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WILD LIFE

忍野ノート2023

VOL.5 4月8日

佐々木岳大=文と写真
寒冷な忍野村も今年は季節の進行が例年よりも早そうだ

《Profile》

佐々木 岳大(ささき・たけひろ) 1974年生まれ。神奈川県南足柄市在住。ホームグラウンドは地元の丹沢など。C&Fデザイン社に勤務。マッチング・ザ・ハッチの釣りのほか、ドライフライ、ニンフを使った小渓流の釣りも得意としている。
 

正午過ぎに到着した忍野の気温は14℃、風も冷たく、インサレーション入りのジャケットを着込むことになった。
とはいえ、桜の開花が寒冷地の忍野村にも春が来たこと知らせてくれる。
自衛隊の敷地を囲むソメイヨシノも開花し、まもなく見ごろを迎えそうな雰囲気だ。

オオクママダラ

少々風の強さが気になるが、陽射しは心地よく、下流部にあたる通称:金田一エリアには多くの釣師の姿が見られる。
皆が「春の釣り日和」と実感しているのだろう、なかなかの密度だ。
お昼時ということもあり、ロッドをつなぎ準備していると、いくつかのポイントが空いた。


前回の釣行時は濁りで魚影を認められなかったので、[忍野フィッシングマップ:旧金田一]のようすを見に行くことにする。このエリアでもっとも川幅の狭まるポイントだ。

不用意なプレッシャーを与えることのないよう配慮し、ポイントまで気持ち遠い位置で立ち止まり、ようすを確認すると、あちらこちらでライズが確認できる。

日本のエゾシカをウイングにつかったオオクマパターンで釣りを始めた

つい数分前、通りかかった川岸に咲いた花を撮影しながら、「のんびり楽しもう」などと考えていた気持ちは一瞬でどこへやら!
風で流されてきたオオクママダラを食いそこねたマスが、2度3度と追い食いしている光景を目の当たりにし、あわててリーダーをセットしフライを結ぶ。

最初にねらうのは5mほど上流の流心。
流速があり、マスのフライに対する選球眼が甘く、もっともドラグフリーで流しやすいライズなのではないかと考えた。しかしマスはフライに鋭く反応はするものの、見事にフライを見切ってはライズを繰り返す…。
可愛げはないが、あまりにも忍野らしい展開だ。

幸い、同じ立ち位置から狙えるライズは複数あり、一度フライを見切られるごとにターゲットを変更してプレゼンテーションを繰り返す。
作戦が功を奏し、数尾のマスを釣ることができたが、流心の一見簡単そうなライズが徹底的に釣れない…。

いちばん簡単そうに思われたライズが手強かった…

ステージの違い

オオクママダラが捕食される瞬間を何度も目撃しているので、フライも大幅に違うことはないだろう…。
そう考えていたが、近くでライズしていた別のニジマスから、ヒントとなる捕食内容が確認できた。

フライ選択のヒントをくれたコンディションの良いニジマス

釣り上げたニジマスは、完全な偏食ではないものの、オオクママダラのフローティングニンフを捕食していた。
もし、釣れないライズの主がフローティングニンフに的を絞って捕食しているのであれば、私のコンパラダンに反応しない理由として納得ができる。
浮き方やフォルムが、明らかに本物とは異なるからだ。

スピナーと比較すればシェイプの違いは一目瞭然

恥ずかしながら、オオクママダラのフローティングニンフを模したパターンを巻いた記憶がない。
代用できるフライを探すと、デイパックの中に入っていたイワナ釣り用のフライボックスから、ヘア&カッパーのクリンクハマー(半沈パラシュート)が見つかった。グラブフックの#14に巻かれていて、あきらかに本物より小さいが、仕方がないと割り切り試してみることにする。

リールが逆転する!思ったよりも大きかった…

何度かフライを見切られはしたものの、マスはようやくフライを口にしてくれた。
残念ながら、シャッターを1枚だけ切ったタイミングで、ランディングネットから逃走されてしまい、捕食物の確認はできなかった。

苦労しました…。この写真を撮影したあと逃走された!

水生昆虫の各ステージを模したイミテーションを持つ重要性

今回はたまたまオオクママダラだが、各水生昆虫のライフサイクルを知り、各ステージに対応できるフライを用意しておくことで釣れる可能性を広げられる。

同じサイズ/同じ色の、同じフライをたくさん持つよりも、さまざまな種類の異なるフライを持っていることが重要な場面が忍野にはある。(フライロストをしないという前提であれば…)
とはいえ、すべての水生昆虫の、それぞれのステージにあわせたフライをすべて持ち歩くことは簡単ではない。

汎用性の高いパターン(スタンダードパターンやパラシュートフライなど)を、特大から極小までフライボックスに入れておくと、困ったときに保険として使える可能性がある。
今一度、フライボックスの内容を確認し、旬のハッチに対応できるように準備しておきたい。


「水生昆虫の羽化とマスのライズ」。
忍野は「これぞフライフィッシング!」といえるような、マッチ・ザ・ハッチの釣りを体験できるフィールドである。
マスを目視し、投じたフライへの反応を見て、フライを口にさせるまでの一喜一憂を楽しんでみてはいかがだろうか?

毛鉤メモ:クリンクハマー・スペシャル(ヘア&カッパー仕様)




山岳渓流の岩魚釣り用に、昨年タイイングしたフライ。意図した出番ではなかったが、汎用性の高さを再認識するよい経験になった。
クリンクハマー・スペシャルの考案者、Hans van Klinken氏から送られた本人巻きのフライは私の宝物のひとつだが、彼はクリンクハマーのバリエーションが、自身のものだけで121種!あると言っていた。
浮かべた際、確実に半沈姿勢となることが重要で、ハンスは1本1本コップの水に浮かべて確認している。

2023/7/19

つり人社の刊行物
初歩からのフライタイイング
初歩からのフライタイイング 2,750円(税込) A4変型判148ページ
本書は、これからフライタイイングを始めようとする人に向けた入門書です。 解説と実演は、初心者の方へのレクチャー経験が豊富な、東京のフライショップ「ハーミット」店主の稲見一郎さんにお願いしました。 掲載したフライパターンは、タイイングの基礎が…
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最新号 2023年12月号 Early Autumn

【特集】尖ってるドライフライ

今号では、編集部が「面白いな」と感じた渓流用のドライフライのタイイングと考え方を紹介します。取り上げるのは、パラシュートスパイダー、エルクファンタジィ、丹沢スペシャル、マジックバレット、里見パラシュート、ヨッパラ、特殊部隊の7本です。これらを並べてみると、みなさん気にかけているのは、耐久性、浮力の持続性だけでなく、「誘い」であることがわかります。水面の流れより遅く流れる、フライそのものが揺れる、マテリアルが揺れる、などさまざまですが、いわゆるナチュラルドリフト以上の効果を明確にねらっているものがほとんど。来シーズンに向け、ぜひ参考にしてください。
またウォルト&ウィニー・デッティ、ハリー&エルシー・ダービーに関するフライタイイングの歴史、そして、『The Curtis Creek Manifesto』(日本ではご存知、『フライフィッシング教書』として翻訳されています)の作者、シェリン・アンダーソンについても取り上げています。


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