忍野ノート2023
VOL.7 5月21日
佐々木岳大=文と写真《Profile》
佐々木 岳大(ささき・たけひろ) 1974年生まれ。神奈川県南足柄市在住。ホームグラウンドは地元の丹沢など。C&Fデザイン社に勤務。マッチング・ザ・ハッチの釣りのほか、ドライフライ、ニンフを使った小渓流の釣りも得意としている。
佐々木 岳大(ささき・たけひろ) 1974年生まれ。神奈川県南足柄市在住。ホームグラウンドは地元の丹沢など。C&Fデザイン社に勤務。マッチング・ザ・ハッチの釣りのほか、ドライフライ、ニンフを使った小渓流の釣りも得意としている。
陽射しの強い晴天の日の日中も、標高の高い忍野は湿度が低く過ごしやすい。
どのポイントでもライズが見られるほど、まとまったハッチがある訳ではないのだが、川岸を行ったり来たりして、ライズがあれば狙ってみたり、深場の底にはりつく大型魚が見つけられれば、超ヘビーなシステムでサイトニンフィングを楽しんだりして日中を過ごした。
時おり、メイフライのスピナーが流下する時間帯があったりもするのだが、特定種のハッチがまとまらない印象で1日が終わりそうな気配だったのだが…。
鼻先を出さないライズの群れ
午後、上流から下流まで数時間かけて移動しながら釣ったのは、逆に言えば足を止めて狙うポイントがなかったと言えるのかもしれない。
1尾釣っては移動を繰り返し、何となくダラけた印象で【忍野フィッシングマップ:護岸上のストレート】を通りかかると、護岸のすぐ上流ポイントにフライフィッシャーの姿がない。
陽気のせいか、この日は全体的に釣り師が多く、空いているポイントも少なかったので軽い気持ちでようすを見てみることにした。
流心の両脇で、数尾のマスが群れでライズを繰り返しているのが確認できる。
どのマスも捕食頻度が高いせいで、狭い範囲のどこかで、常にマスのライズが確認できるような状況。
しかし、モクンモクンとライズするマスたちの鼻先が水面から出ることはなく、フライフィッシャーでなければ、そこでマスが何かを食べていることにすら気が付かないかもしれない。
フラッタリング
ライズフォームを観察すればするほど、捕食は水面直下のものに限定されているように見える。しかし、これだけの頻度で、あれだけの数のマスがライズをしていれば「水面でも釣れるのではないか…?」という気が起こるのも無理はない?
ライズ頻度から、ユスリカ及び小さなメイフライスピナーの流下を疑ったが、マスたちはこれらの水面のパターンにまったく反応しない。
そうこうしているうちに、黒く見える小さなカディスが岸辺を群飛しているのが視界に入った。
試しにユスリカのイミテーションとして結んでいた#24のグリフィスナットを、ライズ地点でプルッ!と震わせてみると、いっせいに2尾のマスがフライを追った。
手応えを感じ、ライズ地点よりも奥にフライをプレゼンテーションし、小さく震わせながら引っ張ってきて、ライズ地点でフライを止め「喰わせの間」をあたえるアプローチで、2尾のマスをキャッチすることができた。
マスは手にできたが、明らかに本物を捕食する時とは異なるライズフォームでのヒットにいまいち納得がいかない。
しかし、何を捕食しているのかわからない状況では、あらゆる手段を使って1尾目を手にし、捕食物を確認することで次の手を決めることは、ひとつの戦略として有効な場合も少なくない。
水面直下の攻略
フラッタリングで釣った2尾の捕食物から、いまも高い頻度でライズを繰り返しているマスは、マルツツと思われるブラックカディスのスペントか、ブユを捕食しているのではないかと推測した。ティペットの先に結ばれている#24のグリフィスナットは、ブユのイミテーションとしても、そう的外れなパターンでもないに関わらず、ナチュラルドリフトを意識したプレゼンテーションで釣っていた時には反応が得られなかった。
そこで、まずは水に馴染みやすい#20のカディスイマージャーを試すことにした。
ノーウェイトで、パートリッジのブラウンバックフェザーをダウンウイング状に巻きとめてあり、浮きはしないが沈みすぎることもないと思ったのが選択の理由である。
群れの活性が相変わらず高いため、視認性のないフライをドリフトさせると、どのマスがいつフライを咥えたのか察知しづらい。
できるだけスラックのないラインを投げることで、距離感だけはある程度正確に把握するように注意し、フライが流れているであろう地点でライズがあれば、小さく鋭いアワセで「聞きアワセ」をいれるようにする。
良くある失敗例としては、マスの捕食レーンを「線」でアプローチせず、「点」でアプローチしてしまい難易度を高めてしまうことかもしれない。
ではどうすれば良いか?
私はシンプルにアップストリームで、ストレートラインを投げるプレゼンテーションが失敗も少なく簡単だと思って実践している。
クロスの位置から投げる場合でも、下流側へのリーチキャストなどを駆使し、ラインの落とし方がなるべくアップストリームで投げている時の形に近くなるように意識している。
それならダウンストリームのほうが、フライファーストでドリフトの精度も高められるのでは?と思われるかもしれない。
確かにダウンのほうが流しやすい場合も少なくないのだが、ダウンではフライを流す水深のコントロールが格段に難しくなり、フライが沈みすぎてしまうことで捕食を見逃すミスを犯しやすい。
視認性のないフライを水面直下で使えるようになることで、忍野での釣果は格段に伸びるので、ご自身の釣り方を確立する参考になればと思う。
#22/6X
その後、小さなカディスイマージャーを使用した水面直下の釣りで2尾を追加し納竿を考えていると、群れの先頭で鼻先をハッキリと水面に出した大型のマスが視界に入った。あたりに薄暗さが感じられる時間帯になったことで、警戒心を解いて群れの先頭に出てきたのかもしれない。
ライズフォームから浮いたフライでも勝負できるのではないか?と推測するが、とはいえ流下は相変わらず小さなもの以外は考えづらい。
#22のグリフィスナットを、オレンジ色のCDCでホットバット仕様にしたパターンでようすを見ることにすると、マスは数投で水面のフライを吸い込んだ。
フッキングと同時に上流の障害物を潜り抜けられてしまったが、幸運にもリーダーはどこにも絡むことなくマスとつながっていてくれた。
マスと直線的につながれる位置に走って移動し、たまたま近くにいた知人の大塚さんが柄の長いランディングネットでマスをすくってくれた。
忍野ではフライが小さくても、時に想定外の大型に恵まれることもあるので、ティペットは日常的に細いよりは太いサイズを結んでおくように意識している。
細いティペットをかばって大型魚をランディングするのも技術のひとつだとは思うが、忍野ではマスの疾走をどうしても止めざるを得ないシチュエーションも多い。
「水生昆虫の羽化とマスのライズ」
忍野は「これぞフライフィッシング!」といえるような、マッチ・ザ・ハッチの釣りを体験できるフィールドである。
マスを目視し、投じたフライへの反応を見て、フライを口にさせるまでの一喜一憂を楽しんでみてはいかがだろうか?
毛鉤メモ:グリフィスナット(CDCホットバット仕様)
ブラックカディスやブユなど、流下物に近しいサイズ感ながら、アトラクター効果も期待して結んだパターンが効いた。
グリフィスナットは、シャンクの中央付近にパラシュートポストのようなインジケーターを立てたパターンや、長めのハックルを巻いてボトムカットしたパターンなど、用途や意図によっていくつかのバリエーションを用意している。私の忍野用フライボックスに入っているのは#18~#24である。
2023/9/9