南会津、夏のイワナ釣り。
尾瀬の入り口、山岳渓流をドライフライで遊ぶ
里見栄正=解説/FlyFisher編集部=文
夏の暑さがピークを迎え、市街地に近い川でよい釣りをするのが難しくなる8月、向かった先は福島県の桧枝岐村。どれだけ魚にフライを食わせる余裕を与えるか――そんな我慢比べも楽しいという里見栄正さんのイワナ釣りをレポート。
《Profile》
里見 栄正(さとみ・よしまさ)
1955年生まれ。群馬県太田市在住。渓流のドライフライ、ニンフの釣りに精通しており、全国でスクールを行ないながら、さまざまなメディアでフライフィッシングの魅力を発信している。シマノ社のフライロッド『フリーストーン』シリーズの企画・監修を経て、現在『Asquith』の監修に携わる。
里見 栄正(さとみ・よしまさ)
1955年生まれ。群馬県太田市在住。渓流のドライフライ、ニンフの釣りに精通しており、全国でスクールを行ないながら、さまざまなメディアでフライフィッシングの魅力を発信している。シマノ社のフライロッド『フリーストーン』シリーズの企画・監修を経て、現在『Asquith』の監修に携わる。
8月、スローなイワナたち
今シーズンもすでに3回目になるという、里見栄正さんの桧枝岐村への釣行。夏になると毎年必ず数回は訪れるエリアで、ロッドのテストも兼ねてヤマメ、イワナの釣りを楽しんでいる。雪代が明けた時期には里に近い場所でのヤマメ釣りも面白いが、気温が上がる7月以降は山岳渓流のイワナ釣りがメイン。今回もテレストリアルを意識したブラックカラーのパラシュートパターンをベストに詰めて、上流部へ向かう林道を奥へ進んだ。



最初に入ったのは桧枝岐川。川に下りて立ってまず継いだのは『Asquith』の#2/3(7フィート6インチ)。#1/2、#3と合わせて現在3番手あるシリーズのなかでも、特に幅広い渓相の釣りに対応できる汎用性の高さを持つ。加えて、最もラインの重みをロッド全体で感じられるアクションも特徴。


目立ったポイントを探っていくと、流れるフライをくわえようと“極”ゆっくりと水面に出てくるイワナたちの姿が。スローモーションのように水面のフライを吸い込む反応に、遅アワセを意識していてもタイミングが早すぎてしまうほどだ。


潜んでいるイワナの数こそ多いようだが、フライへの出方がかなりスロー。活性が低いわけでもなさそうだが、なんともフライをじっくりと観察しながら食ってきている印象である。



「もう少しフライがゆっくりと流れていれば、魚がフライを食べられたかもしれない」といった場面が少なくない状況。そんななか周囲の流れよりも流速の遅い一筋を見極めて、ゆっくりとフライをドリフトさせるアプローチを行なうことで、サオが曲がる回数は増えていった。
「イワナ釣りの場合、同じ流れでもドリフトスピードが遅いほど、フライが留まっている時間が長いほど、魚が水面に出てくるケースは少なくありません。もちろん遅すぎて不自然なドリフトはNGですが、どれだけ魚にフライを見せていられるか、そんな我慢比べのような要素も、イワナをねらった釣りの醍醐味だと感じています」





イワナが付く場所、食べる場所
「魚にフライを見せるドリフト」は、言い換えれば「魚にフライをくわえる時間を与えるドリフト」ともいえる。その理由の一つとして、魚が定位する場所とエサを捕食する場所が異なるというケースがある。里見さんは、渓魚には「エサを捕食するのに適した水面の流速」があると話す。これは適水勢という言葉でよく表現されるが、魚が実際潜むのは隠れ場所としても機能する流心である場合も少なくない。
そんな場所は、人間から見れば速い流れでも、底付近には魚に居心地のよい流速がある場合もある。とはいえドライフライで水面を釣るには、やはり流速がありすぎる。
そこで近くにある遅い流れ(水面のドライフライを食べやすい流速)にフライを落とし、魚に食いに出てきてもらうようにする。
この場合、魚がフライを見つけて食いに出てくるまでには時間がかかるので、「フライを見つけて食べに来る時間」をたっぷりと与えるドリフトが活きてくる。同じ理由で、反転流や大岩のエグレから魚を誘い出す時も、やはりフライを見せる時間は長く確保したい。








「イワナは、驚くほど簡単にフライをくわえてくれる時もあれば、水面に誘い出すのにヤマメよりも苦労する時もあります。しかも魚ごとに個性や癖を感じられたりもする。そんな側面もイワナ釣りの面白さだと思います」
桧枝岐村は群馬、新潟との県境にも近い山深い地域だが、エサ釣りも含めて、釣り人は少なくないエリアといえる。そんな場所こそ「フライを食べる時間を与えるドリフト」は有効で、他にプレッシャーの高い関東近郊のフィールドも同様だと里見さんは話す。





理想は、矛盾した性能を両立すること
次の日は桧枝岐川の支流へ。支流とはいえ川幅、水量ともに桧枝岐川上流部と変わらぬ規模で、やはり多くのイワナが泳ぐ。



こちらで使用したのは『Asquith』の#1/2(7フィート3インチ)。#2/3よりもやや短いが、張りが感じられるアクションで、軽快にフライを打ち込んで釣り上がりたいシチュエーションに最適な1本。
ただし里見さんが合わせるラインシステムは全く同じで、#3ラインに全長16フィート前後のリーダー・ティペットをセットしている。
「それぞれ対応番手はありますが、『Asquith』のモデルは全てプラス1番手ほど余裕で乗せられてしまうパワーを持っています。風のある時やフライの大きさなどで変えることもありますが、基本的には感覚の好みで選んでも構わないと思います」

●『J731』
7フィート3インチ #1/2 4ピース 価格:8万7000円+税
●『J762』
7フィート6インチ #2/3 4ピース 価格:8万8000円+税
●『J803』
8フィート #3 4ピース 価格:8万9000円+税
◆SHIMANO fishing.shimano.co.jp ☎0120-861130
ここで里見さんに『Asquith』のアクションの特徴について聞くと、「ある意味矛盾した性能を両立させたロッド」という答え。
釣りザオという面では、小さい魚を掛けた時もしっかりと曲がって、その釣り味を楽しみたい。その一方で、キャスティングやメンディングといった動作でクニャクニャ曲がりすぎてしまっては、フライロッドとして扱いにくいものになる。
そして大ものが掛かった時も、サオをのされないようなパワーも欲しい。さらに、ボリュームあるフライをある程度飛ばすには強いロッドを作ればよいが、それでいてティペットまでコントロールしやすい繊細さも犠牲にできない……。
目指したのは、そんな相反する要素を違和感なく合わせ持ったアクションだという。
「月並みな言い方ですが、やっぱり“強靭にして繊細”といった言葉が合うサオだと思います。テストではヤマメ、イワナはもちろん、ニジマスやアメマス、さらにはコイまでさまざまな魚を掛けてみました。よく曲がる一方で充分に寄せられるパワーがあるので、サオは文字どおり満月のようになりますが、いわゆる“ヒヤヒヤのやり取り”にはならないんです」




実際にこの日、尺近いイワナを掛けた時はもちろん、7寸ほどの魚を掛けても同じように里見さんはやり取りを楽しんでいた。
前週の雨でやや水が高かったせいか、ヒラキにユラユラと浮いている魚は少なかった。それでも近くの流心や岩の陰に定位しているようで、この日も夕方までスローなイワナたちがたっぷりとサオを曲げてくれた。
2018/9/6