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#2「神様、仏様、オオクマ様」

桜の頃のボーナスゲーム

遠藤岳雄、喜久川英仁=文・写真

2人の中堅フライフィッシャーが思いつきで始めた「大もの縛り」。今回は互いに都合が合わず、別々に釣り場へ。片方が釣れて、もう片方が……。世の中はやはり不平等なのか!?
この記事は2013年7月号に掲載されたものを再編集しています。

《Profile》
遠藤 岳雄(えんどう・たかお)
1969年生まれ。静岡県裾野市在住。狩野川や富士川の釣りに詳しく、本流域のライズをねらった釣りを得意としている。ドライフライに限らず、ニンフやウエットフライを使った釣りでも数々の大ものを手にしている。
喜久川 英仁(きくかわ・ひでひと)
1969年生まれ。神奈川県海老名市在住。狩野川や桂川をホームグラウンドに、シーズン中は尺ヤマメ、尺アマゴにねらいを絞った釣りに通う。グラスロッドを使った釣りも好き。

3月中旬の目玉イベント

解禁の喧騒もそろそろ落ち着き始め、我がエリアでも桜並木に花見仕立ての提灯がぶら下がる頃、春のマッチング・ザ・ハッチの代表格、オオクママダラカゲロウの釣りがスタートする。

オオクマの釣りはなんといっても短期決戦。我がホームエリアでは3月中旬頃の1~2週間のお昼を挟んだ30分前後が勝負どころで、この時ばかりは今までどこに潜んでいたのかと思うような大ものが大胆にも姿を現わし、貪り食うようにライズする。

“大もの縛り”を実践する「尺取りドリーマーズ」としては、これを見逃す手はなく、相棒のエンちゃんに「いつ行く?」と聞くと「今でしょっ!」とどこかで聞いたフレーズが返ってきた。
春のマッチング・ザ・ハッチの主役、オオクママダラカゲロウ。真打の登場に大ものは浮き、フライフィッシャーは一喜一憂する。僕は短期決戦性を制し、エンちゃんは翻弄された

オオクマの出現は、我がホームエリアでは桜の咲き始める頃

The 1st Day

川へ向かう車中「ピッポーン」とLINEの着信を告げる音。エンちゃんからだ。
エン 「ごめん、急遽仕事で行けなくなった m(__)m」
キク 「マジ? 仕方ないね……あんたのぶんも釣ってくるよ」
そう返信を入れたが、(何だよ、来られないのかよ)と思ったのは一瞬だけで、(よっしゃ! 今回も俺様が頂くぜ!)とハイテンションで目指すポイントヘ車を走らせた。

オオクマも日によってハッチ量にバラつきがあるものの、羽化へのダイレクトなライズ時間は、短ければほんの数分。長くてもせいぜい30分程度だ。

まずは以前にライズを見たことがある、あるいは良型の魚影を確認できたポイントが有力候補となる。そして上流に瀬があるプールの流れ込みや、大きめの石や岩盤のエグレなどが点在する深瀬であるといった条件を備えていたら、可能性は高い。

そんな条件の場所へ着いたのが11時ちょっと前。春の釣りは少し早めにポイントへ着いて、“その時”を待つぐらいの余裕がほしい。しばし流れに目を凝らすが、水面は未だ沈黙したまま。

(ヒマだなぁ)
退屈しのぎに仕事中のエンちゃんへLINEを送ってみる。

キク 「え~こちら現場~!ど~ぞ!?」
……返事がない。
キク 「ちょっと寒いですが薄曇りでイイ感じです~ど~ぞ」
あいかわらず返事はない。
キク 「お~い、何してんの? こっちはヒマなんですけど!」
ここでやっと返信が来た。
エン 「こっちは忙しいの。仕事よ、シ・ゴ・ト……(>_<)」
キク 「そうですか、それは大変ですね~。こっちは今からオオクマが出ますよ~!」
エン 「あっそう……頑張ってね(+o+)」
キク「そうそう、ここは例年大ものの実績があるから今日も釣れちゃうかも!? 一緒に来られなくて残念だね~」
(クククッ、エンちゃん怒ってるかな?)
さらにLINEを送ってやろうとした矢先、正面の流れがバサッと弾けるのがスマホ越しに見えた。とっさに流れに目を移し、今まさに水面が弾けた箇所を見つめると、今度はポッと一筋の茶色いシルエットが浮かび上がり、バタバタと飛んでゆく。
フライは#12茶褐色ポディーのダンバターン。オーバードレッシング気味に付けたCDCで不安定な動きを演出する。オオクマのライズをねらう場合は、ダン→スペント→フローティングニンフの順で流す

(ついに来た!)
入力途中のスマホを素早くポケットに突っ込み、はやる気持ちを落ち着かせながらガイドからフライを外し、リールからラインをジージー引き出す。と、その時ポケットから「ピッポ~ン」とLINEの着信を告げる音がした。

(なんだよ、こんな時に……)
ガサガサとポケットからスマホを取り出し画面を見る。
エン 「お~い! 出たか~オオクマ?」
(出たよ今、こっちは忙しいんだよ!)
再びポケットにスマホを突っ込み、水面が炸裂した流れに#12のオオクマ・ダンパターンをキャストする。ライズレーンにドンピシャに乗ったフライ、そして次の瞬間、水面が炸裂し、激しい水飛沫とともにフライが消えた。

ビシッとアワセを入れた途端、ズンッと童量感のある重みがロッドに伝わり「よっしゃ!」と自然に声が出る。

下流に下る魚に合わせて自分も素早く移動し、魚のローリングに耐える。
(バレるな、バレるな)
心で何度も連呼しながら、緊張した時間が続くなか、また「ピッポーン」。
(も~何だよ、こんな時に……)

魚とのファイトは最高潮を迎え、いよいよ水面へ浮上してきた。デカイ! 尺はあるかもしれない!
「ピッポーン」
(なんなんだよ、うるせーな!)
ランディングネットを背中から外し、ヤマメとの距離を詰める。

(もうちょっと、もうちょっとだ……)
「ピッポーン」
(あぁ~うるせ~!)
手をいっぱいに延ばし、バサッと一発でヤマメをネットに収める。
よい感じの瀬から続く流れ込み。太い流心が終わるあたりの一等地で、激しい水飛沫が上がった

(やった! 尺ヤマメだ!)
慌ただしくネットの中のヤマメにメジャーを当てると、31cm。ねらいどおりの完璧な釣りを自画自賛し、魚を眺めながら一人悦に入っている間も止まらぬ「ピッポーン」。

とりあえず無視を決め込み、ひととおり写真を撮影した後、優しく流れにリリース。ふぅっと一息つき、スマホを取り出し確認するとエンちゃんからストーカーのような着信オンパレードが……。

音信不通になった数分間の異変を察したようで、ヤキモキしているらしい。
キク 「え~釣れました。尺ヤマメです(*´∀`)/」
写真と一緒に送信した僕のスマホに彼からの返信はなかった。
オオクマは大ものを浮かせる。ハッチの予測、ポイントの選択、フライの選定。これらが上手くハマれば、ご覧のようなヤマメを手中に収めることができるのだ!

The 2nd Day

あれから2週間。つかの間の休日を子どもたちとエンジョイしているところへ、けたたましく携帯の呼び出し音が鳴った。
(おっ、エンちゃんからだ)
「モシモシ、あんた今なにやってんの?」
「今、ディズニーランドでアトラクション待ちして並んでる」
周りに迷惑が掛らぬよう、受話器に手を当てヒソヒソ声で答える。

「はあ? いい~ね~楽しそうで!?」
なぜかハァハァ言いながらエンちゃんが嫌みたっぷりに返してきた。背後からは、ビュービューボーボーと風の吹く音が聞こえ、少々聞き取りづらい。
「えっ? 何? よく聞こえないんだけど」(ていうか、俺は今家族サービスで忙しいんだけど)
忙しい合問を縫ってどうにかひねりだした釣りの時間だったが、ポイントにつく寸前、雲が立ち込め春の嵐に……不穏だ

「こっちはすげ~悪天候になってきて……雨も降ってきて……ものすげ~数のオオクマが出てる……今まで見たことないよこんな数」
「まじ? で、ライズしてるの?」(こっちはミッキーとグーフィーが出てきたよ……)
「それがさ、ハァハァ、ぜ、全然……ないの……ライズ……が」
「ほんと? だってオオクマすごいんでしょ!?」
「そう、だけど、何にも起きないんだよね……ハァハァゼェゼェ」

「あんた何でハァハァ言ってんの?」
「いやっ……ここ何にも起きないからさ……100mくらい下流にいいポイントがあったからそっちに移動しているわけよ……」

オオクマのハッチタイムが終わるまでに何とかライズを見つけようと、エンちゃんは嵐のような暴風雨の中、下流のポイント目指してドタバタと移動しているらしい。

スマホ越しでは荒々しい吐息と風の音で聞き取りづらいが、砂利を踏みしめる音と、ガサガサとレインジャケットの擦れる音が聞こえ、何か悲壮感のようなものまで漂ってくる。

「も、もう……雨も凄いし電話切るわ……また掛ける!」
プツッ……プープープー……そう言ってエンちゃんは一方的に電話を切った。
爆発的なハッチ……静まり返る水面……翻弄される釣り人……運も実力のうち? エンちゃん今回は運がなかったね

まるで濡れネズミのように川を走り回るエンちゃん。快晴無風の心地よい空気感の夢の国でかわいいネズミたちと記念撮影をする僕……。なんとも感慨深いものがあるなぁと考えていたら、昼時のオオクマタイムはとうに過ぎていた。

連絡が来ないということは、そういうことなのだ。ここはあえて聞くのはやめておこう。それでも夕刻になって、あの後のことがやっぱり気になり、「どうだった?」とLINEを入れてみる。

しばらくして「ピッポーン」と着信があり、返事が返ってきた。視線の先でドッカーンと虹色の花火が上がり、日の前のお城が鮮やかにライトアップされ、その光がスマホの画面に色鮮やかに反射している。

僕はそっとLINEを開く。
「捜さないで下さい……」

Road to SHAKU
「オオクマのハッチは尺も浮き浮き!」
オオクマの釣りは何といっても短期決戦。例年実績のあるポイントはもちろんのこと。解禁からここまでの状況や情報をもとに、魚がストックされているだろうポイントを捜し、遅くても午前11時くらいまでには川辺に立っていることが必須条件。それ以外にも、オオクマの釣りで僕らが実践している事項をいくつか列挙してみた。
●雨や強風の日は大チャンス。川が増水するほどの雨でなければ、つらくても寒くてもその時をじっと待とう(天候が荒れた日ほどハッチは起こりやすい。コレホント!)。
●昼食は河原で取るべし!(お昼を挟んだ前後1時間は絶対に川に立っていること)
●大きなフライで勝負する!(オオクマはサイズにして#10~12。ボリューミーなフライが使える数少ないチャンスでもある)
●流れが複雑だったり距離が遠かったり、ドライフライが上手く流せない場合は迷わずウエットフライを!(マーチブラウン等のウェットはこの釣りでは効果絶大。コレもホント!)

2018/3/21

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