忍野ノート2025
VOL.5 4月13日
佐々木岳大=文と写真
《Profile》
佐々木 岳大(ささき・たけひろ) 1974年生まれ。神奈川県南足柄市在住。ホームグラウンドは地元の丹沢など。C&Fデザイン社に勤務。マッチング・ザ・ハッチの釣りのほか、ドライフライ、ニンフを使った小渓流の釣りも得意としている。
佐々木 岳大(ささき・たけひろ) 1974年生まれ。神奈川県南足柄市在住。ホームグラウンドは地元の丹沢など。C&Fデザイン社に勤務。マッチング・ザ・ハッチの釣りのほか、ドライフライ、ニンフを使った小渓流の釣りも得意としている。
4月、低地では天候さえよければ、本格的な春らしい陽気を感じられる季節。私の住む神奈川県西部ではソメイヨシノの花が散り、新緑の季節が始まろうとしている。
釣行前日は好天に恵まれ、桜色の可憐な毛バリを使って里山での春らしいヤマメ釣りを堪能できた。しかし雨が降れば季節は一気に逆戻り。とはいえ、春の雨が水生昆虫の爆発的な羽化を起こすトリガーとなって釣果に恵まれた経験は少なくない。
着水音というトリガー
午前11時、[忍野フィッシングマップ:金田一の旧赤い橋跡]右岸から入渓すると、うっすらと濁りが入り始めていた。単発なライズがあり、再度ライズすることを期待したがその気配はない。濁りの影響で姿は見えないが、ライズ地点の川底付近にマスは定位しているらしく、魚体をくねらせた時のフラッシュが確認できる。
ニンフパターンを投げ入れて、魚の反応で合わせる戦略が無難に思えた。しかし一度ライズを見てしまったせいか、ドライフライに反応してくれるのかどうか気になった。水底付近に定位するマスの興味を引けるパターンはないかとフライボックスを開けると、オオクママダラのフローティング・ニンフで試す価値がありそうなパターンが見つかった。

ヘアズマスクのファーでマダラカゲロウの太いシルエットを意識し、オープンセルフォームのショートウイングで低く浮くことを意図して巻いたパターン。ショートウイングとしてオープンセルフォームを採用した理由は、盛夏の忍野でフォームビートルの着水音に反応するマスを何度も釣ってきた経験によるもので、着水音が水底付近のマスにアピールすると思えたことがフライセレクトの根拠だ。
最初のプレゼンテーションでマスは川底から一気に水面上まで突き上げるように反応したが、残念ながらフライはわずかな感触だけを残しフッキングにはいたらなかった。
入れ食い
残念ながら最初のチャンスはものにできなかった。単発とはいえ、長いプールの淵尻にあたるこのポイントでライズが確認できたということは、上流部でもライズの可能性があると思えた。プール全体のようすが確認できる左岸へと移動することにする。[忍野フィッシングマップ:ポイント写真28]
プールへの流れ込み付近から、最初に釣ったポイントまでの区間を何度か行ったり来たりしてライズを探す。雨の影響かほかの釣り人の姿はなく、各ポイントで足を止めてじっくりとようすを見るがライズはない。

まだわずかな時間しかサオを出していないが、雨脚が思ったよりも強く、若干ながら濁りが強くなったように感じられる。移動する考えも頭をよぎったが、今この広いポイントにはほかの釣り人の姿がない。移動した場所でライズが期待できるのであれば、このポイントでもライズが起こっても不思議ではないと思えた。ポイントは完全に貸し切りで、上流にも下流にもラインを伸ばせる状況は忍野では珍しい。インジケーター・ニンフィングのリグを組み水中を探ることにする。
この釣り方を実践する際、私は普段ヤーンタイプのインジケーターを好んで使用している。咥えたフライを瞬時に吐き出すスレたマスが多いからだ。ヤーン・インジケーターは感度がよく、マスが水中に引き込む際の抵抗もほかの素材のインジケーターより小さい。マスが長時間フライを離さずに咥えていてくれることが期待できるから…というのがヤーンタイプを好む理由だ。
しかしこの日はシール状の発泡タイプを選択した。インジケーターを動かしてタナの調整をすることができないなどのデメリットは承知の上だが、雨の強く降っている状況にメンテナンスフリーで浮いてくれる有り難さには代えがたい。結果的にこの判断が吉とでた。増水時によくマスの胃から確認できるヒゲナガ・ラーバをイミテートしたウエイテッド・ニンフが効きまくったからだ。


インジケーターへのアタリは、数投連続、2投に1度といった感じで続いた。同じレーンを続けて流さないようにだけ配慮することで、アタリは途切れない。おそらく放流直後で、偶然にも魚の溜まっている場所を釣っていたのだろう。
何尾かのマスからストマックを確認したが、ヒゲナガ・ラーバが捕食されているわけでもない。濁りの中で、スレていないマスに対して大きなパターンがアピールしたと考えた方が自然のように思えた。



ライズを誘発したエラブタマダラカゲロウの流下
1時間ほどでいったい何尾のマスが釣れたのか?もう数えてはいなかったが、視界の隅で起こったライズが釣り方を変えるきかっけとなった。対岸に設置された看板の下、強い流れを挟んだバンクぎりぎりの緩流帯。強く降る雨にまぎれるような静かなライズ。
インジケーターの上からティペットをカットし、ひとヒロ半ほどの長い6Xを結んだ。ライズ地点に対してほぼクロスのポジションから、複雑で強い流心をまたいだアプローチでドラッグを回避するためにはひとヒロ半の長さが必要だと思えた。

今の季節、荒天時にライズを誘発する羽化として、もっとも可能性の高いエラブタカゲロウの流下を疑った。結んだフライは雨の中でも浮力の持続性と視認性が期待できるコンパラダン。サイズは20番と小型だが、使い勝手のよさからついつい結ぶ機会の多いパターンだ。
全長20フィートを超えるリーダーシステムで、対岸のバンクから数cm以内へのプレゼンテーションが求められるシチュエーションでは、フライの視認性を犠牲にすることはできない。とはいえ、視認性だけを優先するとマスに口を使ってもらえない。忍野の釣りでは、そのあたりのさじ加減が釣果に影響する。
私がメイフライ各種のイミテーションとしてコンパラダンを多用する理由は、浮力を持たせるためのオーバードレッシングや、視認性を高めるための蛍光色の目印など、マスが拒絶する理由となり得る要素が少ないにも関わらず、釣り人側の求める視認性や浮力といった使い勝手のよさが際立っていると感じているからにほかならない。なかなか思い通りのスラックキャストが決まらずに何度も投げ直しはしたが、対岸ギリギリの巻きをきれいに流れるとマスは素直にコンパラダンに反応してくれた。



捕食されていたのは予想どおりエラブタマダラカゲロウ。あきらかに捕食されたばかりのように見える。実はこのマスをリリースした直後、まったく同じ場所でライズが起こり、同じフライで同様に釣りあげることができた。
1尾目と同様に捕食されていたのはエラブタマダラカゲロウだが捕食量が少ない。おそらくポイントが空いたことで、付近にいた個体が入ってきてライズを始めたところだったのではないかと推測できる。ほかにライズのない状況で、よほど効率よくエサが流下してくる場所なのだろう。後が続くことに期待したが、残念ながら雨脚が強まり、目に見えて濁りが強くなり納竿とした。



水生昆虫の羽化とマスのライズ。
忍野は「これぞフライフィッシング!」といえるような、マッチ・ザ・ハッチの釣りを体験できるフィールドである。
マスを目視し、投じたフライへの反応を見て、フライを口にさせるまでの一喜一憂を楽しんでみてはいかがだろうか?
毛鉤メモ:ウエイテッド・ヒゲナガラーバ

残念ながら今回は流下にあたったわけではないのだが、フックサイズがロングシャンクの8番から10番ということもあり、小さなニンフパターンでは考えられないほど重たく仕上げることができる。
忍野の大型魚はフライを沈めるのが難しい深場に定位することが多く、時に重たいフライがフライボックスに入っているかどうかが明暗を分けることも少なくない。画像は濁りを想定してティンセルの輝きで存在感を増しているが、忍野ではこの輝きを嫌うマスのほうが多いと考えたほうがよいだろう。
2025/5/27