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どうすればノットの強度は上がる?

数値が教えてくれるフライとティペットの接続

ジャパンゲームフィッシュ協会=協力

よく使われるクインチノットを基本にした3つの結びを強度試験機にかけて数値化してみることにした。潤滑の有無や締め込み加減の違い、また瞬間接着剤の使用は強度に変化を与えるのかなどを試してみたら、興味深い数値が得られた。
この記事は2009年12月号に掲載されたものを再編集しています。

できるなら結びは簡単で強いほうがよい。とは誰もが思うこと。釣り場で使用頻度の多い結びであればあるほど、そう感じる。そこで今回はフライとティペットの接続に焦点を当て、いくつかの実験を試みることにした。

日頃協力をいただいている本誌筆者陣のアンケートで得た、最も多いインプルーブド・クリンチノットを基本に、アイに2回通してからインプルーブド・クリンチノットを行なうトライリーンノット、さらにインプルーブド・クリンチノットのベースともいえるクリンチノットの3種を中心に計測を行なった。

※ノットは全て強度試験機により計測。ティペットは5Xナイロン・モノフィラメントで統一。5Xナイロンの強度を測定し、その数値をMAXとする。2名によるノットで5回以上、計10回以上の計測による平均値を数値化することにした。

テスト1 各ノットの計測結果

潤滑有、またメインラインヘの巻きつけ4回で計測。結束しない5Xナイロンの引張強度は2.1kg                
順位 ノット名計測値
1トライリーンノット  1.886kg
2インプルーブド・クリンチノット  1.798kg
3クリンチノット  0.872kg

上記3種のノット計測では、トライリーンノットが最も強く、次にインプルーブド・クリンチ、そしてクリンチの順となった。まずは予想どおりといったところだが、クリンチノットは切れずにすべて抜けてしまうという現象が起きていた。

テスト2 回転数による違い

インプルーブド・クリンチノット4回転と5回転で計測。結束しない5Xナイロンの引張強度は2.1kg            
巻き付け回数 AB
4回1.913kg  1.798kg
5回未計測  1.913kg

ここでの計測はAとBの2名で行なっており、それぞれが5回以上、計10回以上の計測による平均値を表記したものである。巻きつけ4回転での内訳はAの数値が高かった。

テスト2ではBの巻きつけ5回転がAの4回転と同じ数値という結果になった。同じノットでも、結ぶ人のクセや人それぞれの結び方が強度に大きく影響することを示している。

インプルーブド・クリンチノット
〇……短くても結べるためリーダーシステムが大きく変化しない。
✖……固定系のためアップ&ダウンアイには向かない。水面下に吊り下げるタイプや、大きな動きをさせるリトリーブ用のフライには不向き
1、アイにティペットを通したらメインラインとクロスさせる。クロスさせた際にできた輪はつぶさないように指を掛けておくとよい

2、メインラインに巻きつけていく。4~6回転

3、最初に作った輪に通す

4、折り返すようにして3で作った輪に通す

メインラインを引っ張ってから、タグエンドをしっかり締め込んで完成

テスト3 潤滑の有無で強度は変わるのか?

インプルーブド・クリンチノットで計測。結束しない5Xナイロンの引張強度は2.1kg                  
潤滑の方法インプルーブド・クリンチノット
潤滑アリ(唾液)1.913kg
潤滑ナシ1.994kg
フロータント(ジェル)2.033kg

ノットの強度を落とす原因といわれている摩擦力。結ぶ際にはナイロン同士の摩擦をできる限り軽減させるため、唾液などで潤滑を行なって締めこむのが常識とされているが、5Xという太さ限定のためか、ここでの実験結果では意外な数値が出た。

潤滑のアリとナシではほば変わらないという結果。また、ジェルフロータントを潤滑剤として使用すると、2kgを超える数字を叩き出した。5Xナイロン自体の強度が2.1kgであったため、2.033kg というのは100%に近い強度を発揮したことになる。

テスト4 締め込み方で変わるのか?

インプルーブド・クリンチノットで計測。結束しない5Xナイロンの引張強度は2.1kg            
タグエンドの潤滑 締め込みを甘くしたノット一気に締め込んだノット
潤滑アリ1.846kg  1.900kg
潤滑ナシ1.820kg  1.888kg

締め込み方による違いを、インプルーブド・クリンチノットで計測してみたところ、ここでも意外な数値が出た。一言でいってしまえばほとんど同じ。タグエンドの締め込みが多少甘くても、潤滑があってもなくても、一気に締めこんだとしても、それほど強度には関係ないということだろうか。

もちろんタグエンドの締め込みの甘さという表現にはあいまいな部分があるのは認めるとしても、一気に締めこむほうは、かなり乱暴に行なっても高い数値をコンスタントに出し続けた。5Xという太さでは、あまり神経質になる必要はないのかもしれない。

テスト5 瞬間接着剤の効果とは?

クリンチノットで計測。結束しない5Xナイロンの引張強度は2.1kg              
瞬間接着剤クリンチノット
塗布前0.872kg
塗布後1.365kg

今回のノット実験で最も弱かったクリンチノットに瞬間接着剤を塗布し、塗布前と塗布後でどれだけ強度がアップしているのかを計測してみることにした。塗布前は0.872kgだったのが、塗布後は1.365kgということで、プラス0.5kgに迫るアップを記録。

塗布なしのクリンチノットの計測で起こっていた、抜けてほどけてしまう現象を、瞬間接着剤がある程度食い止めた形になった。もちろんクリンチに限らずほかのノットにも有効なはずなので、瞬間接着剤を積極的に活用するのは1つの手段といえるだろう。

トライリーンノット
〇……アイのところを二重にしているため、タグエンドとループがよりロックを強化してくれる
✖……充分な潤滑を行う必要がある。2回アイに通す手間がかかる
1、アイにティペットを通す

2、もう一度愛にティペットを通して2つの輪を作る

3、メインラインに(4~6回)巻きつける

4、2で作った輪に通す

5、折り返すようにしてできた輪に通す。この段階で充分な潤滑を行なう

6、メインラインを引っ張ってから、タグエンドをしっかり締め込んで完成

総括。差がある部分とない部分

今回の計測はすべて5xで行なったが、仮に6x、またそれ以上になると計測の数値は大きく変わってくる可能性もある。たとえば細ければ細いほど摩擦による影響は出てくるはず。

また今回の実験では、すべて2回目以降の結びに安定した数値が出て、最初の数値がそれぞれ一番低いという結果が出ていた。同じ人間が結ぶ場合でも、常に同じ強度を保つことができるとは限らないようだ。

まして人によって結び方やクセがそれぞれ異なってくれば、たとえ同じ結び方でもノットの強度は十人十色ということになる。唾液よりはるかに効果が高いことを数値で証明してくれた潤滑剤としてのフロータントは、100 %に近い強度を発揮した。

今回はジェルタイプのフロータントのみだったが、澗滑性の高いものなら同じような効果を期待できるのではないだろうか。ただし、パウダータイプのフロータントは逆効果になるので注意が必要である。また5xという前提になるが、締め込みのぐあいによる強度の違いがほとんど意味をなさないということも発見であった。

一気に(かなり速く、力いっぱい急激に)締めこんでも、ゆっくりていねいに締めこんだのと強度に差がないという事実は、数値で見なければ分からなかったことだろう。また瞬間接着剤の効果がどれだけなのかをはっきりと数値で見られたのは大きい。

クリンチノットでは1.5 倍強度がアップしたという事実は、ほかのノットでも応用できるはずだ。

2017/10/2

つり人社の刊行物
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