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Bibury Court

第8回 オオクママダラカゲロウ

いくつかのスタイルのパターンを用意

渋谷直人=解説

ドライフライで魚が釣れない時、釣り人の心には迷いが生じるもの。最も気になるのが、やはりフライがマッチしているのかどうかではないか? そんな時、信頼できるパイロットフライがあるかどうかは重要。今回はシーズンの本格的スタートを告げるオオクママダラカゲロウのパターンを紹介。
この記事は2017年6月号に掲載されたものを再編集しています。

《Profile》
渋谷 直人(しぶや・なおと)
1971年生まれ。秋田県湯沢市在住。地元の伝統工芸である漆塗りの職人として生活しながら、自ら作り上げたバンブーロッドでヤマメを追い求めている。
●公式ホームページ www.kawatsura.com/

祭りの始まり

この虫の名前を聞けば、むらむらと釣欲がうずくフライフィッシャーが数多くいるに違いない。それくらい春の本格的スタートを感じさせてくれる存在感を持っているのが、オオクママダラカゲロウである。

この虫に関しては北東北とそれ以南では、食われる状態がかなり異なっていて面白い。僕のような東北で釣りをしているフライフィッシャーは、オオクマといえばスピナーの流下が釣りの対象となり、雪代明けの代名詞のような虫である。

しかし雪代のない地域ではハッチのタイミングが釣りのメインであり、ハッチ前後のタイミングの短い時間だけがチャンスだと思っている方も少なくないようだ。

全国を回るようになってからよく分かったが、ほとんどの地域ではハッチ時のタイミングでライズが起こり、釣りが成立する。スピナー流下でのライズは意外に見逃されているようで、ハッチとほぼ同時期に食われていることも少なくない。ダンが見えなくなってからもライズが続く場合などは、どの地域でも疑ってみる必要がある。

オオマダラカゲロウの場合は初期に夕方のハッチから始まり、その時間はどんどん早くなっていく。最終的には早朝にもハッチする生態を持つ。
春の関東遠征で釣れた31㎝。複合ハッチで、何を食べているのか分からなかったが、#17のグレースペントで食ってくれた。バシャっとやったりちょこっとやったり、ライズフォームが数分ごとに変わったのが印象的だった

上の写真の魚のストマックを確認してみると、オオクマが結構入っていて、正解はそっちだったようだ。アカマダラも入っていたのが救いだろうか? ほかはエルモンヒラタにウエノヒラタ

しかしオオクマの場合は、ほとんどが昼前後にハッチが集中する。こういった点も、興味深い虫の一種である。春の昼前後といえば、他にもマエグロ系やナミヒラタなど似たような形状と大きさのカゲロウ類のハッチもある。

つまりこれらの種がオオクマの前の時期にハッチすることが多いのだが、オオクマが他種と大きく違うのは、ライズに直結する可能性が高いことである。

マエグロなどのフタオカゲロウ類は陸上羽化になるため、穏やかな日なら食われにくい。風や雨などがあれば水面に落ちて暴れるため、急に食われ出してライズにつながることもある。これはナミヒラタでも同様で、ヒラタ類は水中羽化ではあるが、ハッチが上手で失敗しにくい。

したがって穏やかな日は大量にハッチしてもライズにならず、これも風や雨のタイミングで食われることになる。

これらの水生昆虫があまり食われないのは、早期であるためにヤマメ自体が水面をあまり意識していないせいかもしれない。あるいは食おうと思った瞬間に飛び立たれるので、単純にお預けをくっている状況なのかもしれない。

その次のタイミングで羽化するオオクマは、ヤマメたちは喜んで食っているように感じる。食いたいと思っても逃げられてばかりいたのが、ある日突然、ほぼ逃げない状態で流れてきたら……。しかも同サイズの虫が大量に流れてくるのだから、食わないわけがない。

マダラカゲロウ類はハッチが下手で時間も掛かり、さらには羽化失敗で終わる個体も多い。そのぶん大量に同じ時間に集中してハッチするため、その時間にはフライフィッシャーにとって至福のライズタイムが訪れるのである。
ヤマメは東北でも流下が増えると偏食を示す。かなり本物そっくりに巻いたスペントスピナーまでは見切られなかったが、それでも食わない魚もいた

食われる状態としては後述する3パターンに大きく分類でき、難しくはないのだが、なんとも時間が短いのがはかない。短い時は数分で終わるし、長くても30分程度がピークの時間である。数投して食わない時はすぐに結び替えるか、対象魚を変えなければいけないため忙しい。

ある意味ではギャンブル性の高い釣りである。一定のサイズ以上をねらうなら、その時間で釣れるのは数尾程度だろう。ねらいの尺上がいるなら、それ1尾に的を絞らなければ釣れないことを覚悟しなければならない。

翅を立てて流れる虫が食われない時には? 

最初に考えなければいけないのはダンである。翅を立てているダンや、パタパタ羽ばたいているダンが食われたなら、迷わずにCDCソラックスダンを投じるとよい。
オオクマ・CDCソラックスダン
TMC112Yの#11~13を使っている。浮いているダンが食われるシーンを見たら結ぶパターン。サスペンドを見切っても、浮いているダンは別物のように食う個体もいる


一方、翅を立てているダンがかなり見えるにもかかわらず、何も見えない水面でライズが起こる際には、スペントダンを選ぶこと。これが最も多く見られる状況で、チラホラと見えるダンを目で追い出して、食われないかな?と思いながら水面を見ていると、何もない場所でライズが起こることはよくある。

CDCソラックスダンで食わない場合のほとんどでは、魚は羽化失敗のスペント状態で水面に絡みながら流下してくる虫を食べている。マダラ類はこの状態が最もエサになりやすい。
オオクマ・スペントダン
TMC212Yもしくは212TRの#13。翅は本物よりも少し長めに付けてアピール力を高める。ポスト以外は完全に濡らしてから投じる。ハッチ時に最も信頼しているフライ


僕の場合、マダラ類のハッチが予想されるなら、その時期に合わせたサイズのスペントダンを最初に結ぶ。それで釣りが失敗した時や、パタついているダンが食われたのを確認したら、CDCソラックスダンを結ぶ。

どちらが先でもよいのだが、時間が短いため確率が高いほうを選んでそのようにしている。これで魚はほぼ口を使ってくれるのだが、問題はドリフトの精度。羽化失敗の溺れた個体ほど完全にドラッグフリーで流れてくる。

そのため、適正なティペットサイズを選び、立ち位置を考え、少しでも長いナチュラルドリフトを目指すことが、フライを本物のエサと間違えさせられるかどうかの境目になる。

釣りをしていて完全に食わせられなかったり、すっぽ抜けしたり、バラしたりするのはほぼ釣り人側の責任で、その大きさと形のフライに食ってきてくれる以上、フライの問題ではないことが多い。

僕自身が失敗するのも、ドラッグが掛かったり、流す距離が短かったり、ライズ位置の判断が曖昧だったことによるケースがほとんどだ。さらなるキャステイング、ドリフトの上達こそが、この釣りのキモだと考えている。

やや早い時期のフローティングニンフ

次にまったくダンが見えない状況下で、静かなライズが見られる場合。まったく見えないというのは大げさであるが、ダンが数匹見え始めたくらいで連続で静かにライズしている場合などは、フローティングニンフが食われていることを疑うとよい。

この時期はコカゲロウやガガンボなど小さな捕食物が多いため、そちらを疑いたくなるものだ。しかしそれで出なければ、時期がオオクマのタイミングなら、すぐにフローティングニンフを投じてみると結果を得やすい。
オオクマ・フローティングニンフ
TMC212Yもしくは212TRの#15。Fニンフは思いのほか小さくコロッとしていて、#15サイズでピッタリのイメージである。こちらは大きくすると効果がないケースを何度も経験している


ちなみにFニンフは午前10時前過ぎからもう食われていて、その時間帯からオオクマの羽化への動きは始まっている証拠ともいえる。それがだいたい正午近くにまとまったハッチになるわけだから、Fニンフ状態がいかに長いかが分かると思う。

長いものは1時間以上も掛けて羽化するケースもあるのかもしれない。それとも僕が経験したケースが、たまたまそうなのだろうか……。いずれにせよ川辺に立ち、自分の感覚を信じて釣りをすることが、魚と出会う近道だと思う。水生昆虫の種類に詳しいことは、もちろん釣りに役立つだろう。

しかしいくら虫の生態を図鑑で調べても、釣りが上手くなるわけではない。一般的な知識を蓄えても、フィールドでは場所や天気によって、羽化のタイミングなどはコロコロ変わる。大まかな知識を頭に入れたら、現場では柔軟に対応して釣りをしたほうがよい。

ドリフターの確認も役に立つが、ヤマメに食われない個体だからこそ、流下が目につくということもあり得る。また右岸と左岸、流心ではハッチ状況が異なることも多い。

まずは思い込みをなくして、ニュートラルに自然に向き合わなければならない。過去にも何度か書いたが、基本的にはヤマメは最も高カロリーで、食べやすい虫をエサだと考えているはずだ。

スピナーフォールに注目してみる

羽化の場合は前記の例でだいたい釣りが組み立てられるが、問題はスピナーの流下である。東北の川では雪代が重なるためか、ハッチ時に食われることは少なく、ライズにつながりにくい。数日間で集まったスピナーの大量流下こそがライズを誘発する正体で、地元(東北北部)の釣りではそのパターンに注目していた。
オオクマス・ペントスピナー
TMC212Yか212TR、サイズは#13。ウイングをズィーロンにして、きらめきを表現する。フラットな水面でのライズや、パラシュートが見切られた際には渓流でも使う。モルフォファイバーを数本混ぜるのも効果的である


しかし、各地のダンでライズしている川のほとんどでもスピナーへのライズが起こるようである。当たり前の話ではあるが、カゲロウは上流に向かって飛んで集まり、スピナーフォールに至る。ダンのハッチが見えなくなったころからの午後のライズには要注意である。

そのころにはフタバコカゲロウやアカマダラカゲロウ、エラブタマダラカゲロウなど# 17〜21サイズのカゲロウが増えてくるため迷いやすい。だが、そのサイズのフライを投じてもまったく反応しない場合は、オオクマの時期の後期ならスピナーも重要種と考えなければならない。
オオクマ・パラシュートスピナー
TMC212Y、もしくは212TRの#11~15。カーブドシャンクに巻き、ボディーは沈める。パラリと大きめに巻いたハックルがスピナーのウイングになる。東北の雪代明けで、よく活躍してくれる


小さなスペントやイマージャーをいくら結び替えてライズに投じても、まったく反応もせずにライズが繰り返されるようなら、大きさと浮き方を変えるべきだろう。フラットな水面でもパラシュートスピナーにあっさり尺ヤマメが食ってくるのも、スピナーフォール時の特徴である。

簡単なヤマメならそれでよい場合もあるが、本当に流下量が増えて偏食しだすと厄介になっていく。死ぬ寸前の痙攣のような動きにのみ反応するのもいれば、翅のきらめきに反応するのもいる。

その翅が浮いているか、なじんでいるか沈んでいるかを選ぶのもいるし、大量になるとどの虫でも簡単には釣れないのがライズの釣りの面白さだ。そのようなことをイメージしながらフライを用意し、きれいにドリフトさせて解決していくのが、この釣りの醍醐味だと思う。

2018/6/6

つり人社の刊行物
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