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忍野ノート2024

VOL.7 6月29日

佐々木岳大=文と写真

水面に映った木漏れ日の中で抵抗するマス

《Profile》

佐々木 岳大(ささき・たけひろ) 1974年生まれ。神奈川県南足柄市在住。ホームグラウンドは地元の丹沢など。C&Fデザイン社に勤務。マッチング・ザ・ハッチの釣りのほか、ドライフライ、ニンフを使った小渓流の釣りも得意としている。
 
前日、警報級に降った雨の影響で河川はどこも濁流。こんな時にも忍野では釣りが成立する可能性が高い。
この日、正午頃までは時おり小雨が降る天候だったが、次第に回復し青空が広がったタイミングを見計らって入渓した。増水はしているが、濁りのない上流域を釣ったようすをリポートしたい。

鱒の家の裏から上流を臨む



デプス・コントロール


釣り場の最上流部にあたる漁協駐車場に車を置き、目の前にある堰堤から下流に歩いた。
最初にサオを出してみようと思ったのは[忍野フィッシングマップ:ポイント写真09]通称:鱒の家裏。足場は高い護岸となっていて、後方も左右にもほとんどスペースがない。対岸の際に安定したライズが見られるが、足元が護岸に沿って流れる流心となっていて、ライズポイントはほぼ流れていないように見受けられる。

タックルの準備をしながら、時おり起こるライズを確認すると、ライズの主は頭を下流に向けている。いわゆる巻きの釣りなのだが、鏡のようなフラットな水面で難しそうだ…。おそらくドラッグへの許容範囲も狭いだろう。最初に結ぶフライとしてフォームビートルが頭に浮かんだが、着水と同時にフライが引かれてしまい“食わせの間”が作れないような気がした。少しでもドラッグへの許容範囲が広い水面下で勝負しようと ファーアントの18番を選んだ。

シンプルで効果的なフライのお手本

ダビング材でアリの体節を表現し、クビレにハックルを1回転だけさせたノーウェイトのシンプルなパターン。よく沈みもしないが、よく浮きもしない。しっかりと沈めたい場合はダビング材に水を吸水させ、水を切ってしまわないように配慮したプレゼンテーションで使用する。逆に軽く沈めたいだけの場合は、ティペットへ塗るフロータントの範囲を調整してやればよい。

今回のケースでは、ライズは確認できるが魚体は目視できない。マスの捕食行動が何らかの形で水面に現れなければ都合がよくないのでフライから10cmほどを残し、ティペットからラインの先端までにフロータントを使用した。

対岸右端、垂直に突き出ている木の枝の根本がライズ地点

ロッドを振るスペースが足らず、口元にフライを落とすのに苦労したが、入った!と思うのと同時にライズ地点で水面が歪んだ。
フライもマスも目視できてはいなかったが、確信をもって合わせをくれるとロッドに重さが伝わってきた。

フロータントを塗る範囲は、ティペット素材がナイロンなのかフロロカーボンなのか、またフライの重量などでも異なるので具体的な明言はできない。忍野のライズ攻略では、水面直下でのパターンを使いこなせるかどうかで釣果に差が生まれることも少なくないと思っている。ぜひ、ご自身のシステムにマッチした水面直下攻略法を模索してみてほしい。

過去の教訓


[忍野フィッシングマップ:テニスコート裏]の流れがカーブした場所に深いプールがある。安定した湧水で、神秘的な水の色が印象的なプールだ。
プールの頭上に張り出した樹々が年々大きく広がり、川のカーブにあわせてプール全体が大きな巻きになっている。釣りの難易度も高く、マスが身を隠す条件が整っているため、時に目を疑うようなマスに遭遇することもあるポイントだ。

この日は流心の釣りやすそうな位置で、平均的なサイズのニジマス2尾がライズしていた。増水の影響で流されてくる雑多な流下物を捕食しているようだ。ハックルを気持ち長めに巻いた18番のグリフィスナットを、V字になるようにボトムカットしたパターンで2尾とも釣りあげることができた。

忍野では#18~#22を結ぶことが多い

もうねらえそうな魚はいないかと移動の準備をしていると、上流部から1尾の良型がゆっくりとプールに泳ぎ下ってくるのが視界に入った。そのまま目で追っていると、対岸のバンクに添って上流へ泳いでいく。途中ですぐに見えなくなってしまうのだが、しばらくすると再び姿を現した。一定のコースをゆっくりとクルージングしているだけのようで、食い気は感じられなかったが、水面にポッと波紋を出して浮上したフタスジモンカゲロウを、綺麗なヘッドアンドテイルで捕食する瞬間を目撃した。

スピナーの群飛はハッチが本格化してきているひとつの証左になる

マスは左にカーブした先から下ってきて対岸のバンク際を上流に進んでいた

6Xのティペット切り5Xに結びかえた。フタスジモンカゲロウのパターンで、動きでマスを誘うことも期待できるハックルパターンにフライも変えた。クルージングのタイミングをはかりマスの前方1m付近にフライを置くと、マスはクルージングのスピードを上げフライに近づいた…。と思ったのだが、そのままフライの真下を通って上流へと消えてしまった…。

明らかに警戒心を高めたような行動を見て、ふと昨シーズンもこの場所で同じような状況を釣ったことを思い出した。あの時もマスの視界にプレゼンテーションすると、着水と同時に警戒心を高めたことがわかる状況だったが、大きく上流にプレゼンテーションし、ロングドリフトさせることで攻略した。今回も同じ戦略が効果的に思えた。

足元の護岸よりもロッドティップを下げ、オーバーハングした木の枝をかわし、マスの視界よりも大きく上流側にフライを置く。マスのクルージングコースと交わる前にメンディングでスラックを作ると、フライの存在に気付いたマスがゆっくりと頭を持ち上げフライを咥えた。

激しい抵抗が続いた

やっとの思いで足元まで寄せると今度は下流に向けて強い抵抗をみせた

しなやかなロッドとスムースなドラッグのラージアーバーリールがよい仕事をしてくれた

マスは上流に向けて疾走し、バッキングラインまで引き出した! 5回、6回と連続でジャンプされ、4Xにしておけばよかったと後悔した。幸いにも、どこにも引っ掛かることなく何とか足元まで寄せると、今度は流れにのって下流に走ろうとする。
手にしている8ft4番のしなやかなロッドと、スムースで強力なドラッグを備えたラージアーバーリールがよい仕事をしてくれた。コンディションのよい50cm前後のニジマス。過去に経験したことを思い出せたことで、再び同じ場所で幸運に恵まれた。

「水生昆虫の羽化とマスのライズ」
忍野は「これぞフライフィッシング!」といえるような、マッチ・ザ・ハッチの釣りを体験できるフィールドである。
マスを目視し、投じたフライへの反応を見て、フライを口にさせるまでの一喜一憂を楽しんでみてはいかがだろうか?

毛鉤メモ:フタスジモンカゲロウ・ハックルパターン


フレンチ・パートリッジの代わりにマガモのショルダーフェザーを使用した

大型メイフライをイミテートした古典的で有名なパターンに、結んだマテリアル名そのままの「フレンチ・パートリッジ」がある。
フレンチ・パートリッジのショルダーフェザーをふわっと巻いた美しいパターンなのだが、どうした訳かタイイング部屋のどこかに埋もれてマテリアルが見つからない…。そこで白羽の矢がたったのが日本製マガモ(メス)のショルダーフェザー。モンカゲロウともフタスジモンカゲロウとも少し色調が異なるが、どちらにも使えると都合よく考えて使用している。

一見、浮力に乏しいソフトハックルのような体裁に見えるが、実はけっこうな量のコックハックルが巻いてあり、ドライフライとしても問題なく使用することができる。ダンやスピナー、クリップルなど、特定のステージに特化していないが故の使い勝手の良さがあり重宝している。


2024/7/8

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