を高めないように下流から順番に狙うのがセオリーだが、ここ忍野では少々事情が異なる。よほどの失敗がない限り、人慣れしたライズの主が沈んでしまうことはあまりない。

しかし、同じマスへショットガン的なアプローチを繰り返すと、忍野のマスたちは一投ごとに学習し偽物を紙一重で見極めるようになる。投げなければ釣れないのは事実だが、投げすぎても釣れなくなる。タイミングを見極めることが重要なのだ。具体的には、間を取りながら、何度か続けざまにライズした直後など、マスが油断して警戒心が下がったと感じられたタイミングでプレゼンテーションすることが望ましい。同じマスに同じパターンを続けざまに投じることは得策ではない。よほど大きなミスさえしなければ、最初の1〜2尾は比較的釣りやすく結果を出しやすい。この日も最初の2尾を比較的短い時間で手にすることができた。

ヤマメ特有の引きはネットインの瞬間まで気が抜けない

よくよく見ればこの画像にもフライセレクトのヒントが写っていた

シャックの目立つ捕食内容。淡く細いシャックはシミズミドリカワゲラ

アカマダラか小型のブラックカディスか…?悩ましい選択を迫られた2尾目の捕食物

傾向と対策


このポイントでは過去に何度も苦渋を飲まされてきた経験がある。2尾のマスを手にしたからといって、残りのライズが甘くないことは重々承知しているつもりだ。選球眼の甘い魚から釣れたと考えたほうがよい。重要なのは、最初の魚を釣りながら効果的なフライをいくつかに絞り込むこと。そして水量などの変化で日々異なる、受け入れられるドリフトのためのプレゼンテーション方法や立ち位置を模索しておくことなのだ。
難しく感じるかもしれないが、そう広くない範囲の群れを釣っていればいろいろと気が付くことがあると思う。意識的に状況分析をしながら釣ればよい。

2尾目の捕食内容から選んだのは19番のスペントパターン

2尾目の捕食内容から、18番サイズのアカマダラカゲロウか、22番サイズのマルツツトビケラと思われるブラックカディスでフライ選択に悩まされた。結果的にTMC102Yの19番に巻いたスペントパターンを結んだ。根拠は少しでも大きなフライのほうがドラッグフリーで流しやすいと考えたからだ。新しく結びかえたスペントパターンにはフロータントも使用しなかった。ドリフトを繰り返すうちにウイングのCDCが吸水し、浮きづらくなるがそれでよい。

フライの流れる層が水面膜の上から下になるだけで捕食される確率が高まることはめずらしくない。私は過去にドライフライを水面直下に流して成功した経験が何度もあることから、ドライフライを積極的に水面下に入れることに抵抗を感じない。フライがスムースに水面膜をやぶることに期待して、水分を含みやすいラビットファーをあえてボディーにダビングしたパターンも準備している。

しかし、予想はしていたが、ここからは1尾を攻略するのに苦戦を強いられた。口を使わせても掛かりが浅くバラしてしまうミスが続いた影響などもあるが、1尾釣るのに20分、もう1尾釣るのにさらに20分。立ち位置、プレゼンテーションの角度を細かく変えながら、辛抱強くライズするマスに対峙した。

ヤマメ特有のローリングで何度かハリを外された…

ランディング寸前、最後の抵抗をこころみるヤマメ

バラしが続くとフッキングしている位置が気になりはじめる

フライにマッチしている捕食物も多少見られるが雑多な印象のストマック

2番ロッドに3番ライン、結果的に長いリーダーシステムを扱いやすかった

サイズも色も雑多な内容ということは…

何度もフライを見切られると「フライが合っていないのではないか?」という迷いが生じるが、フライ交換後に手にしたヤマメの捕食物は実に雑多な内容だった。確かにアカマダラを意識して結んだフライにマッチした捕食物も認められるのだが、どちらかと言えば「種々雑多なもの」のほうがたくさん捕食されている。つまり、特定のパターンでなければ釣れないというわけではない…というあたりがフライフィッシングは実によくできていると思える。

いまだに私もよくやってしまうミスだが、釣れる気がしていないにも関わらず、何も変えず単調なプレゼンテーションを繰り返してしまうことは結果につながりにくい。結んでいるフライだけでなく、立ち位置やプレゼンテーションなどを変え続けることで見えてくるものもある。人慣れしてスレきったマスは、ある意味でやり直しのきくターゲットとも言える。試してみたいパターンを準備して、柔軟にライズの釣りを楽しんでみてはいかがだろうか?

水生昆虫の羽化とマスのライズ
忍野は「これぞフライフィッシング!」といえるような、マッチ・ザ・ハッチの釣りを体験できるフィールドである。
マスを目視し、投じたフライへの反応を見て、フライを口にさせるまでの一喜一憂を楽しんでみてはいかがだろうか?

毛鉤メモ: CDCスペントウイング(アカマダラカゲロウ)


フロータントを使用せず、これくらい水分を含んだ状態で使う

水面直下のステージをドリフトさせることを意識して、ボディーにダビングしたラビットファーとCDCのウイングが吸水して重くなっている状態で使用することの多いパターン。しかし、強いフォルスキャストで水を切ってキャストすることで水面に浮かせることもできるため、浮かせたり沈めたり、プレゼンテーションごとに異なるステージを流しても効果的。テイルはスピナーパターンよりも短めだが、スピナーのシルエットでタイイングしたものを現場でカットして調整してもよいだろう。


2025/8/27

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