忍野ノート2023
VOL.1 3月18日
佐々木岳大=文と写真《Profile》
佐々木 岳大(ささき・たけひろ) 1974年生まれ。神奈川県南足柄市在住。ホームグラウンドは地元の丹沢など。C&Fデザイン社に勤務。マッチング・ザ・ハッチの釣りのほか、ドライフライ、ニンフを使った小渓流の釣りも得意としている。
佐々木 岳大(ささき・たけひろ) 1974年生まれ。神奈川県南足柄市在住。ホームグラウンドは地元の丹沢など。C&Fデザイン社に勤務。マッチング・ザ・ハッチの釣りのほか、ドライフライ、ニンフを使った小渓流の釣りも得意としている。
3月15日、忍野村を流れる桂川(忍草漁協管内)が解禁し、今年も私の忍野詣がはじまった。
初回の釣行から忍野らしいマッチ・ザ・ハッチの釣りを堪能することができ、私の気持ちは一気に忍野モードに突入している!
今年も思うままにドップリと忍野の釣りを満喫し、その楽しさを当連載で共有したい。
ライズさがし
解禁から3日経過した最初の週末、自衛隊橋から望む忍野の流れには濁りがはいり、川底にいるであろうマスの姿は目視できない。上流へと歩を進め、通称:護岸上のストレート[忍野フィッシングマップ : ポイント写真17]から、通称:S字下流[忍野フィッシングマップ : ポイント写真16]までの区間、要所要所で足をとめてようすをうかがうもライズしているマスが見当たらない。
何度か往復してみるもライズは皆無で、そもそもこの区間にマスがいるのか?
シーズン最初の釣行なので判断がつかない。
インジケーターを使用したニンフィングでようすをみることが頭をよぎったが、今シーズン一尾目となるマスはライズを攻略して手にしたい!という気持ちが勝り思いとどまる。
歩く区間を広げ、支流 : 新名床川合流点にあたる[忍野フィッシングマップ:茂平橋]までようすを見にいくも、虫っ気もまったく感じられず、状況に変化はない。
ここまで何も起きないと、大きく移動した方が良いだろうと判断し、自衛隊橋までもどり下流の状況を見にいくことにする。
しかし、ずぶ濡れになって護岸上のストレートを通りすぎようとした時、雨の雫がつくる波紋よりも、少し大きめの波紋がひろがったような気がした。
対岸から張り出した枝の下、時折ひろがる波紋がどことなく疑わしい。
疑いの目で見ていても、枝から落ちている雫が大きな波紋をつくっているように見えるのだ。
「違うか…」と水面から目を離そうとしたとき、間違いなく重量感を感じられる波紋が広がった!
さらに5分ほどライズ地点を注視していると、今度は魚影が微かながらに確認できる位置までマスが浮上した。
この救いの一尾に、「あぁ…ようやく!」と思った正午前、複数のマスがいっせいにライズをはじめたではないか!
流下物の仮説
まるで、本当にスイッチを押したかのように、急にライズがはじまった!複数のマスが競い合うようにライズする光景から、完全に捕食に夢中になっているようすが窺い知れる。
素晴らしい!という感動と、なぜ急に!という疑問を感じられずにはいられない展開にためらうも、どのくらい続くライズなのか確証がない以上、フライ選択のために何かしらの仮説を立てる必要がある。
先に記した通り、虫っ気は今もまるで感じられない。
水面の流下も、水生昆虫の目立った飛翔も見られないのに、いったいマス達は何の流下に夢中になっているのだろうか?
私がエラブタマダラのイミテーションとして、#20のコンパラダン(ライトオリーブ)を最初に結ぶに至った根拠は以下の通りである。
1)過去の経験から、春先の忍野でエラブタを捕食するマスは、高い位置に浮いて定位しないのが特徴的であると感じていた。
2)虫っ気が薄いと感じているにも関わらず、マスたちは私の目視できない水面付近の流下物を捕食していることから、DD率が高いと感じているエラブタの捕食を疑った。
※DD(ディー・ディー):ドロウンド・ダン=溺れたダンの意。
ライズを繰り返すマスは完全に狂っていて、一瞬オッ!と思わせる拒絶のそぶりを見せはしたものの、すぐさま下流に追尾し、私のコンパラダンをバサリ!と咥えてくれた。
ここまで期待感が持てない時間が長かっただけに、一投でライズを攻略できた喜びは大きく、さらに採取したストマックは、私を喜ばせるには十分な捕食内容だった。
ライズは、正午頃から数度の短いピークがあり、90分ほど継続した。
数尾の釣果に恵まれたが、どの個体の捕食物も主体はエラブタだった。
また、飛翔している姿は見られなかったが、オオクママダラの捕食も少量ながら確認された。
今後、#12や#14といった、忍野にしては大型のフライを使った釣りが楽しめることに期待したい。
水生昆虫の羽化とマスのライズ
忍野は「これぞフライフィッシング!」といえるような、マッチ・ザ・ハッチの釣りを体験できるフィールドである。マスを目視し、投じたフライへの反応を見て、フライを口にさせるまでの一喜一憂を楽しんでみてはいかがだろうか?
毛鉤メモ:コンパラダン
小さなサイズでは、ウイングのディアヘアを巻きとめた位置がボッテリしがちなドライフライだが、エラブタのボディーもボッテリしているのがありがたい。
CDCで実物に似せた黒っぽいウイングものや、視認性を優先したカラーで巻いたものも用意しておくとよいだろう。
実際に捕食されていたエラブタは#18相当のサイズだが、私は巻きとめるマテリアルのボリューム感を配慮し#20のフックに巻いた。
2023/4/13