忍野ノート2023
VOL.4 3月26日
佐々木岳大=文と写真《Profile》
佐々木 岳大(ささき・たけひろ) 1974年生まれ。神奈川県南足柄市在住。ホームグラウンドは地元の丹沢など。C&Fデザイン社に勤務。マッチング・ザ・ハッチの釣りのほか、ドライフライ、ニンフを使った小渓流の釣りも得意としている。
佐々木 岳大(ささき・たけひろ) 1974年生まれ。神奈川県南足柄市在住。ホームグラウンドは地元の丹沢など。C&Fデザイン社に勤務。マッチング・ザ・ハッチの釣りのほか、ドライフライ、ニンフを使った小渓流の釣りも得意としている。
前日からの雨は、釣りに出掛けることをためらうには充分な量の降雨となった。
アスファルトで固めた道路整備等による影響なのか?濁った雨水の流入によって、年々濁りやすくなっている印象の忍野なのだが、まったく釣りが成立しない忍野も想像できない。一度くらいチャンスを貰えるのではないか?と、楽観的な気持ちで忍野に向かうことにする。
辛抱のライズ待ち
10:30、下流域に位置する駐車スペースに到着してみると、車を降りることすら躊躇する豪雨だった。車中でしばらく待機し雨脚をうかがうも、弱まるようすもなさそうなので、「今日はこんな感じなんだな」と自分を納得させてウエーダーを履くことにする。
ウエーディングをしない忍野では、雨天時の釣行は上下のレインギアで対処することがほとんどなのだが、迷わずウエーダーのほうが確実だと思える雨量だった。
[忍野フィッシングマップ:旧金田一]から[忍野フィッシングマップ:金田一の赤い橋跡]まで、短い区間を何度か往復してライズを探す。濁流と言えるほどの濁りではないが、魚影が見えるほどの水況でもないので、サイトニンフィングは成立しない。
ジャケットのフードをすっぽりかぶると視界が狭くなり、頭上や背後の障害物に気付きにくく、トラブルを起こしやすい。できるだけ開けておいて、ラインを伸ばせるポイントでのライズに期待したいと思い、金田一の赤い橋跡でライズが起こるのを待つことにする。
正午を知らせる村の放送後も水面の沈黙は続き、川岸に腰かけていると、時々ガガンボの飛翔が目につく。
土砂降りの中、チョット降りすぎか?と何度も思い、今日はダメっぽい…と心も折れそうだったが、少し上流側の浅場にフラフラ〜と1尾のマスがやってきて、まったく警戒心を感じさせないようすでパクリとライズした!
空振り連発の正体
尾ビレが白く見える、決してコンディションの良いマスではないのだが、帰らずに辛抱強く待っていて良かったと思える。ほんの数メートル、リーダーキャストで届いてしまいそうな距離のライズで、鼻先は完全に水面にでるのだが捕食物は見えない。ユスリカのピューパやシャックの類だろうか?
水面絡みの小さな流下であることは間違いなさそうなので、#22のグリフィスナットをフロータント処理せず、低く浮かせてようすをみることにする。
距離が近すぎて正確性を欠くキャストが数投あったが、ようやく正しいレーンに乗ったグリフィスナットを、マスはやはり何の警戒心も感じさせないようすでパクリと咥えた。
しかし、確信をもって立てたロッドに、手ごたえは何も感じられなかった…。
幸いマスは逃げるようすを見せないが、フライを変えては空振りを何度も繰り返した…。
空振りのたびに、「アレ?」「アレ?」と首をかしげていると、流れのちょうど真ん中あたりで派手なライズが連続しておこる。
ポイントを休ませる意味も含めて、いったんターゲットを変更し、結んでいたままのエラブタを模したトラップド・パラシュートを投じると、このライズからはすぐに反応が得ることができた。
さっそく捕食物の確認をすると、多数のエラブタにまじって、小ぶりな気もするオオクママダラがいくつか捕食されている。
この貴重な恵みの1尾を撮影していると、ほとんど同じ場所に違うマスが入ったようで、再びライズがおこる。
おそらく、同様にエラブタかオオクマのパターンで釣れるのではないだろうか?1尾釣れたことで、とりあえず満足したのか?私はこのマスよりも、空振りを連発している足元のマスが、何を捕食しているのか?どうしても知りたい気持ちが強くなってきた!
手持ちの小さなパターンを片っ端からローテーションし、さらに空振りの回数を何度も増やし、#24に巻いたコカゲロウを模したコンパラダンでようやく釣ることができた。
ランディングネットから逃走されないように、慎重にストマックポンプを使用して捕食物を吸い出すと、なるほど…。
毎シーズン何度かは遭遇するのだが、その度にこれは釣れない、釣れるわけがない!と思わずにはいられない「草食」のマスだった。
忍野では、結ぶフライを判断するための仮説を立てることが難しい「イレギュラーな流下に対するライズ」が稀にある。
流下にマッチしたフライで釣れれば気分もよいのだが、今回のようなライズは、仮説困難な意外な状況を「面白がって、楽しむしかない」と思っている。
オオクママダラのサイズ
空振りを連発したライズの謎に納得し、意気揚々と次のライズに向き合うことにする。1尾目のマスで捕食内容を知ってしまっているだけに、ここは是非とも大きなオオクマのパターンで勝負したい!手持ちのオオクマパターンは#14で、オオクマとしては小振りなフックにタイイングされているが、シャック付きのパターンでフックサイズに対してシルエットがかなり大きい。
シャックをトリミングすると、シルエットが一気に半分くらいになった。
少し小さくなりすぎたかも…と、いきなりすべてのシャックをトリミングしてしまったことを後悔するが、切ってしまったものは仕方がない…。
とはいえ、ライズの主はシルエットの小さくなり過ぎたこのフライを、数投で受け入れてくれた。
しかも流れの数カ所で一斉にライズが始まっていて、いよいよハッチがまとまりだした雰囲気になってきた。
これはオオクマのパターンで連続ヒットのチャンス到来かと捕食物だけ吸い出し、マスをリリースした。確認は後まわしにし、次のライズに向き合う。
フライが沈んでしまい、ストライクのタイミングを逃すミスが2度あってモタついたせいもあり、4尾目のマスをランディングしたタイミングで、ライズは急速に収束していってしまった。
オオクマのハッチは短い時間に集中しておこることが多いが、ライズが収束してしまったということは、一緒に捕食されていたエラブタなど他の種のハッチも減少していると推測できる。
雨脚がさらに強まっていて、濁りが強くなってきた影響なのかもしれない。濁りの中でライズしていた、2尾のマスの捕食物を確認してみることにする。
2尾の捕食物の中から、オオクマのサイズに注目したい。
はたして本当に両方ともオオクマなのか?私に種を同定することはできないが、大きな個体と小さな個体では完全にフックサイズが異なる点は、用意しておくべきフライに影響するので無視できない。
フライを用意する時間に余裕があるのであれば、ひとつの模倣対象に対し、いくつかのサイズ、パターンを用意しておくことで、マスを手にする可能性を高めることができる。
「水生昆虫の羽化とマスのライズ」。
忍野は「これぞフライフィッシング!」といえるような、マッチ・ザ・ハッチの釣りを体験できるフィールドである。
マスを目視し、投じたフライへの反応を見て、フライを口にさせるまでの一喜一憂を楽しんでみてはいかがだろうか?
毛鉤メモ:スパークルダン/オオクマ仕様(トリミングによってテールレス)
引きずられたシャックが特徴のスパークルダン。
化繊のシャックは、対象や状況によって「惹きつける要素」にも、「拒絶される要素」にもなりうる。これはフライのあらゆるパーツや、マテリアルにもあてはまる。
魚が釣れた際、何がトリガーとなって釣れたのか?
フライが拒絶された場合に、ドラッグ以外の何が嫌われたのか?
フィールドで感じたことをタイイングに反映させるのも、マッチ・ザ・ハッチの釣りの楽しみなのかもしれない。
2023/6/21