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WILD LIFE

里見流ブラインドフィッシングのヒント

シンプルなフライ選択と“見せる”ドリフト

里見 栄正=解説
メイフライがハッチし始めた正午近く、パラシュートパターンで釣り上がる

北関東のフィールドのなかでも、比較的早い時期からドライフライの釣りが楽しめるようになる群馬県西部の渓流群。ライズも見られる一方、釣り上がっても充分反応が得られる季節だが、まだまだ盛期ほどのおおらかさではない。全国どこにでもあるそんな状況で、より自信を持って渓を釣り上がるためのヒントを、ドリフトとフライ選択の面から解説。

基本サイズは#14

里見栄正さんのホームグラウンドともいえる、群馬県・西上州の渓。雪代の影響を受けることも少なく、例年3月の中旬からはドライフライの釣りが楽しめるようになる。

この日入った碓氷川水系の渓も、すでに魚は水面を見ているようす。午前中の早い時間こそ反応は少なかったが、11時頃になると虫の気配も濃厚になり、フライへの反応も増えた。
バブルラインの左側、右岸にある岩の陰からヤマメが飛び出した

「季節が進むにつれて、ハッチの時間も朝に近くなってきます。すると、一度水面を意識した魚たちが、その後の時間帯もそのまま上を向いていることが多いので、虫の流下がなくてもドライフライで釣りやすくなるんです。またそういった状況では、早朝にエサ釣りなどの先行者がいても、比較的魚の反応が回復するのが早いように感じます」
川に立った3月下旬、やや水位は低かったが、緩い瀬の中にも魚たちは入り始めていたようだ

いつも魚が付いているという岩盤帯からは、今回も反応があった。とはいえ、一度ドリフトに失敗すると再び出てくる魚はほとんどいなかった

里見さんの場合、釣りのスタイルは基本的にブラインドフィッシング。釣り上がっていてライズがあればねらうが、ドライで反応がない場合は、柔軟に水面下を探ることも多い。

そんなわけで、結ぶフライも使い勝手を重視したパラシュートパターンがほとんど。それも季節を問わず#16より小さいフライはほとんど結ぶことがないという。

基本的に、最初に選ぶのは釣り人からも見やすい#14。虫のリアルサイズに合わせるよりも、ドリフトの正確性を優先させたほうが、これまでの経験上魚は反応すると、里見さんは話す。
ブラインドフィッシングでは、#16より小さいサイズのものは、ほとんど使いません

「流れの中では、あまり小さいフライは安定してドリフトさせにくいので、反応の得られる範囲で、できるだけ大きいサイズを使いたいというのが本音です。もちろん釣りとしては、リアルサイズで完璧なドリフトが理想なのでしょうが、#14を基本とした釣りで、これまで不都合を感じたことがないのも事実です」
#12、#14のフライサイズをメインに使用する理由の一つには、普段使用する全長で約18フィートのリーダーシステムで、感覚的に扱いやすいという理由もあるという。プレゼンテーション時のターンぐあいや、フライのほどよい空気抵抗など、身体に染みついている感覚も重要視している

解禁月はまだ痩せ気味だが、季節の進行とともに、コンディションはよくなっていくはず。例年西上州の渓では5月の連休ごろがドライフライの釣りの盛期だという

護岸際の流心よりも、左岸側の緩い流れでライズしていた1尾がフライをくわえた

もちろん特定の虫を偏食するようなライズに出くわした場合はフライサイズを合わせるが、逆にブラインドフィッシングで反応が少なくても、サイズを下げてみるということはほとんどない。
釣り上がりで使うフライは、季節を問わず#14を基準に、小さくても#16程度。反応があれば#12を結ぶことも多い

以下は、この日里見さんが結んだフライたち。唯一エルクヘアをウイングにしたクリップルパターンは、プールでライズしているパラシュートへの反応が弱かった魚に対して使用した。
パイロットフライとしても使うパラシュート。アブドメンはグースバイオットだが、ダビング材のタイプも多用。サイズは#12~16までを多数用意している。ブラインドフィッシングで使いやすいように、浮力、視認性ともによく、ケアが少なく(乾きやすく)、壊れにくいフライが中心。パラシュートでは、より空気を内包できるように、ハックルは厚めに巻き上げているのが特徴

こちらも#12~16までを用意。サイズとカラーバリエーションでマダラ系も含めた多様なメイフライを表現できるが、極端にサイズを下げることはほとんどない

エルクヘアをウイングにしたクリップルパターンは、ボディーが水中に入る姿勢で、プールでのライズに使用した

「釣れるドリフト」を実践するために

里見さんがキャストごとに実践しているのは、ループの先端をポイントに突っ込ませるようなプレゼンテーション。

リーダー・ティペットに充分な弛みを入れて落とせば、当然それが伸びきる間フライはナチュラルに流れてくれる。手前のラインを処理する必要がある場所以外は、こまめなメンディングも必要ない。
ループを展開させ切らずに、そのままポイントに突っ込ませれば、追従してくるティペットはおのずとスラックが入って着水する。ピンポイントに入れるためには、直進性のあるナローループが必要

「ループの先端を水面に突っ込ませる」里見栄正さんのプレゼンテーション。ポイントによっては、ロッドを振り切る直前にティップをひねるような形でループの面をずらして落とすことも多い。「突っ込ませる」といっても、ティペットまでターンさせずに着水させればよいので、それほどラインスピードを上げることなく、正確性を重視する。ポイントの規模が小さければ小さいほど、狭いループ幅で着水させる。
うまくスラックを入れて着水させることができれば、弛みが伸びきるまでは何もせずともフライはナチュラルに流れてくれる。手前の流れにラインが入っても、ポイント間を充分に流せる余裕があれば、余計なメンディングはしない


この日里見さんが使ったのは、『Asquith』の#2/3。#1/2、#3と合わせて現在3モデルあるシリーズのなかでも、#2/3は最も“軟らかく”感じられるという番手。#1/2よりもラインの重みがロッド全体に乗るようなアクションで、急激な方向転換にもしっかりとティップが追従し、フライを運んでくれる。

#2/3は7フィート半という長さも含めて、渓流のオールラウンドモデルとして、里見さん自身メインにしている1本で、スラックを作るキャストも行ないやすいのが特徴。
この日使用した『Asquith』#2/3。里見さんは#3ラインを合わせたが、風の影響やそれぞれの好みの使用感に合わせて#2で使うことも想定されたモデル。とはいえ、逆に#4ラインを乗せても対応できてしまう強さも合わせ持つ

渓流のドライフライの釣りでは、「直線的にキャストすることはほとんどなく、ターンさせ切らないのはもちろん、リーチを掛けたりして、常にスラックが入るようにしています」と話すように、ショートレンジでティペットにスラックを入れるキャストのほか、ウエイトを付けたニンフも運びやすい仕上がりになっている。
里見さんのグリップ。プレゼンテーション時のティップ操作が多いので、ブランクの根元に軽く人差し指を添え、キャスト時の細かい調整を加えやすくしている

この日、春も早いせいか大ものが動き出す気配はまだ感じられなかったが、魚影は多いらしく、ここぞというポイントからは何かしらの反応がある。とはいえ、ドラッグは掛かっていなくとも、サッと流れてしまうようなレーンでのドリフトには、なかなか魚は顔を出さない。
こんな緩い流れからも反応があった。フライをじっくりと見てから水面を破ってくるという印象

そんな時に心掛けるのが、里見さんが「流さないドリフト」と呼ぶ流し方。周辺の流速よりもほんの少し遅く流れるドリフトで、ひとつのポイントの中でも、特に流下の遅い一筋(レーン)をねらってフライを流す。最初からピンポイントのレーンを見つけられなければ、一つのポイントで何度もレーンを微調整して流してみれば、目当ての流れが感覚的に判断できるようになるはず。時には上流側に置いたラインでフライの流下にブレーキを掛けるような操作を行なうこともある。
流心の脇、流れが寄せ合いつつ流れる、周辺よりも流速の遅いコースをていねいにドリフトさせる

魚が見つけやすく、その時の活性で捕食しやすい速さのドリフトを目指すが、もちろん遅すぎて不自然になるような流下はNG。

流れるフライをじっくりと見てから水面を破る魚が多かったこの日も、しっかりとフライを見せてやるような流し方を心掛けることで、ヤマメの反応は増えたようだ。そして、そんな時にフライに出る魚ほどフッキング率も高いということになる。

もう少し季節が進めば、良型のヤマメも本格的に動き出し、流速のある場所からの反応も増えてくると里見さんは話す。これから各地の渓は盛期を迎えるが、いつものドリフトでドライフライへの反応がいまひとつと感じる場合、こんな「流さないドリフト」を試してみたい。

『Asquith』 柔軟性と高い剛性を両立させた3モデル
シマノ社のフライロッドのフラッグシップモデルである『Asquith』は、G.loomisとのコラボレーションで誕生したシリーズ。海外メーカーとのコラボシリーズとはいえ、シングルハンド・モデルの監修は里見栄正さんが担当し、そのアクションはあくまでも日本の渓流の釣りに則っている。
ブランクには2社のロゴが並ぶ

現在シングルハンドでは、番手に加えて調子の異なる『J731』、『J762』、『J803』の3モデルをラインナップしており、いずれも渓流域から開けた流れのライズフィッシングまでをカバーする低番手モデル。イワナ、ヤマメの釣りに楽しいスペックではあるが、ロッド縦繊維の内層と外層にカーボンテープを逆方向斜めに密巻きをした独自構造「スパイラルX」で、しなやかさと剛性を高めたトルクフルなロッドに仕上がっている。そのため、一見#3よりも強い番手を使いたくなるようなトラウトとのやり取りにも楽しい。

ロッドを握った感じも、ブランクに密度が感じられるような、独特なもの。ねっとりと曲がってくれるようでいて、ティップを操作するような細かい動きにもストレスはない。ブランク自体の強度も高められているので、狭い渓流でキャスト時に岩や枝にぶつけてしまっても、破損しにくいというメリットもある。
各番手ごとの解説動画はこちら
◆SHIMANO fishing.shimano.co.jp ☎0120-861130 ●『J731』
7フィート3インチ #1/2 4ピース 価格:8万7000円+税
●『J762』
7フィート6インチ #2/3 4ピース 価格:8万8000円+税
●『J803』
8フィート #3 4ピース 価格:8万9000円+税

曲がりの限界が高いところに設定されているので、軟らかく感じる一方でトルクフルな感覚も得られる、独特な使い心地を実現。「充分曲がったあとからも強い」ロッドなので、里見さんは#3モデルを中心に、アメリカやニュージーランドのトラウトの釣りでも愛用している

『Asquith』シリーズでは、リールもラインナップ。ドラッグ部分は防水構造を採用した堅牢な作り



2018/4/27

最新号 2024年6月号 Early Summer

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