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Bibury Court

シンプルなフライが教えてくれること

アメリカ/イエローストーンのマス釣り

イヴォン・シュイナード(米国カリフォルニア州在住・バタゴニア創業者)=文 Text by Yvon Chouinard 東知憲=訳 Translation by Tomonori Higashi
daddadadaada イエローストーンでイヴォン・シュイナードが使っていたフライボックス。サイズや細部にバリエーションはあるものの、基本的にフェザントテイルとパートリッジを使ったパターンが並んでいた

日本でも人気の高いアウトドアウエアのブランド、パタゴニア。その創業者であるイヴォン・シュイナード氏は、フェザントテイルとパートリッジを使ったパターンをさまざまな釣り場、対象魚に試してきた。
シンプルな釣り方、道具を試すことは、毛バリ釣りをより豊かにしてくれるのではないか……。


この記事は2016年10月号に掲載されたものを再編集しています。

各所に伝わるノベザオの毛バリ釣り

登山からホワイトウォーター・カヤッキング、スピアフィッシング、ツールメイキング。私が熱中してきたアウトドア関係のあらゆる方面において、スタートから熟達に至る道は、複雑から単純への旅だった。イラストレーターが芸術家になるのは、より少ない筆数でメッセージを伝えることができるようになった時だ。

しかしフライを使った釣りは、まった<逆の方向を向いていたように思える。何百種類ものフライライン、ハイテクなロッド、トラックも止められそうなドラッグ機構を搭載したリールなどを使わなければならない、必要以上に複雑で金のかかる趣味になってしまった感がある。シンプルなクリックドラッグのリールでも、パーミングのやり方さえ知っていれば、どんなマスもサケも釣れるというのに。最新のギアと精密なフライを使わないと、この釣りは楽しめないのだろうか?(かくいう私もロッドやリールをいくつも持っており、流下するカゲロウのステージにぴったり合ったフライがボックスに入っていないことを呪ったことはたしかにあることを認めよう)。

pata_03 シンプル・フライフィッシングは、より多くの人が毛バリ釣りを楽しむきっかけになるのではないか

クラウディウス・アエリアヌスが2世紀に書き記した姿とまったく変わらないフライフィッシングに出会ったのは、もう30年以上前のことになる。この形の釣りはスペイン、イタリアおよび日本の一部の地方と、現代的なギアを買うことのできない地方で生き続けている。私はこのテンカラスタイルをアメリカの大きな川でも使い、すばらしい釣果を得た。リールを使わない長いロッドとソフトハックル・ウエットの組み合わせはきわめて効果的な方法である。

私は最初、ウエットフライと他のタイプのフライを組み合わせて使っていた。しかし、ハッチにかかわらず、魚はほとんどの場合フェザントテイル&パートリッジで釣れることに気づいた。もしそうなら、他のパターンはいらないのではないか? 今期は1つのスタイルのフライだけを使って、どこまで通用するか試してみよう、そんな気になった。

pata_02 ファイヤーホールリバーで釣りをするイヴォン

釣りにおけるほとんどの「新機軸」と同じく、この考え方には先駆者がいる。グリーストラインによるサーモンフィッシングの提唱者であるアーサー・ウッドは、マーチ・ブラウンとブルー・チャームで似たような実験をしている。いずれの場合も以前と釣果は変わらず、フライパターンによる差はほとんどなかった。『ストリームサイド・ガイド』を書いたキャッツキル派アングラーでタイヤーのアート・フリックは、後年グレイフォックス・バリアントしか使わなくなった。ジム・ティーニーは70年代初頭からティーニー・ニンフだけで釣りをしている。カナダの腕利きサーモンフィッシャーのなかには、マドラーミノーしか使わないという者もいる。

pata_05 バハマのボーンフィッシュ。彼らは光るフライは警戒する。ウエイトを入れた8番のフェザントテイルを果敢に食ってきた

pata_04 「アクションが大切だ」と、イヴォンは何度も口にした。柔軟な穂先のサオ、軽いラインだと、毛バリを思いどおりに動かしやすい

1つのパターンを使ってみる

私の実験とは、マスやサケ、さらに海の魚に対しても、1スタイルのフライしか使わないというものだ。今を遡る昔、アメリカのアングラーであるジョージ・ラブランチは効果を生むドライフライの側面を考え、重要度ランキングを作った。彼が最も重視したのはフライの浮き方だ。次に動き、3番目には大きさ。4番目には形、5番目に色である。私の典型的なウエットフライの使い方では、アクションが最も大事で、次に大きさ、3番目が見せ方、になるだろう。ほとんどのアングラーが、形と色に重きを起きすぎているきらいはあると思う。

フェザントテイル&パートリッジは、ほとんどのメイフライとカディスを暗示できるニュートラルなフライである。このルーツは、デーム・ジュリアナ・バーナーズ女史が、当時のイングランドで使われていたウエットフライ・パターンの記述を含む『釣魚論』を書いた15世紀後半に遡るだろう。エイヴォン川のリバーキーパーだったフランク・ソーヤーは現代的なフェザントテイル・フライの考案者とされているが、ジョージ・スキューズはその数年前にソフトハックル・フェザントテイルの1バージョンを巻いている。

pata_07 ファイヤーホールリバーで使っていたフライを見せてほしいと言うと、すぐにラインを切って渡してくれた。基本的にテイルはフェザイントテイル(3~5本)で、リブはコパーワイヤ。ボディーにもフェザントテイルのファイバーを使っており、ソラックスはピーコックのアイスダプ。ハックルはパートリッジだ。ソラックスをハックルに押し付けるように巻くことで、ハックルが立ち上がってくれる

私のワンパターン実験は、2015年の冬から春にかけて、バハマとキューバのフラットで始まった。有名釣り場でのボーンフィッシュは用心深くなる。フライを軽くストリップしただけで逃げていくようなら、これまで何度も、光るハリ、輝くチェーンボールのアイ、フラッシャブーなどをまとうフライで痛い目にあってきたというわけだ。

私のソルトウオーター用フェザントテイルは、ブロンズフィニッシュの#6 および#8フックにウエイトを入れて巻いてあり、グラウスの背中に生えているフェザーの長いハックルを2枚巻いてボリュームを出している。小さく引くと、このハックルはクラゲやエビのように揺れ動く。このプレーンな茶色のフライは用心深いボーンフィッシュを驚かせてしまうこともほとんどなく、普通は明るい色のフライを選ぶ白砂の釣り場でもよく魚を掛けた。それ以来、私はこのフライを他の海水魚にも広く使っている。

pata_08 状況に応じてビーズヘッドも使う

ワイオミング、モンタナ、アイダホ州では、春から夏にかけてマスを釣った。#10はアトラクターで、ハッチが来たらその虫のサイズに合わせる。本物の色にかかわらず、また種類がメイフライ、カディス、ストーンフライのいずれでも、サイズの合ったフェザントテイル&パートリッジは精密なイミテーションよりよく釣れた。

軟らかい穂先が生むアクション

私のウエットフライ・テクニックは単純だ。45度ダウンストリームに投げ、スイングをスローダウンするために上流側にラインをメンディングする。ラインが伸び切ろうとする段階になったら、ゆっくりとロッドを立ててやる。完全に伸びきったなら、ティップで数回小さくトゥイッチ。羽化するカディスやメイフライが水面に浮かび上がってくる動き、殻から抜けだそうとしている姿を演出しようと心がける。10のストライクのうち9回は、トゥイッチのすぐ後にやってくる。テンカラザオの軟らかな穂先は、この繊細な動きをつけるのに適している。ウエットフライをスイングさせる釣りにおいて、トゥイッチはマスターが難しい。ほとんどの人やりすぎてしまうのだ。大きなトゥイッチはラインに大きなタルミを作ってしまい、魚がフライを吐き出す時間を与えてしまう。魚を納得させる動きを作らなければならないわけで、おどかしてはいけない。アタリがあるのに掛からない時は、魚が小さいか、ラインにスラックが入りすぎている。

pata_09 大きい魚だからといって、大きな毛バリが必要なわけでもない。写真は14番を食ったブラウントラウト

今広く売られているファーストやミディアムアクションのロッドは、フライを動かすためにはデザインされていない。重いフライを、魚のいる場所からさらに遠くにキャストするためのものだ。マスの標準とされている5番や6番のラインを使うなら、立てたロッドの先からラインが垂れ下がってしまい、フライをトゥイッチすることなど不可能。せいぜい、ロッドティップを低く保ち、手で小さくラインをストリッピングしてやるくらいしかできないだろう。テンカラザオでなく普通のフライロッドを使う時は、竹ザオか、10フィートの2番ロッドに1番ラインを合わせ、ラインが垂れ下がらないようにして釣る。ラインがスイングでうまく伸びてゆくように、ノッテッドリーダーを自製する。

複数のフライを使う時は、大振りなものを先端に結び、小型のフライをドロッパーにして、間隔を75cmほど離す。この2本バリ仕掛けは水の抵抗を増し、それぞれのフライに異なったアクションを生む。フライのアクションの大事さは、ここでも強調しておこう。飼い猫と同じく、魚も捕食動物だ。おもちゃのネズミをゆっくりと引っ張って目の前を通してやると、ネコはプレデターらしい身構えを取る。小さくトゥイッチすると、襲いかかる。グリズリーやトラが人に襲いかかるのは、逃げた時だ。

シンプルを選択した先に

7月上旬には、カナダのラブラドールを流れるホーク・リバーで、アトランティック・サーモンにワンフライの試みを行なった。ローウオーター・サーモンフックの#10と#12に巻いたフェザントテイル&パートリッジに、ポートランド・ヒッチを掛けて水面を釣るのだ。1週間で釣ったサーモンは20尾、グリルスは数尾。アイスランドのハフヤルダラ川でも似たような結果であった。ほとんどはグリルスだったので、10フィートの5番ロッドの繊細さを使い、フライにアクションを与えて釣った。

ゆるい流れでは、ヒッチをかけたフライを小さくトゥイッチして誘うのが効果的だ。その段階で、私は自分の理論の正当性を証明しようという必要性はすでになくなっていて、単に最も効果的であるという理由のみでウエットフライ・スイングを使っていた。それ以来、フェザントテイル&パートリッジにポートランド・ヒッチをかけてスイングさせるというのは、マス釣りにおいても好みのメソッドとなった。しばしば、爆発的なテイクがやってくるからだ。

pata_10 右手を痛めていたイヴォンだったが、器用にラインを手繰って取り込んでいた

9月、ブリティッシュコロンビア州のバビーン川を釣るチャンスがあった。初日の透明度は、わずかに15cm。2日目には30cmになったが、私の使っている小さなフライが魚に見えるかどうか自信がなかった。そこでシンクティップの先に大きな黒いイントルーダーを付け、小さなスティールヘッドを1尾釣った。

3日目も、ウエーディングする私のブーツはまだ見えなかったが、確実に水は澄んできており、午後になるとカディスやグリーンドレイクを追って浅瀬で稚魚がしきりとライズした。彼らが小さな虫を見つけられるのなら、私の#10フライもスティールヘッドに見えるはずだ。そう思っていると、たしかに大型が釣れ始めた。これほど晩期に、上流まで遡ることは珍しいソックアイ・サーモンも2尾釣った。

日を追うごとに条件はよくなってきたので、フローティングラインに、ヒッチをかけたフェザントテイル&パートリッジというリグにしてみる。いかにもスティールヘッド・フライらしい派手なパターンを投げるアングラーの後ろから釣り、私は37インチを頭に数多くの魚を手にした。ラバーやフォームを使ったウエーキング・フライは、魚がボイルするだけで掛からないことも多いが、その理由は大きすぎだと思う。小さなフライを使う私は、ボイルだけで終わることなどほとんどなかった。あの状況下では、私の方法が最も有効だったのだ。

理論上は捕食活動を行なわない遡上魚がフライをくわえるのは、昆虫を食べていた子どものころの記憶だという。もしそうなら、ハッチが起こった時に小さなフライが効く理由の説明になる。私たちは永遠のティーンエイジャーだが、サーモンやスティールヘッドもそうなのか?

晩秋から冬にかけてのアメリカの川で、羽化を続ける昆虫は小さなミッジとブルーウイングド・オリーブだけ。釣り人は背中を丸めてストリーマーや、ラバーとプラスティックを寄せ集めた奇怪なフライをキャストする。トム・マッグウェインがいうところの「バービー人形の洋服」みたいなものだ。ミッジやBWOは活発なスイマーなので、薄く巻いたフェザントテイル&パートリッジを水面で小さくトゥイッチしてやると、他のどんなメソッドにも劣らず効果を上げる可能性がある。

pata_11 1種類のパターンばかり巻いていると、タイイングスペースもこんなぐあいにシンプルに……

これから一生、1つのパターンだけを使い続けるのだろうか? 私のタイイングテーブルの上は地味な茶色で覆われ、なかなか退屈な感じになっている。それに、アクションとサイズは、スタイルやカラーよりもずっと重要だという仮説は証明されたようだ。

オプションを限定することで、創造力が発揮される余地が生まれる。フェザントテイル&パートリッジだけを使った1年で、私はこのシンプルなブラウンのフライをどう使えばよいか深く理解し、魚のこともさらに分かった気がする。シンプルさを選ぶことは、貧しい人生にはつながらないということを、この1年は教えてくれた。シンプルさは、より満足度の高い釣りと、責任を果たす生き方へとつながってゆくのである。

2017/7/18

つり人社の刊行物
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