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LIFE IS FLY FISHING

第九話 キャンプは快適さを目指す

阪東幸成=写真と文


中学生の頃、テレビで放映される西部劇で、大人の男女がキャンプファイヤー脇でひとつの毛布に包まって眠っている姿を見て、いつかやってみたいと思った。

そんなわたしは抑えがたいキャンプへの憧れを実行に移すべく、自室に洗濯ロープを張り巡らせ、シーツやタオルケットを使ってテントを作った。当時は妹と同じ六畳間に寝ていて、ひょっとしたらプライバシーの必要を感じていたのかもしれないが、その理由はともかく自分の部屋の中なのに、まるでちがうところにいるような非日常感に興奮し、眠るどころではなくなってしまった。

スティーブ・マックイーンが映画『ネバダ・スミス』で、マリリン・モンローが『帰らざる河』で再現していた、何もない原野の只中で、せいぜい毛布一枚で身体を覆い、ただ火を焚いて暖をとるだけの西部開拓時代のキャンプから、150 年前後の年月が経過したが、その間、アウトドアメーカーがひたすら追求して来たのは、便利さと快適さだった。

時代時代の最新素材を積極的に利用して、アウトドア業界はキャンパーにその時々の可能な限りの快適さと便利さを提供し、わたしたちはそれを喜んで享受してきた。強風で破れない丈夫なテントを、大雨でも雨漏りしないテントを、一人でも簡単に設営出来るテントを、標高5000 メートルでビバークするためのテントを、内部に湿気が溜まりにくいテントを、少しでも軽いテントを、夜でも位置がわかるテントを、マットを、シュラフを、コットを、ランタンを、コッヘルを、パーコレーターを、次から次へと開発して来た。




これらの「便利さ」「快適さ」に、もし「xxxような」という形容を与えるとすれば、最もふさわしいのは「自宅にいるような」となる。つまりわたしたちキャンパーはアウトドアを目指しながら、じつはインドア環境を求めているのだ。

その最たる証左が、ここ数年急速に人気が高まっている「グランピング」なる高級キャンプである。「笑わせるなよ、高級キャンプだなんて。キャンプのコンセプトに逆行してるじゃないの!」と言いたくなるアウトドアマン/ウーマンの気持ちはよくわかる。わたしだってそう思っていたのだ。グランピングを笑いながら、北欧製のヒルズバーグ・テントの中で、パタゴニアのキャプリーンを着て、ナンガのシュラフで寝ているわたしが。

じつのところグランピングはキャンプのコンセプトに逆行しているどころか、ど真ん中ストレート、恥ずかしいくらいキャンプの本質であるところの「キャンプは快適さを目指す」を真正面に受け止めている。キャンプにおける最大の特性である「ソトで寝る」ために、全力をあげて「ウチを目指す」グランピングの理屈上の最大の弱みは、外にいる必要がないのに、わざわざ外で寝ることだ。

外で寝る非日常は、慣れてしまえば日常になる。だからグランピングはそのうち飽きられるアウトドア界の徒花だと思う。

アウトドアブームは定期的に盛り上がりを見せるが、同じくらい定期的に衰退する。アウトドアショップは時代に翻弄される運命にある。というのも、キャンプを始めた人々は、遅かれ早かれ、やがてその不便性、非快適性、そして何よりもその不必要性に気がついてしまうのだ。




キャンプの不便さが良いなんて言うのは真っ赤なウソだ。

思想上、人生のポリシー上、もしくは経済的な事情、あるいは何か一身上の理由で不便さを求めざるを得ない人は存在するだろうが、不便さを好む人がいるとは考えにくいし、快適性については言うまでもない。

一日の終わりにはのんびりと温かい湯船に浸かりたいし、水を流して歯磨きをしたい。夜中にトイレに立つのに、ヘッドライトを点けて、テントのジッパーを上げて、雨が降っていたならレインジャケットさえ羽織って、野生動物が潜んでいるかもしれない草むらで、集まって来る蚊を追い払いながら用を足さなくてはならないのだ。家にいれば便座が自動開閉するウォシュレットさえあるというのに(ウチにはないけど)。

キャンプは快適さを目指すが、キャンパーはそれ以上に目的地を目指している。長距離を移動するために、ルート上で雨露をしのぎ一夜を過ごす仮の宿がどうしても必要なのだ。

言ってみればキャンプは必要悪なのである。

ウチで過ごしたいけど、そうはいかないから、仕方なくキャンプする。だからなるべく快適なキャンプにしたいのである。というのが、この夏、イエローストーンのコテージの居心地が良すぎて、予定していたキャンプ・フィッシングを次々と延期もしくは中止していったわたしの言い訳である。

だから来年はひとりで居心地の悪いベースキャンプを借りることにするつもりだ。

と考えたところで、またまた新たな発見をしてしまった。居心地が良いと外に出たくなくなる、という状況を裏返して考えてみたとき、なぜ普段自分が家の外に出たくなるのかを理解してしまったのだ。

今こそわたしは胸を張って、自分を「アウトドアマン」と呼びたい。





《Profile》
阪東幸成(ばんどう・ゆきなり)
アウトドア・ライター。バンブーロッドにのめりこみ、1999年に『アメリカの竹竿職人たち』(フライの雑誌社刊)を著す。2017年にふらい人書房を立ち上げ、以降『ウルトラライト・イエローストーン』『釣り人の理由』など、自身の著作を中心に出版活動を行なっている。最新刊は『ライフ・イズ・フライフィッシング シーズン1』。シーズン2が近日発売予定。



ふらい人書房ホームページ
www.flybito.net

2019/11/2

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