LOGIN
WILD LIFE

LIFE IS FLY FISHING

第三話 フライ寿命

阪東幸成=写真と文

現代はストレスフルな時代である。

イラつく気持ちを抑えるために、タバコの一本も吸いたくなるだろう。

「あんなアホな上司の下で、仕事やってられないしー」

わかる、その気持ち。

わたしだって、そんな上司の下で仕事をしたことがあるし、なによりも自分がそんな上司になったことさえあるから、よーくわかる。

だからって、フライフィッシングにそのハケ口を求めるのはまちがっている。

フライフィッシングはゴミ捨て場ではない。ストレス発散の場ではなく、魂を浄化させるための聖域であることを忘れてはいけない。

世俗的な社会で何が起こっていても、たとえばカルロス・ゴーンが逮捕されても、元号が変わっても、ブラックホールが撮影されても、フライフィッシングには一切関係がない。ストレス発散はブラックホールに向かってすればよい。まちがいなくストレスを激しく吸引してくれるはずだ。

ついでにアホな上司の背中を 押すとか。


わたしたち、ふらい人の身体はフライフィッシングをするためにある。

ひとりひとりが責任を持って、末長くフライフィッシングをつづけることが、ひいてはフライフィッシング世界全体のためになるのだ。

フライフィッシングをことさら神聖化するつもりはない。もしあなたがタバコの吸いすぎで、予定より一年早死にしてしまったら、一年分のリーダー、ティペット、マテリアル、あるいは買おうと決めていたバンブーロッドの消費が減り、日本経済にすくなからず影響を与えることにもなるのだ。

日本人の平均寿命は女性は87.26 歳、男性は81.09 歳で、総合で世界第 2 位。素晴らしい、とは思う。 しかしながら「病院や施設のベッドの上で、ただただ生き延びているだけでは生きている意味がない、健康寿命こそが重要なのだ」と言われて久しい。

健康寿命は女性 74.79 歳、男性が 72.14 歳である。10 歳 以上の差があるのだ。


わたしたち、ふらい人はフライフィッシングをするために生きている。

少なくともわたし自身について言えば、「足腰が立たなくなったらヘラ釣りでもやるか」なんて絶対に思わない。

わたしにとってはフライフィッシングだけが釣りで、フライフィッシングだけが人生で、フライフィッシングができなくなった時点ですべてが終わる。フライフィッシングをしないわたしは、すなわち廃人だ。

ふらい人にとって重要なのは健康寿命なんかではなく、ふらい寿命なのである。

いまからでも遅くはない、タバコを吸っているあなた、今すぐにヤメて、病院のベッドではなく、ともに水辺で朽ち果てようではないか!



《Profile》
阪東幸成(ばんどう・ゆきなり)
アウトドア・ライター。バンブーロッドにのめりこみ、1999年に『アメリカの竹竿職人たち』(フライの雑誌社刊)を著す。2017年にふらい人書房を立ち上げ、以降『ウルトラライト・イエローストーン』『釣り人の理由』など、自身の著作を中心に出版活動を行なっている。最新刊は『ライフ・イズ・フライフィッシング シーズン1』。



ふらい人書房ホームページ
www.flybito.net

2019/4/23

つり人社の刊行物
磯釣りスペシャルMAGAZINE Vol.03
磯釣りスペシャルMAGAZINE Vol.03 1,980円(税込) A4変型判132ページ
【特集1】引き出しを増やしあらゆる状況に対応するために… グレに効く1000%ウキ活用術 【特集2】各地の傾向と対策、特選ポイントを公開 冬こそアツいデカバン石鯛 ねらったところへ仕掛けを飛ばし、潮をとらえてグレの口もとへサシエを届け、釣り…
WILD LIFE
つり人社の刊行物
磯釣りスペシャルMAGAZINE Vol.03
磯釣りスペシャルMAGAZINE Vol.03 1,980円(税込) A4変型判132ページ
【特集1】引き出しを増やしあらゆる状況に対応するために… グレに効く1000%ウキ活用術 【特集2】各地の傾向と対策、特選ポイントを公開 冬こそアツいデカバン石鯛 ねらったところへ仕掛けを飛ばし、潮をとらえてグレの口もとへサシエを届け、釣り…
WILD LIFE

最新号 2024年12月号 Early Autumn

【特集】マスのきもち

朱鞠内湖のイトウ、渓流のヤマメ、イワナ、忍野のニジマス、九頭竜川サクラマス本流のニジマス、中禅寺湖のブラウントラウトなど、それぞれのエキスパートたちに「マスのきもち」についてインタビュー。

色がわかるのか、釣られた記憶はいつ頃忘れるのか、など私たちのターゲットについての習性考察していただきました。

また、特別編として、プロタイヤーの備前貢さんにご自身の経験を、魚類の研究に携わる、棟方有宗さんと高橋宏司さんに科学的な見地から文章をいただいています。

みなさんの情熱が溢れてしまい、今号は16ページ増でお届けします。

「タイトループ」セクションでは国内のグラスロッド・メーカーへの工房を取材。製作者たちのこだわりをインタビューしています。


Amazon 楽天ブックス ヨドバシ.com

 

NOW LOADING