忍野ノート2023
VOL.6 4月15日
佐々木岳大=文と写真《Profile》
佐々木 岳大(ささき・たけひろ) 1974年生まれ。神奈川県南足柄市在住。ホームグラウンドは地元の丹沢など。C&Fデザイン社に勤務。マッチング・ザ・ハッチの釣りのほか、ドライフライ、ニンフを使った小渓流の釣りも得意としている。
佐々木 岳大(ささき・たけひろ) 1974年生まれ。神奈川県南足柄市在住。ホームグラウンドは地元の丹沢など。C&Fデザイン社に勤務。マッチング・ザ・ハッチの釣りのほか、ドライフライ、ニンフを使った小渓流の釣りも得意としている。
桜の終わりが、新緑の始まりを告げる。
前釣行から一週間、忍野の水辺の景色が一変していた。
川岸は色とりどりの花が咲き、枯草色だった景色は、雨にも関わらず新緑が眩しい。
雨のしずくで、生き生きとした印象に見える水仙がひときわ鮮やかに見える。
桜流しのドライフライ
先週ピークを迎えた桜が、強い雨に落とされ、忍野の流れの上を流れていく。淡いピンク色の花びらが、帯のように流れる光景は悪いものではないが、ドライフライでライズを仕留めたいフライフィッシャーが歓迎する状況ではない。
ピックアップでフライにまとわりつく花びらを軽視すると、のちのち面倒なことになることは想像に難しくない。細く長いリーダーシステムを使っていれば、花びらがプロペラのように作用し、フライが回転してしまいティペットも撚れかねない。面倒かもしれないが、バブルレーンを釣るのであれば、一投ごとにフライの状況に気を配る必要がある。
アプローチの順番
この日、前夜から降り出した雨が濁りを誘発し、ライズこそ多くはないものの[忍野フィッシングマップ:護岸上のストレート]で確認できるライズは活性が高いように感じられる。
流下する桜の帯を割るようにライズが見られ、中には明らかに大型と思えるライズも含まれている。
対岸から張り出された木の枝が、増水の影響で水面に触れてしまっているポイント。
この木の枝の上流側で1尾、下流側で2尾、不定期ながら鼻先を水面から突き出すようにライズしていて、上流側のライズの主は明らかに大型だと思われる。
下流側のライズを釣り、ストマックの内容を踏まえたフライで大型に挑みたいところだが、下流の魚をかけた影響で大型をスプークさせてしまう可能性も考えられる。
やはり、警戒心も強いと考えるべき大型から狙うことにして、5Xのティペットにオオクマとしては小ぶりな#16のダンパターンを結んだ。
パイロットフライとしては、間違いなく小さなエラブタの方が最大公約数的な選択だとは思う…。
しかし、マスのサイズを考慮して気持ち太めのティペットを選択したので、エラブタパターンよりもドリフトの精度をだしやすいのではないかと考えた。
対:オーバーハング上流
ライズの間隔は一定ではなく、捕食レーンも絞られてはいないので、反応があってもよさそうなプレゼンテーションが続いているにも関わらず反応が得られないと、頭の中に不安要素が浮かぶ…。濁りの影響で魚体は見えていないので、タイミングが合っていないのか?それともフライが拒絶されているのかどうかの判断がつかない。
フライ交換をせずにプレゼンテーションを続けた理由は、マスがそれでもライズを止めなかったことから、警戒心を高めているようには感じられなかったからにほかならない。
とりあえず、楽観的に自分に都合のよいほう「タイミングが合っていないだけだ」と考え、フライファーストで、オーバーハングの下にフライをきれいに送り込むことだけに集中することにする。
タイミングが悪いだけだ。と自分に念を押すような心境でドリフトを繰り返していると、ようやく大きな頭がフライを押さえ込んでくれた!
ストライクが決まると、マスは大きなジャンプを見せてくれたが、このあとがよくなかった…。
流れの両岸から大きく張り出している枝の真ん中に落水し、一気に上流に向かって走られてしまったため、フライラインが複雑に枝に絡んでしまった。
マスがまだハリ掛かりしている感触は感じられ、フライラインはなんとか回収できたが、そこから先、マスが掛かっている状況ではどうにも出来なくなってしまった…。
どうにかならないものかと色々と試してみたが、最終的にはティペットとフライの継目からプツリと切れてしまった…。
対:オーバーハング下流
残念ながら手にできなかった大型魚とのファイトの影響で、オーバーハング下流のマスも警戒心を高めてしまったと思ったのだが、高い頻度で持ち上がるマスの頭に目を奪われた。2尾のマスが競い合うようにライズを繰り返す光景はまさに圧巻で、自分の目を疑わずにはいられない。
マスが完全に狂っている様子をみて、これは絶対にエラブタが流れていると確信し、すぐにエラブタを模したコンパラダン#20に結びかえた。
自分とライズ地点を結ぶライン上にはオーバーハングした木の枝があり、フライをマスの上流側に落とすのに苦労する。下流から風でも吹いてくれれば…と願ってみても、吹いてほしい時には吹かないものだ。
ジリジリと立ち位置を調整し、何とかマスの上流側にフライを落とせた時には、コンパラダンはもう目視できないほど沈んでいた。しかし、マスが機敏な動きでフライに突進して捕食してくれたおかげで、アワセは直感的で戸惑うこともなく決めることができた。
確認した捕食物は、やはり!と納得できるエラブタを中心としたものだった。
完全な偏食ではないのが、実にこのポイントらしく感じられる。
とはいえ、主食がエラブタである答え合わせもできたので、もう1尾には自信をもってエラブタのパターンでアプローチできる。
コンパラダンが水を吸ってしまったのと、雨の中しつこくロールキャストを繰り返すプレゼンテーションを続けるため、視認性を期待できる化繊のウイングを持ったソラックスダンにフライを結び変える。好天時には結ぶ気がしない、何ともボテッとしたパターンなのだが、水切れの良さと高い視認性が欲しい雨天時には使いやすい。
フライは期待通りによく浮き、よく見えた。
先ほどのマスと同様に、レーンに何とか投じることのできたフライを、マスはなんの疑いを持ったようすも見せずに咥えた。
プレゼンテーションの難易度は高いのだが、捕食活動に夢中になっているマスは明らかに警戒心を失っていたようだ。
捕食物を確認すると、マスが捕食活動に夢中になるのも納得の内容である。
ストマックポンプが、たった今食べたとしか思えない、多量のエラブタを吸い出したからだ。
2尾を釣って思うに…
100%ではないが、限りなく100%に近いエラブタの偏食。オーバーハング下流の2尾から確認された捕食内容は、ほぼエラブタに偏っていたと言ってよい内容だったと思う。
こうなってくると、キャッチできなかった1尾目のフッキングまでの過程に疑問が湧いてくる。
苦戦してしまった理由が、タイミングではなく、フライを見切られていた可能性が高いのではないかと…?
真相を知ることはできないが、このような仮説を参考に、今後の釣りを組み立てることが私は実にフライフィッシング的で楽しいと思っている。
「水生昆虫の羽化とマスのライズ」。
忍野は「これぞフライフィッシング!」と言えるような、マッチ・ザ・ハッチの釣りを体験できるフィールドである。
マスを目視し、投じたフライへの反応を見て、フライを口にさせるまでの一喜一憂を楽しんでみてはいかがだろうか?
毛鉤メモ:ソラックスダン(雨の日仕様)
もはや「ソラックスダン」と呼ぶのもはばかれる下品な見た目だが、荒天の日にも良いハッチを期待して出掛けるフライフィッシャーなら、皆このようなコンセプトのフライをお持ちなのではないかと思う。
とはいえ、忍野の流れを想像すると、蛍光色のウイングは避けた方が無難だと思っている。
ちなみに私はホワイトではなく、タンを好んで使用している。
2023/8/9