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第7回 モンカゲロウ

イマージャーとクリップル、ダン、スピナー等

渋谷直人=解説

ドライフライで魚が釣れない時に最も気になるのが、やはりフライがマッチしているのかどうか……。今回はモンカゲロウのハッチ時に渋谷直人さんが結ぶ大型メイフライのダン、イマージャーパターンを解説します。
この記事は2017年5月号に掲載されたものを再編集しています。

《Profile》
渋谷 直人(しぶや・なおと)
1971年生まれ。秋田県湯沢市在住。地元の伝統工芸である漆塗りの職人として生活しながら、自ら作り上げたバンブーロッドでヤマメを追い求めている。
●公式ホームページ www.kawatsura.com/

釣れない魚をじっくり観察した結果

モンカゲロウの釣りは、実はここ数年経験できていない。あれだけ大きなカゲロウがバッサリ食われるのだから、さぞかし簡単にドライフライに食ってくれるだろうと思うと大間違いで、大概は惨敗に終わる。

僕もかつて鬼怒川で、目の前でバクバクとモンカゲロウが食われるのを見ながら、苦汁を飲んだ記憶がある。

プール一面にモンカゲロウが浮かび、ヒラキではライズが繰り返されていたにもかかわらず、驚くほど釣れなかったので、その時はよくよく観察する時間があった。

モンカゲロウは羽化が上手だ。フローティングニンフが水面に達してから翅を帆のように立てるまで、3〜5秒掛かるかどうかである。しかも、羽化失敗個体はほとんど流れてこないのが不思議だった。コカゲロウ類やマダラカゲロウ類とは、えらい違いである。
モンカゲロウのダン。これはオスなので、メスより一回り小さい。大ものに食われることは少ないと思う

羽化したモンカゲロウは、くるりと下流に向きを変える。流れていくので進行方向に向かっていくというのが、正しいのかもしれない。そして身じろぎもせずに流されていった個体は、魚たちに食われていなかったのである。

パタッと動いた虫や、飛び立とうとしてあがいた瞬間に、パクッと食われるのだ。これは興味深かった。魚にとって、完全に水面に浮いている虫は、見にくいのかもしれない。

それともうひとつ、よく観察していたら分かったことがあった。モンカゲロウは個体によって、大きさが異なるのだ。その大きいほうだけがヤマメの餌食になっていて、小さいほうは完全無視されていたのだ。

でかいヤマメほどこの傾向が強かったので、大ものねらいの人は気にすべきだと思う。つまり本物の虫でさえそれくらいの違いで食わないのに、偽物のフライを食わせることが困難であることは、容易に想像がつくと思う。

魚が食う要素を抽出するのは、このあたりをどのように表現するかが重要だと思った。後で分かったことだが、大きさが違うのはオスとメスだというので、合点がついた。他のカゲロウやカディスでも思っていたことではあるが、メスの虫のほうがカロリーが高く、魚にとって重要なエサなのかもしれない。おそらく魚たちはそのことを、本能的に知っているのだろう。

つまりフライで模す際には、それぞれメスのパターンを作っておいたほうが、特に大ものに関しては釣れる確率が上がると考えられる。

あとは掛けてから取れるかどうか

そのようなことから完成形に至ったのが、現在のモンカゲロウダンパターンだ。サイズは太さも長さもメスの最大サイズに合わせて作っている。メスのボディーに4枚のCDCでウイングを作って、シルエットを大きく見せている。

ソラックスのハックルの外から、さらにCDCの根元のふにゃふにゃした長いファイバーを、かなりのボリュームで両サイドに足した。風や少しのテンションで動きが出るような工夫がしてあるわけだ。
モンカゲロウダン
TMC212TR(#7)を使うことで、ワイドゲイプになってバラシも軽減すると考えて用意したパターン。メスの最大サイズに合わせていて、特に大ものに限ってはこれが効くと思う。CDCのファイバーは長くフワフワさせて、動きを表現しており、それに魚が反応するのも確認している


このフライを用意した年に、釣りビジョンの撮影でモンカゲロウのスーパーハッチに出くわした。結果、かなりの数のヤマメがフライを食ってくれて、尺も釣れて満足はできた。

ただし、フッキング率の低さが明確に出たことは解決すべき課題だった。当時はロングシャンクのフックに巻いていたのだが、どうもロングシャンクはヤマメのローリングファイトとの相性が悪い。つまりファイト中に外れるのである。ガッチリ掛かっても、やり取りで35㎝クラスを2尾バラしてしまった。今思えば本当にもったいない。
数年前に、モンカゲロウのライズで釣れた鬼怒川の32㎝ヤマメ

それでも手も足も出なかった前年までと比較すると大きな進歩があり、確実に想像と現実のすり合わせができていると実感できた。

このようなことから、TMCフックの212TRの#7までの製品化をお願いして、結果的にそれが現在の完成形になった。……つもりではあるのだが、前述のようにそれ以降、僕はモンカゲロウのスーパーライズには遭遇していない。

効果のほどはいまだ不明なのである。しかし過去の経験上、食ってくることは確信しているので、後は取れるかどうかだと思う。エクステンドボディーとのバランスしだいというところだろうか。

モンカゲロウは相当な数がまとまってハッチしないと、ライズに結びつかない難しい釣りである。だが、ひとたびそんな状況に出会ったら、フライを持っていないと手も足も出ない。1本でもよいので、ぜひとも用意しておきたいパターンだ。

幅広く使われるイマージャ―の定番とは?

「何で釣れましたか?」
「イマージャーです」
よく聞く会話だが、定義や釣り方は実は曖昧だと思う。ドライなのかウエットなのか、ニンフなのかさえよく分からない。要するに羽化するためにニンフが水面に向かい出した瞬間から、羽化し終えるまでの過程をイマージャーというので、その形はさまざまだ。

ニンフでも浮上していればイマージャーだし、最初から脱皮して浮上する種類もいるし、シャックを引きずって抜ける寸前まで形体は大きく異なる。
ヒラタイマージャー
フックはTMC112Y(#13)。このタイプのフライは、ヒラタのハッチ時に有効。クリーム色がメインだが、カラーに特徴のある種類の場合は、それに合わせて作るとよい。ボディーは完全に水に沈める


ドライフライでイマージャーとして有効なのは、カゲロウの種によって異なる。まずはヒラタカゲロウ類であるが、これは水中で食われるケースが多く難しい。この仲間は水中でニンフから脱皮して、そのまま棒のような形状で水面に突進する。

最後に水面を破って翅を広げる。水面に素早く向かうために空気を抱いており、それが光って見えるため、ウエットフライで浮上させる演出がベストであると考えられる。だがライズが増えてくると水面付近で食われることになり、ドライフライでもチャンスが生まれる。

基本的にはヒラタ類はクリーム色が主であり(グレー、ライトグリーン、オレンジなど特徴のある種もいる)、クリーム色の棒状のボディーにポストとなるCDCを取り付ければよい。使う時にはCDCだけにフロータントを施し、ボディーは必ず沈める。

クリーム色のカゲロウが飛び出してライズが始まり、ダンが食われていなかったら、まずはこのフローティングイマージャーを使う。

クリップルの使いどころ

マダラカゲロウでも同じようなクリップルというパターンがあるのだが、これはまったくの別物だ。羽化失敗のシャックから抜け切らずに、そのまま流されている個体を模している。

このクリップルの場合は、ライズ河川ではあまり通用しないことがほとんどで、スペントやフローティングニンフのほうが圧倒的に効果的であることが多い。

しかし東北など、ライズが少ない川が多い地域では、マダラ類のハッチ時に圧倒的な効果を発揮することがある。僕も東北で釣りをしている時には、信頼しているパターンのひとつだ。
クリップル
フックはTMC112Y(#11)。マダラの羽化失敗個体を模している。ラフな流れでマダラ類がハッチした時に有効。ライズの多い川では、効果がいまいちだと感じる


特にオオマダラカゲロウのハッチ時には自信を持って使っていたが、本格的なライズ河川での効果は思わしいものではなく、釣れるフライとはいえなかった。

クリップルが釣れる河川は、ある程度ラフでポイントの規模が小さいほうがよさそうに感じる。そのうえでマダラ類が出た際に、その大きさに合わせて使えば、ハマる時がある。実際にはフローティングニンフを使ったほうが、その形態であれば圧倒的に効果を感じることができるだろう。
モンカゲロウ・フローティングニンフ
過去に巻いていたもの。ロングシャンクの#10フックを使用していた。見るからに釣れそうに思えたが、魚が出たことはない。このステージのモンカゲは、魚にはエサとして認識されていないのかも?


ちなみにクリップルは斜めに水中に刺さるためか、魚からは見にくいようだ。フローティングニンフは水平に浮かせるように作ることで、シルエットをはっきりと見せることができる。そのため魚にアピールし、食いに来させることが可能になると思う。

動きを表現する多めのCDC

つまりイマージャーとしてドライフライで使う場合、ヒラタならF(フローティング)イマージャー、マダラならFニンフと覚えておけば迷いはなくなる。そして、翅を立てて流れるダンが食われたなら、迷わずCDCソラックスダンをサイズに合わせて結べばよい。
CDCソラックスダン
フックはTMC112Y(#11~15)を使用。水面に浮いて流れるダンが食われるのを見たら、迷わず結ぶ。渓流でももちろん釣れるし、フラットでもダンが食われていれば効果的だ。はばたくのをイメージして、CDCは多めに付ける


これは意外に、きれいに翅を立てている時は食われにくく、パタついた時に食われることが多い。そのため僕の場合は、羽となるCDCは多めに付けていて、なんとなく動きがあるようにイメージして巻いている。これもそのカゲロウ類に色を合わせるのがベストとは思うが、時間がなかったら迷わずにグレーのサイズ違いを巻いておくことをおすすめしたい。

ヒラタでもマダラでも、ダンが食われる時はグレーのCDCソラックスでほぼ釣れる。やはりダンというのはグレーが表皮にまとっている気がするが、そのことがヒントなのかもしれない。

スピナーの翅の透明感を演出

そして最終的にカゲロウ類はスピナーとして一生を終えることになるが、ここではまたスペントフライが活躍してくれる。ダンのようにグレーではなく、ボディーをマダラ類とヒラタ類(マダラ類はダークブラウンからダークグレー、ヒラタ類はイエローからホワイト)で分けたほうが効果が高い。
ヒラタスピナー
TMC212TR(#13)で巻いている。細身のボディーと長めのテイル、きらめきのあるウイングが特徴。ヒラタは早い流れでも食われるので、CDCのホワイトは多めに付けている。不要な場合は現場で調整するとよい


ボディーの特徴は固くしまっていて細身であり、テイルは少なくて長い。問題はウイングで、ダンとはまったく違いナイロンのような透明感ときらめきがある。

トンボの羽のイメージでよいと思う。それに近いのがズィーロンなどの化学繊維で、CDCだときらめきが表現できずに効果が低い。

これもその場で落ちた瞬間に食われることはほとんどないようで、しばらく流されて水にもまれ、水面下に張り付いたような状態が好んで食われるようだ。そのため、やはりCDCポスト以外はしっかりと沈めるのが効果的だ。

春から初夏の夕方に絡んだスプラッシュライズの際は、ヒラタのスピナーフォールも考えておかなければならない。パラリと巻いたハックルが大きめのパラシュートもスピナーフォールでは効果があるが、これはスレていないことが条件といえる。

繰り返しライズしているような場合は、やはりスペントのスピナーを持っていないと難しい。オオクマのスピナーに関しては、時期を追って東北の雪代明けの釣行時に詳しく説明したいと思う。

2018/5/23

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