忍野ノート2025
VOL.9 8月17日
佐々木岳大=文と写真
残暑厳しき折…とは言え季節は確実に移ろう
《Profile》
佐々木 岳大(ささき・たけひろ) 1974年生まれ。神奈川県南足柄市在住。ホームグラウンドは地元の丹沢など。C&Fデザイン社に勤務。マッチング・ザ・ハッチの釣りのほか、ドライフライ、ニンフを使った小渓流の釣りも得意としている。
佐々木 岳大(ささき・たけひろ) 1974年生まれ。神奈川県南足柄市在住。ホームグラウンドは地元の丹沢など。C&Fデザイン社に勤務。マッチング・ザ・ハッチの釣りのほか、ドライフライ、ニンフを使った小渓流の釣りも得意としている。
前回、6月15日の釣行をレポートしてから2ヵ月が経った。例年よりも早く山岳渓流でのイワナ釣りに出掛けてみたところ思いのほか楽しい釣りになった。通い込んでいるうちに2ヵ月経過してしまった…というのが真相である。とは言え、まったく忍野に足を向けていなかった訳ではない。夏休みに入った中学生の息子をガイドし、毎回1尾の目標を達成できるよう親子での釣りを楽しんだりした。しかし、今年はその1尾を釣らせるのに本当に苦労した。厳しい状況が予想されるが、久しぶりに自分で忍野を釣ったようすをレポートしたい。
あえての鐘ヶ淵堰堤
臼久保橋(通称:自衛隊橋)から見た鐘ヶ淵堰堤の大プール
正午過ぎ、[忍野フィッシングマップ:自衛隊橋]から見た鐘ヶ淵堰堤大プールに人影はない。子供たちが夏休みとあって、橋のたもとにある水族館の駐車場には親子が溢れているのだが、アングラーの姿が見当らないのには理由がある。暑すぎるのだ。赤トンボや地面に転がる栗からは季節の移ろいを感じるが、いまの季節を問われれば回答は「夏」以外のなにものでもない。
忍野を知るフライフィッシャーは、この季節・この時間帯、木陰でサオを振っているはずだ。当然ながら自分も暑さは避けたいところではあるのだが、忍野の代名詞的なポイントが貸切りなのであれば、スレきったマスの泳ぐフラットな流れでの修行も悪くないよう思えた。それに一見、陽を遮るものがなさそうな鐘ヶ淵堰堤にも日影が存在することを私は知っている。
対岸の樹木によって、わずかながら存在している日影
最初の1尾の難しさ
対岸のバンク添いにいくつかライズが見られた
忍野において最初の1尾は非常に価値のある1尾だ。ストマックから捕食傾向のヒントを貰えるから…と理由はいたってシンプルである。しかしこの日は、この最初の1尾までが遠かった…。はじめに対岸のバンクに添ってライズするマスをねらうことにしたのだが、最初に結んだ小さなCDCアントに激しいアタックはあるのだがハリ掛かりしない…。反応はあるのだから…と、同じフライで同じことを数度繰り返すうちにライズの主はあきらかに警戒心を高めたようすが挙動から読み取れた。もっと早くそうすれば良かったのに!と自分でも思うのだが、やってしまった…と気が付いてからようやくフライを交換した。
夏の定番フォームビートル
アント同様、夏の定番フライ・フォームビートルを結んだ。16番と小振りなサイズを選択したが、ワイドゲイプのフックに巻いてある。フォームビートルしては小さいサイズだが、それでもアントと比較すればボリューム感の違いは明白である。同じテレストリアルと言えども、先ほどまで流していたシルエットの小さなアントとは異なる印象のパターンとして機能することが期待できる。粘性の高いフロータントを使用することで浮力に持続性を持たせ、対岸のバンク際を下流へ向けてロングドリフトさせる。対岸を擦るくらいギリギリのコースを狙い、フライがバンクから離れないように手元のフライラインを繰り出した。
何度目かのドリフトで完璧なフライ先行のドリフトになっている手応えを感じていると、低く浮いて流れていたフォームビートルが音もなく消えた。あまりにも静かな捕食行動に一呼吸遅れた反応になってしまったが、なんとかハリ掛かりさせることができた。ラインテンションを保つために全力でラインをたぐり、軽い追い合わせを2回ほどくれて、ようやく落ち着いてファイトできる状態になった。
静かな水面をかき乱すように暴れる魚の正体はニジマス
放流魚とはいえよく引いた
捕食されていたものは予想よりも大きかった…
待望の1尾目。捕食されていたのはバッタとフタスジモンカゲロウのシャック。捕食物は予想していたよりも大きく、ヒットフライとなったフォームビートルとはサイズもボリューム感も異なる。しかし、それでも何とかマスに口を使わせることができるあたりが、このフライのポテンシャルなのだろう。
ロングシャンクの弊害
1尾目の捕食内容を参考にフライを結び変える。選んだのはフタスジモンカゲロウのクリップルパターンで、アトラクター効果も高いフランピー・グランピー。ロングシャンクのフック背面にフォームをかぶせ、シャンクの中心部にスレッドで作られたセンターバンド部にはラバーレッグまで結ばれている。
様々なサイズ・カラーバリエーションのあるパターンだが、私が使用するのはフタスジモンカゲロウを意識した色調のもの。サイズはロングシャンクで8番から10番を多用する。化繊のウイングは派手なカラーを避けるが、ボリューミーな仕上げが使いやすいと感じている。本当は捕食されていたシャックを意識し、軽く薄い印象のツーフェザーフライという選択肢も頭をよぎったのだが、下流へのロングドリフトを考えるとポッカリと浮くフランピー・グランピーに軍配があがった。
実にアメリカンだが忍野でも実績の高いパターン
結びかえたフライは予想以上に効いた。1尾目を釣ったレーンを同様に下流へ向けてロングドリフトさせると、わずか10投ほどの間に3尾のマスがハリ掛かりし、さらにアップストリームでのロングキャストでは1投目でマスが喰らいつく奇跡が起きた。問題はそのハリ掛かりした4尾のマスすべてからフックが外れてしまったことだ!理由はマスのサイズが全体的に小さかったこともあって、ピチピチと暴れまわる小マスにロングシャンクのフックがテコとして作用してしまったのかもしれない。
魚に存在を気付かれずアプローチできるアップストリームは時に有効かつ簡単
煙草を吸う習慣がないのでアプローチの間を取るには水を飲むくらいしかない
フタスジモンカゲロウを意識したツーフェザーフライの釣り
かなり場を荒らしてしまったのでポイントを変えることしした。自衛隊橋をくぐり直ぐ[忍野フィッシングマップ:ポイント写真19]通称:自衛隊橋上流は、対岸から大きくオーバーハングした樹木がマスにとって絶好の付き場をつくっている。かなり奥の深いオーバーハングで、入口の枝からは長いティペットが伸びてアプローチの邪魔をしている。
直射日光をさえぎり、マスの餌の供給源にもなっているオーバーハング
自衛隊橋の橋脚で羽を休めるフタスジモンカゲロウのダン
オーバーハングのなかではいくつかの魚影が目視できる。どのマスもせわしなく動きまわっていて落ち着きがない。フライを入れるタイミングを見計らう必要がありそうだ。取り込みまでは持ち込めなかったものの、大きなフライが効果的だったことからフタスジモンカゲロウで別のパターンを試すのが得策だと思える。
そうなれば迷わず手を伸ばすのがツーフェザーフライだ。地元の小さなヤマメを釣るために使い始めたツーフェザーフライは、軽く柔らかいため、ターゲットが小さな魚でもフッキング率が高い。フライ交換の際、ティペットも5Xから4Xに変えることにした。オーバーハングの下を通して、最奥までフライを入れるには直進性のあるプレゼンテーションが必要だ。少しでもフワッとループが膨らめばオーバーハングにフライをとられてしまう。
本物と偽物。実際に並べてみてサイズ感を確認する
時おり起こる散発なライズの位置は安定していない。共通しているのは流心の奥の流れで起こるということだ。あきらかに流心手前が危険であることを認識している。オーバーヘッドではキャストの弾道が高くなってしまうので、低い弾道のジャンプロールでフライをいったん最奥までキャストし、大きなメンディングでフライを引き戻しながらラインの形を整える。
何度もキャストを繰り返し、たくさんのスラックを入れた状態でフライを最奥まで届けることができた時、大きなメンディングでキッチリとフライ先行の形を作ることができた。タイミングも悪くない。流れ下るフライに気付いたマスがゆっくりと浮上するようすがよく見えた。期待通り、完璧にフッキングしたツーフェザーフライは数度のジャンプでも外れることがなかった。放流間もない個体ではあったが、連続してバラした後だけにきちんと取り込めたことが純粋に嬉しい。
フッキング直後にオーバーハングからマスを引き出すために数歩後退した
大きなツーフェザーフライを咥えてくれたのは小さな放流魚だった
思惑通りの1尾が釣れて気分はよいのだが、いかんせん日向での釣りは暑すぎる!涼を求めて少し上流の[忍野フィッシングマップ:ポイント写真18]通称:護岸上の日陰に入る。流れに沿って吹く風は冷たさが感じられるため日陰では涼しさすら感じられる。一息入れて流れを見れば、堰き止められたようになっている流れの中央部にポッカリとリラックスしたようすで浮かんでいるマスがいる。ゆらゆらと揺れているだけでライズもしていないのだが、いったい何のためにそんなに高く浮いているのか?しかしなぜか、最初の一投には反応してくれるような雰囲気が感じられる…。
結んだままになっているツーフェザーフライの水気を切り、再度フロータントを擦り込んでねらってみることにした。ただの直感でしかなかったのだが、マスは急にスイッチが入ったように着水と同時にフライに襲いかかった。予想していたとは言え、あまりにも突然でマスも釣り人も大慌てになってしまった。立てたロッドのティップが頭上の枝に絡まり、マスはあらぬ方向へ跳ねまくった。スマートとは程遠いファイトだが、それでもフックは外れない。連続バラシが嘘のように感じられる。なかなか釣果に恵まれず苦労したが、夏らしい釣りを堪能することができた。
釣り人もマスもパニックになった
釣り人には笑える状況でもマスは命懸け
水生昆虫の羽化とマスのライズ」。
忍野は「これぞフライフィッシング!」といえるような、マッチ・ザ・ハッチの釣りを体験できるフィールドである。
マスを目視し、投じたフライへの反応を見て、フライを口にさせるまでの一喜一憂を楽しんでみてはいかがだろうか?
毛鉤メモ:ツーフェザーフライ
大型メイフライのイミテーションとして欠かせないパターン
2枚のフェザーだけで巻くシンプルなメイフライパターン。大きいのに軽く柔らかい。私はハックルをボトムカットし、ファイバーをスタビライザーとして機能させる使い方が好みだ。比較的小さなフライが主流の忍野では、大型フライに不慣れなフライフィッシャーも少なくない。フタスジモンカゲロウやヒゲナガカワトビケラなどの大型水生昆虫のイミテーションが、実物よりも小さすぎる…と感じる釣友も多い。実物と見比べてサイズやボリューム感を確認するのが確実だろう。1尾釣ったあとは、パウダータイプのフロータントでケアしながら使うとよい。
2025/10/26













