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Little Bell

忍野ノート2024

VOL.10 9月27,29日

佐々木岳大=文と写真

落ち葉の季節、流れの中にも確実に季節の移ろいがある

護岸のない流れの脇では、色鮮やかなミゾソバが夏の名残を感じさせてくれる

《Profile》

佐々木 岳大(ささき・たけひろ) 1974年生まれ。神奈川県南足柄市在住。ホームグラウンドは地元の丹沢など。C&Fデザイン社に勤務。マッチング・ザ・ハッチの釣りのほか、ドライフライ、ニンフを使った小渓流の釣りも得意としている。
 
今シーズンの忍野最終釣行となった9月29日は、締めくくりに相応しい納得の結果となった。
その2日前、9月27日の釣行で流れのあちこちで大型魚の姿を確認していた。残念ながらその日の大型のランディングはゼロ…。天気予報を見るかぎり、今シーズンはこのまま終了…と思っていたが、よいほうに好転し、最後にもう一日だけ忍野を釣るチャンスに恵まれた。

大型魚の季節


禁漁間際、秋の忍野では常連の中で大型魚の目撃情報が飛び交う。台風などによる増水から、水量が落ち着くと「今までどこに身を潜めていた?」と思わずにはいられないマスが姿を現わす。確かにどこかに身を潜めていた個体もいるとは思うのだが、私見では釣場の最上流で合流する禁漁区から下ってきている個体も多いのではないかと推測している。しかしこれはあくまでも憶測であり、確証となる根拠はない。

大きくオーバーハングした木の下で堂々と定位する大型

水面の条件がよい時だけ目視できる、護岸に寄り添う大型の個体

簡単そうに見えるが、表層と底の流れの方向が違っていることに気が付かなければ口を使わせることは困難

喰わせることには成功したが、バッキングまで一気に引き出されてゲームオーバー

大型のマスが姿を現わしても、定位するのはほぼ確実にベタ底だと思って準備するのがよいだろう。足場の高いポイントが多い忍野では、マスが目視できている状況であれば、たとえベタ底でもニンフィングで攻略の可能性を高めることができる。

マスが目視できている状況であれば、私はインジケーターを使用しないサイトニンフィングを選択する場合が多い。水面付近に浮かぶインジケーターは、マスが定位している底付近よりも流速が速いのが普通で、インジケーターがドラッグの要因となる得る可能性も考慮して使用する必要があり、タナ下の調整も絶妙な加減を要求される。

逆にサイトニンフィングは、流すレーンとレベルを調整しやすく、シンプルで効果的な釣り方だと思っている。結んだフライによっては目で追うことができず、ストライクのタイミングが難しいと思うかもしれないが、マスの挙動に注意していれば捕食の瞬間は以外とよくわかるものだ。見えないフライではなく、マスの挙動に集中したほうがよいだろう。もしわからなければ「疑わしきはアワセよ!」が得策だ。いわゆる“聞きアワセ”、“空アワセ”を繰り返せばよい。

サイトニンフィングでのアワセの失敗は、インジケーターニンフィングのそれほどマスに警戒心をあたえることは少ない。「マスが捕食したのではないか?」という、何か違和感のような挙動を察知したら、小さく鋭くピシッ!とアワセを繰り返すうちに開眼の瞬間が訪れる。ドライフライのアワセでも、すべてが決まるわけではないと割り切って、開眼の瞬間まで何度も失敗を繰り返すことでサイトニンフィングは習得できる。

ナナマル





9月27日、[忍野フィッシングマップ:テニスコート裏]でレッドバンドの鮮やかな、巨マスと呼ぶにふさわしい個体を見つけた。フライを口元に落とすことすら難しいほどにキャスティングスペースのない場所で悠々と定位している。

これだけ広角で引いた画像でも定位しているマスの魚体が写っている

挑戦してみるまでもなく、あきらかにキャスティングスペースが足りていない。ただ、リラックスしたようすで定位しているマスの雰囲気に、「もしかしたら…」とその気にさせられた。頭上・右側・後方…、あちこちにフライを引っ掛けながら何とかマスの口元にニンフ各種を運ぶが反応しない。通りかかった忍野常連の話では、このマスは3週間ほど前から定位し、徹底的にねらわれ続け、そのサイズ感から「ナナマル」と呼ばれているらしい。

威風堂々。鮮やかなレッドバンドを見せつけるように定位するナナマル

キャスティングスペースがタイトで、ナナマルの定位している位置の流速は遅い。なんとか重たいニンフを口元に運ぼうとティペットを短く詰めると、着水と同時にフライはマスの口元をスイングぎみに引っ張られて流れてしまう。おそらくナナマルをねらったほかのフライフィッシャーも、同じようなプレゼンテーションを繰り返したのではないかと予想がついた。

このプレゼンテーションでは釣れない…。かといって重たいニンフパターンをロングリーダーでプレゼンテーションし、スイングが開始されるまでの時間をかせぐことも不可能に思える。7ftのリーダーに、5ftの4Xティペット、全長12ftのシステムでスラックラインを投じ、フライをマスの口元付近に“根掛かり”させる戦略で攻めることにする。ちなみに根掛かりを利用して捕食させる戦略は、私がフライでコイを釣る際に多用しているものだ。底に軽く引っ掛かった状態で、マスの興味をひいてくれる動きのよいフライとして選んだのはガードルバグの8番。白いラバーレッグは視認性もよく使いやすい。とはいえ、思い通りの位置に根掛かりさせるのに何10投しただろうか…?

しつこくプレゼンテーションを繰り返し、ようやくフライがよい位置に根掛かってくれた。上流からの流れでラバーレッグがなびいているようすを下流から見つけたナナマルがスッと身を寄せると、呼吸が止まり全身に力が入って自分が緊張するのがわかった。メンディングを入れたい気持ちをグッとこらえて身構えていると、大口がひらいてナナマルがフライを吸い込んだ!
下流側にロッドを倒し、おもいっきりアワセをくれると、魚よりも上流側の何かにティペットが引っ掛かっている感触があった。フライがマスの口に刺さっているのは間違いないのだが、ティペットは水中から突きでている木の枝に捕らえられてしまっている。すぐにロッドを操作しティペットを外したが、同時にフライもナナマルの口から外れてしまった…。

ティペットがマスよりも上流の障害物に引っ掛かっていたために、フライをマスの口から引き抜くようなアワセになってしまったのだろう。結果として浅い掛かりになってしまったのだと思う。ナナマルは対岸のバンク際、姿の見えない場所に身を潜めてしまった。

ハチマル


ナナマルにフライを喰わせるところまで持ち込みながらランディングできなかったことは残念だが、狭い流れでマスを走らせてランディングすることができない忍野では、大型魚のランディングは喰わせるのと同様に難しい。「半分成功…」そう自分に言い聞かせ、今シーズンは翌日からの強い雨で終了かと思っていたのだが天候は好転。一日空けた9月29日にもう一日釣行のチャンスを得られそうになったことで、前日に数本の新しいガードルバグを巻き足して準備を整えた。

ナナマルは大きく動かず、まだあのポイントに定位しているのだろうか?[忍野フィッシングマップ:漁協駐車場前]から入渓し、ロッドとリーダーシステムに慣れるため、途中でライズをからかいながら、数尾の釣果を得た。「ナナマルに固執せず釣りを楽しめばよい」と頭では思ってはいるのだが、やはり釣師の端くれとして大型魚は気になる…。テニスコート裏のポイントまで釣りながら少しずつ歩き、ナナマルの定位していたポイントからだいぶ遠い距離で視線を向けると…いた!

上の画像と比較するとナナマルの定位している位置がわずかながら下流に動いていることがわかるだろうか?

鮮やかなレッドバンドが遠く離れた位置からもハッキリと見える。
まっすぐに立ち止まることなくナナマルの前に立つと、2日前よりも定位している位置が30cmほど下流に移動していた。前回、上流側にある障害物とマスとの距離が短く、「もう30cmでよいから下流に定位してくれていたら投げやすいのだけれど…」と考えていたので、一気に期待感の高まる自覚があった。「冷静に慎重に」と自分に言い聞かせながら、思い通りのプレゼンテーションを決めるのに15分ほど時間を費やした。

新しく巻いたガードルバグがよい位置に根掛かりすると、ナナマルは身をよせてきて咀嚼するような挙動でフライを咥えた!
今度はうまく決まったアワセと同時に、ナナマルは激しく頭を振って上流にある障害物に突っ込んだ。ここで切られていても不思議ではなかったが、数歩下流に移動しプレッシャーを掛けると何とか引きずりだすことができた。

一度は姿が見えなくなるまで障害物に突っ込まれたにも関わらず、どこにもラインが絡まなかったことは幸運以外の何ものでもないと思える。もう一つ、最大の幸運は友人の大塚さんが近くで釣っていたことだ。大塚さんの自作したランディングネットは頑丈なアルミ製の長いハンドルが特徴的なラバーネットで、過去に50cmを超えるマスを何度もすくってもらっている。

大塚さんの足元で激しく抵抗するナナマルに二人で怯んだ…

自分で結んでいるハンドタイドリーダーの強度を信じてやり取りした

ナナマルは上流に向かってすべてのフライラインを2度引き出した。もし下流に走られていたら間違いなくランディングは不可能だっただろう。下流で流れは大きく曲がり、岸辺には樹木が密生し追いかけることができない。予想以上のサイズでネットに収まりきらず苦労したが、最後はたまたま魚体が丸まったタイミングでネットが差し出されて決着がついた。

ワニのようなフォルムのオスのニジマス

長さもさることながら体高と重量感が凄まじい

ロングシャンクに巻かれたフライが異様に小さく見える巨大な口

ネットに入れたままの蘇生は無理だと判断し、最も近い足場のある場所まで大塚さんとネットを支え走った。上流に向けてマスの口元で水をかき混ぜるように魚体を支え、充分に回復し自ら泳ぎ出すのを待つ間、私はナナマルに対し畏敬の念を抱いていた。忍野フリーク達を魅了したナナマルは果たして本当にナナマル(70cm超)だったのか?メジャーをあてるとナナマルの正体はハチマル(80cm超)だった…。

これほどまでに育ったニジマスが忍野に泳いでいる。あらためてこのフィールドの奥深さを感じずにはいられない印象的な閉幕となったが、気持ちはすでに来シーズンへと向かっている。

時間をかけて丁寧に蘇生するよう手を尽くした

「水生昆虫の羽化とマスのライズ」。
忍野は「これぞフライフィッシング!」といえるような、マッチ・ザ・ハッチの釣りを体験できるフィールドである。
マスを目視し、投じたフライへの反応を見て、フライを口にさせるまでの一喜一憂を楽しんでみてはいかがだろうか?

毛鉤メモ: ガードルバグ


クラシックなアトラクター・ニンフの代表的なパターンを使用した

シェニールとラバーレッグで巻かれたシンプルなガードルバグが効いた。
ロングシャンクの10番フックに巻かれているが、シャンクいっぱいにウェイトが巻き込まれている。かつてはなかった細いラバーレッグを巻きとめたが、何本かのラバーは鋭い歯によって噛みちぎられてしまった。米国ではマテリアルの色調を変えることで、大型のストーンフライニンフとして販売され、長く生き残っている効果的なパターンといえるだろう。


2024/10/8

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最新号 2024年12月号 Early Autumn

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