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忍野ノート2024

VOL.9 9月7日

佐々木岳大=文と写真

茂平橋上下で川底を覆いつくす梅花藻が増水による流出をまぬがれて一安心

《Profile》

佐々木 岳大(ささき・たけひろ) 1974年生まれ。神奈川県南足柄市在住。ホームグラウンドは地元の丹沢など。C&Fデザイン社に勤務。マッチング・ザ・ハッチの釣りのほか、ドライフライ、ニンフを使った小渓流の釣りも得意としている。
 
台風10号と秋雨前線の影響で降り続いた大雨の影響で、忍野の水位はいまだ高いままだ。
茂平橋で合流する支流・新名庄川からの流れは透明感を取り戻した。水源のひとつである山中湖からの放水が続いている影響で、通常とは逆に上流域にまだ若干の濁りが残っている。釣りに影響を及ぼすほどの増水・濁りではないが、このようなコンディションがどのように釣りに影響を及ぼしたのかをレポートしたい。

夏の終わりを感じる空気感


台風10号が去ってから約1週間。神奈川県西部の地元渓流は高水が続いている。もともとの水量が少ない地点まで標高を上げれば、釣りの成立する場所もあるかもしれない。しかし、針葉樹の植林による山肌は脆く、まだ危険性が高いと判断した。

忍野であれば比較的足場がよく、経験的に危険な場所の予測が付きやすい。茂平橋付近で復活の兆しが見られていた川底に自生する梅花藻の流出が気掛かりだったこともあり、ようすを確認することにした。

栗のイガが落ちている地点で頭上を見上げると…

1本だけ色の違う樹木がある。箱根の山で近年見られるようになった。害虫による樹木への被害だと思われる事象を忍野でも確認した

9月に入り、忍野ではようやく朝晩は過ごしやすい気温になった。日中の気温が30℃を越えたこの日も、木陰では過ごしやすく風が心地よい。あきらかに盛夏の空気とは異なり、岸辺にはコオロギやトンボなどの大型陸生昆虫が見られる。秋の深まりを実感するほどではないが、夏の終わりは感じられる。

マスの目先を変える意味で、このような大型陸生昆虫のイミテーションを1本フライボックスに入れておくとよい

使う人が少ないせいか?トンボのパターンは忍野で予想以上に効く場合がある

流速と選球眼





[忍野フィッシングマップ:ポイント写真10]通称:テニスコート裏のカーブは、対岸からの湧水が豊富で、透明度が高く深い淵がある。竿を出せる右岸は、足元の護岸沿いに添って、真っ直ぐ下流に向けて流れ、流速もある。対岸は大きな巻きになっているが、平水時は右岸と左岸の流速差が大きく難易度が高い。

対岸に浮く木の葉は画像右から左、上流に向かって大きく巻きながら流れている

しかし、この日は増水が引き切っていない状況で、ポイントに立った瞬間に確信が持てた。「今なら絶対に釣れる!」増水によって対岸の巻きの流速が速まり、右岸と左岸の流速差が小さく釣りやすくなっていたからだ。

巻いているレーンにフライからフライラインの先端までを配置してやれば、あとは対岸のバンクに添って勝手に流れてくれそうだ。目を凝らせば、水面直下に定位してエサの流下を待っていそうなマスの姿がいくつも見てとれる。

マスの挙動からエサの流下を待っているようすが感じられた

選んだフライは16番のエルクヘア・カディス。
忍野でエルクヘア・カディス?と思うかもしれないが、対岸のバンク際などを長くドリフトさせるシチュエーションでは、定番となっていた時期もあり信頼している。浮力の持続性が期待でき、たとえ沈んでしまった場合でも、パラシュートパターンなどよりは、マスに嫌われることが少なく使いやすい。

浮かべても、沈めても、動かしても効果の期待できるパターン

1尾目の釣果は数投で出た。予想通り、一度レーンに乗せてさえしまえば、ドラッグフリーで自動的に対岸のバンク沿いを綺麗に流れてくれる。流速も平水時の5倍くらいのスピードがあるように感じられるため、普段はじっくりとフライを品定めするマスの選球眼もあきらかに甘い。

1本のフライで短時間に数尾のマスを手にすることができた。目視できるマスは釣りあげるかバラすかで、姿を消してしまったので、下流に向けて歩いて次のポイントを探すことにした。

足場が高く捕食物を確認できなかったのが残念

流速を考慮したサイトニンフィングのリグ


茂平橋から[忍野フィッシングマップ:ポイント写真14]通称:旧東電吊り橋の下流へ行くには、踏跡が川沿いをいったん外れる。すぐに元にもどるのだが、ここにはかつて東電の管理する吊り橋が掛かっていた。

忍野の川底を埋め尽くす多量の砂の流入源となっている支流・新名庄川からの流れは、さらに50mほど下流のS字と呼ばれるポイントまで、ほぼ真っ直ぐに流れ変化に乏しい。ゆえに茂平橋から東電吊り橋跡、そしてS字までの区間は、忍野の中でも川底の砂が多い区間である。虫の流下は見られないが、川底に定位している目視のできているマスは、時おり左右に動いて何かを捕食している。

鯉と違ってマスは川底の色に似た体色に擬態して身を隠す

増水していてもこのポイントの水深は決して深くはない。とはいえ、流れには勢いがありフライを川底まで届けるには、充分な重量をもったウェイテッドニンフが必要だと思えた。先ほどまでのドライフライの釣りと同様、流速もあり選球眼は高くないと予想がつく。

結んだのは2Xロングのフックに巻かれたフタスジモンカゲロウのニンフパターン。シャンクの長さをいかして、たっぷりのウエイトを巻き込んである。結果から言うと、この場所でもマスは予想通り積極的にフライを追い、連続ヒットを楽しむことができた。

魚自体は大きくないが、流れに乗って下流に走られれば、スリリングなやりとりを楽しめる

ランディングの障害となり得るのは、足場の高さと足元の草木

忍野の上流域は足場の高いポイントが多く、魚の撮影もこのような構図になりがち…

この場所でのサイトニンフィングが成功を収めた要因を自己分析すると、「リーダーシステムの調整」と、充分な重さのウェイテッドニンフを持っていたことに尽きると思う。私はドライフライを切ってフタスジのニンフパターンを結ぶ際、ティペットも交換し長さをサイトニンフィング用に調整した。具体的にはドライフライで使っていたリーダーシステムよりも3フィートほど長いティペットを結んだ。

激重なニンフとロングティペット。容易に投げづらさを想像してしまうかもしれないが、サイトニンフィングではこの投げづらいリーダーシステムが、肝となる場合も少なくない。表層と底付近の流速には大きな差があり、ニンフパターンを川底まで沈め、さらにマスの口元まで、フライを浮かび上がることなく漂わせるには、長くて投げづらいティペットの長さが必要なのだ。「投げづらいから流しやすい」と言い換えてもよいかもしれない。

「水生昆虫の羽化とマスのライズ」
忍野は「これぞフライフィッシング!」といえるような、マッチ・ザ・ハッチの釣りを体験できるフィールドである。
マスを目視し、投じたフライへの反応を見て、フライを口にさせるまでの一喜一憂を楽しんでみてはいかがだろうか?

毛鉤メモ:フタスジモンカゲロウ・ウェイデッドニンフ


見た目以上に重たいのが特徴

ロングシャンクの8番フックに.015のウエイトが30回転。見た目以上に重たいこのパターンは、底を転がすように流すことも、重さを利用してイトを張りフライをリフトするなどの操作性もよい。

ずいぶんと長い年月、フタスジのニンフパターンにはダビングボディーを使用してきたが、最近はイーグルアウルのウイングから、ふさふさしたファイバーを切り出して巻きつけている。ほどよい色調で簡単に巻けるので重宝している。大型で重たいニンフの存在感は、太いティペットの存在感を上回る。底ベタな大型魚攻略にも役立つと思うので、フライボックスに数本入れておいて損はないであろう。


2024/9/21

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