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スカジットタクティクス入門│第8回

スカジットタクティクスを全9回でお伝えしていく

文・写真=仲野靖

短めのロッドと軽めのボディー

ラインが水流を受けていることを感じる「起点」を意識しながら、その先にあるフライを流れの中で効果的にスイングさせていくスカジットの釣り。その釣りのイメージを実現するために必要になるのがバランスのとれたタックルとそのセッティングだ。

ここ数年、国内でのレッスンも積極的に行なっている仲野さんが、多くの受講者に接する中で特に気になっている部分が2つあるという。それは多くの人が選んでいる「スカジットボディーが重すぎる」ことと「ロッドが長すぎる」こと。

これまでにも何度か解説してきたが、スカジットの釣りはフライをしっかり泳がせるスイングを基本にしている。その際、「スカジットボディー」と「シンクティップ」は一体であり、決して「シンクティップをスカジットボディーにぶら下げている」というイメージではない。だが、実際は日本に限らず、海外の釣り事情を見てもまだまだスカジットボディーはシンクティップを支える浮きというイメージが強いせいか、必要以上に重く太いスカジットボディーを選択する人が多いという。また、重いスカジットボディーは一見するとキャストが楽になるので使い勝手がよさそうだが、実際はつり合うシンクティップもそれだけ重いものになり、特に日本の釣り場であれば不必要な場合がほとんど。さらに、それを投げようとすることで、ロッドもオーバースペックになりやすい。

現在、海外のスティールヘッディングはもちろん、北海道の天塩川や十勝川といった国内の本流にも積極的に釣りに行っている仲野さんの使用ロッドは、国内であれば#5〜6クラスの11フィート半から12フィート半というのが標準。その際のスカジットボディーは約19〜20フィートの長さで、重さは250〜300グレインだ。「ライン(スカジットボディー)が重ければ投げやすい、あるいは長いロッドのほうが有利というのは、実釣との兼ね合いを考えた時にむしろ誤ったイメージになることが大半です。そもそもロッドは長くなるほど、釣りで必要になるハイスティックなどの片手での操作がやりにくくなる。また、必要以上に重いラインシステムは、水中の起点を感じながらスイングをするという、この釣りが本来目指している釣り方にもマイナスです」

 

 

リーダーとフライの調整

仲野さんが実際に使用しているタックルは下の通りだ。

釣り場:北海道の本流(天塩川、十勝川、釧路川)、ロッド:#5~6 11フィート半~12フィート半、シューティングライン:モノフィラタイプ20~30ポンド、スカジットボディ:18~20フィートの250~300グレイン、シンクティップ:T8~17の5、7、10、12、15フィート(※タイプ6~10相当)

釣り場:アメリカやカナダのスティールヘッド河川、ロッド:#8 12フィート4インチ~13フィート8インチ、シューティングライン:モノフィラタイプ35~40ポンド、スカジットボディ:20~22フィートの400~420グレイン、シンクティップ:T8~17の5、7、10、12、15フィート(※タイプ6~10相当)、そのうえで、次に釣り場で必要になるのが、おもにフライ、リーダー、そしてシンクティップを、ねらう魚の性質や釣り場の状況に合わせて、適切なものにするという調整作業だ。ここではその基本パターンを理解するのに役立つ、2つのケースをまず紹介する。

 

 

flyfisher photo

 

ケース1 スティールヘッドやアメマスなどの遡上魚を川の広い範囲でねらう

フレッシュな状態にある遡上魚をねらうケース。典型的なのはスティールヘッディングだが、国内でも北海道の本流で遡上系のアメマスをねらう釣りなどはこれが当てはまる。また、ニジマスねらいでも魚がフレッシュな状態で、スイングする大型のフライに反応してくることが予想される時は同じシステムでねらえる。

このような場合、フライはノーマルサイズのイントゥルーダーやダーティー・ホォー、国内のニジマスやアメマスなど少しサイズが落ちる場合ならやや小型に巻いたダーティー・ホォーなどをよく使う。その際の組み合わせは、「ウェイトを入れた重めのフライ+短めに設定したリーダー(ティペット)+シンクティップ」というのが基本パターンになる。

スイング中は、着水直後から流し終わりまで、起点とするシンクティップの先端近くでウェイト入りのフライが最後までテンションを失わず、泳ぎ切るように操作することを意識する。この時にリーダーを余分に長くとっていると途中でテンションを失いやすく、「フライがタテ方向にストンと落ちる」といった余計な動きが入りやすくなる。そのような動きは、特に遡上魚ねらいの場合、フライへの興味を極端に失わせる。つまりリーダーは短くし、ウェイトのあるフライをシンクティップの近くでしっかり泳がせながら釣っていくほうが結果が出やすい。

 

 

ケース2 国内の本流などで、狭い範囲にいる居着きのニジマスをねらう場合

大きなフライやよく泳ぐフライで広く流れを探るのとは状況が異なる場合。たとえば日本の本流釣りで多く見られるような、複雑かつ範囲としては狭い流れの中にピンポイントで魚がいることが想定される場合には、まずフライをより小型のウェットフライに変える。その際は、フライはノンウェイトにし、リーダー(ティペット)はやや長めにとって、スイングの基本は維持しつつ、フライは起点として実際に感じているシンクティップの先端部分よりさらに先の部分で漂わせるようなイメージで流す。この時、ある程度流れがある場所で、よりフライが漂いやすい場合にはリーダーは長め(最大で1m強ほど)にし、逆に流れが緩く、あまり長くしすぎるとフライがテンションを完全に失ってしまうような場合には短め(最短で60cmほど)に調整する。そのうえで、どちらの場合も遡上魚ねらいの場合に比べれば、フライをスイングさせるレンジそのものをよりタイトにするイメージで釣りをしていく。

 

 

シンクティップの選び方

以上が釣り場やねらう魚に合わせたフライとリーダーのおもな調整法だが、システムを組む中で、もうひとつカギになるのがシンクティップの選択だ。仲野さんは国外・国内のどちらのフィールドに出かける時も、シンクティップについてはタイプ6〜8相当の各シンクレートのものを、「5フィート(1.5m)」、「7フィート(2.1m)」、「10フィート(3m)」、「12フィート(3.6m)」、「15フィート(4.5m)」の広いバリエーションで持ち歩き、釣り場の状況に応じてこまめに変えながら釣りをしている。

その際、実際にどのシンクティップを使うか決めるうえで、仲野さんがひとつの目安としている方法がある。

まず前述した「ケース1(やる気のある遡上魚をねらう釣り)」の場合。この時は、釣り場の規模に合わせてシンクティップの長さをある程度決めたら、そこから先は、シンクティップの長さは固定して、おもにシンクレートのほうを変えていく。その理由は、遡上魚の釣りが成り立つような状況の場合、一定のスイングができていれば魚は反応してくるので、その時に魚のいる「層」を早く見つけることのほうが釣果に直結するからだ。

それに対して、「ケース2(複雑な流れの中でスレた魚をねらう釣り)」の場合。この時は、複雑な流れにしっかりシンクティップが噛むよう、まずある程度重めのシンクティップを選択することが多い。そして、そこから先はシンクレートをあれこれ変えることを考えるよりも、シンクティップの長さのほうを積極的に調整してみる。それによってねらう流れに、よりピンポイントでフライを通せるものを捜すほうが結果を出しやすいからだ。

つまり、「遡上魚ねらいならおもにシンクレートを調整」「複雑な流れの中での居着きねらいならおもに長さを調整」というのが、仲野さんのシンクティップ調整の大まかなイメージ。もちろん、釣り場や魚の状況は刻々と変わるので、すべては条件次第だが、ラインシステムを含めた適切なタックルバランスを意識できれば、スカジットの釣りはより実践的でかつ楽しいものになる。






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2024/7/16

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