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第2回 スパイダーパラシュート

放射状の大型ハックルが効く?

渋谷直人=解説

シーズンを通じて渋谷直人さんが信頼を置いて結ぶパターンを、それができるまでのエピソードを全9回でお届け。今回は大きすぎるとも思えるハックルが特徴的なスパイダーパターンを紹介。
この記事は2017年1月号に掲載されたものを再編集しています。

《Profile》
渋谷 直人(しぶや・なおと)
1971年生まれ。秋田県湯沢市在住。地元の伝統工芸である漆塗りの職人として生活しながら、自ら作り上げたバンブーロッドでヤマメを追い求めている。
●公式ホームページ www.kawatsura.com/

放射状ハックルが持つ効果

これは個人的な思い込みかもしれないが、何か放射状のもの、たとえばダーツの的のようなものを見ると、自然とその中心に視線を注いでしまう。そしてダーツを投げるにしても、何もルールを知らなくても、やはり真ん中をねらいたくなるものだ。

それでは魚にとって放射状のシルエットとは、どのような意味を持つのだろうか。たとえば昆虫類は、基本的に胸部から脚や翅が出ている。中心に近い位置から、それらは放射状に伸びているわけだ。そしてこれを食べる魚も、やはり中心めがけて食っているように感じる。

というのも、今回紹介する大型フライに対して、ほとんどの場合魚はガップリと中心めがけて食ってくるのである。端のハックル部分をつまみ食いした、などということは、ほぼ記憶にない。

『スパイダーパラシュート』は、パラシュートの利点を最大限に活かすことができた、僕にとって近年(とはいっても10年近くなるが)の最高パターンである。これらのフライのおかげで、毎年のように大ものを手中にしているのだ。
魚の目から見ると中心に身があるように見え、真ん中を食ってくれるのではないかと思う。表面張力でへばりついて、ドラッグヘッジ効果も高い

こんなに大きなハックルで逃げないのか?

このフライを作るようになったきっかけは、10年ほど前に嶋崎了さんと夏の五能線を釣っていた時のことだ。小渓流だったが渇水で、ヤマメは神経質だった。慎重に歩いていても、プールのヒラキからは走られてしまい、繊細な釣りを余儀なくされた。

僕は7Xに#18くらいのフライングアントを使って、数尾の7寸ヤマメを釣った。だが、ほとんどの魚は見にきても逃げる感じで、どうも釣りが成立する気がしなかった。暑いし、おまけに渇水だし……と、言い訳ばかりが脳裏をよぎる。

そんな時に嶋崎さんが「これ、朝に車の中で巻いたんだよね〜。試しに使ってみるか!」と出してきたのが、とてつもなく長いファイバーを使用したパラシュートフライだった。先入観から僕は「それをこの状況で投じたら、絶対逃げるって!」と言いながら、静かなプールで嶋崎さんがキャストするのを、どうせ釣れないだろうと思って眺めていた。

当時、嶋崎さんはたしか『クモフライ』と呼んでいたと思う。ボディーがあったかどうかは記憶にない。
その静かなプールには、今にも逃げ出しそうな25㎝ほどのヤマメが浮いていた。そこに500円玉以上もある大きさのハックルが、ペタッと張り付いて流れていく……。
ハックルの直径は48㎜。500円玉を超えるくらいの大きな放射状のシルエットは、ファジーに虫っぽさを表現している。またそれだけではなく、フックやティペットの存在をごまかしてくれる優秀なパターンだ

絶対に逃げるはずだと思っていた、その不自然なくらい大きいフライに、魚はフワーッと浮いてきた。そしてパクリと大口を開けて食ってきたのである。魚を手にして笑顔の嶋崎さんに聞くと、ティペットは6Xだという。

僕は完全に混乱してしまった。これは何かの間違いで、たまたまだと思い込みたかった。それほど、当時の僕の想像とかけ離れた行動をヤマメがとったのである。だが同じことが2度あったら、その事実は受け入れるしかない。

一刻も早く真実を知りたくて、それからは浮いたヤマメを見つけたらすぐに嶋崎さんにねらってもらった。そして結論としては、やはりそのふざけたサイズの『クモフライ』を、魚は同じように食ったのである。この時の衝撃は、今でも忘れられないくらい鮮明に憶えている。
嶋崎了さんが最初に使っていたパターン。フックはTMC212Yで、ハックルはコック・デ・レオン。ボディーはなくハックルのみだったが、魚は中心をゆっくり食っているように見えた

コック・デ・レオンからインドコックへ

コック・デ・レオンのハックルはキラキラして艶めかしく、いかにもそれのおかげで釣れた気がして、嶋崎さんにねだってケープを1枚いただいた。結局その後のシーズン中、ずっとそれを使ったフライで通すくらい活躍してもらった。

だがやがて、コック・デ・レオンを使った時の欠点もいろいろと見えてきた。コック・デ・レオンのハックルファイバーは、細くて弱い。そのため長期間使用すると、後方になびいてしまい、ダウンウイングのように下側にまとまってしまう。

そして数尾釣るとグシャグシャになり、フライの交換を余儀なくされる。それゆえ相当な数のフライを用意する必要があった。

またバランスが少しでも崩れると、このフライは逆さまに着水してしまうことがある。それを解決するために、僕はニンフ用のダビング材をボディーに使ってみた。ボディーが吸水することで重くなり、着水ミスをなくすようにしたのが、最初の『スパイダーパラシュート』である。
初期のものはTMC212Yの#15で、ハックルにはコック・デ・レオンを使っていた。フライとしては優れていたが、耐久性に乏しく、かなりの数を用意する必要があった

ハックル材はコックネックで捜していたが、以前に使っていたインドコックのケープに同じくらい長いファイバーの硬い毛質のものがありそうだった。最初にイメージしたクモは、夏の渓流によくいるライトジンジャー系の#15サイズのクモだった。

そしてやはりジンジャー系が、最も食いがよいように感じた。これは今思えばガガンボ類などにも共通する色でもあり、クモだけではなく広い意味で、虫っぽさを兼ね備えていたように思う。
スパイダーパラシュート
●フック……TMC212TR #15
●スレッド……8/0ブラウン系
●ポスト……エアロドライウィング・FLオレンジ
●ボディー……ニンフ用ダビング材・各色
●ハックル……インドコック・クリー

タイイング動画はこちら

そして最終的に落ち着いたのが、インドコックのクリーという色であった。これはライトジンジャーっぽい色を醸しながら、黒、白やレッドなどまだらに入っているバリアントの一種だ。とはいえ、そこまで厳密な色の違いは、魚にはそれほど関係ないだろう。なにより僕にとって、見た目が釣れそうに思えるのだ。

魚が釣れることが最も重要だが、釣れそうな気がするフライというのは巻く気になるし、釣りにも持っていきたくなるものだ。現在に至るまで、この『スパイダーパターン』を愛用している。多少の壊れやすさは仕方がないとして、シーズンを問わず信頼を置くパターンになっている。

2018/3/5

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