フライを食わせる流し方

”マイクロドラッグ”に注目する

里見 栄正=解説
プレゼンテーション時にロッドティップを操作して、斜め方向のループを繰り出す。この状態で着水すれば、コンパクトな逆U字にスラックが入る。ドリフト距離も長くはないので、メンディングも不要

フライをしっかりと見せ、捕食の時間も与える。フィールドによっては、そんな“流速よりも遅いドリフト”でなければ出てこない魚も多い。一見して気づきにくい微細なドラッグを見極めるコツと合わせて、渓流ドライフライでより多くの反応を手にするための技を解説。
この記事は2016年9月号に掲載されたものを再編集しています。

《Profile》
さとみ・よしまさ
1955年生まれ。群馬県太田市在住。フライライン及びティペットコントロールを駆使したドライフライの釣りを得意としながらも、ニンフを使ったルースニングの釣りにも長ける。シーズン中は全国でスクールを行いつつ、川をめぐる日々。

見せるドライフライ

この日、里見栄正さんが訪れたのは新潟、魚野川支流の三国川。新潟県は朝から強い雨だったが、少しでも渇水状況に変化をもたらしてくれればと、関越トンネルを抜けて上越方面へ足を延ばした。

予報どおり雨は午前9時過ぎにはあがり、入渓。渇水気味の状況にそれほど変化はないが、ざっと降った雨で水の中も少しはリフレッシュされたかもしれない。さっそく小さな落ち込みにパラシュートを落とすと2投目で水面が割れ、7寸ほどのヤマメが顔を出した。
雨上がりの三国川を釣り上がる。水量は少ないが、魚の付きそうな流れは豊富だった

その後も同じようなサイズのヤマメがコンスタントにフライに飛び出してくる。が、じっくりと魚にフライを見せるようにドリフトさせなければ、同じポイントでもなかなか反応はない。

水量の問題か、人的プレッシャーの影響か、流心脇の緩流帯にフライを落としても、よりゆっくりとドリフトさせなければ、流心に入っているヤマメたちは食いに出てこないようだ。
入渓後すぐにサオを曲げた、小振りながらきれいなヤマメ

ここで里見さんが実践している「ゆっくり流すドリフト」とは、具体的にどういったものなのか。それは「実際の流速よりも遅く流す」ということ。通常のナチュラルドリフトよりも長い時間魚にフライを見せることで、流心の中の魚にもフライを食いに来させる時間的な余裕を与えてやることができる。

もちろん、極端に流速との差がありすぎてはいけない。引き波や波紋が生まれないレベルで、ほんの少しだけ表層の流れよりもゆっくりと感じられるようなドリフトが理想的。そしてそのためには、常にフライの上流側にティペットを配置するようなキャストが必要になる。

流速よりも遅く流す

釣り上がっている状況でフライの上流側にティペットを置くためには、キャスト時のライン操作が重要になると里見さんは話す。

まずは、フライ先行で流すために、リーダー・ティペットを逆U字の形で落とす方法がある(図1)。上流側にリーダー・ティペットがあるため、これがわずかなアンカーとなり、流下するフライがティペットから上流方向に軽く引っ掛かるような感じでシステム全体が流下していく。
「食わせるドリフト」をするためには、魚がフライを食いやすいコースを流すことも大切。ここでは、流心の脇に形成される流れの緩いレーンをアップクロスでねらっている。レーンの頭にティペットを固め、フライラインは流心よりこちら側の流れに置いた

もちろん、上流側に引き波ができてしまうような遅さはNG。流れの幅や形状によっては、水面に向かうループが展開する直前で軽くリーチを入れるようにして落とすことで、フライ先行で流れる状態を作ることもできる。

もうひとつは、ループの先端を水面に置くようにして、リーダーから先の部分にスラックを入れて落とす方法(図2、図3)。1ヵ所に固まって落ちたティペットは、フライの流下に従って徐々に伸びていくが、その弛みがなくなるまでフライはドラッグフリーで流れることになり、その過程で必然的にフライ先行の形が生まれることになる。
こちらは流心の手前際のレーンをねらう場合。縦のループでティペットを1ヵ所に固めるように落としてやれば、その後は自然とフライ先行の形になって、スラックの入ったティペットが伸びながら流下していく

ティペットを固めるようにしてスラックを作る場合、ループの先端を景初に水面に置くような形で落とす。小さくまとめるためにはできるだけナローループの状態で落とすのがコツで、水面の近くでターンさせるイメージ

「僕の場合は、逆U字にする時も、リーチを入れる時もティペットの先端は伸ばし切らずに、必ずスラックを入れるようにしています。そうすることで、より小さなポイントでもナチュラルドリフトをしやすくなるほか、短い距離であればメンディングの必要もほとんどありません」

実際里見さんは、ロッドティップを効果的に使って横、縦、斜めとさまざまな角度のループの先端をそのまま水面に落とすようなキャストを多用していた。ほとんど立ち位置を変えずに、周辺ポイントを手返しよく探りながら釣り上がっていく。
プレゼンテーション時には常にティペットにスラックを入れる。そのためには写真のようにループをそのまま水面にぶつけるような形でキャスト。逆U字などに折り畳んで落とす場合もあるが、ここでは1ヵ所にティペットを固めて落とした

流心に付いている魚でも、その場で水面に出ることは少なく、捕食するのは流下物を食べやすい脇の緩いレーンであることが多い。そのため、比較的速い流れに入っている魚を誘うために流速よりも遅いドリフト」が有効になるのだが、前述のライン操作のほかに、流すレーンを見極める必要もある。

ねらうのは、基本的に流心の脇や流心同士の間にできる緩いコース。とはいえ、フライがほとんど動かないようなスポット(反転流ではない)ではなく、ちゃんと緩いながらも流心に沿って流下するようなレーンをねらいたい。
落ち込みによって形成された筋のある深みからヒット。この日使っているのは里見さんが監修するロッド「Asquith」で、パワーがありながらも、しっかりとバットから曲がり、魚をいなす

見えにくいドラッグ

ここまで解説してきたのは、魚にアタックさせやすくするフライの流し方だが、逆に嫌われてしまうドリフトも覚えておきたい。

当然明らかに下流にラインが引っ張られて、引き波ができるような状態に魚は反応しないが、ここで紹介したいのは里見さんが「マイクロドラッグ」と呼ぶ、微細なドラッグ。

「一見しただけではナチュラルドリフトに見えるような流し方でも、実は細かいドラッグが掛かっていたりします。スクールなどに参加していただいた方の釣りを見ても、実際それに気づいていない人も多く、チャンスを逃している場合も少なくありません。
この日使用したのはシマノ「Asquith」の#2/3(7フィート6インチ)。ネジレ剛性に優れた「スパイラルX」構造を採用したブランクスにより、繊細なティップ操作に適している。ティペットにスラックを入れるコンパクトなループや、逆U字を作りやすいサイドループなどのライン操作も行ないやすい

引き波や流れに逆らうような動きが見られないので、なかなか判断しにくいものではありますが、これをクリアすればフライに出る魚はもっと増えると思います」

そんなマイクロドラッグを見極めるポイントとしては……

①気づかないうちにフライが流下するレーンをわずかに外れてしまっている
②同じレーンに乗っているのに、流下スピードにムラが出る(不規則な変化がある)

①のケースは緩い流れでも起こるので意外と気づきにくく、特に流れがぶつかっているような落ち込みで発生しやすい。②は比較的ゆっくり流れていたフライが、急に速くなってから元のスピードに戻ったりする現象で、当然その逆の変化もある。

いずれの場合も、ティペットなどのわずかなテンションによって発生するドラッグ。これらはもちろんラインの置き方を改善することで回避できるが、自然に流せていないことに気づかなければ、せっかく魚の付いているポイントでも無駄にしてしまうことになる。

特に②の場合は、流速によっても変化が生じる場合も少なくないが、少しでも流れと調和していない動きは常に見極めたい。
コンパクトなループで、ブッシュ下にフライを落とす。やや下流の肩(〇の位置)に付いている魚をねらうため、フライラインは手前の流れに置く。この程度の距離であれば、ティペットにスラックが入っていれば、手前の流れにラインを取られてもドリフトには影警しにくい

「基本的に渓流魚は、流下してくるエサのコースを予測して捕食行動に移ります。その際に流下物が少しでも流れと違う動きをすると、やはり魚は警戒心を抱き、素直に食いついてくれなくなります。もし直前でUターンされたりした時に特に思い浮かぶ原因がなければ、この微細なドラッグにも注目したいですね」

釣れる流し方と、気づきにくいドラッグ。これら2つの要素を踏まえていれば、いつものドライフライの釣りがもっと変わるはず。
ブッシュ下の壁際から水面が割れた

魚は付いているようだが、水面への反応が今ひとつ……そういった状況でこそ、こんなことを考えながら釣りをしてみてほしい。

2017/9/25

最新号 2017年9月号

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