忍野ノート2023
VOL.2 3月20日
佐々木岳大=文と写真《Profile》
佐々木 岳大(ささき・たけひろ) 1974年生まれ。神奈川県南足柄市在住。ホームグラウンドは地元の丹沢など。C&Fデザイン社に勤務。マッチング・ザ・ハッチの釣りのほか、ドライフライ、ニンフを使った小渓流の釣りも得意としている。
佐々木 岳大(ささき・たけひろ) 1974年生まれ。神奈川県南足柄市在住。ホームグラウンドは地元の丹沢など。C&Fデザイン社に勤務。マッチング・ザ・ハッチの釣りのほか、ドライフライ、ニンフを使った小渓流の釣りも得意としている。
「春分の日」を明日に控えたこの日、見事な青空が広がり、小春日和と呼ぶにふさわしい気候が素直にうれしい。前々日に初釣行を済ませ、ハッチの傾向が掴めていることもあり、気軽な気持ちで忍野へ向かった。
後にわかる貴重なライズ
11:00、 [忍野フィッシングマップ : ポイント写真17] 通称:護岸上のストレート、魚影のあることがわかっているせいか、自然とこのポイントに足が向いてしまった…。前回とは違い、川底まで完全に見渡せるクリアーな水況だが、浮いているマスは1尾のみで、あとは川底で揺れているだけか、ポジション争いの追いかけっこに熱心なようすで、流下がない時間帯であることは明確である。
浮いているマスも流心には入らず、流れのゆるい対岸側で忘れた頃にライズする程度。流心をまたいでいて、ドリフトの難易度も高そうだが、ほか
に狙えそうなマスも見あたらないので挑戦してみることにする。
エラブタのイミテーションとして、少しでも水面で踏ん張ってくれる期待を込め、半沈系パラシュート・#18のクリンクハマー・スペシャルを結んだ。
何度かフライを見きられる忍野らしいかけ引きの後、ようやくフッキングまで持ち込めたが、残念ながらフライを弾かれてバレてしまった。
この時点では「ハッチがまとまれば、すぐライズがはじまる」と思っていたのだが…。
ゆっくりと歩く重要性
ほかにライズしているマスがいっこうに見当らない。時間も正午を過ぎ、平日でほかのフライフィッシャーが少なく、プレッシャーも高くはなさそうなのにライズがない…。
これは純粋にハッチが少なく、流下がないと考えるよりほかなさそうだ。
晴れすぎなのだろうか…?
とは言え、護岸上のストレートで一尾のマスが散発ながらもライズしていたということは、流下が「皆無」ではない証である。
間隔の長い、散発なライズを見逃さないために、川岸をひたすらにゆっくりと歩いて、次のライズを探しながら上流へと歩くことにする。
忍野でライズの間隔が長いスローな日は、ひとつのポイントをじっくりと観察して、サッと通り過ぎてしまわない根気が必要だ。
推測できない意外な捕食物
「ここから上流はそもそも魚影が薄いんだよなぁ…」とぼんやり考えながら、[忍野フィッシングマップ : S字]の核心部まできて、10分ほどポイントを見ていただろうか。対岸のバンク際でようやくライズを発見した。急なライズで、正確なライズ地点を把握できなかったため、もう一度ライズするのを待つことにする。ライズのあった付近をじっくりと観察したが魚影は見えず、次のライズを確認したのは5分以上経過したあとだったと思う。
マスの定位している位置は深そうで、さっきバラしたマスもエラブタでかけたし…。と、結んだままになっているエラブタ仕様のクリンクハマーを「もう一度ライズしたら投げる!」と決めてさらに待つことにする。ライズ地点はS字のポイントのなかで最も川幅の狭まっている位置で、ドリフトはさほど難しくなさそうだ。
フライを流してみたところ、ライズ地点に向かってきれいに流れていったので「これは釣れる!」と身構えたが、マスからの反応はなかった。
ライズの間隔が長いのだから…。と、水面をあまり気にしていない可能性も考慮し、しつこく適当な間隔をあけてフライをドリフトさせ続けてみる。
しかし、あまりにも無反応なため、結んでいるフライに自信が持てなくなった…。
フライを変えてようすを見ようと結んだのは、オオクママダラを模した#14のスパークルダン。
抜け殻を引きずった状態のダンをイミテートしたパターンで、低層に定位するマスに対してアピール度が高いのではないかと考えた。
オオクマは春の忍野では比較的大きな種類のメイフライで、ハッチしていると目につきやすいのだが、今日はまだ見かけていない。にも関わらず、このパターンを結ぶことにした理由は「ライズが散発だから」だ。
自分の視界には入ってきていないが、少量ハッチしていて、それが散発的なライズにつながっているのかもしれないと考えた。
水面への引っ掛かりもよく、おそらくマスが受け入れてくれる許容範囲のドリフトができるフライなので、「反応が得られなくても2投くらいで見切りをつけたほうがいいな…」などと思いながら、期待感をもってプレゼンテーションをしてみる。そしてフライを流しきったタイミングでのライズ…、一投で充分…、たぶんオオクマではない…。
じゃあ何…?と再考して頭に浮かぶのは、ガガンボかコカゲロウか…。
コカゲロウがこのような散発なライズを引き起こすことは考えづらく、水中羽化のガガンボが、マスの目の前を横切って誘発しているライズにしてはライズフォームが大人しすぎる…。たとえ雑多に何かを捕食しているとしても、エラブタが流れていれば必ず食っているのではないか?という考えを私は捨てきれずにいる。
どう考えても、エラブタが最大公約数だとしか思えない!
再度エラブタを結ぶが、パターンは実績の高いコンパラダンに変える。
逆に嫌われる可能性も否定できないが、一投目はライズ地点直前でフライを上流側に動かし、存在感をアピールしてみることにする。動かしすぎに注意して、本当に少し、気持ちとしては1cmプルッと震わせるくらいのつもりでサオ先をあおってフライを動かしてみる。
スッと黒い影が浮いてきたかと思うと、これ以上ないくらいシンプルにフライを咥えた。
コンパラダンで反応が得られなければ、フライを沈めるしかないか…?と思っていたので、素直にうれしい。
フッキングには成功したものの、現状ではエラブタの捕食にフライがマッチしたのか?それとも動いたフライに反射的に反応して食ってしまったのか?ストマックポンプで捕食物を確認しないと謎は解けない。
しかし、このマスがスレ掛かりを連想させるほどによく引いたので慌ててしまった!
シャーレに出された捕食物は、「お前だったかぁ~…」と頭を抱える内容だった。
エラブタは必ず食われているはず…という予測はあたっていたのだが、小さなケースドカディスが入っていて、よくよく見ればケースの中にはラーバも入っている。
なぜケースドカディスが水面付近でのライズを引き起こすのか疑問に思うかもしれないが、ケースドカディスは中に入っているラーバが口から糸を吐き出し、たまに移動することがあると聞いたことがある。
私も過去に、ライズを繰り返し、小さなケースドカディスを偏食していたマスを釣り上げた経験がある。
今回、ケースドカディスの偏食ではなかったことが結果につながったと予測するが、正直、ライズを見てケースドカディスの流下を疑うことなどできるのだろうか?しかし、このようなイレギュラーな流下こそが、時に難易度を高め、忍野の魅力のひとつになっているのかもしれない。
「水生昆虫の羽化とマスのライズ」
忍野は「これぞフライフィッシング!」といえるような、マッチ・ザ・ハッチの釣りを体験できるフィールドである。
マスを目視し、投じたフライへの反応を見て、フライを口にさせるまでの一喜一憂を楽しんでみてはいかがだろうか?
毛鉤メモ:クリンクハマー・スペシャル
サイズやカラーを変えることで、様々なイミテーションとして使えるため、愛用している方も多いのではないだろうか?私もこのパターンを常用するひとりだが、私的にはイミテーションよりも「ドラッグヘッジ効果」を期待して結ぶことが多い。
流心をまたいで対岸のライズをねらう場合、0.1秒長く留まってくれるかどうかが、成功か失敗かの明暗をわけることは珍しくない。
2023/5/1