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忍野ノート2025

VOL.4 4月6日

佐々木岳大=文と写真

積雪の下で春を待ちわびていたのであろう蕗が目につく

《Profile》

佐々木 岳大(ささき・たけひろ) 1974年生まれ。神奈川県南足柄市在住。ホームグラウンドは地元の丹沢など。C&Fデザイン社に勤務。マッチング・ザ・ハッチの釣りのほか、ドライフライ、ニンフを使った小渓流の釣りも得意としている。
 
水生昆虫の羽化が期待できる終日小雨の天気予報。4月に入り気温も二桁。油断は禁物だが雨が雪に変わる心配もなさそうだ。3月いっぱい、川岸を覆いつくしていた残雪ももうない。暖かい春の雨が恵みの雨となることを期待して釣行した。

まとまらない流下


冬枯れのなかにも緑が感じられるようになってきた



午前10時過ぎ、[忍野フィッシングマップ:旧金田一]に到着すると、前回の釣行時(3月22日)にあれだけあった川岸の積雪が消えていた。気温も10℃を上回り、寒さも感じられない。しかし増水しているようには思えないのだが、流れの透明度が低くライズは見られない。魚影はギリギリ視認できるが、粘土を水に溶かしたかのような水の色がサイトフィッシングにはやや不利な状況を作りだしているように思えた。

雨はまだ降りだしておらず、ハッチもほとんどない。ライズが始まった際にフライセレクトの参考になる捕食物でも確認できればと、10フィート5Xのリーダーに、感度のよいヤーン・インジケーターを結びフェザントテイル・ニンフを吊るすリグを作った。

10フィートのリーダーにインジケーターを直接結び、タナ下として80cmほどのティペットを足した

このポイントは対岸となる左岸から樹木の枝が大きく張り出している。ドライフライであればそれほど気にすることもないのだが、空気抵抗の大きなインジケーターと、重量のあるニンフパターンを投げ入れるのであれば話は別だ。無理をせず流心となっている流れの中央付近、速い流れと遅い流れの境目付近をポイントと仮定してアプローチを繰り返す。

数投で引き込まれたインジケーターに素早く反応すると嬉しいアタリが伝わってきたが、残念ながらストマックに目立った捕食物はない。2尾目も同様…。流下の少なさが予想できる。2尾の反応を得られたポイントから意図的にレーンをずらすことにする。途端に反応が悪くなったが、しつこく投げて釣りあげた3尾目の捕食物は何かの魚卵とカディスのシャック。捕食の内容物から、どうやら本格的に流下がないと判断できる。

3尾目は手前のカケアガリを意識したレーンで

流下の少なさが見てとれる捕食内容

3尾目のマスをリリースすると、釣具メーカー勤務で顔なじみの田上くんがやってきた。聞けば忍野は初めてだと言う。川辺の井戸端会議。たわいもない会話を楽しみながら流れのようすを見ていると、単発のライズが起こるようになってきた。ドライフライに結びかえ、交代でライズをねらうが、ライズの起こるレーンが安定しない。定位することのないようすから、流下を待っているというより、動きまわってエサとなる流下物を探しているように見える。

釣りたい気持ちが前面に出た若者の釣りは見ていて実に清々しい

一瞬の時合い


見た目以上にドリフトの難しいポイント

安定したライズを求めて下流のようすを見にいく。[忍野フィッシングマップ:金田一の赤い橋跡]から流れを見ると、散発ながらライズも確認できた。右岸からアプローチできる場所には釣り人の姿があるので、橋を渡って左岸にまわると、散発ながら複数の位置にライズが確認できる。すぐ上流にある早瀬が、水生昆虫の供給源として機能しているのだろう。水面付近に目を向けていると、種までは判別できないが小さなメイフライが風に流されていく。

小さなコカゲロウのダンパターンをサーチングパターンとして結び、足もとの流れにのせて下流のライズに送り込むと、1投目から激しい反応があった。残念ながらフッキングはしなかったが、真っ直ぐダウンストリームに近い角度でのアプローチだったため、スッポ抜けてしまったのかもしれない。

次はちょうど真正面のライズをねらってみる。ライズの奥まで投げ、上流への大きなメンディングでフライ先行のドリフトをイメージしてラインの形を整えるアプローチ。数投で反応したが再度空振り…。その後、フライ交換のたびに反応はあるのだが、はたして何度連続で空振りしただろうか?そうこうしてポイントを荒らしていると、ポツポツと小雨が降りだしてきた。朝から終始小雨の予報だったが、時間はもう正午に近い。同じフライは得策ではないと考え途方に暮れていると、対岸のバンク際で今までとはあきらかに違う雰囲気の、何か大きな流下物をバサリと捕食したように思えるライズが起こった。

この季節、この時間帯で大型の水生昆虫となれば選択肢は多くない。12〜14番サイズのオオクママダラカゲロウを試そうと思うが、どのステージのフライを結ぶべきか悩んだ。フローティング・ニンフを疑ったが、この緩やかな流れで、あれだけ激しいライズであれば捕食対象は動いているのではないかとも思えた。直感を信じて、スピナーとして用意していたオーバーサイズのハックルがよく動いて効いてくれることに期待し、14番のフェザントテイル・ドライを選択する。

14番のフックに10番サイズのハックルが巻かれ動きも期待できるパターン

フライ交換のついでに、対岸ギリギリでほぼ真横から流心をまたぐことを考慮しティペットも伸ばした。チェックキャストでスラックを作り、慎重に距離を測りながら徐々にフライを対岸バンク際に近づけていく。小さいながら綺麗なコンディションのニジマスは、バンクを舐めるように流れたフライをバサリと咥えてくれた。

小型ながらコンディション抜群のニジマス。フッキングに驚いて何度も跳ねた!

予想的中!ストマックからはオオクママダラも確認できた

増水の影響か、捕食物には大中小のカディスラーバが混じっている。数的にもっとも多く捕食されていたのはコカゲロウだが、このニジマスの捕食物ではマダラカゲロウに注目したい。エラブタマダラ、アカマダラ、そして予想通りオオクママダラが捕食されていた。さらに季節が進み、エラブタマダラとアカマダラのハッチが最盛期を迎えれば、忍野でも本格的な春を感じられる季節となるだろう。

トリガーはオオクママダラの流下


空振りの連続でライズに翻弄され、1尾のマスに恵まれるまで1時間ほど時間を費やしているうちに正午を迎えた。ポイントが空きだしたので20mほど上流に移動したのだが、安定したライズは見られない。ライズ地点の安定しない単発なライズが忘れた頃に起こる程度だ。いつの間にか雨も止んでいた。寒くもなく快適なのは良いが、ねらうべきライズがない。結果的にライズ待ちとなってしまったが、30分ほどするとまた小雨が降りだした。

ジャケットのフードを被るべきか考えていると、対岸で釣っていた田上くんが魚をかけた。綺麗なニジマス!と何度も興奮気味に話す彼と流れを挟んで会話していると、視界の隅でピシッ!と水面が弾けた。対岸ギリギリで、間違いなくオオクママダラを捕食したと直感的に思えたので、結んだままになっていたフェザントテイル・ドライを投げ込んだ。フライはライズ地点の1mほど上流に落ちたが、流れは対岸で小さな反転流となっていて思ったよりも難易度が高い。何度か失敗しながらも、何とかスラックを入れたプレゼンテーションが決まり、反転流をほんのわずか回ったところでマスがフライを咥えた。

フェザントテイル・ドライを咥えたブラウントラウト。口から大きなハックルが飛び出てしまっている

捕食されたばかりのオオクマがうれしい

釣れたのは小型ながら美しいブラウントラウト。朱点が美しい。小さな体でよくあんなに大きなフライを捕食できたな…と思ったら、ハックルファイバーが口からはみ出てしまっている。ストマックからは捕食されたばかりだと思われるオオクママダラが確認できた。他に大きなヒゲナガラーバやエラブタマダラも捕食されているが、オオクママダラがトリガーとなったことは間違いなさそうだ。田上くんと同じタイミングで釣れたのは、おそらく偶然ではないだろう。

この日、空が明るくなるとライズの頻度は下がり、小雨がパラつきはじめると、あきらかにマスの捕食行動が盛んになった。時合いであろうタイミングで、お互いが同時に釣果に恵まれたことを考えれば、タイミングは釣果に影響すると考えて間違いなさそうだ。

水生昆虫の羽化とマスのライズ。
忍野は「これぞフライフィッシング!」といえるような、マッチ・ザ・ハッチの釣りを体験できるフィールドである。
マスを目視し、投じたフライへの反応を見て、フライを口にさせるまでの一喜一憂を楽しんでみてはいかがだろうか?

毛鉤メモ:フェザントテイル


TMC3769の10番にはビッシリとウエイトが巻き込んである

.015のレッドワイヤをシャンクいっぱいに巻き込み、さらにソラックス部は2重でウエイトを巻いてあるヘビーウエイト仕様のフェザントテイル。ニンフパターンに重量を持たせたいが、ビーズヘッドが嫌われるような状況で有効。小さなサイズで使用すること多いが、増水時にヒゲナガラーバの流下が疑われる際などに大きなサイズを結ぶことがある。ビーズヘッドやフラッシャブーなどのヒカリモノは、好かれる要素にも、嫌われる要素にも、どちらにもなりうることを前提として、バリエーションを用意しておくことを推奨する。


2025/5/16

つり人社の刊行物
磯釣りスペシャルMAGAZINE Vol.03
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最新号 2025年6月号 Early Summer

【特集】One Fly, One Soul 1本入魂のタイイング

釣れないフライはありません。しかし、より釣れやすい、より釣りやすいものは確実にあります。
「釣れやすい」とは、たとえば魚がエサと認識しやすいシルエットや姿勢をキャストごとにキープできることや、より刺激的な波動を常に発する構造のこと。 「釣りやすい」とは、たとえばキャスト中の空気抵抗が考慮され、スムーズにプレゼンテーションできることや、簡単には壊れない高い耐久性のこと。
そして、フライは最終的に美しいに越したことはありません。
これら無限の要素を取り入れて、自分で創造できるからこそフライタイイングは楽しいものです。
今号では佐々木岳大さんにドライフライの基礎を、嶋崎了さんにCDCの失敗しない扱い方を、中根淳一さんにキールフライのアイデアを、筒井裕作さんにホットグルーの使い方を教えていただきました。

また、中央アフリカ、ガボンでのターポンフィッシングの釣行レポートやポータブル魚道に関するインタビューなどもお届けします。


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