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Little Bell

忍野ノート2024

VOL.3 4月6日

佐々木岳大=文と写真

ハッチの期待できる曇天の日を選んで釣行した

《Profile》

佐々木 岳大(ささき・たけひろ) 1974年生まれ。神奈川県南足柄市在住。ホームグラウンドは地元の丹沢など。C&Fデザイン社に勤務。マッチング・ザ・ハッチの釣りのほか、ドライフライ、ニンフを使った小渓流の釣りも得意としている。
 
雨こそ降っていないものの、ハッチの期待できる曇天模様。例年であれば、そろそろエラブタマダラカゲロウのハッチが盛んになる頃だ。
関東の低地ではソメイヨシノがまさに満開となった週末、水面を賑やかにしてくれるハッチに期待が高まる。

見えない捕食対象




正午前、臼久保橋(通称:自衛隊橋)から上下を見渡し、あまり人の多くなさそうな上流側へ向かうことにする。2週間前の釣行では見られなかった、眩しいくらいに黄色く咲き誇った水仙が出迎えてくれる。
水面上の波紋が見つけられぬまま、[忍野フィッシングマップ:ポイント写真16]通称:S字1つ目のカーブまで来た。

まだ継いでいないロッドを片手に様子を見ていると、対岸で2尾のマスが散発なライズをしている。水面には時折オオクママダラカゲロウのダンが流下している様子が見てとれる。ライズの主は大きくは見えないのだが、まるで流下物を上から抑えこむかのようなライズで、捕食音からは重量感と迫力が感じられる。

この日のポイント全景。画像右側の対岸沿いにライズが2つ確認できた

タックルを組み上げ、ティペットを継ぎ足しながら流れの様子をうかがう。
水面上を風に流されながら流下するオオクマを見ていると、マスの捕食の餌食にならず、無事に飛びたつ個体が目につく。水面に高くのっているオオクマのダンを捕食しているのならば、私にも捕食対象物が見えるはずだ。しかし、ライズの頻度、ライズフォームからオオクマを捕食しているのではないかと仮説を立てフライを選んだ。

オオクマの羽化途中をイミテートしたクリップルダン

6Xのフロロカーボンに結んだフライは、オオクマの羽化途中の一瞬をイミテートしたクリップルダン。14番のフックに巻かれているが、ウイングとハックルにボリュームを持たせてあるため、1サイズ大きく感じられるのが特徴的な1本である。さらに、捕食対象物が見えないことから、低く浮いている流下物にマスが反応していると考察し、ハックルの下側をトリミングして水面に張り付かせることにした。

足場の関係でライズ地点の真横、クロスの位置からのネガティブカーブで、大きなメンディングでラインを上流側に置きかえたアプローチ。結果は2投目ですぐにでた。スラックがほどける前に反応があり、大合わせでラインのテンションが張るまでもたついたりもしたが、ランディングできたのは美しい容姿の小さなニジマスだった。

レッドバンドと黒点の美しいニジマス

予想通りオオクマが捕食されていた

ストマックポンプが吸い出したのは、ウイングの縮れたオオクマのダンが2つと、羽化失敗個体が1つ。
また陸生昆虫のオオヒラタシデムシの幼虫と思われる捕食物が、1つではなく2つ確認されているのも興味深い。オオクマのダンに関しては、捕食対象が見えなかったことから、マスの胃のなかでウイングが縮れたのではなく、DD(ドラウンド・ダン)として流下してきたものを捕食したのではないかと推測できる。

2尾目は画像右奥、木の根元付近でライズしていた

ライズは2箇所で確認していて、もう1尾のマスも忘れた頃にライズする。1尾目のマスより対岸のバンクにベッタリの位置で、ライズ頻度には10分以上の間隔がある。
根拠は経験としか申し上げられないのだが、バンク際でライズするマスは、たとえそれが散発のものであったとしても、フライへ反応しやすい個体も少なくないと思っている。

1尾目が咥えたクリップルダンを流すと、フライを見にきてUターンされ、水面が歪んで大きく揺れた。次に結んだものは、コカゲロウサイズのコンパラダン#20。小さなライズで音もなく吸い込んだが、下流へ下ろうとしたのを強引にとめようとした瞬間にフックを弾き飛ばされてしまった…。

空振り連発のフラストレーション


忍野村の放送が正午を知らせた頃から、画像2枚目の左側でもいくつかのマスがライズを始めた。
ここから30分、ドリフトを繰り返す各種オオクマパターンへの反応が急に良くなったが、空振りを連発して頭を抱えた。1尾目と2尾目がフライを受け入れてくれたことによる「フライはあっているはずだ」という固定概念から、私は状況判断するための観察を怠った。

ライズの頻度には波がありピークには連続してライズする光景が見られた

明らかに何かが間違っている…。
フライには反応していることもあり、そう確信するまでに随分と時間をかけてしまった。派手なライズと、手応えのないアワセで完全に冷静さを欠いていたのだ。
一旦、リールにラインを巻きとり、荷物も降ろしてライズの周辺を観察する。

まだオオクマのダンもときおり確認できるが、ライズの間隔と一致していないように思えた。オナシカワゲラと思われるストーンフライが飛んでいる姿も見られるが、これが捕食されているようにも思えない…。
そうこうしている間にもライズは続き、ライズ音が聞こえるたびに気持ちは焦るばかりだが、今のままでは何も変わらない。

ふとライズ地点周辺から目を離し、下流から上流へ視線を動かしたとき、川底が黒く見える付近の空中でオリーブ色の小さなものが上流に向かって飛んでいるように見えた。目をこらして見ると、オリーブ色に見えたのはオオクマのスピナーが抱える卵塊で、まとまった数のスピナーが今にも落ちそうな低空飛行で飛んでいることに気がついた。

間違いない。そう気が付いてしまえば、ピーク時の高頻度のライズは、スピナーが流下しているときの集中ライズそのものである。
オオクマのスピナーパターンは持っていなかったが、パラシュートが1本見つかったので、スピナーのシェイプを意識してハックルをトリミングすることにした。

ハックルをトリミングしたオオクマを意識したパラシュートパターン

スタンダードフライの実力


確信をもって投じたオオクマ・パラシュートだったが、鼻先を付ける確認ライズまでは持ちこめるものの、口を使わせるまでには至らなかった…。再度フライボックスを見てみるものの、それらしいフライは見当たらない。

サイズが16番とオオクマにしてはひと回り小さく感じられたが、使い古したアダムスが1本あり、試してみる価値があると思えた。ウイングを強引にひらいて、ハックルの上下をトリミングすればスピナーパターンとして機能するのではないかと考えたからだ。
これが期待以上の効果を発揮した。この場所でライズしていたマスすべての口辺をとらえ、ネットに導くことができた。

どのマスの胃の内容物からもオオクマのスピナーが確認され、生きている個体も多く、捕食間もないことの査証となった。実物よりも一回り小さなアダムスがなぜ効いたのだろうか?
クリップルやコンパラダン、パラシュートと、投じては拒絶されたパターンのサイズはアダムスよりも実物に近い。シルエットなのか?ハックルティップが揺れ動くことで捕食を促したのか?確信のもてる明確な理由が思い当たらない。

アダムスが効果的だった理由は今後の課題として残されるが、100年以上の歴史を持つクラシックなスタンダードパターンに救われた。

苦労しただけに嬉しい手応え

サイズに見合わないヒキの強さをもつニジマス

捕食のトリガーは十字のシルエットなのだろうか

翅を震わせまだ生きているスピナーもいくつか入っていた

本物と比較するとウイングがだいぶ小さく思えるのだが…

エラブタマダラカゲロウのサイズ


今シーズンはじめてストマックから捕食が確認されたエラブタマダラ

オオクマのスピナーに混じり、エラブタマダラの捕食が今シーズン初めて胃の内容物から確認できた。
これからの季節、ライズ攻略の鍵となる重要種の1種となることは間違いないと予想されるが、用意するフライのサイズには注意が必要だ。

この日、捕食されていることが確認できたエラブタマダラのボディー長は、TMC100を基準とした場合、16番相当だった。ここ3年のデータの中では圧倒的に大きい。実際のタイイングでは、フックに巻きとめるマテリアルのボリューム感も考慮する必要があり、16番から20番くらいまで、サイズの幅をもたせて準備すれば完璧だろう。

私は過去3年分のストマックサンプルを保存してあり、あらためて昨年のエラブタマダラのサンプルとサイズを比較してみたが、サイズの違いは歴然だった。気になる方は、昨年の本連載を再読いただければ、私が昨シーズン使用していたフライとのサイズの違いがお分かりいただけると思う。

「水生昆虫の羽化とマスのライズ」。
忍野は「これぞフライフィッシング!」といえるような、マッチ・ザ・ハッチの釣りを体験できるフィールドである。
マスを目視し、投じたフライへの反応を見て、フライを口にさせるまでの一喜一憂を楽しんでみてはいかがだろうか?

毛鉤メモ:アダムス


上下のハックルをカットしウイング強引に左右にひらいてシルエットを調整

使えるティペットの長さや太さに制約の出てしまうアダムスは、忍野では決して使い勝手のよいパターンではないかもしれない。それでも私が好んで使用する理由は、使いこなせれば効くと感じているからに他ならない。

パウダー状のフロータントで爪先立ちのように浮かせたり、トリミングしてフロータントを使用せずサーフェイスフィルムの下を流したり。
ラインクリッパーでもよいが、安全に持ち運べる小型のハサミがひとつあれば様々なシェイプを作り出すことができる。視認性は高くないが、順光でも逆光でも何とか視認できるアダムスは、刻々と光の状態が変化するイブニングの釣りでも重宝する。


2024/4/15

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最新号 2024年12月号 Early Autumn

【特集】マスのきもち

朱鞠内湖のイトウ、渓流のヤマメ、イワナ、忍野のニジマス、九頭竜川サクラマス本流のニジマス、中禅寺湖のブラウントラウトなど、それぞれのエキスパートたちに「マスのきもち」についてインタビュー。

色がわかるのか、釣られた記憶はいつ頃忘れるのか、など私たちのターゲットについての習性考察していただきました。

また、特別編として、プロタイヤーの備前貢さんにご自身の経験を、魚類の研究に携わる、棟方有宗さんと高橋宏司さんに科学的な見地から文章をいただいています。

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「タイトループ」セクションでは国内のグラスロッド・メーカーへの工房を取材。製作者たちのこだわりをインタビューしています。


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