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忍野ノート2024

VOL.2 3月23日

佐々木岳大=文と写真

春の小雨に小型マダラカゲロウのハッチを期待したのだが…

《Profile》

佐々木 岳大(ささき・たけひろ) 1974年生まれ。神奈川県南足柄市在住。ホームグラウンドは地元の丹沢など。C&Fデザイン社に勤務。マッチング・ザ・ハッチの釣りのほか、ドライフライ、ニンフを使った小渓流の釣りも得意としている。
 

しっとりとした小雨の降る週末。気温は低いが、高い湿度であまり寒くは感じられない。忍野村に向かう道中、国道の掲示板には「籠坂峠降雪」の表示がある。忍野村在住の友人に電話で現地の天候を確認すると、小雨が降ったり止んだりしている状況らしい。
まだ季節的には少し早いような気もするが、小型のマダラカゲロウのハッチが期待できるかもしれない。降雪の国道を避け、須走から有料の東富士五湖道路を使って現地入りすることにした。

コンパラダンとCDCダン


散発ながら心躍るライズに気持ちが焦る!


正午頃、[忍野フィッシングマップ:ポイント写真26]通称:C&Fキャスティングレンジ上流 からようすをうかがうもライズは見られない。川底にも魚影が見られないため、5分ほどで見切りをつけ、そのまま右岸を下流側に向かうことにする。

[忍野フィッシングマップ:金田一の赤い橋跡]に差し掛かると、探すまでもなくライズリングが目に入ってきた。しかし流下はまとまった量ではないようすで、散発なライズだけで後が続かない。とはいえ、上流に水生昆虫を育む、川底が溶岩帯でできた瀬のあるこの場所では、ハッチの時合いともなればライズを誘発する流下が期待できる。

リールからフライラインを引き出し、リーダーシステムを組んでいる間にも、淡黄の小さなメイフライがいくつも上流からの風に流されていく。

淡黄に見えるメイフライの正体は小さなコカゲロウだった

22番のコンパラダンを6Xに結んでいる間に起きた次のライズは、間隔にして3~5分ほどだっただろうか?
最初に目撃したライズの位置をきちんと確認できていなかったため、マスが同じ場所に定位してライズしていたのか判断ができない。
さらに数分のライズ待ちで、ようやく魚が定位している確信を持つことができた。しかし、今シーズン最初のライズゲームで冷静さを欠いていた私は、ここで重大な過ちを犯し、自ら釣りを難しくしてしまった。

ややアップクロスの角度から、下流側にフライをフックさせたプレゼンテーション。ライズ地点にフライファーストで綺麗に流れたと思えた1投目。
コンパラダンにピシッ!と水面が弾けた。上流側に小さく手を返してアワセをくれたが、残念ながら何の手応えも得られなかった。
そして冷静さを欠き、即2投目を投じ、まったく同じように空振りをした…。

ミスを連発し、ようやく何かが間違っていることに気が付き、先に流下を確認するべきだったと思いはじめた。幸いライズは継続しているが、警戒心を高めてしまったことは間違いないだろう。

私が首から吊るして使用しているチェストパッチ。コンパラダンへの依存度の高さがわかる

足元の流れで流下を確認する。しばらくして流下してきたのはコカゲロウで、先ほど捕まえたものと同種に見える。
ティペットに結ばれたコンパラダンよりも若干ながら小さく、何よりも細い。コンパラダンは浮力の持続性と視認性に優れるが、アブドメンが太くなりがちなパターンと言えるかもしれない。明らかにボリューム感が異なる。

その点、CDCダンはウイング素材がかさばらず、コンパラダンよりも軽量で繊細にタイイングがしやすいのが特徴だ。コンパラダンはボディーの太いマダラカゲロウのイミテーションに向くが、スレンダーなコカゲロウのシェイプに仕上げるのは難易度が高い。どちらが優れているかと考えるよりも、うまく使い分けるべきだと考え、私は両方のパターンを携行している。

午後2時頃までに、コカゲロウは波のあるハッチで数度のピークにライズを誘発した。
その間に#24のCDCダンを4尾のマスに受け入れて貰うことができたが、3尾連続でバラすという失態を繰り返して頭を抱えた!
4尾目は良型だったが、フッキングと同時にすさまじい初速で川底の藻をくぐりぬけ、6Xはあっけなく引きちぎられた…。ツキに見放されただけなのか、単に腕がないだけなのか?せめて答えが両方であって欲しい。

救世主・オオクママダラカゲロウ


コカゲロウで苦行のような釣りをしたものの、この日はコカゲロウのハッチの合間に起きたオオクマのハッチに救われた。コカゲロウ同様に波のあるハッチで、2時間ほどの間に、10分にも満たない短い流下が2度あったと感じている。

コカゲロウの流下に反応しているマスがライズしている地点とは別に、流れの真ん中で風にあおられたオオクマが派手な水飛沫で捕食されるシーンを何度か目撃した。私は同じ地点でライズが2度起こったタイミングで#14のオオクマを模したコンパラダンにフライ交換し、小型ながらも美しい、2尾のニジマスの釣果に恵まれた。

体側のピンクが美しいコンディションの良いニジマスがオオクマパターンに反応してくれた

ストマックポンプを使い捕食物を確認すると、ポツリとオオクマだけが吸い出された。ニジマスはコカゲロウの流下には反応せず、頭の上でパタパタと動く大型のオオクマに思わず反応してしまったことが推測できる。

大型水生昆虫の流下がマスの意識を水面に向けてくれた

動きまわる本物を食いそこね、タイミングよく投じられたオオクマパターンに瞬時に反応してしまったニジマス

「水生昆虫の羽化とマスのライズ」
忍野は「これぞフライフィッシング!」といえるような、マッチ・ザ・ハッチの釣りを体験できるフィールドである。
マスを目視し、投じたフライへの反応を見て、フライを口にさせるまでの一喜一憂を楽しんでみてはいかがだろうか?

毛鉤メモ:CDCダン


同じフォルムながらウイング素材の異なるコンパラダンよりも繊細に仕上げやすい

よく知られている通り、CDCダンは本当によく釣れるフライだ。特に忍野のような流速の流れでは抜群の威力を発揮することも少なくない。

遠方から忍野を訪れる釣師に「フライは?」と質問を受ける機会があるたびに「CDCダン、極小から特大まで」と回答している。
実際に効果のあるフライだが理由はほかにもある。シンプルでタイイングの簡単なCDCダンは、短期間で多量のフライを用意したいと考える遠征者の事情にも無理がない。

私のタイイングのこだわりはソラックスにヘアズイヤーのファーをダビングすることである。CDCダンは水面に軽く乗る特性上、水面上のヨレの影響を受けやすいパターンである。硬めのガードヘアーを含んだヘアズイヤーは、吸水性もありドラッグヘッジ効果が期待できると思っている。


2024/4/12

最新号 2024年6月号 Early Summer

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今号はエキスパートたちのベスト/バッグの中身を見させていただきました。みなさんそれぞれに工夫や思い入れが詰まっており、参考になるアイテムや収納法がきっといくつか見つかるはずです。

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