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アカサカ釣具

LIFE IS FLY FISHING

第一話 煩悩の独り言

阪東幸成=写真と文

まだ真昼のように明るいが、隣で釣っていた釣り人はあっさりと川をあがり、どうやら駐車場へ戻るようだ。

わたしは他人のことなんて気にする柄じゃないから、チラ見しただけだったが、少し前に彼が釣りあげた魚は20インチを超えてはいなかったと思う。いうまでもなく20インチ以下の魚はヘンリーズ・フォークではノー・カウントである。だからきっと諦めて帰るのだ。

それにしても逆回転するリールの音はやかましかったし、男の発する意味不明の雄たけびときたら、まるで発情したバッファローのようだった。

釣り人だけではない。最近の若いレインボーときたら、ちょっと痛いとすぐ大げさに騒ぐ。リリースされるとわかっているはずなのに、まるで大魚のような飛沫をあげる。人も魚も、ともかくこの国は大げさだ。

何度流しても、ひたすら静かに流れ下っていくだけのフライを見つめながら、わたしはそう思った。


敗色濃厚の中、ライズを諦めきれずに泥沼の最前線に突入していった老ふらい人が月と木星に見守られながら、岸へと撤退していく。

「これは負けイクサです、ヤメておいた方が身のためですよ!」

とあれほど忠告したのに、老兵は「気合いで勝つ!」と言ったのだった。

平成31 年8月15日 21:24 ニチボツ宣言受諾による無条件降伏。精神論では戦いに勝てないという先の大戦での教訓を活かすことができなかった。反省を知らない老兵は、岸へ上がって戦いの場を振り返るなり、

「アイ・シャル・リターン」

と呟いたのだった。


釣り人はフライラインをリールに巻き取ると、川を振り返って直立不動の厳かな姿勢で深く一礼した。

男は高段位の剣道家で、かつて実業団チームの主将をしていた。体力に限界を感じ、3年前に竹刀を竿に持ち替えたが、道場を去るときに一礼する習慣が抜けないのだ。

「釣れても釣れなくても、川や魚に感謝すべきだと思うんです」

見上げた礼節の心である。

「でもたまには、釣れたときに感謝している姿を見せてよ」

川に立ち込んだ釣り人の身体がぐらりと傾き、夕暮れの残照の彼方に「イッポーン!」という声が鳴り響いたような気がした。



《Profile》
阪東幸成(ばんどう・ゆきなり)
アウトドア・ライター。バンブーロッドにのめりこみ、1999年に『アメリカの竹竿職人たち』(フライの雑誌社刊)を著す。2017年にふらい人書房を立ち上げ、以降『ウルトラライト・イエローストーン』『釣り人の理由』など、自身の著作を中心に出版活動を行なっている。最新刊は『ライフ・イズ・フライフィッシング シーズン1』。



ふらい人書房ホームページ
www.flybito.net



2019/2/22

最新号 2026年3月号 Early Spring

【特集1】ルースニングNEO
【特集2】リール愛について2

冬季釣り場の拡大により、もはや「シーズンオフ」は存在しなくなったといってよいでしょう。ドライフライでのミッジング、スーパーライトなゼロGニンフィング、本流で行なうルースニングと、この時期(だけのものではないですが)の釣りをいくつか紹介しています。

2つめの特集として、前号から持ち越した「リール愛」。ロッドとの組み合わせのこだわり、ビンテージ感への思い入れなど、やはりフライフィッシャーの個性が際立つ誌面になっています。

このほか、ついに最終回を迎えた「細かすぎる!タイイングのベイシック」では、コノバー、ヘアウイングダンなどを解説。そして備前貢さんによる「フライフィッシングお伽噺 at オホーツク。」はこの釣りのワンダーが詰まった、すばらしく楽しい読み物です。

タイトループセクションは「カルフィルニア・ネイティブの守りかた」と題して、カリフォルニア州魚類野生生物局の取り組みのレポートを寄せていただきました。


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