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忍野ノート2025

VOL.1 3月15日

佐々木岳大=文と写真

パラコードで編んだオリジナルホルダーの付いたシーズン・ライセンス。地元フライショップRiver’s Edgeの心遣いあるサービスが嬉しい

釣り場に向かう道中から見た富士は天候の荒れそうな雰囲気

《Profile》

佐々木 岳大(ささき・たけひろ) 1974年生まれ。神奈川県南足柄市在住。ホームグラウンドは地元の丹沢など。C&Fデザイン社に勤務。マッチング・ザ・ハッチの釣りのほか、ドライフライ、ニンフを使った小渓流の釣りも得意としている。
 
午後から雨。夕方からは降雪の予報となった今シーズンの解禁日。冬タイヤの必要性がない地域から訪れる釣り人は、雨が雪に変わるまでの間を釣るだろう。釣り場が混雑することは容易に予想がつく。午前中に野暮用があり、正午頃からしか流れに立てない私も降雪を見越して早めに帰路につく必要がある。短時間での釣行となってしまったが、今シーズン最初の1尾までの慌ただしいようすをレポートしたい。

ポイント難民





釣り場の最上流部にあたる[忍野フィッシングマップ:漁協駐車場前]で身支度を整え右岸を下流へと歩く。予想していたよりも釣り人は多くないのだが魚影も見られない。湧水の湧き出ている岩盤にコイの群れが身を寄せているようすから、水温等の影響でマスも同じように身を隠しているのだろうか?とも考えたが、それにしても魚影がなさすぎるように思えた。

根拠はないのだが、上流部には放流されていないだけのような雰囲気が感じられる。しかし、魚影を見つけるにあたり「魚はいない」と決めつけてしまうのは危険だ。本来は見つけることができる魚を見逃してしまう可能性が高まる。逆に「魚は必ずどこかにいる」という心理状態を維持できれば、集中力も高まり魚影が視界に入りやすくなると考えたほうがよいだろう。忍野での釣りに限ったことではないが、決めつけが柔軟な思考での対処を妨げてしまう失敗は少なくない。

湧水が多く透明度の高いプールでは、コイが普段よりも大きな群れで固まっていた

湧水の湧き出る岩盤に頭を向けるコイ。どのような理由でそうしているのだろうか?

魚影を見つけることのできないまま釣り場の中央付近[忍野フィッシングマップ:自衛隊橋]まで歩いてきてしまった。急に釣り人の数が増え、自衛隊橋をくぐり下流側に回り込むと、緩やかに流れるプールではライズの波紋が広がっている。対岸の上流にはこのライズをねらうフライフィッシャーの姿があり手は出せないが、それでもやはり待ちに待った光景に心が踊る。

散発ではあるもののターゲットとしてねらうには充分な頻度のライズ

自衛隊橋を渡り左岸をさらに下流へと歩く。ライズの確認できるポイントもあるのだが、熱心にプレゼンテーションを繰り返すフライフィッシャーのようすから、ポイントが空くことはないことを確信し移動を続ける。結局、[忍野フィッシングマップ:ポイント写真33]通称:旧富士急ホテル前まで移動してしまい、人気河川の解禁日らしい洗礼を受けてしまった。

ぬかるんだ場所も多く滑りやすいので注意が必要

ライズ地点の傾向


完全にライズポイントから溢れてしまった感も否めないが、川沿いをゆっくりと観察しながら歩いていて、ライズのあるポイントには偏りがあると感じていた。集中してライズが確認できるのは決まって落ち込み直前の肩の部分だったからだ。おそらく、放流魚は散らずに、流れの緩い場所に集団で固まっていることが予想される。この季節にはギャンブル的な要素もあるポイントではあるが、釣り場の最下流にあたる[忍野フィッシングマップ:ポイント写真34]通称:忍野堰堤のようすを見に行くことにした。

ここも落ち込み直前の肩にあたるポイントであるからだ。そして何より、忍野堰堤であれば解禁日でも静かに釣りを楽しめると思った。
数年前、忍野堰堤上流の川岸にグランピング施設がオープンした影響で、忍野堰堤はより孤立したポイントになった。ほかのポイントと比較すれば、このポイントを釣る釣り人は決して多くはない。近年は放流もほとんどされていないと思われる。

堰堤上の大きなプール全体を見渡すことのできる場所に立つと取水堰の前でひとりの老紳士がサオを振り、いくつものライズリングが定期的に広がっている。あきらかに放流魚の群れが固まっているようすだ。ライズに向き合えない残念な気持ちも多少はあるが、釣り場全体のようすをおおまかに把握できたと思えば、ロッドを継いですらいない解禁日も悪くないように思えた。あまり期待はできないが、ポツポツと雨も降りだしてきたので、最後にこの大プールの流れ込み付近を確認することにした。

流速差に苦しむ


まったく期待していなかったが、幸運にも最後の最後でライズに恵まれた。入渓してから約1時間。4ピースのロッドを2ピースになるように継いで歩いてきたが、ついにフライラインをガイドに通すことのできるタイミングが訪れた。アプローチできるポジションを選んで立つと、誰も視界には入らない。対岸の林の中から聞こえる小鳥の鳴声が心地よく、集中して今シーズン最初のライズを堪能できそうだ。

しかし、落ち着いてライズを観察すると、ようやくライズの前に立てたというのに楽観的な状況ではないことに気が付く。ライズまでの距離は決して近くはなく、手前の流れは上流に向けて幅の広い大きな反転流となっている。いわゆる「流速差」が問題となるのだが、残念ながら周囲の葦の影響もあり、ポジションを変えて対処することも出来そうにない。幸いにも、ロッドはティップのしなやかなライトプレゼンテーションに特化しているとは言え、8フィート半のレングスがあり、ライン指定も4番のモデルを手にしている。ライズの主が投じたフライを受け入れてくれるプレゼンテーションをできるかどうか微妙な距離ではあるが、挑戦してみる価値はあり、もしかしたら…という気持ちになった。

持ち上がった大きな頭!連続写真でお楽しみいただきたい

波紋からマスの重量感が感じられる

大きく広がった波紋がゆっくりと下流へ流れていく…たまらない光景だ

距離よりも、流速差がどれくらいドリフトに影響するのかが気になる。マスの警戒心への影響が最小限で済む位置にフライを投じてみると、手前の大きな反転流の影響でフライは想像以上に流れていかない。ライズ地点でもある流心にフライを置いてみれば、下流に流れたがっているフライを、上流に流れたがる手前のフライラインが引っ張ってドラグが発生してしまう。距離がある関係で、メンディングも流心と反転流のシームラインをまたぐことが難しい。

距離に苦しむ


ドリフトは魚の上流、数10cmが限界だと思われ、大きなメンディングでフライが手前に寄ってしまうことを考慮すれば、ライズ地点の数m奥まで投げる必要がありそうだ。15m以上は離れているし、背後のバックスペースは5mもなく背の高い葦が密集している。左右も葦が生い茂り、スペイキャストでもアンカーはかなり前方に打たないとDループが葦を拾ってしまう。制約が多すぎるうえに、ロッドとフライラインの相性も好みではなかったことがストレスに感じられた。ゆっくりとした復元のロッドに対し、ガイドとの摩擦抵抗を減らす加工が施されたフライラインは、ラインスピードが上がりすぎている違和感があった。ループの展開が速すぎて最後に失速してしまうのだ。長くやってきたフライフィッシングではあるが、いつまでたっても思いどおりにはいかないものだ。

お手上げ


1時間ほど釣れないプレゼンテーションを繰り返し、マスの口元にフライを送り込めるプレゼンテーションを模索した。空高く、角度を付けた投射角を意識することで、少しずつターンオーバーが安定し、プレゼンテーションが決まるようになってきた。ようやく今までよりも大きく流心を跨ぐことのできた1投が決まった時、これはいけるという確信があった。高い位置でロッドティップを揺することでスラックを作りつつ、フライ先行になるように向きを整えたプレゼンテーションが決まると、明らかに今までとは質の違うドリフトになった。

予想どおり…、結んだ18番のモールフライが50cmもドリフトしないうちに、流れるフライを下から見上げるようにマスが鼻先を近づけてくるようすがよく見えた。ロッドティップを限界までドリフトに追従させることで距離を稼いでいると、マスは本当に小さな動きでフライを口にした。フッキングと同時に下流に向けて一気にフライラインを引きずり出すマスに、ロッドティップを高く掲げることしかできず、あっという間のゲームオーバー。ライズの主は想像以上のサイズで、想像以上のコンディションだった。

ゼロとイチの大きな違い


苦労しただけに、最初のライズをものにできなかったことに肩を落としはしたものの、成功よりもライズを堪能して楽しめたような不思議な充足感があった。ポツポツと雨が降りだしたこともあり、納竿にはよいタイミングだと思えた。

ポツポツ降りだしたと思ったらすぐに雨脚が強まった

降りだした雨は瞬く間に強まり、みぞれ混じりの雨に変わった。体感的に気温も急激に下がったように感じられる。土手を上がると雨具を着ていなかった老紳士が帰るところだった。重たいみぞれ混じりの雨が水面を叩いてしまった影響か、あれだけあったライズも散発なものになってしまったがマスはいる。安全面を考慮し、本格的な雪に変わる前に帰路につく必要はあるのだが、1尾だけ…と釣り人ならではの欲が湧いた。

急いでポイントに立ち、ライズのあった場所付近にソフトハックルを投じてハンドツイストでリトリーブすると1投目から反応を得られた。2投目ではうまくフッキングまで持ち込むことができ、今シーズン最初の1尾を手にすることができた。あっけなく釣れてしまった感もあり、もう1尾、もう1尾と、結局は釣欲に抗えず3尾のマスを釣ってしまった。釣りを続ければまだ釣れそうなのだが、何かあってからでは遅すぎると自分に言い聞かせることにする。車を停めてある最上流の漁協駐車場まで歩く時間も考え、余裕をもって納竿することにした。

クセになる曲がり。ずるずると釣り続けてしまった…

同じようなサイズ、同じようなコンディションの放流魚が立て続けに釣れた

「水生昆虫の羽化とマスのライズ」
忍野は「これぞフライフィッシング!」といえるような、マッチ・ザ・ハッチの釣りを体験できるフィールドである。
マスを目視し、投じたフライへの反応を見て、フライを口にさせるまでの一喜一憂を楽しんでみてはいかがだろうか?

毛鉤メモ:インファリブル


ヤマメ用の1XFに巻かれたテイル付のソフトハックルを使用した

テイル付きのソフトハックルはベンドが下がりづらく、水平姿勢でのスイングやリトリーブを演出しやすいという意識で使用している。ボディーには吸水性の高いモールファーをフワッとダビングしてあることで飽和状態を維持しやすく、意図せず浮いてしまうことを回避しやすい。ハックルはファイバーに存在感のあるアメリカンハックルのヘン(ダンカラー)を、シマザキ・ハックルセパレーターで処理した質感が好みだ。ボディー末端とヘッドから、意図的に赤いスレッドが見えるようにしている。


2025/4/23

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最新号 2025年6月号 Early Summer

【特集】One Fly, One Soul 1本入魂のタイイング

釣れないフライはありません。しかし、より釣れやすい、より釣りやすいものは確実にあります。
「釣れやすい」とは、たとえば魚がエサと認識しやすいシルエットや姿勢をキャストごとにキープできることや、より刺激的な波動を常に発する構造のこと。 「釣りやすい」とは、たとえばキャスト中の空気抵抗が考慮され、スムーズにプレゼンテーションできることや、簡単には壊れない高い耐久性のこと。
そして、フライは最終的に美しいに越したことはありません。
これら無限の要素を取り入れて、自分で創造できるからこそフライタイイングは楽しいものです。
今号では佐々木岳大さんにドライフライの基礎を、嶋崎了さんにCDCの失敗しない扱い方を、中根淳一さんにキールフライのアイデアを、筒井裕作さんにホットグルーの使い方を教えていただきました。

また、中央アフリカ、ガボンでのターポンフィッシングの釣行レポートやポータブル魚道に関するインタビューなどもお届けします。


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