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patagonia×Danner「使い込む愉しみ」

思い出が刻まれていくウェーディングブーツ

牟田口 嵩=レポート

フライフィッシングのウエアやシューズ、ウエーダーを生み出すパタゴニアが、『ダナーライト』などの銘品を生み出したアメリカのダナーと手を組み、生まれたのがこのブーツ。アッパーが擦れ、あちこちに傷が入っても、それが味わいになる。あなたのフライフィッシングの歴史が、このウェーディングブーツに刻まれてゆくのだ。

《Profile》
牟田口 嵩(むたぐち・たかし)
1986年生まれ、東京都在住。フライ歴20年。パタゴニア・ショップスタッフ。国内だけでなく、海外のフィールドへも頻繁に足を運ぶ。フライフィッシングの好きなところは、自分でコントロールしなきゃいけない要素が多いこと。
この記事は2019年早春号に掲載されたものを再編集しています。

パタゴニア・グローバルフィッシングマネージャー、マーク・ハーバーさんによる解説動画を公開!


01:ダナーとのコラボレーション

02:デザインの哲学

03:フット・トラクター

04:リバー・ソルト

patagonia×Danner特設サイトはこちら


長く付き合えるプーツ

この春、バタゴニアとダナーが共同開発したウェーディングブーツが発売された。それに先立ち、2018年の6月にアメリカのアイダホ州へ、このシューズを開発した人たちに会いに行った。さらにその後、5ヵ月間ほどサンプルを履いて、徹底的に試してみた。その間には源流のイワナから干潟での釣り、そして海外ではモンゴルのタイメン、オレゴン州のスティールヘッドなど、さまざまなシチュエーションで使ってみた。

僕は『ダナーライト』を学生時代に手に入れて、定期的に靴底を張り替えながら12年間使い続けている。

そこまで使うと、完璧に僕の足型にフィットし、今所有しているどのブーツよりも快適。もちろん時間が経っているぶん、中に搭載されているゴアテックスの性能も怪しくなってきているが、それでも世界中を一緒に旅したこのブーツは手放せない。いまだに新しい思い出を作り続けている。

12年使っているダナーライト。まだまだ現役

僕のダナーに対するイメージは、「丈夫で長持ちするブーツ」。だから個人的にも、今回パタゴニアがダナーとウェーディングブーツを作ると聞いた時「やっと丈夫なやつが手に入る」とうれしくなった。

ウェーディングブーツは消耗品である。濡れては乾きを繰り返し、水中で岩に擦られ、雪の中を歩き、たまに高温の車内で放置される(放置してはダメなのだが)。長く使えるはずがない。

僕はシューズに気を遣って、丁寧に扱うというのが苦手で、容赦なく酷使するほうだ。その結果、アッパーの消耗が激しくなり、いつもリソールは2回が限界。ボロボロになるまで使い、修理不可能になれば買い換えることを繰り返すたびに「もっと丈夫だったらいいのに」という思いは常にあった。
ウェーディングブーツは壊れないことも重要。かさばるので予備を持っていけない

実際に5ヵ月使ってみて、表面の皮は傷っき貫禄が出てきたが、今のところ壊れるようすはない。これが10年経つとどうなるのか。それは時間が経ってみないと分からないが、明らかにほかのシュ—ズよりも劣化のぺースは遅いように感じる。

実は今後、「リクラフト」というプログラムが始まる予定で、ボロボロになってきたら一度分解して組み直し、再生してくれるそうだ。どんなにボロボロでも……とはいかないが、よほどダメージが大きくなければ再生可能とのこと。今まで以上に長く使えるのは間違いない。

2つの個性

今回登場するのは、フット・トラクター・ウェーディング・ブーツとリバー・ソルト・ウェーディング・ブーツの2種類。フット・トラクターはダナーライトに似たデザインで、履き込むほどにいい表情になりそう。リバー・ソルトのほうは、ミリタリーのブーツを元にしたデザインで、名前のとおり川でも海でも使いやすいデザインになっている。
新しいアルミバーのソールデザイン。違和感のない歩き心地だった

リバー・ソルト・ウェーディング・ブーツ。川も海もこの一足で

そして、肝心の履き心地は登山靴のようにすぐ足に馴染む。横幅は余裕があり、靴ヒモを閉めればしっかりとフィッ卜する。

ここ数年のパタゴニアのウェーディングブーツはアッパーが硬く、守られている感じはするものの、ブ—ツを通して外の情報が伝わって来づらかった。逆に、アッパーが薄く柔らかいウェーディングシューズも履いたことがあるが、水中で岩にぶつけたりするとその衝撃がダイレクトに伝わってくるのであまり好みではない。

このブーツはその塩梅が絶妙で、守られている感じはあるものの、柔らかさを失っていない。足首周りの自由度が高いので、カッチカチのブーツと比べると岩を登ったりもしやすい。さすが専門メーカーのダナーである。
タンにはpatagoniaとDannerの刻印

脱ぎ履きにストレスなし

次に使い勝手の話だが、ウェーディングブーツは脱ぎ履きが面倒だと感じているのは僕だけではないと思う。

今まで最高だと思っていたのはダイヤルでワイヤーを締めるタイプのブーツ。かなり着脱が楽なのだが、個人的には故障が怖いので、遠征には靴ヒモのタイプを選んでいる(極力荷物を減らしたいので、予備のワイヤーすら持ち歩きたくない)

このブーツはその点も優秀で、靴ヒモなのに脱ぎ履きが抜群に楽で早い。タンが大きく開くので足が入れやすく、靴ヒモの先端を引くだけで全体がキュッと締まる。通常はブーツの足先から順番に締めていくが、これはその必要もほとんどない(なぜそれが可能なのか見た目からは分からないが……)。

もちろん靴ヒモ(かその代用品)は、世界中どこでも手に入るので、遠征にも持っていける。

ソールに関して

個人的に、ウェーディングブーツ選びにはソールが「柔らかめ」、「硬め」の2択が存在すると思う。

「柔らかめ」のソールは、足裏が曲げやすいので岩を登りやすく、沢登り用の靴に近いと言える。しかし、長時間の歩行では疲れやすい。逆に「硬め」のソールは長時間の行動でも疲れづらく、登山靴に近い。でも、岩を登ることは得意ではない。

このウェーディングシューズは、どちらかといえば後者。ソールの作りに関しては決して「ゴルジュ帯を突破すること」に向かないと思う。

その代わり、イワナを捜してトレイルを歩くような釣行や、一日中浅瀬を歩き回る海の釣り、中禅寺湖の山側を歩いてアプロ—チしたり、里川をひたすら釣り上がったりするような使い方であれば、非常に疲れづらく快適なブーツだと感じた。

また、ソールはフェルトを含め3種類用意してあり、ラバーソールはオリジナルパターンのVibram製。個人的に購入しようと思っているのは、パタゴニア得意のアルミバーを使ったタイプ。このモデルで3世代目となる。

世代を重ねることに確実に進化し、今回の必要最低限のアルミバーを効果的に配置したデザインは見た目にも洗練された印象で、無駄を省いたぶん、従来のモデルよりも軽量になった。歩き心地も違和感がなく、いい意味でアルミを感じない。もちろんグリップカも抜群だ(フット・トラクターのみ設定のあるソール)。

ちなみに、フット・トラクターと比べると比較的高い水温が得意なのがリバー・ソルト(ブーツの硬さを変えてある)。

低い水温にはフット・トラクターのほうが向いていると聞いていたが、あえてこのリバー・ソルトを履いてモンゴルとアメリカオレゴン州のデシューツ・リバーに行ってみた。どちらも水温の低い場所だが、結果はグリップカは充分で、スタッズも打ち込まなかった。安心して海にも川にもおすすめできる。

刻まれる傷が思い出に

フライフィッシングのリールやロッドは10年以上使っているものをお持ちの方も多いと思う。でも、釣りに出かける機会の多い人で、10年以上同じウェーディングブーツが現役なのは稀ではないだろうか。

このブーツは一般的なウェーディングブーツの価格帯と比べると若干高めだ。でも長く使える。仮に10年履けたとしたら、僕のダナーライトのようにたくさんの思い出が詰まったブーツになるだろう。もちろん、形あるものいつかは使えなくなるが、買って捨ててを何回も繰り返すよりも、僕はこのブーツを選びたい。

5ヵ月履いたブーツ。サンプルを借りる期間が終了し、パタゴニアに返却したのだが、すでに思い出が詰まってしまい返したくなくなってしまった。それくらい愛着が湧くウェーディングブーツである。自分のものを手に入れるのが、今から楽しみで仕方がない。

2019/3/21

つり人社の刊行物
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