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WILD LIFE

忍野ノート2023

VOL.8 6月3日

佐々木岳大=文と写真

まるで台風一過のような青空がひろがっていた

《Profile》

佐々木 岳大(ささき・たけひろ) 1974年生まれ。神奈川県南足柄市在住。ホームグラウンドは地元の丹沢など。C&Fデザイン社に勤務。マッチング・ザ・ハッチの釣りのほか、ドライフライ、ニンフを使った小渓流の釣りも得意としている。
 

最上流部に向かった根拠(1)


16時過ぎ、忍野上流部を釣るのに便利な漁協駐車場に到着し、[忍野フィッシングマップ:漁協駐車場前]の流れを確認する。
どうやら水源のひとつである山中湖からの放水は絞られたようで、濁りは笹濁り程度、25cm程度の増水で釣りには問題がなさそうだ!

今シーズン、現時点では駐車場前の堰堤から上流部に漁協の放流はないと思われ、魚影が薄いのは承知の上だが、少し下流の[忍野フィッシングマップ:茂平橋]で合流する支流、新名床川からは濁りの流入が予想され、合流点よりも上流でライズを探すのがよいと考えた。

こんな日はねらえるライズがひとつあるだけでも充分に満たされる

魚影が薄いとはいえ、マスがいないわけではない。
駐車場の少し上流、流れが大きく曲がり、オーバーハングした樹木が流れを覆っているポイントではライズが確認できる。
しかし、放流がないことで人影が遠のき、フライフィッシャーの姿を見慣れていないこの場所のマスは、プレゼンテーションが可能な立ち位置についた時点でゲームセットになることを私は知っている…。

だが、1尾のマスは普段のライズ地点よりも2〜3mほど下流、増水の影響で適水勢になった対岸側の流心でテンポよくライズしている。
上流にまわりこむ必要がなく、マスに気配を悟られない下流からのアプローチが可能なターゲットがいてくれたことが素直に嬉しい。

釣りを成立させてくれただけでも感謝!

アカマダラを模した#20のスパークルダンをパイロットフライに選び、マスのご機嫌をおうかがいしてみることにする。
フライサイズは大きくないが、レーンの上を帯状に流れる小枝などの雑多な流下物の中で、Z-lonのシャックが目立ちやすく、よいトリガーになってくれると考えた。

何度かプレゼンテーションを繰り返し、これは!と思えるドリフトも何度かあったのだが、マスからの反応は得られず、もっとフライの存在感をアピールしたほうがよさそうな気がしたので、フライを結び変えることにする。

#16のアダムスにフライを結び変えた1投目、着水して10cmも流れないタイミングで結果はすぐに出た。
思いのほか強いニジマスで、フッキングと同時にフライラインを引き出し何度も跳躍を見せてくれたが、数度目の跳躍で残念ながらフックを弾き飛ばされてしまった。
痛恨のバラしのような気もするが、釣りが成立し、楽しめたような喜びも感じられる複雑な心境である。

最上流部に向かった根拠(2)

惜しくもランディングまで持ち込めなかったが、警戒心が高く、これまでアプローチさせて貰えていないポイントのライズは続いている。
水も高く、濁りも残っているタイミングの今ならば、キャスティングできる位置に立たせてもらえるだろうか?

立ち位置まで大きく迂回し、息をひそめて低い姿勢で近づいたつもりだが、やはりライズは止まってしまった。自分以外の人影は見当たらないが、やはり今シーズンのこのポイントは一筋縄ではいかなそうである。

日向と日影の境目、今シーズンはまだ相手をさせてもらえていない…

さて、シーズンインから約2ヵ月半。
ここから上流は、その存在を認めつつ、毎回一投目に気配を悟られ、まともに勝負すらさせてもらえていない良型がいるエリアになる。
今回、このポイントを選んだ理由のもうひとつは、この良型にかかっていたプレッシャーが、昼まで降っていた大雨によってリセットされている可能性に期待したからに他ならない。

多くの釣り人によって川岸につけられた踏み跡をたどらず、後方に茂った草の裏側で慎重に歩を進めながら目を凝らしていると、上流を向いて左に流れがカーブしている先の方で「クポッ!」というライズ音が聞こえた。

解禁から今日にいたるまで、ニンフを良型から遠く離れた上流側に打ち、底ベッタリに定位しているターゲットまで長いドリフトをするアプローチばかりとってきたが、まさか浮いているのか…?と考えるだけで一気に緊張感の高まる自覚があった。

身を乗り出して覗き込みたい衝動をおさえ、這うような姿勢でバンクから生えている立木の茂みの中に潜りこみ、音の聞こえる方向をうかがった。
ニジマスであることは確認済みで間違いないのだが、何かの拍子にヒラを打つような動きをすると、まるでブラウントラウトのように魚体が黄色く見える個体。
1分に一回程度の散発なライズではあるが、この黄色く見える個体が水面まで浮いてくる姿を確認できたのは今日が初めてだ。

可能性を期待せずにはいられないライズ。緊張する!

茂みの中でジッと様子をうかがっていると、この体色が黄色く見えていた個体は、自分が思っていたよりも大きいことに気が付いた。
マスに対してクロスの位置にスペースがあるのだが、そこに立てば捕食行動が止まることは容易に想像がつく。

マスに気配を悟られずラインを伸ばせる位置は、少し下流に大きく茂った木立のわずかな隙間しかなく、もしフッキングに成功してマスに走られても、追いかけることはできない。
腰を落としたまま後ずさりし、結んである6Xのティペットを切り落とし、4Xを結びたい気持ちをグッとこらえ、ひとヒロの5Xを結ぶことにした。

1投ごとのフライローテーション

1投で決めるつもりで、先ほどマスに受け入れられたばかりの#16のアダムスを、マスの1mほど上流から流す。
ふんわりと、ゆるいスラックを与えるつもりのプレゼンテーションをしたつもりだったが、増水の影響で足元の流れが予想以上に重く、わずかながらフライラインがティペットを引いているようなドリフトになってしまった。

「やっちゃったな~…」と、今日もダメか…と思ったのだが、マスはチラッとフライの存在を認めたにも関わらず捕食行動を止めなかった。
やはり、強い雨の影響で普段よりも警戒心が下がっているのだろう。
今日釣れなければ、今シーズンこのマスを釣り上げることはない気がする…。

細心の注意をはらい、まだ1投しかしていないフライを結び変える。
しかし、足元の流れは想像以上にやっかいで、なかなか決定的なドリフトが決まらず、気持ちばかりが焦る。
動ける範囲で微妙に立ち位置をずらしたりはしてみるものの、それでもドリフトの精度を出せず、そのたびにフライを変えてアプローチを繰り返した。
かれこれ7〜8本のフライをローテーションしただろうか?

最終的には、フロータント処理していない、低く浮かせた#20のスパークルダンをマスはようやく受け入れてくれた!

禁漁区から下ってきたと予想される素晴らしいコンディション

トンボが食べられている!そろそろ本格的に夏用のパターンが効きはじめる季節なのかもしれない

暴力的なファイトだったが、幸運にも#20のフックが弾き飛ばされることはなく、なんとかランディングできたレインボーは素晴らしい魚体だった。
おそらく、忍野八海のひとつ「出口池」の禁漁区から下ってきて居付いた個体だと思われる。

このエリアの川底の環境は悪化の一途をたどっているように感じているが、このような神出鬼没の「禁漁区からの脱走マス」が出現する可能性を秘めている。
このことを知っているだけに、様子をうかがわないわけにはいかないポイントなのである。

「水生昆虫の羽化とマスのライズ」。
忍野は「これぞフライフィッシング!」といえるような、マッチ・ザ・ハッチの釣りを体験できるフィールドである。
マスを目視し、投じたフライへの反応を見て、フライを口にさせるまでの一喜一憂を楽しんでみてはいかがだろうか?

大マスが釣れていなければ充分喜べるサイズ

ストーンフライの捕食が目立つ

毛鉤メモ:スパークルダン

こんなに立派な尾ビレをもった大マスが、こんなに小さなフライを捕食する

春先の忍野で、どちらも重要種となるエラブタマダラとアカマダラだが、私がパイロットフライとして結ぶパターンは異なる。
エラブタマダラにはコンパラダンを使用する機会が多いのだが、アカマダラにはコンパラダンのテールをZ-lonのシャックに変えたスパークルダンを多用している。

真偽の程はわからないが、アカマダラは羽化時にシャックを引きずって流れる時間が長い印象を持っている。
もちろん、シャックを引きずっていることによるドラッグヘッジ効果にも期待しているし、場合によってはマテリアルがアトラクター効果を高めていると感じることもある。


2023/9/26

最新号 2024年6月号 Early Summer

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