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忍野ノート2024

VOL.1 3月16日

佐々木岳大=文と写真

今年も湧水の流れでマスとの知恵比べを楽しめるシーズンが始まる

《Profile》

佐々木 岳大(ささき・たけひろ) 1974年生まれ。神奈川県南足柄市在住。ホームグラウンドは地元の丹沢など。C&Fデザイン社に勤務。マッチング・ザ・ハッチの釣りのほか、ドライフライ、ニンフを使った小渓流の釣りも得意としている。
 

忍野村を流れる桂川が解禁となった翌日の3月16日、私の住む神奈川県西部では朝10時には気温が15℃まで上昇し、小春日和と呼ぶにふさわしい天候となった。

厚く雪を被り、銀色に光る富士山を横目に、快適なドライブで忍野村をめざす。例年同様、まずは地元のフライショップ「リバーズエッジ」に立ち寄り、遊漁証を手に入れた。今年は忍野を管轄する忍草(しぼくさ)漁協の遊漁料金が改定された。年齢や性別によって価格が異なるのは従来通りなので、事前に自分がどの料金の対象となるのかを確認してから購入するとよいだろう。

忍野解禁直後の装備


ぬかるんだ足場はわずかな傾斜でも良く滑るために注意が必要


上流からようすをみてみようと考え、[忍野フィッシングマップ:漁協駐車場]に移動し、釣り支度を整える。
地元の漁協組合員から事前に聞いていた話では、忍野村では3月5日にまとまった降雪があり、解禁直前の3月12日にもわずかながら降雪があった。

川沿いの日影に残る残雪は、前日の解禁日に多くの釣師に踏まれ、足場はかなりぬかるんでいるようすが見てとれる。しばらくは長靴、もしくは防水タイプの滑りづらい靴を用意することをおすすめしたい。
足が濡れていない状況でも、底冷えの厳しいコンディションとなることもあり、雪をたたえた富士山からの風が耐え難いほど冷たいこともめずらしくない。標高の高い忍野村では4月いっぱい、ゴールデンウイーク頃までは防寒に関する準備を怠るべきではない。

サイトニンフィング・ヘビーウエイト編


茂平橋からの新名床川の合流点と冠雪の富士を望む

漁協の駐車場から、マスの魚影を探しながら[忍野フィッシングマップ:茂平橋]まで歩く。途中、放流魚のたまっているポイントには、それを熱心にねらうフライフィッシャーの姿があるが、マスの姿はどのポイントでも確認できるわけではなさそうだ。釣り人のいない場所で魚影を見つけることができない。

支流・新名床川の合流点上流でようすをみていると、左岸の護岸がつくりだす日影から1尾のマスが姿を見せた。再び日影の中に戻ってしまったが、一度見えてしまえば、不思議とその後は明確に見えるようになるものだ。日影のバンク際に定位するマスのようすをじっくりと観察する。

ヒレのとがったマスで、45cmくらいはありそうだ。流下はないようで、水中での捕食行動も見られない。ユスリカのわずかな群飛が見られるのと、まれにストーンフライの姿が確認できるが、ライズを引き起こすほどの水生昆虫が流下している気配は感じられない。

護岸にべったりと張り付くように定位し、たまに流下を確認するかのように姿を現わしては戻っていくニジマス

マスが目視できているので、距離はだいぶあるが、#18のトロスズニンフを結びサイトニンフィングで挑戦してみることにする。
しかし何度かプレゼンテーションしたフライは、見た目以上に水深があり、護岸に沿って重たい水の流れる底付近に定位しているマスまでは沈下していないようだ。地味で小さなニンフパターンを目視することはできないが、マスの挙動から状況を予想することもサイトニンフィング醍醐味だと思う。

余分にラインを出し、フライを充分に沈めるためのスラックを与えられるとよいのだが、先述したとおりマスとの距離が離れていて難しい。ロールキャストで何とか届くといった距離感なので、細かいトリックキャストを加えたプレゼンテーションは自分の力量外であると思えた。そこで、ビーズヘッドの付いた、小型ながらも充分な量のウエイトを仕込んだニンフパターンに結び変えることにした。

ロールキャストで投げるヘビーウエイトのニンフパターンは、自重でターンオーバーしようとする作用が働き、思っている以上に距離が出る。かつ、高い位置でオーバーターンし、タックキャストぎみのプレゼンテーションになりやすく、うまくいけば着水と同時に一気に深い層までフライを沈めることができる。
距離が離れているのになぜ重たいニンフ?と思われたかもしれない。しかしシーズン初期、マスの頭上に覆いかぶさる木枝がなく、充分なスペースがあるのであれば、試してみる価値があるメソッドだ。

今回は#16のショップバックニンフが、マスの1mほど上流、ちょうど日影と日向の境目に1投目で理想的な着水をした。着水音に反応したマスは勢いよくフライに寄ってきたのだが…、フッと視線を外してフライを見切るなり、脱兎のごとく上流に泳ぎ去って見えなくなってしまった。ドラッグを見切られた可能性も否定はできないが、私にはゴールドビーズが嫌われたような印象の逃げ方に見えた。

サイトニンフィング・ノーウエイト編


ビーズヘッドが黒だったならば、さっきのマスはフライを咥えただろうか…?
あらためて忍野でのフライ選択の奥深さを実感しながら、茂平橋を渡り下流へと歩を進める。橋の下流15mほどの場所、すぐに次のチャンスが訪れた。浅い砂地のど真ん中、目立った藻などもない。足場の高いポイントで、マスのようすは明確に見てとることのできる状況だ。

目測で40cmほどに見えるニジマスはリラックスして定位しているように見える。しかし背後には私有地との境界に植えられた背の高い垣根があり、バックスペースはほぼゼロに近い。おまけに流れと自分の間には、胸の高さほどの葦がしげっている状況である。
プレゼンテーションの難易度は高そうだが、フライさえマスの口元に届けられれば反応を得られそうな雰囲気だ。水深は50~60cm程度と浅く、流速もニジマスが捕食行動をとるのに最適な適水勢に思える。

明るめの茶色っぽい砂地の川底にマスが定位しているようすを観察していて、ひとつのパターンが頭に浮かんだ。ヘビーワイヤで重量のあるTMC3769に巻かれ、ウエイトは巻き込まれていないが、スレッドの代わりにコパーワイヤを使って巻かれた#14のキラーバグだ。
ほどよい重量感と、「川底の色に同化するようなカラー」がマスに違和感を与えないのではないかと考えた。

左手でフライを保持したまま高い位置でロッドを振り、フォワードキャストでロッドを止めるのと同時にフライを離す。
特別なプレゼンテーションのように思われるかもしれないが、小渓流で誰もが無意識に使っているテクニックなのではないだろうか。キャスト後もロッドを高い位置に保つことで手前の葦をかわしたつもりだったが、視界の隅でとらえているロッドティップ付近のラインが葦に引っかかってしまっている…。
だが幸運にもフライはニジマスの口元に向かって沈下しながら流れ、マスが素早い動きで10cmほど横に動くと同時に口を開けた!

フッキングと同時に上流側に移動し、葦をうまくかわして勝負あり

フッキングの動作で、葦にとられていたフライラインも外れてくれた。ニジマスは予想以上に強い引きでネットインに失敗したりもしたが、最後は気持ち長いハンドルのランディングネットがおおいに役立った。長さこそ40cmほどではあるが、ヘルシーな容姿の魚体が嬉しい、記念すべき今シーズンのファーストフィッシュとなった。

ねばり強い引きも納得の尾ビレ

新調した忍野用ランディングネットですくった最初の一尾

「水生昆虫の羽化とマスのライズ」
忍野は「これぞフライフィッシング!」といえるような、マッチ・ザ・ハッチの釣りを体験できるフィールドである。
マスを目視し、投じたフライへの反応を見て、フライを口にさせるまでの一喜一憂を楽しんでみてはいかがだろうか?

毛鉤メモ:キラーバグ



ヤーンをよじって巻きつけることではっきりとした体節ができる

キラーバグ用のウールといえば「チャドウィックス477」という超入手困難なマテリアルが有名である。
しかし近年、いくつかのメーカーがそれに似せたヤーンを販売するようになった。本物を使ったオリジナルにこだわるのもよいが、私は代用としてこれらのマテリアルをありがたく活用させて貰っている。

ヤーンを適度によじって巻くことで、体節のはっきりしたキラーバグを巻くことができる。私はパラシュート用のハックルプライヤーを使用し、撚りをコントロールしてタイイングしている。吸水性のあるボディーが含む水分量を意識することで、ノーウエイトでもある程度深い位置まで沈めることができる。



2024/3/28

最新号 2024年6月号 Early Summer

【特集】拝見! ベストorバッグの中身

今号はエキスパートたちのベスト/バッグの中身を見させていただきました。みなさんそれぞれに工夫や思い入れが詰まっており、参考になるアイテムや収納法がきっといくつか見つかるはずです。

「タイトループ」セクションはアメリカン・フライタイイングの今をスコット・サンチェスさんに語っていただいております。ジグフックをドライに使う、小型化するフォームフライなど、最先端の情報を教えていただきました。

前号からお伝えしておりますが、今年度、小誌は創刊35周年を迎えております。読者の皆様とスポンサー企業様のおかげでここまで続けることができました。ありがとうございます!


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