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ささきつりぐ

忍野ノート2024

VOL.6 6月1日

佐々木岳大=文と写真

自衛隊橋から早朝の忍野を望む

《Profile》

佐々木 岳大(ささき・たけひろ) 1974年生まれ。神奈川県南足柄市在住。ホームグラウンドは地元の丹沢など。C&Fデザイン社に勤務。マッチング・ザ・ハッチの釣りのほか、ドライフライ、ニンフを使った小渓流の釣りも得意としている。
 
忍野フリークの仲間数人が、早朝に起こるクロマダラカゲロウのスピナーの流下が熱いと言う。
聞けば「けっこうフライを見切られて簡単じゃない」とか。
光量の少ない時間帯に、そこまでシビアな状況になるのであれば、釣り人の端くれとして自分も検証しない訳にはいかない。午前3時発忍野行。小雨の降る早朝の忍野を釣ったようすをリポートしたい。



バラシ連発


空が明るくなり始めた午前4時。小雨が降る天候で外はまだ暗い。タックルの準備をゆっくりと整え、4時10分頃に[忍野フィッシングマップ:ポイント写真18]通称:自衛隊橋から入渓した。途中、橋の上から流れを見たようすではライズは確認できない。根拠はないが、そのうち始まるだろうと楽観的に思った。

6Xのティペットに情報を元にした14番のハックルスピナーを結ぶ。刻々と明るさを増すなか、[忍野フィッシングマップ:ポイント写真17]通称:護岸上のストレートから上流に歩を進めると、S字の下流でバシっ!と水面が弾ける音が川辺に大きく響いた。

光量が足らない状況で、フライを明るくなりはじめた空にかざして、フックアイにティペットを通した

最初のライズがまるでスイッチを押したかのように、急に水面のあちこちでライズが始まった。
4時15分。このポイントにこんなにもたくさんのマスがいたのかと、にわかには信じ難い数のマスがライズしている。

ライズは一撃で攻略できそうな雰囲気なのだが、友人達の事前情報通り甘くない…。
フライがライズ地点を何事もなかったかのように通り過ぎるたびに、気持ちばかりがあせって冷静さを欠いた。よいタイミングでフライが流れると反応を得られるのだが、かけてはバラシ…を5〜6回は繰り返しただろうか?最初はロッドが少々オーバーパワーだったか…と思っていたのだが、3回目くらいから“いくら何でも…”と思い始めた。

この画像の範囲でいったい何尾のマスがライズしていたことか…

ライズが一斉に始まって20分も経っただろうか?目に見えてライズが減りはじめた。ここにきてようやくフライを交換する決心をする。もっと早く決断するべきだったと、今さらながらに思う。まったく反応を得られないわけでもなく、たまにハリ掛かりする状況に判断を遅らされた。

ハックルティップをスペント状に広げた存在感のあるフライから、ウイングレスでオーバーサイズのハックルを数回転させただけのシンプルなパターンに結び替えた。同じ立ち位置から釣れるライズはまだ続いているが、10mほど上流側に移動してフレッシュな水面を釣ることにした。空振りやバラしを多発し、自らポイントを荒らしてしまったと感じたからだ。とにかく1尾釣って捕食物を確認したい一心で、ドラッグの掛かりづらい手前岸(右岸)のライズをねらう。

今の釣り方ではダメだと冷静さを取り戻し、一撃必釣のつもりでタイミングを見計らいフライを投げ入れた。フライは視認できていなかったが、マスの頭が上がった時、絶対にフライを咥えたという確信を持てた。今度こそ!と、サオをスイープするように動かしハリ掛かりさせる。祈るような気持ちで軽い追い合わせも入れ、ようやく最初のマスを手にすることができた。嬉しい!

祈るような心境でマスを寄せた

小さな放流魚が対象でも簡単にはいかない釣りが忍野にはある

敗因


釣れたのは小さなニジマスで、放流から時間もたっていないことが予想できる個体だった。
ストマックポンプで吸い出された捕食物は、仲間たちの事前情報通りクロマダラカゲロウと思われる中型のメイフライだった。

ニジマスは確かにクロマダラカゲロウを捕食しいていたのだが…

ただ問題はそのステージで、スピナーはまったく捕食されていなかった。私が結んだ2本のスピナーパターンとはシルエットが大幅に異なる。
同じクロマダラでも、明るい色のウイングを大きく広げた細身のスピナーパターンでは、丸みのあるシルエットのフローティングニンフや、ウイングの縮れたダンやDDを模していることにはならない。

濃い褐色のウイングからスピナーが捕食されていないことは明白

何とか手にしたマスをリリースし顔を上げると、突然沸いたように始まったライズは、30分ほどで周囲が明るくなるのと同時に消えた。まるで何事もなかったかのような静けさで、流れはようやく夜が明けたかのような雰囲気になった。

完全な敗北。情報だけを鵜呑みにし、状況判断を怠ったことに敗因が起因していることは明らかだ。すさまじい集中的なライズで、わずか1尾のみの釣果。
この敗因から私が思うのは、特定の状況に特化したイミテーションを使う難しさである。この手のパターンが流下にマッチしていれば効果的なのは間違いない。しかし足場が高くウエーディングもしない忍野では、よほどの大型水生昆虫でない限り、流下を目で確認することができない。最初の1尾を釣って捕食物を確認するまで、流下の状況を絞り込むことができないのが普通だといえる流れなのだ。

各水生昆虫のステージごとのイミテーションを用意しておくことが重要なのは間違いないと断言できる。
一方で、大当たりもないが、大外れがないことも期待できるパターン。スタンダードなアダムスや、特大から極小までサイズを揃えたパラシュートやコンパラダンなど、ベーシックなパターンが私のフライボックスから淘汰されない理由はこの辺にあるのかも知れない。
何年、何十年と釣っても、フライフィッシングには終わりのない楽しみが用意されている。私はその進歩の過程を、これからもゆっくりと楽しみたいと思っている。

「水生昆虫の羽化とマスのライズ」。
忍野は「これぞフライフィッシング!」といえるような、マッチ・ザ・ハッチの釣りを体験できるフィールドである。
マスを目視し、投じたフライへの反応を見て、フライを口にさせるまでの一喜一憂を楽しんでみてはいかがだろうか?

毛鉤メモ:フェザントテイル(ドライ)


長く薄く巻かれたハックルが動きを演出する

残念ながら今回の捕食にはマッチしなかったが、今シーズン、オオクママダラなどほかのメイフライのスピナーの釣りで大活躍したパターンなので紹介したい。
フックサイズは流下に合わせる必要があるが、長いテイルとオーバーサイズで薄く巻かれたハックルが効く。流速のある流れでは揉まれて沈んでしまうかもしれないが、忍野のように鏡のような水面をもつ流れでは問題ないだろう。

シンプルなパターンだが、透明感をもったファイバーの細いフェザーを選びたい。私は片側をむしって、サイズによって3~5回転ほどの量をハックリングして使用している。ハックルのサイズは、フックゲイプの2倍以上にすることで“動き”にも期待できると思っている。


2024/6/18

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色がわかるのか、釣られた記憶はいつ頃忘れるのか、など私たちのターゲットについての習性考察していただきました。

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