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ささきつりぐ

第4回 ピーコックパラシュート

たどり着いた「シンプル」

渋谷直人=解説

シーズンを通じて渋谷直人さんが信頼を置いて結ぶパターンを、それができるまでのエピソードを全9回でお届け。今回は、シンプルだからこそ試行錯誤も多い、ピーコックパラシュートを紹介。
この記事は2017年2月号に掲載されたものを再編集しています。

《Profile》
渋谷 直人(しぶや・なおと)
1971年生まれ。秋田県湯沢市在住。地元の伝統工芸である漆塗りの職人として生活しながら、自ら作り上げたバンブーロッドでヤマメを追い求めている。
●公式ホームページ www.kawatsura.com/

シンプルにたどり着くまで

僕がこのロングティペットの釣りを始めてから、最も多用したフライが『ピーコックパラシュート』(以降:ピーパラ)ではないかと思う。それくらいドライのシーズンにオールマイティーに活躍してくれるし、サイズは#11〜15があれば渓流でのほとんどの場所、時間をカバーしてくれる秀逸なフライである。

パラシュートフライは薄くハックリングするだけでも、空気抵抗をかなり抑えてくれ、ティペットのねじれを最小限にとどめてくれる。

そのうえ、渓流魚は水生昆虫のハッチがあってもなくても、陸生昆虫は嫌わずに食べることが多いようで、水面にさえ興味を示してくれれば『ピーパラ』は威力を発揮してくれる。ピーコックの塊が、なんとなく甲虫類やアリなどの陸生昆虫の雰囲気を表現しているのだと思う。

僕がこの手のフライを巻き始めたころは、いろいろなことを想像して無駄な努力?をしてきた経緯がある。というのも、どの時期にどのように巻いた『ピーパラ』も、結果的には同じように釣れたのだ。細部にこだわっても、大した差は出なかったのである。

「赤が魚を誘う」と思っていた時代

最初に巻いた『ピーパラ』は、カーブドシャンクに赤のピーコックアイでボディーを作り、ポスト周辺はピーコックハールのぐるぐる巻きだった。

ハックルはバジャーで、3回転ほどというスタイルである。これで申し分のない釣果は得られていたのだが、そのころ『プードル』というフライが登場した。お尻にピーコックの玉を付け、シャンクには何もなし。

ポストとハックルのみのこのパターンが、一世を風靡したのである。これは秋田の谷々さんが考案したフライだそうで、後に岡本哲也さんが効果を解説していたように思う。これも真似をしてみたが、たしかによく釣れた。
赤+バジャーの組み合わせが絶対のカラーバランスだと信じていた時期があり、それゆえこのパターンが生まれた。当時、カーブドシャンクに巻くフライは、沈み込む部分が多いほど釣れる気がしていた。ポストをアイ寄りにして、ボディーは下まで巻き下げている

僕は同じものになるのが嫌で、自分の『ピーパラ』のソラックスとボディーを逆にして、ピーコックの玉が下になるように作ってみた。これも、やはりよく釣れた。しかしこのパターンを使っているうちに、どうも空気抵抗が大きく、回転することが気になってきた。

そこで最初の『ピーパラ』も、次のお尻にピーコックハールの玉を付けた『ピーパラ』も、ポストの位置を後ろに下げてみた。同時に、ハックルの長さも短くした。これは明らかに効果があり、投げやすくなってトラブルが減り、釣果にも影響がないことが分かった。
プードルを真似てアレンジしたパターン。当時はもっとハックルは短かったかもしれない。ハックルとピーコックの距離が離れるほど釣れる気がしていた。だがその結果、空気抵抗が増して回転しやすくなってしまうことが後で分かった

これで『ピーパラ』は完成……としてもよかったのだろうが、ポストの位置を後ろにずらしてボディーを短くしているうちに、どうもピーコックの位置や大きさなど関係がないような気がしてきたのである。

その当時、僕は「赤が魚を誘う」みたいな話を信じており、赤のピーコックアイをボディーに使っていた。それが効果を発揮して、よく釣れるのだと勘違いしていた。

このピーコックアイは壊れやすく、巻く前にゼリー状の瞬間接着剤で補強したり、ワイヤでリビングしたりした。しかし手間が掛かるわりには、あまり強化はできなかったのである。それでもこのパターンで釣れていた事実があり、疑念を抱くきっかけがなかった。
フライが回転するのを抑えるため、ボディーはあまり巻き下げず、ポストの位置を後寄りにしていた時代もあった。このころからハックルはブラウンやブラック系の色を多用するようになった

だがイワナに関しては、微妙に異なる『ピーパラ』を使ってみても、それぞれ反応に変化があまりなかった。初心者が巻いたバランスのよくない『ピーパラ』でも、ベテランが巻いたきれいな『ピーパラ』でも、フライとしての効果が変わらないことが、長く使ってるうちに分かってきた。

たとえばハックルの色が茶系から黒の範囲なら変わらないし、ハックルの厚さ、長さが変わっても、魚の反応にはそれほどの差は出ない。ポストの色も、たとえばカゲロウ系のフライに比べれば、ピンクにしても逃げる魚は少ない感じだった。
ピーコックの玉の位置が前寄りになり、ポストは後ろに下げたパターン。こうなるとピーコックの玉とハックルの距離はそれほど離れていないが、回転しにくく空気抵抗は減った

ボディーにこだわらずとも……

『ピーパラ』で釣れるシチュエーションで重要なのは、ナチュラルドリフトと、しっかりとポイントにフライが入るかどうかにかかっていると思う。東北ではイワナ釣りの名手は、やはりよく『ピーパラ』を使う。釣り自体がうまいわけだから、当然よく釣れるのである。

ヤマメに対しても『ピーパラ』が効果的な時期は長く、多くの川で釣れる。沢でも本流でも釣れるのだから、このフライのどこがそんなに魚にとって魅力的なのか、よくよく考える必要があると思うようになった。

結論を先に書くと、やはり『ピーパラ』は甲虫類のイミテーションだと思う。それこそがドライフライ・シーズンの渓流魚の主食であり、最も疑わずに食べてくれる色やシルエットであるわけだ。
今最も多用している、ぽってりしたボディーの『ピーパラ』。ハックルの位置で水面をとらえるため、ボディーは沈む。なるべく魚からは、ボディーは黒っぽい玉状に見えるよう、横幅が出るように巻いている。あまりフックの先端側まで巻くと、フッキング性能や投射性能が低くなってしまう。ハックルは長め、薄めのスタイルが多い。そのようなパターンが、ロングティペットの釣りには向いていると感じる
ピーコックパラシュート
●フック……TMC212TR #11~15
●スレッド……8/0ブラックなど
●ポスト……エアロドライウィング・FLオレンジ
●ボディー……ピーコックハール
●ハックル……コックネック・ブラック(もしくはスペックルドバジャーなど)


下から見ると分かるように、シルエットは甲虫そのもの。フックの存在感が薄くなるように意識して巻いている。フックは沈みやすいようにTRのものを使うことが多い。写真のフックはTMC212TR

これが結局、どのような形に巻いてもだいたい釣れるのだから、あとはシンプルに投げやすいように、巻きやすいようにしていけばよい。結果的に現在の『ピーパラ』は、とてもシンプルなものになった。

ボディーはピーコックハールをスレッドに縒り付けて、ぐるぐる巻くだけ。ハックルはその時の気分で、長めの黒を巻いてみたり、スペックルドバジャーなどで普通のバランスで巻いてみたりする。

ボディーのバランスは細めもよいし、太めが奏功する場合もある。その反応の違いも、実のところよく分からないくらいなので、気持ちの問題なのかもしれない。いかに時間とお金を掛けずに、多数作れるかが問題なのだ。

単純だからバランスにこだわる

ボサ下や岸際ギリギリなど、フライをロストしやすいポイントは『ピーパラ』の出番だ。高価なマテリアルを丁寧に巻いたフライでは、引っ掛かりそうな障害物ギリギリをねらいにくい。

現在最もよく使っているのは、ボディーをぼってり巻いて、長めの黒ハックルを使ったもの。フックの存在感を消す効果も実感できるだけでなく、ボサに引っかかりにくい。

ボディーとハックルのボリュームは、魚のフッキングには影響がなく、ボサには掛かりにくいバランスになっているように、想像しながら作っている。
やや細身に仕上げた現在の『ピーパラ』完成形のひとつ。ボディーはピーコックのみ。ハックルはスペックルドバジャーを使用しているシンプルなもの。だが魚を釣る能力や投射性は、前のものと比べてもまったく落ちていない

長くフライを続けている人は薄々感じているかと思うが、よく釣っている人のフライには絶妙なバランス感と、魚を引き寄せる要素が組み込まれている。これはなかなか説明しづらいが、単に美しいフライとは違う、いわば〝釣れそうなオーラ〞を放つのである。

これは写真だけでは分かりにくい部分で、たとえば数本のハックルが暴れているかどうかなどはあまり関係ない。そのような、巻いた人の釣りのセンスがにじみ出る典型的なフライが、もしかしたらこのシンプルな『ピーパラ』なのかもしれない。

2018/3/30

つり人社の刊行物
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