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Little Bell

忍野ノート2025

VOL.3 3月22日

佐々木岳大=文と写真

日本晴れと呼ぶにふさわしい

《Profile》

佐々木 岳大(ささき・たけひろ) 1974年生まれ。神奈川県南足柄市在住。ホームグラウンドは地元の丹沢など。C&Fデザイン社に勤務。マッチング・ザ・ハッチの釣りのほか、ドライフライ、ニンフを使った小渓流の釣りも得意としている。
 
富士が白銀に輝くようすから積雪の厚みが感じられる。足もとからの冷気は強いものの、気温は午前10時で12℃。春らしい陽気に誘われた多くのアングラーが川辺を歩き、踏み固められた場所は氷のように滑りやすくなっている。この週末は解禁日に降雪の予報で釣行を控えたアングラーにとって、きっと待望の1日だったことが予想できる。ライズしているマスよりも、アングラーの数が多い一日だった。

マスとの距離感





午前10時半頃、[忍野フィッシングマップ:ポイント写真25]のやや下流、通称:新聞屋裏のプールには釣り人の姿がなかった。左岸に沿っているトレイルは積雪が踏み固められ、かなり滑りやすくなっている影響だろうか?スニーカーではこの場所まで来るのに苦労するし危険も伴うだろう。

明瞭な踏み跡は滑りやすい場所もあり油断ができない

魚影も多く、釣り人の姿もなかったのだが…

ライズはないがバンクから流れのようすをみようと一歩踏みだすと魚影が走った。「いるじゃないか!」と、さらに一歩二歩と上流へ歩を進めると、再び魚影が走る。しかも今回は複数のマスが群れで走った。これはよくない。まだ人影に慣れきっていない放流魚でプールの中が混乱してしまう。太陽の位置も背後からで、流れを見ようとすると影が水中まで伸びてしまう。自分の影が水中まで届かない距離感を意識することで、ようやくマスの警戒心を刺激することなく魚影を目視できる状況をつくれた。

流れから立ち位置までの距離感が私の影でご理解いただけると思う

流れの中には想像以上に多くのマスが確認できる。過密な放流で数尾による縄張り争いのような行動も見受けられるが、水草の脇に定位し流下物に反応している個体もいくつか見られる。サイトニンフィング用にリーダーシステムを調整していると、2人組のアングラーが私の上流に入った。しばらくするとさらにもう2人…。

もちろん先行してこのポイントにいた私との距離感には配慮してくれているのだが、少なからず定位していたマスは混乱して落ち着きを失ってしまった。残念ではあるが、忍野では人的要素が釣りに影響することは珍しくない。釣果を得るために、人的要素も含みおいた戦略が必要なのは、近年人気の高まっている冬季釣場などでも同じだろう。

セキレイが流れの上を飛びまわる、よいタイミングだっただけに少し残念

チェイス


新聞屋裏のプールには見切りをつけることにした。静かに釣りたい気持ちもあったし、正直に言えば、マスが落ち着いていない状況で釣れる気もしなかった。[忍野フィッシングマップ:ポイント写真24]通称:鐘ヶ淵堰堤下流の放水路が見える場所までくると、この場所にも釣り人の姿はない。ライズはなく、おそらく目視できるマスもいないのだろう。

鐘ヶ淵堰堤で右岸/左岸に分けられた水が再び合流するポイント

放水路の排出口に立ち、数分ポイント全体を見渡してみたが予想どおりライズはない。ライズがあれば、それをねらうアングラーもいるはず…というのが予想の根拠だ。しかし最低1尾は大型のマスがいる。捕食行動とはあきらかに異なるが、大型の個体が跳ねるのを見たからだ。しかし、水深の深いポイントではないが、流速があり水面が波立っているせいで魚体は見えない。せっかくの貸し切りポイントなので、小さなソフトハックルを使って、ブラインドでポイントを探ってみることにする。

私はウエットフライでこの場所を釣るのが好きだ。水量豊かで流速もあり、ウエットフライを泳がせるに向いている。幅の広い流心のなかでマスからのコンタクトがあれば、グン!という明確なアタリが癖になる。問題は速い流れと緩い流れの境目だ。スイングしてきたフライが流心から外れ、泳ぎを止め生命感を失ってしまう瞬間、マスはフライを見切る。特に忍野では流心の外の流速が一般的な渓流よりも遅いのが普通だ。

画像左端、流れが曲がっている先のバンク寄りで反応があった

結論からいうと、ここでは流心左岸側の境目で反応があった。水面直下をスイングするフライが流心から外れるギリギリのタイミングで大きな頭が持ち上がり、口は開いたのだが手には感触が伝わらなかった。このタイミングで一瞬でもフライが泳ぎを止めれば、このマスはチェイスをやめてしまう。すぐさまハンドツイストでラインを回収し、リトリーブでフライを泳がせ続けた。

ストリッピングではリトリーブに「間」が生まれてしまうと考えたからだ。マスは背ビレを水面上に出して止まることなく上流へと引かれるフライを猛追し、2度3度と口を開けたが、最後は軽い感触だけが手に残り、フッキングまでは持ち込むことができなかった。未練がましく、その後も同じフライで何度も流れを横切らせたが、以降このポイントからマスの反応は得られなかった。

足場が悪いときなど、忍野ではハンドツイストが役立つことも少なくない

時合い


後ろ髪を引かれる思いで次のチャンスを探しに歩き、鐘ヶ淵堰堤の落ち込み付近から上流部を見た。両岸に並んだアングラーの密度は、まるで今日が解禁日かのようだ…。自衛隊橋上流から極端に魚影が減ることは解禁日に確認している。状況によっては早めの納竿も…と考えながら[忍野フィッシングマップ:ポイント写真21]通称:自衛隊橋下流(左岸)を通りかかると、小さな子供を連れた、顔なじみの村松ファミリーが声を掛けてくれた。子供の面倒をみながら交代で釣りを楽しむスタイルは、自分の身にも覚えがある。
違うのは夫婦が主流としているマス釣りがユーロニンフィングだということだ。時代の変化を感じつつ、人懐っこい娘さんとの雪遊びに興じていると、何となくこのまま納竿の雰囲気が強くなってきた。

家族・子供・友人…フライフィッシングが身近なところから広まればよいと思う

正午を過ぎると流れる水に色が付きはじめた。気温の上昇にともない雪代が流入しはじめたのだろう。夫婦が釣っているポイントのライズのようすも、先ほどまでと違うように感じられた。水面直下を流下しているユスリカやシャック、デプテラを捕食しているようなライズから、鼻先を水面に出してシンプルに流下物を捕食しているように見える。
夫婦はタックルやラインシステムまでユーロニンフィングのセッティングで、少し下流のポイントを釣っている。ライズを譲ってもらい、先ほどまで結んでいたフライをカットしてティペットを足していると、目の前で4枚の羽根をバタつかせて飛んでいる水生昆虫が視界に入った。

被っていたキャップで捕らえてみるとストーンフライだった

尾がないように見える。名前のとおりオナシカワゲラだと思われるストーンフライ

被っていたキャップで捕獲してみると、フックサイズにして14〜16番相当。オナシカワゲラだと思われる種のストーンフライ。ここで最初に結んだ16番のモールフライが当たった。マスは左右に幅広く動きながら、時おり散発なライズをしていた。
ライズの頻度から、流下量が多い訳ではないことが予想できる。幸い足場の高いポイントで、マスの動きは目視できている状況。マスの動きをじっくりと見定めることができる。タイミングだけ注意して、フライ先行できれいにフライを送り込むと素直に口を使ってくれた。

足場が高く、積雪で滑りやすく、ランディングは非常に困難

この1尾目の疑うようすを感じさせなかったフライへの反応から、あきらかに時合いが来ているように感じた。足場が高く、残念ながら捕食物の確認はできない。しかし、今なら目の前でライズしているもう1尾も同じフライで攻略できるように思えた。予想的中。すぐに次の1尾も攻略することができた。

釣れたマスをリリースし足もとを見ると、積雪の上に捕食されているだろうと仮定したストーンフライがいる。たくさん釣れた訳でも、大きいのが釣れた訳でもない。しかし、一度は釣果に見放されそうだったことを思えば、時合いを見逃さずにライズを攻略できたことが素直に嬉しい。

本物とフライのサイズを比較する

静止画ではわかりづらいが雪代の流入箇所。ところどころで見受けられた

水生昆虫の羽化とマスのライズ。
忍野は「これぞフライフィッシング!」といえるような、マッチ・ザ・ハッチの釣りを体験できるフィールドである。
マスを目視し、投じたフライへの反応を見て、フライを口にさせるまでの一喜一憂を楽しんでみてはいかがだろうか?

毛鉤メモ: モールフライ


量産向きのシンプルで効果的なフライ

ダウンアイのグラブフックに巻くことで半沈姿勢を維持して流れる。ボディーに使うダビング材は吸水性の高いものを選ぶことが重要。私はモールファーを使用した。ボディーが吸水して飽和状態になることで、着水と同時に反沈姿勢で水面から釣り下がるように浮く。ドラッグヘッジ効果も高くドリフトさせやすい。ボディーは吸水すると重たくなるので、ウイングのCDCは多めに取りつけてフィールドで調整するとよいだろう。


2025/5/13

つり人社の刊行物
磯釣りスペシャルMAGAZINE Vol.03
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最新号 2025年6月号 Early Summer

【特集】One Fly, One Soul 1本入魂のタイイング

釣れないフライはありません。しかし、より釣れやすい、より釣りやすいものは確実にあります。
「釣れやすい」とは、たとえば魚がエサと認識しやすいシルエットや姿勢をキャストごとにキープできることや、より刺激的な波動を常に発する構造のこと。 「釣りやすい」とは、たとえばキャスト中の空気抵抗が考慮され、スムーズにプレゼンテーションできることや、簡単には壊れない高い耐久性のこと。
そして、フライは最終的に美しいに越したことはありません。
これら無限の要素を取り入れて、自分で創造できるからこそフライタイイングは楽しいものです。
今号では佐々木岳大さんにドライフライの基礎を、嶋崎了さんにCDCの失敗しない扱い方を、中根淳一さんにキールフライのアイデアを、筒井裕作さんにホットグルーの使い方を教えていただきました。

また、中央アフリカ、ガボンでのターポンフィッシングの釣行レポートやポータブル魚道に関するインタビューなどもお届けします。


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